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誰もが聖剣を与えられる世界ですが、与えられた聖剣は特別でした  作者: ナオコウ
第五章 〜ミュン・リーリアス15歳〜
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【11】一旦の決着

 どれだけ〝見ても〟、どこまで〝見ても〟勝ち筋など見えない。


 最初からそんな類の戦い……。


 聖剣の等級は違えど、能力の相性が良ければ……或いは善戦する事も可能かも知れない。

 

 しかし、ミュンとローゼンディアスの聖剣は〝同じような能力〟で、しかも『抜剣術』の恩恵値で言えばローゼンディアスの方が上だ。


 ミュンがローゼンディアスを越えようと思うなら、少なくとも『レベル6』に至らなければならない。


 だが、『抜剣術』は、レベルを一つ上げるだけでも相当の鍛錬と時間を必要とする。


 いくらミュンが天才と言えども、それは直ぐにどうこうなる問題ではなく……『レベル5』に至るまでに一年掛かっていることを考えても、現実的な話ではなかった。


 それに……


 『──使用限界まで残り3分です』


 ミュンの聖剣から放たれた無機質な声が、無慈悲にも〝限界〟までのカウントダウンを告げている。


 ミュン自身、既に『レベル5』の影響で満身創痍であるし──敗北は必至……時間の問題と言えるだろう。


 「……は……は……はっ……はぁ──その余裕な態度が、一々イラつくわね……」


 そう言ったミュンであったが、先程までの息も絶え絶えと言った状況から脱し……既に息も整い、体制を立て直していた。


 直前の状況から考えれば、異常なほどの回復力と言える。


 「……ほう、やはり貴方は面白い。『貴級聖剣』でありながら、〝副恩恵〟も持ち合わせているとは。本当に、聖剣の等級が同じなら……私を遥かに凌ぐ才能の持ち主かも知れませんね」


 ローゼンディアスは薄く笑いながら、そんな事を言った。


 敵を前にしながら、無防備に無駄話をする……。


 ──油断……いや、完全にミュンを侮っている。


 それどころか、敢えて追撃を仕掛けず、満身創痍のミュンの回復を待ち──その様子を観察し、分析する余裕すら見せていた。


 「〝副恩恵〟……さっきも事を言ってたけど、聞いた事のない言葉ね」


 ──ジリ


 ────ジリジリ……。


 ミュンは、ローゼンディアスの話を聞くフリをして、少しずつ距離を取ろうと試みる。


 ──間合いが近すぎる。


 このままでは、攻撃を避ける事もままならない。


 「……ふふ、貴方が〝副恩恵〟の事を知らず、自覚がないのも無理はないでしょう。〝副恩恵〟は相当の才能があり──その中でも限られた……選ばれし人間にしか発現しない特殊能力なのですから。認知度もそれだけ低いモノ……おっと、少し自画自賛が過ぎましたね。ふふ」


 『先見』を持つローゼンディアスは、当然、ミュンが距離を取ろうと密かに後退っている事にも気付いていたが……敢えてそれを放置して、会話に興じている。


 ──ミュンがどの様に動こうが、どんな手に出ようが簡単に撃退出来る。


 ローゼンディアスは、ミュンの考えなど浅はかで……どうでも良いとすら思っていた。


 『どうせ、何をしたって無駄なのだから』


 そんな考えが透けて見えるかの様に、ローゼンディアスは怪しく微笑む。


 「〝副恩恵〟とは──聖剣の加護が、『抜剣術』を使用せずとも表に現れ、持ち主にあらゆる『恩恵』を与える事です」

 

 「……へぇ」


 そして、頼んでもいないのに勝手に〝副恩恵〟について説明を始めた。


 ──ジリ


 ────ジリジリ……。


 ミュンはローゼンディアスの言葉に耳を傾け、相槌を打ちつつも、少しずつ間合いを取って行く。


 ローゼンディアスは……それに気付いていながら、完全に無視を決め込んでいた。


 「私の場合は、『意図せず先を読み、自分の都合の良い結果が導き出される』と言ったモノですが……貴方の場合は──そうですね……」


 ローゼンディアスが語る自身の〝副恩恵〟……それは、大袈裟に言えば、ローゼンディアスがどの様に動き、どの様な決断をしたとしても、


 『彼女の都合の良い様に運命が動く』


 と言う事だ……。


 勿論、そこには外部の力が働き、ローゼンディアスの──ある意味〝運命を決定する力〟を上回る事象が起これば、簡単に覆ってしまう類のものだろう。


 しかし、逆に言えば、ローゼンディアスの力を上回る者がいないのならば……その運命を決定付ける力に翻弄され、飲み込まれてしまうと言う事だ……。


 そんな、ローゼンディアスの強力無比な〝副恩恵〟に対して、ミュンの〝副恩恵〟は──


 「貴方のレベル4は『時間停止』……。レベル5は『時間の先読み』……? 詳しくは分かりませんが、そう言った類の能力でしょう? 聖剣の属性は間違いなく──『時』ですね。ならば、〝副恩恵〟は、『自分に都合の良い様に時間が調節される』と言ったところでしょうか……」


 と言う事らしい。


 「したり顔で解説しないでくれる? 聖剣博士かアンタは」


 ミュンは、皮肉たっぷりにそう返したが……ミュン自身、心当たりがない訳ではなかった。


 異常なほどに早い成長速度──


 人並外れた回復力──


 そして、〝半日かかるはずの道のりを、数時間足らずで進める〟など……。


 今までに、幾度となく経験してきた事だ。


 (……いつからだったかな……。確かに、レベル5に至った頃から……そんな事が周りで起きていた気がする……。完全に自覚なんてなかったけど……それが当然だと思い込んでた? 何だか怖いわね……)


 ミュンが、自身の〝副恩恵〟について思案している間にも──


 『──使用限界まで残り1分です』


 カウントダウンは進み、益々窮地に追い込まれて行く。


 『抜剣術』を用いても太刀打ち出来ないのに、このまま使用限界を迎え、聖剣の恩恵もなくなれば……。


 ローゼンディアスは、未だに手を出して来ない。


 勿論、ミュンの時間切れを待っている訳ではなかった。


 ただ、ミュンがどのような行動に出、無意味に抗ってくるのか……そう言った事が、純粋に気になっているだけの様子だ。


 ローゼディアスと言う人間は──


 『皇級聖剣』を与えられてからこの方、自分より強者たる者に出会った事がないのだ。


 ローゼディアスにとって戦いとは、常に弱者を蹂躙するだけの──遊びに等しい。


 ただし、遊びだとしても、相手がローゼンディアスの意に反する行動をする事は許さなかった。


 ミュンがローゼディアスを前に逃走した際、激怒していた様に……。


 正々堂々を要求するが、かと言って、その戦い方に相手に対する敬意などまるで感じられない。


 まるで、獅子が鼠を弄ぶ様に……


 ミュンを見下し、『敵う訳がない』と、敢えて手を抜き……必死な様を見て鼻で笑う。


 「なぜか、貴方を見ていると直ぐに勝負を決する事を躊躇ってしまう。意地汚く生に縋る様を、延々と眺めていなくなる。私にこんな加虐性が在るとは……自分でも驚いています。貴方の生意気な態度もさることながら、存在自体が心から気に食わないと言う事かも知れませんね」


 「……言ってなさい。自分で気付かなかっただけで、多分貴方は元からそう言う人間なんでしょ」


 ローゼディアスの言葉にミュンは悪態を付くが……傍から見ればただの強がりにしか見えない。


 そして、ミュンの虚勢など意に介さず、ローゼンディアスは余裕の表情でミュンの出方を伺っているだけ……。


 戦いが始まった直後こそ、積極的に攻めてきたローゼンディアスだったが、今は自分から動こうともしない。


 『おい、ミミュ。こうなったら仕方がない……私があのローゼン何たらの気を引いてやる。その隙に逃走を──』


 それまで黙ってミュンの戦いを見ていたラティアスが、そんな事を耳打ちする。


 しかし、ミュンはそれを遮る様に──


 「ラティアス様、大丈夫です。今のラティアス様に、ローゼディアスの気が引けるとは思えませんし……そもそも、最初から突破口は〝見え〟てるんです」


 言った……。


 『おい、冗談を言っている場合では──』


 ──スススッ


 「──うん、この辺りかな?」


 ミュンはラティアスの言葉を無視し、先程まで立っていた場所から、少しだけ横に立ち位置をズラした。


 「一番最初に〝見た〟時から──最初から、()()()()()は〝見えて〟いたんです。まあ、相手の戦力なんかを知るために、何度も〝見る〟羽目になりましたけど……。何でか分かりませんが、私は()()()()()みたいですね」


 『何を言って──』


 ミュンの言葉の意味が分からず、ラティアスは困惑した表情で言い掛け──


 『!?』


 驚愕の表情で固まった。


 いつの間にか──


 本当に、いつの間にか……だ。


 分身体で、大幅に弱体化しているラティアスには動きが見えていなかった。


 『先見』を持つローゼンディアスは勿論、目で追えていなくても『見えて』はいる。


 ──ミュンも、予め〝見て〟いたため、気付いていた。


 と言うよりも、()()を待っていたのだ。


 「いい加減、面倒になるわね……。見ていて退屈……飽きてきたわ。さっさと片付けなさい」


 そう言って──


 いつの間にか、ミュンの眼前に現れたのは──


 ──聖女シリスだ。


 ミュンたちから、かなり離れた位置にいたはずなのに……気配もなく、目にも止まらぬ速さで間合いに入ってきた。


 聖女シリスは、ゆっくりと右手を前に差し出す。


 何かしらの攻撃を仕掛けようとしているだろうが……先程の動きとは異なり、驚くほど鈍重だ。


 まるで、『避けてくれ』と言わんばかりの攻撃……。


 ──トンッ……


 聖女シリスの右手が、ミュンの胸辺りに置かれるが──


 フッ──……


 当然、そんなノロイ攻撃を避けられないミュンではない。


 聖女シリスの手が触れた瞬間、ミュンはその手を受け流す様に、身体を横へとズラし──


 『──破壊(ブレイク)──』


 それと同時に、聖女シリスは何かを唱え──右手から眩い光が放たれた。


 ──


 ────!!


 聖女シリスが放った光は、音もなく……いや、音さえ消し去るほど激しく──


 全てを飲み込み──


 ──ドゴォォォォォォォ!!!!!


 強大な破壊音を立てながら、光を放った聖女シリスの右手の先──


 十数メートル近くはあろうかと言う石造りの壁を──


 粉々に破壊した。


 ──ゴゴゴゴゴゴゴ


 そして、遅れてやってきた爆音が、広大な面積を持つ部屋全体を激しく揺らす。


 「──つっ!?」


 ──床がグラグラと激しく揺れ、さしものローゼディアスもまともに立っていられず、片膝を付いてしまう。


 ミュンは──


 「やっぱり、とんでもない力だわ……。一度〝見た〟けど、我ながら良く避けられたわね……」


 平然とそこに立っていた。


 〝破壊の光〟を間近で受けながら、全くの無傷……完全に回避する事に成功していた。


 そして、ローゼディアスとは違い、揺れの影響を受けていないかの様に──しっかりと立っていた。


 予め、そうなる事が分かっていた様に……。


 「ふふ……。貴方の『先見』は〝見えて〟いても、その後の結果が重大なら十全に対処出来ないみたいね……そこが私との違いよ」


 「──つっ! な、何を!」


 ミュンの嘲る様な言葉に、ローゼディアスは顔を赤くして激昂し、叫ぶ。


 しかし、激しい揺れで動く事もままならず──


 「せ、聖女様──つっ! シリス! さっさとソイツを殺せ!!」


 形振り構わず、声を荒らげてそう言った。


 「口調が変わったわね……。だから言ったでしょう? アンタは元からそう言う人間だって……」


 ミュンは、動けないローゼンディアスを煽りに煽る。


 まるで、今までの意趣返しと言わんばかりだ。


 「黙れ! ──シリス! 強がってはいるが、この揺れでアイツだって動けないはずだ! 今のうちにさっさとやれ! 私に逆らったら──どうなるか分かっているだろう!!」

 

 激昂したローゼンディアスは、目の色を変えて叫び続けた。


 ──コク……


 ローゼディアスの命令を受け、聖女シリスは無言で頷くと……


 ミュンが攻撃を避けた事で、少しだけ離れた距離をゆっくりと詰めて行く。


 流石と言うか……激震の影響など、まるで受けていない様な足取りだ。


 「はっは! ソイツが生きているのは、無用に割り込んだお前の失態だ! もう、そのオモチャはいらん! 動けん内にさっさと殺してしまえ!!」


 ──聖女シリスの動きは遅い。


 数メートルもない距離を、スローモーションの様にゆっくり詰めて来る。


 やはり、揺れの影響が少しはあると言う事なのだろうか……?


 ローゼディアスの言う通り、実際にはミュンは立っているのがやっとで、マトモに動く事が出来ていなかった。


 ローゼディアスを煽ったのは、強がりが大半だ……。

 

 しかし、それだけと言う訳でもなく──


 ──トッ……


 動く事の出来ないミュンの胸辺りに、聖女シリスの右手が置かれる。


 〝破壊の光〟が来る──

  

         *


 ミュンは考えていた。


 聖女シリスが〝破壊の光〟──『破壊(ブレイク)』を放つ瞬間、『静止』を発動させ、逃亡する事を……。


 攻撃を放った瞬間なら、聖女シリスにも隙はあるだろう。


 それに、どうやら聖女シリスもこの揺れの影響を受けているらしい……。


 ならば、『静止』で揺れの影響のなくなった〝世界〟を利用すれば、逃げ仰ることも可能なのではないか……と。


 (丁度、おあつらえ向きに壁もなくなったからね……)


 この先は、『見通す世界』でも〝見て〟いなかった〝世界〟だが……状況的に見ても成功率は高いだろう。


 そう言った考えから、聖女シリスが〝破壊の光〟を放った瞬間を狙い、『静止』を──


 トンッ──……


 「──え?」


 ミュンは驚き、思わず声を上げる。


 ──聖女シリスは、その右手でミュンの体に触れ……〝破壊の光〟を──


 放つのではなく、そのままミュンの胸を軽く押した……。


 そして、


 「──お逃げなさい。貴方の能力なら、可能なはずです……」


 と言ったのだ……。


 ──トトッ……


 ミュンは、ヨロけながらも、倒れる事なく──その場から後退した。


 「おいシリス! 何をやっている! 悪足掻きをして、見苦しく避けようとしているだけだ! 早くやってしまえ!」


 ローゼディアスは叫ぶ。


 内容から、聖女シリスがミュンを押したのではなく、自ら後退した様に見えたらしい。


 ──丁度、聖女シリスの身体の陰になっていた所為で、肝心な部分が見えていなかったのだ。


 「……分かってるわ。まったく、五月蝿いったらないわね」


 聖女シリスは面倒臭そうにそう言うと、再び右手を前に差し出し……


 「何だか分からないけど……好機って事なのかしら?」


 未だに状況が飲み込めていないミュンだったが、この機を逃す手はないと──


 ──グググッ


 身を低くし、後方に跳躍するための体制を取った。


 「やれ! どうせマトモに逃げられん!」


 ローゼンディアスはそう言うが……


 「間抜け。私のレベル4を忘れたの? どんなに地面が揺れようと……止まってしまえば意味ないのに」


 「!?」


 ミュンを侮り、『意味のない能力』だと軽んじ、歯牙にもかけていなかったローゼンディアスは忘れていたのだ。


 ミュンのレベル4の事を……。


 「がぁぁぁぁぁ──……」


 『──静止』


 ローゼンディアスの絶叫を無視し、ミュンは『静止』を発動させる。


 ──周辺の景色が色を失い……世界の全てが動きを止めた。


 「……まったく、どうなってるのよ」


 ミュンは、その場を脱する直前、ため息混じりにそんな事を呟き──不可解な行動を取った聖女シリスに訝しげな視線を向けた……。

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