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誰もが聖剣を与えられる世界ですが、与えられた聖剣は特別でした  作者: ナオコウ
第二章 〜リリア・リアーネの物語〜
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【3】シリウス・リアーネとは

 「グレン、また国王陛下に呼び出されたのか?」


 グレンがリアーネ家の屋敷に戻ると、待ち構えていたかの様にグレンの父親──リアーネ家の現当主であるホフマンが声を掛けてくる。


 その声色は怒気を含んでおり、ホフマンは、目を細めてグレンを睨み付けた。


 「呼ばれた訳ではありません。報告に上がっていただけですよ」


 「ちっ……」


 ホフマンは舌打ちし、苛立たし気に拳を握ると、怨嗟の言葉を口にする。


 「なぜ、当主の私ではなくグレンなのだ……。確かに、私はしぼらく(いくさ)に参加していないが、それは病気が原因だ。仕方ない事なのだ。なのに……なぜ、国王は私に信頼を置かない? 私はシリウス! 『シリウス・リアーネ』なんだぞ!」


 ──最後の方は、誰に言うでもない……ただ恨みを吐くだけの叫び声になっていた。


 ホフマンは、グレンの存在など無視するかの様に、奇声を上げ、叫び続けている。


 グレンはそんな父の様子には目もくれず、屋敷の中へと入って行った……。


         *


 ホフマンは、リアーネ家前当主の10人目の子供として生を受けた。

 

 彼の父、リアーネ家前当主は、ホフマンが誕生するまでに、9人の子宝に恵まれたが、産まれた子は全て女児……。


 それが原因で、前当主は怒り狂い、自らの妻──リアーネ夫人を「役立たず」と罵り、リアーネ家から追放してしまった。


 前当主の苛烈な行いには、リアーネ家独自の〝習わし〟が関係している。


 と言うのも、リアーネ家の習わしは、

 

 『男児にあらずんばリアーネにあらず』


 と言う厳しいもので、リアーネ家に産まれた女児に人権はなく……『聖剣鑑定』すら受けさせてもらえなかった。


 前当主は、それどころか、9人の娘たちに『聖剣授与式』を受けさせる事──つまり、聖剣が与えられる事にすら難色を示した。


 アーネスト王国の法律で──

 

 『どの様な環境に置かれている者であっても、人であるならば、聖剣授与は当然の権利であり、義務でもある』


 と定められている為、娘たちには、やむを得ず聖剣授与式を受けさせたにすぎなかった。


 『聖剣鑑定』だけは義務ではなく、任意となっているため、リアーネ家に生まれた女子にとっては、鑑定を受けさせてもらえないのが通例だった。


 『私は無駄な事が嫌いだ。女児は所詮、政略結婚のための道具にすぎない。聖剣を持たせるなど何と贅沢な事か』


 と言うのが、前当主の口癖でもあった。


 実際、リアーネ家に産まれた9人の女児たちは、皆、政略結婚の道具として嫁がされた。


 ──ホフワンの父親は、後継者問題に悩まされる。

 

 このままでは、外部から養子を取らねばならない。


 そんな事は、〝リアーネの血筋〟に何よりも重きを置いていた前当主とって、到底、受け入れられる事ではなかった。


 ……しかし、ここで前当主、そしてリアーネ家に吉報がもたらされ事となる。


 追放されたリアーネ夫人は、リアーネ家を出る前に身籠っており、追放後に出産──


 男児が産まれたのだ。


 それを聞いた前当主は、すぐに夫人をリアーネ家に呼び戻し、産まれた男児は『ホフマン』と名付けられた。


 ホフマンはリアーネ家の嫡子として、前当主の期待を一身に受け、あらゆる教育を施される事となる。


 ──父の期待に応えるため、リアーネ家の当主となるため、ホフマンは努力を惜しまず、勉学に励んだ。

 

 ホフマンは、人格形成がなされる多感な時期に、社交界の場に参加する事も許されず、ほぼ監禁状態でリアーネ家次期当主としての教育を受けなければならなかった。

 

 しかも、ホフマンの父は、


 『お前は選ばれし人間だ。お前の9人の姉たちは女……。アレらはリアーネではない。お前は唯一のリアーネだ。アレらを姉だなどと思うな。対等に接する事も許されない』


 などとホフマンに言い聞かせて育てたため……彼は姉を姉とも思わず、『自分は特別で、選ばれた人間なのだ』と周りに風潮する様な、尊大で、傲慢な性格に成長していく。


 ホフマン自身も、『自分はリアーネ家の当主になるのだ』と、信じて疑わなかった。


 しかし、そんなホフマンを失意のどん底に突き落とす……ある残酷な事実が判明する。


 ──ホフマンは『抜剣術』の才能に恵まれなかったのだ……。

 

 聖剣こそ『貴級聖剣』を授かったものの、どれだけ努力しようと『レベル1』の抜剣がホフマンの限界だった。

 

 リアーネ家は、『魔族』との戦いにおいて、聖剣士として多大な戦果を上げている貴族の名門。


 そんなリアーネ家にあって、大して戦えず、性格破綻者でもあったホフマンは、父から見限られ、


 『リアーネ家の面汚し』


 『出来損ない』


 などと罵られる様になっていった……。


 ホフマンなりに努力し、父の期待に応えようとより一層努力したが、現実は残酷だ。


 結局、聖剣士を育成する学園──聖剣士アカデミーに入学するも、成績は伸び悩み、『卒業するのがやっと』と言う有様だった。


 いや……その卒業すらも、『落第者となるはずだったホフワンが、リアーネ家の家名を利用して秘密裏に獲得したもの』などと噂されるほどの劣等生だったのである……。


 ホフマンは成人し、やがて家督が継げる年になった。

   

 だが、彼はリアーネ家の後継者として認められず、父親からは、相変わらず『失敗作』などと呼ばれ、冷遇される。


 ホフマンにとって、一番屈辱だった事は、父親がホフマンを見限り、『聖剣士』として才能ある女性を、ホフマンの妻としてリアーネ家に迎え入れた事だ。


 ホフマンの父は、


 『貴様の薄汚れた血を清めねばならん。この女はリアーネ家の某系の女……。リアーネの血が流れておる。女に頼らざるを得ないのは甚だ遺憾だが、背に腹は代えられん。後継者は……次代に期待するとしよう』


 と、ホフマンの意見など度外視で、子をなすためだけに選んだ女性をホフマンの妻とした。


 後継者と認められず、


 何一つ期待されず、


 存在意義すら否定されたホフマンは、次第に精神を病んでいった。


 決して愛す事のない妻、


 愛される事のない夫、


 期待されない自分、


 そう言った環境が、ホフマンの心を確実に追い詰めていったのだ。


 そして、ホフマンの心は、ある出来事を切っ掛けに完全に壊れてしまう……。


 ──それは、神人グレンの誕生だ。


 ホフマンは元々、幼くして自分より優秀なグレンに対して、強い嫉妬心を持つ様な父親であった。

 

 父親に愛されず、幼い我が子にすら嫉妬し、愛情を注げない男……それが、グレンから見た父親としてのホフマンだ。


 グレンが10歳の時、『神級聖剣』を授かった事により、さらにホフマンのグレンに対する嫉妬心が加速していく。


 ──ホフマンの父は、グレンが『神級聖剣』の主であったことに、大いに喜び、遂には、グレンに家督を譲ると言い出した。


 ホフマンは当然、父親に抗議したが、ホフマンの父は、


 『出来損ないが……。私に意見知るとはな。お前はリアーネではない。当然、家督も『シリウス』の名も、グレンが継ぐこととなるだろう』


 そう言って、ホフマンの抗議を一蹴した。


 そして、ホフマンの心はら修復が不可能なほど、完全に壊れてしまった。


 リアーネ家の当主になる者は、代々、家督と共に『シリウス』の名を世襲する。


 つまり、『シリウス・リアーネ』とは、リアーネ家の当主たる者が名乗る事の許された名──リアーネ家当主の証なのだ。


 グレンが成人すれば、ホフマンの父は問答無用でグレンを『シリウス』とするだろう……。

 

 ホフマンにとって、そんな事は到底許容できる話ではなかった。


 ──そして、遂にホフマンは強硬手段に出る。


 元々、当代の『シリウス・リアーネ』……ホフマンの父親側に属していた自身の妻を、秘密裏に殺害──暗殺したのだ。


 ホフマンの妻は、実子のグレン、そしてグレンと四つ違いで産まれた妹のリリアを、心から愛していた。


 契約で結ばれただけのホフマンは愛せなくとも、自身の子には惜しみない愛情を注いだ。


 『このままコイツを生かしておけば、将来、必ずグレンを当主に推すだろう……。始末しなければ』


 ホフマンはそう考え、強行手段に及んだのだった。

 

 また、ホフマンは、


 『グレンは神人だ。害を与えれば、事実をもみ消す事は不可能だろう。神人に危害を加えれば、父親の私とて極刑に処されてしまう……。手出しはできん。妹のリリアは女であるため、そもそもリアーネを継ぐ事はできん。放置しても問題はなかろう』

 

 などと打算的な事を考えていた。


 ホフマンはどうしても『シリウス』の名が欲しかった。

 

 やがて、その名を手に入れるため、ホフマンは手段を選ばなくなっていく。


 グレンが15歳、リリアが11歳になった頃だ。


 グレンが家督を継承できる年──成人する年まで、一年を切っていた。


 その折、現シリウス・リアーネ──ホフマンの父が、病に倒れる。


 治療法が確立されていない病気……『竜血症(りゅうけつしょう)』と言う不治の病だ。


 ──ホフマンはほくそ笑んだ。


 このまま父親が身罷(みまか)れば、未成年であるグレンは家督を継げず、必然的にホフマンに『シリウス』の名が転がり込んでくる。


 実は、この『竜血症』は、不治の病であるが……人為的に感染させる事が可能な病気だ。

 

 『竜血症』の病原体は、『ドラゴンポーション』と呼ばれる液体で──闇市などで、稀にではあるが、かなりの高額で出回る事がある。


 『竜血症』は、コレを対象に一定量飲ませる事で、感染させる事が可能で、感染後、一週間以内の致死率が100%と言う脅威の病だ。


 しかし、伝播性(でんぱせい)がゼロで、人を介しての感染はしないため、兵器としての運用はできない上に、『ドラゴンポーション』自体の希少性が高いため、手に入る量も少量……用途は、主に個人の暗殺などに使われる場合がほとんどだ。


 しかも、この『ドラゴンポーション』による『竜血症』は、感染者が死亡した際に、身体から原因となった病原体が消滅してしまうと言う珍しい特徴を持っており、後に遺体を調べられても疑われる事がない。


 さらに、『ドラゴンポーション』の希少性から『竜血症』の認知度も低い上に、


 『あまりの殺傷性の高さから、認知された際の影響力を考え、王国自体が存在を隠している』


 と言う事情から、例え『竜血症』で誰かが死亡したとしても、ただの突発性の病死として処理されてしまう事がほとんどだ。


 もちろん、その様な危険な代物は、法律で厳しく取り締まられており──『ドラゴンポーション』を所持しているだけで、極刑となるほど罪が重い。


         *


 実は、ホフマンは、大枚を叩いて闇市で『ドラゴンポーション』を手に入れ、父親に秘密裏に摂取させていた。


 父親に『竜血症』の症状──


 『全身に黒い斑点が現れる』


 が出た事で、ホフマンの中で父親の死は決定事項となり、『シリウス』の名が自分のものになると確信したのだった……。


         *


 ホフマンの(たくらみ)通り、ホフマンの父親は病により、治療虚しく身罷った。


 この世界には、『竜血症』と似た症状の病がいくつもある事や、『竜血症』で死亡した際の特異性から、ホフマンの犯行を疑われる事はなかった。


 ──父親の死により、ホフマンは晴れて『シリウス』の名を引き継いだ。


 しかし、ホフマンは当主としての責務を果たさず、貴族として──そして、聖剣士としての責任も果たさなかった。


 『魔族討伐遠征』の為の徴兵命令が出ても、病気を口実に拒否し、今まで一度たりとも徴兵命令に従った事はない。


 屋敷にいても、実子のグレンやリリアには興味を持たず……(ろく)に話もしかった。


 貴族としても、


 聖剣士としても、


 父親としても、


 何一つ責任を果たさない男……


 それがホフマン──


 『シリウス・リアーネ』と言う男だった。


         *


 コン コン コン──……


 グレンは、リアーネ家の執務室の前に立ち、目の前の扉をノックする。


 王城でも同じ様な行動をしていたが、そのときと比べ、グレンの表情は固く、何か思い詰めている様な顔だった。


 「入れ……」


 それだけ言って、執務室内の人物──シリウス・リアーネは押し黙る。


 「入ります」

 

 ──王城で見せた礼儀正しさはカケラもなく、グレンは、ただ作業をこなしているだけといった感じで、淡々と返事を返す。


 グレンが執務室に入ると、執務机の椅子に腰掛けたシリウスが、グレンをジロリと睨め付ける。


 シリウスが使う執務机は、オズ・ストーンと呼ばれる頑丈な石材が使われており、


 『どんな鈍器で叩いても傷一つ付かない』


 と言われている、シリウス自慢の一品だった。

 

 その執務机の上に乗っているのは、カードやダイスなどと言ったギャンブル用品で……


 椅子に腰掛けたシリウスは、机の上に置かれたカードの一部を手に取り、つまらなそうに弄んでいた。


 シリウスは、当主としての執務を、グレンやリアーネ家の執事長などに押し付け──自らは執務を行わず、日がな執務室に閉じ籠って漫然と過ごしている。


 「何の用だ?」


 そう言ってグレンを見るシリウスの視線は、相変わらず鋭いものだったが、グレンはそんなシリウスの視線など意に介さず、口を開いた。


 「父上……。リリアを、また部屋に閉じ込めたのですか?」


 グレンは、落ち着いた声色でそう語るが、その表情は固く、シリウスを見る目は冷たかった。


 「街に出たいと我儘(わがまま)を言ったからな……。当然の罰だ」


 「罰……とは? 街に出たいと言う事が、それほどいけない願いなのですか……?」


 シリウスは、グレンの言葉にを「ふん」と、鼻で笑いながら、グレンを小馬鹿にした様に見て、言う。


 「アレは女だぞ? リアーネ家をさらに発展させるための道具でしかない。道具が主人に願い事をするなど……不遜(ふそん)にも程があるだろう?」


 ──ぎゅっ


 グレンは、シリウスの言葉を受け、拳を強く握る。


 溢れ出そうになる怒りを、拳を固く握る事で何とか抑え付けたのだ。


 「それに……。リリアはもうすぐ12歳になります。そろそろ『聖剣鑑定』を受けさせてやって下さい」


 「馬鹿を言うな。女に聖剣など必要ない。どうせ適齢期になれば他所へ嫁ぐのだ……。アレに必要なのは聖剣ではなく、女としての器量だろう」


 シリウスの苛烈な物言いに、グレンは無言で執務机に近付いていく……。


 「何のつもりだ……?」


 「何故、貴方はリリアにその様な態度を取るのですか? 僕はまだ良い。割り切っていますから……。ですが、リリアはまだ幼く、母親の愛も知らずに育った子です。少しで良い……。少しでも良いから、父親の貴方がリリアに優しくしてやって下さい」


 「ふん……。何度も言わせるな。アレは女だぞ? ──リアーネ家では女に人権は無いのだ! 家のために生き、家を発展させるために犠牲とならなければ、アレは何のために女として生まれてきたのだ!」


 「母上がご存命なら、そんな事は絶対に言わなかったでしょう……。惜しむらくは、リリアに愛情を与えてくれる存在が──母上が亡くなってしまった事です。ハッキリ言って、この家に必要な人は貴方ではなく母上だった」


 グレンは、今まで言いたくても言えなかった事を遂に口にした。


 ──王城でのアーネストとのやり取りを思い出す。

 

 『リアーネ家の名をこれ以上落としたくなければ、今後のことを良く考えておけ』


 (リアーネ家の名か……。そんなもの、どうでも良いんだ)


 グレンはそもそも、リアーネ家の──自分の家系の事が心底嫌いだった。


 リアーネを名乗ることに嫌悪感を覚えており、誇りを持ってリアーネを名乗る者を、心の底から軽蔑していた。


 女を女とも──人間とも思わない……


 女と言うだけで、道具の様に扱い、


 実力がなければ存在すら認めず、


 自身の家族にすら愛情を向けない。


 それが、グレンの思うリアーネ家の姿だ。


 「……グレン。貴様、どう言うつもりだ。私を、この私を……シリウス・リアーネを馬鹿にするのか!! リリアの事など、私の采配一つで──」


 ドゴォ!!


 ──シリウスが言い終わる前に、グレンが放った拳の一撃が、執務机を粉砕した。

 

 オズ・ストーン製の頑丈なはずの執務机が──粉々に砕け散る。


 粉砕された執務机を前に、シリウスが「ひっ」と小さく悲鳴を上げ、椅子から転げ落ちて尻餅をつく。

 

 「下らない! (ことごと)く下らなない! 何がシリウスだ! 何がリアーネだ! そんなもの魔物の餌にくれてやれ!!」


 ついに、グレンの怒りが頂点に達する。


 それを受けてシリウスは──


 「グ……グレン……貴様……。父親に向かって」


 と、グレンの怒りを前にしてしどろもどろになりながら、弱々しく返すのが精一杯だった。

 

 「こんなときだけ父親ヅラするな! アンタを父親と思った事など一度もない! 僕の家族はリリアだけだ!」


 そこまで言って、幾分か冷静になったのか、グレンは声のトーンを下げ、


 「リリアの部屋の鍵はもらっていきます……。今後、あの()には一切、関わらないでいただきたい」


 と言って、執務室の壁に設置されたキーボックスから一本の鍵を抜き取る。


 「グレン……。なぜ今更、私に逆らう……? まさか……。貴様、私から全て奪うつもりか……? そんな事は許されない……。コレは私が全てを賭け、手に入れたものだ……」


 シリウスは、恐怖に全身を震わせながらも、『自分のものを奪わせない』と譫言の様に呟き、グレンを睨め付ける。

 

 それは何に対する恐怖なのか……。


 全てを失うことに対する恐怖なのか。


 グレンの圧倒的な力を目にした恐怖なのか。


 そんなシリウスを冷たく見下ろし、グレンは、


 「……悪いが、僕はもう決意してしまった。もう何を言われても止まるつもりはない。貴方を引き摺り下ろし……僕が当主としてリアーネ家を変える」


 と言ったのだった……。


         *


 グレンが執務室を去った後、シリウスは今だに恐怖に身を震わせながら、床に這いつくばる様にして(うずくま)っていた。


 「絶対に許さない……。そんな事は許されない……。許されないんだ……。私は『シリウス』だ……」


 ──シリウスの両目は限界まで見開かれ、充血し、瞳孔が開いている。

 

 「苦労して手に入れたものだ……。私のものだ……。グレンではない……。私のものなんだ……。それを奪い取ろうと言うなら……」


 ──瞳をギラつかせ、開きっぱなしになった口からは涎も垂れている。


 その様子は、まるで、極限まで追い詰められた獣の様だった。


 「ふふふ……。許さないぞ……。思い知らせてやる……。私に逆らった……報いを……」


 執務室には、しばらくの間、シリウスの不気味な笑い声が木霊していた……。

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