【12】光明
祭りは夜遅くまで開催されるため、ミュンの父親がユランが家に侵入した事に気付くのは魔族襲来の後だろう。
魔族が襲来すれば、戦う武器が必要になるため、ミュンの父親は金庫部屋のサブウェポンを取りに行くはずだ。
ユランは魔族の襲来に備え、村の見回りを行っていた。
ローブを羽織っているため、上手い事サブウェポンはその下に隠れているが……
村人に見つかれば面倒な事になるため、誰にも遭遇しない様に隠れて行動してる。
──今のところ、ジーノ村の周辺に特に変わった所はない。
村の中心にある広場から、祭りの準備をする人々の喧騒が村の端っこに居るユランの耳にも届いた。
「──ん?」
ユランたちが暮らすジーノ村は辺境にある小さな村。
そういう村で暮らす子供達にとって、祭りなどの催しは何よりも楽しみにしている行事と言って良い。
なので、大人たちが催しの準備している様子を見学するのも子供たちの楽しみの一つで──
現在、村の子供の殆どが広場に集まっているはずだ。
実際、ユランがミュンの家への侵入を決行する日を祭の当日にしたのは、そう言った理由からだった。
──そんな中、村外れの森の中に一人で入って行く少女がいた。
「あれは……。リネア?」
その少女とは、ガストンの取り巻きの少女……リネアだった。
(そういえば、〝あの時〟グレン・リアーネに聞いた話では……。そうか!)
森に入っていくリネアの姿を見て、ユランは〝ある男〟の言葉を思い出していた。
『村人の遺体は村の中に固まっていたけど……村外れの森の中に、一人の少女の遺体があったんだ』
王国最強の聖剣士──グレン・リアーネが、『ジーノ村襲撃事件』と記載された報告書に目を通しながら言った言葉だ。
グレンは他にも、こんな事を言っていた。
『調査の結果、遺体の状態からわかったことがある。どうやら彼女が一番最初の犠牲者だった様だね』
──ユランは歯を噛んだ。
(どうしてこんな大事な事を忘れていたんだ!)
ユランは自分の不甲斐なさを悔いたが……これはある意味仕方のない事だった。
ユランがグレンからその話を聞いたのは、親しい人間の死を受け入れられず、心を閉ざしている時期だったからだ。
しかし──最悪の事態になる前に思い出すことができた。
これは光明と言えるだろう。
「──リネアを追わないと!」
ユランは村を離れ、リネアを追って森の中に入って行く。
──太陽は彼方の空に沈みかけ、夜の帷が降りようとしていた。




