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誰もが聖剣を与えられる世界ですが、与えられた聖剣は特別でした  作者: ナオコウ
第五章 〜ミュン・リーリアス15歳〜
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【17】『魔王』

 「で? 貴方は何でここに居るんですか? 勝手に朝食まで食べてるし……」


 首都外れの宿屋にて、悩みが多すぎて何とも寝付けず、寝不足の目を擦りながら食堂へと降りて来たミュンは……


 当然の様に、食堂のテーブルに座って朝食をがっついている『シリス』を見つけ、呆れた様にため息を吐いた。


 ミュンは『認識阻害のローブ』を着用しているが、その事を知っている『シリス』は問題なくミュンの存在に気付いていた。


 昨日、聖剣教会でシリアスな会話を交わし、意味深に立ち去ったはずなのに……


 この聖女……もとい、『魔王』は、教えてもないのに何故かミュンの居場所を突き止め、友達でもないのに馴れ馴れしい感じでヒラヒラと手を振っている。


 『何故ってー……お腹が空いたから??』


 そして、答えになってない答えを返し、『何当然のこと言ってんの?』的な感じで朝食を貪る手を止めない。


 「貴方…そもそも、まお──いいえ……食べなくても平気な身体ですよね?」


 ミュンもミュンで、そんなズレた返をしている時点で、随分とこの魔王に毒されている様子だった。


 「そもそも、呑気な顔してこんな所に居て良いんですか? ──て言うか、この人たちは何してるんです??」


 『……平伏しているようにしか見えんな』


 その異様な光景を、最初から気付きつつもずっとスルーしていたミュンだったが……流石に、そろそ突っ込んだほうが良いだろうと、『シリス』に思い切って聞いてみる事にした。


 そして、興味なさそうにミュンの肩で欠伸を噛み殺していたラティアスも、思わずツッコんでしまうほどの……。


 『ふふん、これでワタシの凄さが少しは伝わりましたかねー』


 『シリス』は長い足を組みながら、優雅に、ナイフとフォークで皿に盛られたベーコンエッグを食している。


 ショートボブの白銀の髪──


 美しく、宝石の様な輝きを放つ金色の瞳──


 透き通る様な透明感で、張りのある白い肌──


 その完璧すぎる容姿と相まって、『シリス』の食事風景は一枚の絵画を見ている様な錯覚さえ覚える。


 ……若干、黒縁メガネがズレているのが気になるが……。


 まあ、それを差し置いても、『芸術の域に達している』と言って良いほどの神々しい光景だ。


 ──だが、その傍には……


 『シリス』に向かって、平伏──いわゆる、土下座で床に頭を擦り付けている三人の人物がいた。


 (確か、この宿屋の主人、その奥さん、そしてその娘さんだったかな……)


 あまりに自然に平伏しているものだから、ミュンはその存在に気付いていつつも、ツッコミがだいぶ遅れてしまった。


 『この人たちは、この宿屋のご主人さんとその家族ですー』


 (いや、知ってるって! そんな事じゃなくて、何でそんな事になってるか聞いてるの!!)


 『いや、知っておるわ! そんな事ではなく、何でそんな事になってるのか聞いておるのだ!!』


 ドン引きして、心の中でツッコミを入れるミュンとは違い、ラティアスは声を上げてツッコミを入れる。


 『シリス』のマイペースさに巻き込まれ、一人と一匹の頭は混乱しまくっていた。


 『ああ、そっちですか。理由は……ワタシが聖女だから?』


 「そうです! 我々の今の生活があるのも、『癒しの奇跡』を分け隔てなく平民に施してくださる『シリス様』のお陰なのです! 我々平民が、聖女様と同じ高さでモノを語るなど、とてもとても……!」


 『シリス』が詳しい説明をする前に、宿屋の主人が絶叫しながらそんな事を言う。


 ……それに、その妻と娘までもが平伏しながら『うんうん』と頷いていた。


 『……ふっ』


 「不適な笑みを浮かべて、両肩をすくめないでくれます? なんかムカつくので」


 『確かに、殴りたくなる顔だ……』


 普段、無駄な暴力を好まないラティアスですら、『シリス』のマイペースさをそう評する。


 ミュンとラティアスがドン引きしている様子見をて、『シリス』は──


 『そもそも、下等種である人間は、我々に平伏すのが当然なんです。だから、これは当然の事で何もおかしくないんですよー』


 ますます調子に乗った。


 「この人……何か本性出てません?」


 『人間を下等種とか言ってるしな……』


 「よく魔王だとバレませんね、アレで」


 『シリス』の何とも酷い言い方に、宿の主人たちも普通なら『見下されている』と怒り出しそうなものなのに……


 おそらく、彼らには『聖女フィルター』が掛かっているのだろう……。


         *


 「で、質問を戻しますけど……何でここにいるんですか?」


 ミュンは、『シリス』の対面の席に腰掛け、カチャカチャとナイフとフォークを動かしながら、再び『シリス』にそう尋ねた。


 一応、『シリス』が勝手に食べたもの以外にも朝食が用意されていたため、席には着いたが……


 寝不足であるため、食欲など湧かず、作業的に口に運んでいるだけだ。


 ちなみに宿屋の主人たちはすでに席を外しており、他の宿泊客もいないため、食堂にいるのはミュンたちだけだった。


 『……せ、聖女として聖務に赴いたんです。こ、この様な場末の宿屋にも……ワ、ワタシを必要とする者たちがいますから……』


 ミュンに質問されて急に吃り出した『シリス』は、モジモジしながら冷や汗をかいている。


 視線も明後日の方向を向き、今にも空惚けて口笛を吹き出しそうだ。


 「何でいきなり聖女ムーブ? 大方、聖剣教会に居場所がないか……働くのが嫌で逃げて来ただけね」


 『まあ、そうだろうな』


 「私、だんだんこの人の事が分かってきた気がします……」


 ミュンとラティアスは、互いに耳打ちしながらそんな事を話す。


 それに対して『シリス』は、二人のひそひそ話が聞こえていたのか──


 『ぷっちーん。『シリス』さんはキレました。ブチギレです』


 急にぷりぷりと怒り出した。

 

 「ぷっちーんって……口で言わないでくださいよ」


 『私だって、気が抜ける場所が欲しいんですー! ()()()、ワタシに対して常に高圧的なんです! 何かあると、すぐに子供たちの名前を出して脅してくるしー! 一応、仲間って事になってるのにー!! パワハラ反対! 待遇改善を要求します!!』


 「……貴方が、ローゼンディアスの仲間として認められてないのでは……? 貴方、色々な所が抜けてそうですし……」


 『はぁ!? ミュンちゃんさぁー、人生の大先輩に対して、言って良いことと悪いことの区別もつかないのー? それだと、ワタシが無能なせいで、あの人に疑われている様に聞こえますけどー??』


 「馴れ馴れしく名前を呼ばないでください。それに、逆ですよ逆……逆に無能すぎて疑われてない感じでは? ただ、むの──危なっかしすぎて、信用しきれないと思われてるのでは……と」


 『え? 何で、途中で気を使った感じで『無能』って言うのをやめたんですか? 言いかけましたよね、今、『無能』って。そもそも、途中まで普通に言ってましたしー。──気を使った意味は!?』


 などと、くだらない会話を繰り広げていたミュンたちだったが、『シリス』は急に真面目な顔つきになり、自重気味に言った。


 『でも、ワタシが、あの人に信用されていないのは事実です。正直な話、あの人に必要なのは象徴としてのワタシ……『聖女シリス』なんです。あの人には強力な〝副恩恵〟がありますし、戦闘能力も普通じゃありません。ワタシの手助けなんて要らないほど、個として完成された人間ですから……』


 そう、『シリス』の言う通り、ローゼンディアスは戦闘面においては勿論……それ以外の平時であっても、〝副恩恵〟によってある意味、全てが自分の思い通りに動かせる存在だ。


 ローゼンディアスの望み──


 願い──


 意思──


 そう言ったものを叶え、又は達成するために〝副恩恵〟が彼女の有利になるよう、運命を捻じ曲げてしまうのだ。


 その強力無比な〝運命力〟に対抗するためには、それこそ、より強力な運命力を持つものが対するしかない。


 ──例えば、ユランやリリアの様な『神級聖剣』の持ち主……。


 彼ら『神級聖剣』は、そもそも〝副恩恵〟などと言うものを必要としない──それらを、真っ向から叩き潰せるほど強い〝運命力〟を持つ者たちだ。

 

 『神級聖剣』ほどでなくも、素でローゼンディアスよりも強力な〝運命力〟を持つ者でも良いだろう。


 例えば、ローゼンディアスと同じ『皇級聖剣』を持ち、『抜剣術』のレベルも高い──アーネスト王国の王女、ジェミニ・フォン・フリューゲルなどだ。


 『あの人はワタシを信用していない……。でも、民衆の支持を得るためには『象徴』としてのワタシが必要……。いいえ、必要というよりは、その方があの人にとって都合が良いだけかもしれません。だから……使い勝手の良いワタシを制するため、子供達を人質に取り、ワタシが逆らえない様にしているんです』


 そこまで言うと『シリス』は俯き……その声は段々と震えていき、声自体も小さくなっていく。


 俯きながら、両手で顔を覆い……傍から見れば、その声の震えも相まって、今にも泣き出してしまいそうに見えた。


 『面倒──いいえ、居場所がなくて、に、逃げて来たのは事実です。で、でも、それだけじゃなくて……め、女神の御使であるミュン様にお願いがあ、あって……』


 声だけではなく、『シリス』の身体はカタカタと震え出し……


 絞り出す様な悲痛な声色になっていく。


 「最初の方、若干、本音が出てましたよね? 今……」


 『茶化すなミミュ。話が進まん』


 ラティアスは、若干面倒くさそうにため息を吐くが、話だけは聞こうと『シリス』に先を促す。


 面倒くさそうにしているのは……ラティアスには、『シリス』がどう言う存在か、薄々分かっているからだろう……。


 『ワタシでは、どうしても無理で……子供達を助け出せる力もなくて……だから……だから、ですね……』


 「あー……そこまでで。ストップ。何となく、その先貴方が何を言いたいのか分かってしまいましたから……それ以上は止めて下さい。多分、私では貴方の期待に添えないと思います」


 ミュンは、『シリス』の話を途中で遮り、この後『シリス』が話すであろう要望に明確に『NO』を突き付けた。


 何故なら、ミュンには『シリス』が何を望んでいるのかが大体、分かっていたし……


 その願いが、ミュンでは叶えられないものだと、彼女自身が一番良く分かっていた。


 『シリス』の願いとは──

 

 『女神の御使──ミュン様に力を貸していただきたいのです。ワタシの大事な子供達を、ローゼンディアスのもとから助け出してさい。お、お願いします……』


         *


 「止めてって言ったのに……。まあ、でも聞いた上で言いますけど、無理ですね。仮に貴方の協力があったとしても、私じゃローゼンディアスに対撃ちできません。二度戦って、二度とも完膚なきまでに叩きのめされたんですよ? 悪いですが、私に出来る事はないです」


 『あ、あの人を……倒す必要なんてないです……。こ、子供達を見つけ出して、た、助け出せる時間さえ稼げれば……』


 『シリス』はそう言って俯いていた顔を上げるが、声は未だに震え、身体の震えも治っていない。


 意を決して、顔だけでも前を向こうとでも思ったのだろうか……。


 しかし──


 『シリス』の言葉を聞いたミュンは、ゆっくりとした動作で、両手に持っていたナイフとフォークを皿の上に置き──


 「…………もしかしなくても、私に『囮になれ』って言ってます? 貴方の子供達を助け出すために……それが私にとって『死地だと分かっていながら?』」


 ──ヒュン


 『──ぴぃ!』


 目にも留まらぬ程の──


 いいや、正確には『シリス』の目には追い切れないほどの速度で──


 ピタリ──……


 ミュンは腰に携えたサブウェポンを引き抜き、切先を『シリス』の喉元に突きつけた。


 左逆手で引き抜き、前に出したため、若干不恰好ではあるが……。


 「……正直、私は貴方たち『魔族』と言う存在を信じてません。魔族(貴方たち)に虐げられ、苦しめられている人たちを見て来ましたから……。それに──貴方の場合、『魔族』が元人間である事をご存知みたいですから、はっきり言いますけど……衝動に打ち勝ったってだけで、元々持ってた人間的な感情──失ってますよね?」


 ミュンは、そう言ってスッと目を細めて『シリス』の目を真っ直ぐに──射抜く様に見つめる。


 サブウェポンは、少しでも力を入れれば『シリス』の喉元を引き裂ける……『いつでも殺せる』と言う意思表示だ。


 勿論、テーブルの下の右手は聖剣の柄を握っており、いつでも『抜剣術』を発動できる状態だった。


 これは、『囮になれ』と言われたことに対し、憤慨しての行動ではない。


 『シリス』が──自分の望みを叶えるために、『最も簡単に他者を犠牲にしようと選択した事』に対する怒りだった。

 

 『う……え……? 何を……言って……?』


 「ああ、『感情を失っている』って表現は適切ではないですね。ただ、人間的な感情は希薄で……極端に言うと、万事に対して『何とも思ってない』」


 普段から、表情がくるくると目まぐるしく変わり、感情の表現が豊かに見える『シリス』だが……


 ミュンの目には、『シリス』のそれが異様な状態に見えていた。


 「今の貴方を見てると、何となく分かるんですけど……。そうですね、例えば、貴方の大切な子供たちが──目の前で処刑されたとしたら、貴方はどうしますか?」


 『……え?』


 処刑──


 大切な子供達をローゼンディアスに人質に取られている『シリス』にとって、それは現実的な話だ。


 起こり得る未来……。


 ローゼンディアスが『シリス』を不要と見做せば、確実に起こってしまう未来の話……。


 『──あ、あぁ……。ヨ、ヨシュア……それに皆んな……ご、ごめんなさい。ワタシは……』


 ローゼンディアスに『トラウマ』を刺激された時と同じ様に……『シリス』は全身をガタガタと震わせ、自らの身体を抱きしめた。


 その、擬態のために〝薬品で染められた〟金色の瞳から涙が流れ、頬を伝う。


 そんな状態の『シリス』を前にしても、ミュンは言葉を止めない。


 「多分、貴方は悲しむと思いますよ? それくらいの感情は持ってそうですし。でも──次の日には忘れてますよね? 多分、忘れて、普通に割り切って、普通に笑ってる。子供達の事を忘れる訳じゃなくて……『悲しい』って感情をです」


 『……あ、あぁ……違う……ワ、ワタシは……皆んなのために……』

 

 「今だって、『トラウマを刺激されて、苦しいフリをしようとしてる』風にしか見えません。必死に人間のフリをしようとしてる」


 ミュンの視線は益々、厳しく細められ……


 逆にシリスは『トラウマ』を刺激され、追い詰められ、顔を青くし……


 ガタガタと身を震わせて、涙を流している。


 「必死に、人間のフリをしようとしているけど……私には、貴方が他の『魔王』と違う様に思えない。貴方は、やっぱり『魔族』なんですよ」


 『ち、違います……。ワ、ワタシは……子供達に……心を……もらって……』


 ミュンの物言いに、遂に耐え切れなくなったのか……『シリス』は両手で顔を覆い、再び俯いてしまう。


 悲しみに耐え切れず、嗚咽を漏らすほどだ。


 しかし、ミュンはその『シリス』の様子を見て、冷たく言い放った……。


 「だって貴方──ずっと笑ってますよ?」

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