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誰もが聖剣を与えられる世界ですが、与えられた聖剣は特別でした  作者: ナオコウ
第五章 〜ミュン・リーリアス15歳〜
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【10】ミュンVSローゼンディアス

 『──を──』


 『──を──は──です──』


         *


 『静止』


 先手必勝。


 そう言わんばかりに、ミュンは『レベル4』の効果を発動させる。


 『静止』は、文字通り世界を静止させ、その静止した世界の中でミュンだけが自由に動けると言うものだ。


 発動させた瞬間、世界が色褪せ、一歩踏み出そうとしていたローゼンディアスの動きが完全に静止する。


 「──やっても意味ないんだろうけど」


 ミュンは、誰にともなく呟き──瞬時にローゼンディアスとの間合いを詰める。


 「取り敢えず……。先手、いただきます!」


 ──確認。


 ……先ずは。


 ──ヒュン


 間合いを詰めたと同時に、サブウェポンによる一撃を放つ。


 狙いはローゼンディアスの右腕……サブウェポンを握る手だ。


 (セシリア王女の言葉を完全に信じる訳じゃないけど、ローゼンディアスが聖女に操られているなら……致命傷になる部位は避けないとね。まあ、そんな事考えるだけ無駄なんだろうけど)


 ──フッ……


 ミュンの放った一撃は、ローゼンディアスの肌に触れる直前で『静止』する。


 まるで、接触を拒む様に……強制的に。


 「やっぱり。実力ではこの人の方が上なのね……」


 ミュンの『レベル4』の能力には制約がある。


 『能力が上の者を害せない』


 なので、いくら世界が静止し、その中でミュンだけが動けるとしても、相手が格上ならまるで意味をなさない能力だった。


 だが、ミュンとて、自身の能力を最大限に活かせる方法を模索してきた。


 一番有効な方法として考えられるのは、〝世界が動き出す瞬間〟を狙う事だ。


 静止中に相手を害せなかったとしても、世界が再び動き出せば、相手への攻撃は問題なく通るだろう。


 ならば、きっちり5秒の後、動き出す瞬間を狙って攻撃すれば良いのだ。


 しかし、これには問題もあって──


 相手の方が実力が上である事を考慮した場合、動き出す瞬間を狙っても、攻撃が回避される可能性がある。


 相当の実力者ならば、刃が身体に触れた瞬間に察知し、避ける事も出来なくはない。


 特に、『抜剣術』が発動している最中なら尚更──発動中は身体能力の強化のみならず、五感も研ぎ澄まされているのだから……。


 そして、そんな状況で攻撃を回避されれば、体制が崩れ、隙が生まれ……手痛い反撃を受けかねない。


 また、問題はそれだけではなく。


 もう一つの大きな問題としては、『静止』を管理しているミュンにも、静止中の5秒が感覚でしか分からない事だ。


 なので、タイミングが合わずに──


 攻撃が早過ぎれば容易に避けられ、


 攻撃が遅過ぎれば直前で静止してしまい、勢いが完全に殺される……。


 そう言った理由から、格上に対して『静止』を用いて攻撃するのはリスクが大きく、使用するならば『防御』や『回避』に使うのが得策だ。


 「て、分かっていつつも──試してみるんだけどね」


 3……


 2……


 1──


 「ほいっと!」


 ミュンは、タイミングを見計らってサブウェポンによる一撃を繰り出す。


 と、まあ先程までの事は、普通に戦闘が展開した場合の話だ。


 その展開も、相手がミュンの『静止』を知っているかどうかで大きく変わる。


 初見ならば、静止解除直後の攻撃の有効度も上がり、相手からの反撃の勢いも弱いだろう。


 そして、ミュンには攻撃を回避され、万が一反撃されても避け切る自信があった。


 そう言う事を考慮しての初撃──

 

 ──ヒュン!

 ──0


 正にドンピシャのタイミング。


 『静止』が解除された瞬間に直撃──ハッキリ言って、ここまで絶好のタイミングで攻撃出来たのは全くの偶然だ。


 多分5秒……その程度の認識で放った攻撃。


 だが、偶然も──運も実力の内。


 相手は格上のローゼンディアスだが、上手くいけばアッサリ無効化できるやも……。


 「よし! いただきま──」


 ──その時。


 ミュンは、攻撃が直撃する瞬間に、ローゼンディアスの姿を見て──


 強烈な違和感を覚えた。


 踏み込みが浅く──


 視線が定まっていない……。


 まるで、何か行動を起こす前段階の様な……。


 『静止』使う直前の動きなら、ローゼンディアスの方が圧倒的に速く、すでにある程度距離を詰められていてもおかしくはない筈だった……。


 しかし、ローゼンディアスは明らかに何かを察知し、準備していた。


 「──しくじった……」


 と、ミュンが気付いた時にはもう遅い。


 ミュンの攻撃は、吸い込まれる様にローゼンディアスの右腕に──


 「……それは甘いでしょう?」


 ──フッ


 接触する事なく、空を切った──。


 それだけではない。


 ローゼンディアスはミュンの攻撃を躱すのではなく、反撃する過程で自身の右腕をすり抜けさせる様に、絶妙なタイミングで前進したのだ。


 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()様に……。


 そうなってしまっては、攻撃を回避されて体制を崩しているミュンには成す術もない。


 〝来るかもしれない〟とある程度予想していた反撃も、予想以上に──いや、規格外に鋭いもので……。


 (……やられた。この人のレベル4──『せんけん』……『先見』ってそう言う事なのね)


 ローゼンディアスが放った反撃は、寸分の狂いなく、ミュンの左胸……


 『心臓』に向かって吸い込まれて行った。


 ──ドヒュ……


 「あう──……」


 様子見の初撃と言うこともあり、完全に油断していたミュンは……ローゼンディアスのその一撃で、人間の一番の急所を貫かれ──


 あえなく絶命した……。


         *


 『──を──』


 『──を──は──です──』


         *


 「と、こうなる訳ね……」


 肩で大きく息をしながら、ミュンは呟く。


 顔全体に汗が浮かび、顔色も真っ青だ。


 『──おい、もしや、もう〝見た〟のか?』


 そんなミュンの様子を見て、ラティアスが若干声を低くして尋ねた。

 

 少し怒っている様子だ。


 「やっぱり……とんでもない相手です。牽制も様子見もさせてくれない……。やったら即終わりですね……。でも……何とか相手の『能力』は……〝見え〟ました」


 なかなか整わない呼吸が煩わしいと感じているのか、ミュンはそう言って大きく、長いため息を吐いた。


 「……?」

 

 一方、ローゼンディアスは〝未だ戦闘らしい事はしていない〟にも関わらず、満身創痍と言った状態のミュンを見て怪訝そうな顔をしている。


 「『先見』……先読みの能力……。試して〝見ました〟けど……私の『静止』を加味した上で……完璧に一手先を行かれました……」


 『……ミミュ。やはり逃走しろ。マトモに此奴らと戦うより、何とか逃げ延びて結界を破壊……主人殿らを呼んだ方が、まだ幾分か可能性があるぞ』


 「……無理ですね。──はぁ。逃げるのは絶対に無理です。この広い部屋全体が、ローゼンディアスによって完全に掌握されてます。逃げようにも──つっ!?」


 フッ──……


 せっかく息が整ってきたと言うのに……。


 ローゼンディアスの姿が、突然、目の前から掻き消える。


 少し……。


 ほんの少しの間だ。


 ミュンがラティアスの話に耳を傾け、一瞬だけそちらに注意を向けた際──その刹那の気の緩みを、ローゼンディアスは見逃さない。


 『皇級聖剣』の加護に任せた、力技の突進。


 だが、ミュンの目はローゼンディアスの動きを全く捉える事が出来ず──


 一瞬の内に。間合いを詰められてしまった。


 ──シュン!


 ミュンの急所を狙った正確無比の一撃で、やはり、目で追えないほどの速度。


 勢いの乗ったローゼンディアスの一撃は、最も簡単にミュンの胸を貫き──


 『静止!』


 ──ピタ……


 ミュンは咄嗟に『静止』を発動させ、ローゼンディアスの一撃の阻止を試みる。


 「……つっ」


 ──何とか『静止』が間に合い、致命傷を避ける事は出来たが……ローゼンディアスのサブウェポンの切先が、ミュンの肉を僅かに引き裂いた。


 少しでも発動が遅ければ、確実に心臓を貫かれていただろう……。


 結果的に、『静止』を使わされる事になったが──


 「冗談じゃないわ。とにかく、少しでも離れ──」


 『見通す世界』で〝確認〟した通り、静止解除直後の攻撃などローゼンディアスには通用しない。


 少しでも距離を取り、5秒の『静止』後に来る10秒の冷却時間(クールタイム)に備えなくては……。


 そう言う考えから、ローゼンディアスから距離を取ろうとしたミュンだったが……。


 嫌でも目に入ってしまう……。


 ローゼンディアスは……目一杯、踏み込んでいなかった。


 ……目線も、ミュンの方を見ていない。


 それは、つまり……。


 4……


 (でも、考えてる暇なんかない!)


 3……


 ミュンは、すぐに行動に移す。


 ──ダダダダダ!!


 踵を返し、ローゼンディアスに背を向け、後方に向かって全力疾走したのだ。


 2……


 1……


 ローゼンディアスから離れる事に全力を注いだにも関わらず、広大な面積を持つ部屋の端までは到達出来ない。


 しかし、距離は十分に取れているだろう。


 0……──


 このまま10秒間、時間稼ぎをすると言う手も──


 ──シュッ!!


 ローゼンディアスとの距離が離れたと同時に『静止』が解除され──


 ミュンは気を取り直して、ローゼンディアスの動きに備えようと振り向くが──


 振り向いた瞬間、目前にすごい早さで何かが迫っていた。


 (──投げナイフ!?)


 『静止』から解放された刹那、ローゼンディアスはサブウェポンを握っていた右手で、器用に胸のホルスターから投げナイフを掴み取り──そのまま間髪入れずに投擲したのだ。


 「──ぐっ」


 ミュンは、強引に身体を捻って、何とか投げナイフを躱す。


 ──トッ!!!


 猛烈な勢いで、ミュンの眼前を通過して行ったナイフは、大きな音を立てて木製の壁に突き刺さり──


 ──グググッ


 ミュンが安堵する間もなく、突然、目の前にローゼンディアスの姿が現れる。


 (出鱈目すぎる! 何なのこの人!?)


 ローゼンディアスは、ナイフを投擲したと同時に走り出し──それだけでなく、猛然と飛んでいくナイフと同等以上の速度でミュンに迫ったのだ。


 「──とった」


 ナイフを避けるため、強引に身体を捻ったため……ミュンの体制は完全に崩れていた。


 正確無比なローゼンディアスの一撃……避けれようはずもない……。


 ローゼンディアスの『レベル4』──『先見』は、文字通り相手の動きを先見する能力。


 ミュンがどの様に攻撃しようが──


 どの様に攻撃を避けようが──


 逃げようが──


 全て先回りして、一手先を見据えて行動出来るのだ。


 この一撃で心臓を貫き、ミュンが絶命する瞬間は……ローゼンディアスにとって〝見えている〟確実な未来。


 『先見』が導く通りに、サブウェポンを走らせれば──


 ──ヒュン!


         *

 『──を──』


 『──を──は──です──』


         *



 ババッ──!!


 「!?」


 確実にミュンの急所を捉えたはずの一撃は、虚しく空を切り──


 ミュンは倒れ込むほど身体を傾けて、ローゼンディアスの攻撃を何とか凌いでいた。


 ──ダッ!


 そして、転げる様にしてローゼンディアスから距離を取る。


 何とも不恰好だが、そんな事を気にしている余裕もなかった……。


 当然、ローゼンディアスからの追撃があるものだと、身構えていたミュンだったが、


 「……避けたのか? 『先見』の一撃を?」


 ローゼンディアスはその場を動かず、驚いた顔で固まっていた。


 驚いてはいるものの、ローゼンディアスに焦った様子は微塵もなく……ただ、たった今起こった現象を冷静に分析してる。


 「なるほど……。どうやら、あなたの能力は、私と()()()()()()らしいですね」


 少しだけ思案した様子の後、ローゼンディアスはミュンの能力について自分なりに思い至ったのか、薄く笑ってそう言った。


 そんなやり取りをしている内に、ミュンの『静止』も再使用可能になる。


 「……は。……は……は……。はぁ……」


 しかし、ミュンは再び肩で息をし始め──息も絶え絶えと言った様子だ。


 すでに満身創痍……。


 明らかに、ローゼンディアスとの一瞬の交戦で出る疲れ方ではない。


 「まあ、でも……如何ともし難い状態ですね。私は、まだまだ本気を出していませんよ? 出来ればもう少しは楽しませて下さい──」


 一瞬──。


 瞬きすら許さない一瞬で、ある程度離したはずのローゼンディアスとの距離が詰められる。


 ──ヒュン!


 またもや、ミュンの心臓に向けて放たれた正確な一撃──


         *


 『──を──』


 『──を──は──です──』


         *


 ──ビビッ! ──……


 ミュンは、ノロノロとした動きで身体を傾け──目前まで迫っていたローゼンディアスの攻撃を躱した。


 ローゼンディアスの攻撃速度から言って、大凡、回避など不可能な様に思われたが……ミュンは完璧に躱して見せた。


 「……は。……は。……は。……は。」


 しかし、攻撃を回避できたのは良いものの、ミュンは苦しそうにサブウェポンを握る手で胸辺りを押さえ……ついに蹲ってしまう。

 

 「……は。……は。ダメね……。何度も〝見ても〟……。同じ……結果……」


 話すのも億劫と言った様子だ……。


 そんなミュンを前にしても、ローゼンディアスは追撃を仕掛けようとしない。


 まるで、ミュンが再び立ち上がってくるのを待っている様だ。


 「ふふ、同じ様な能力でも、差は出るものだ。貴方の聖剣は見たところ、『貴級聖剣』でしょう? その年で『レベル5』に至るなどと、大変な才能の様ですが……残念ながら、貴方では私に勝てません。たかだか〝先を見る〟だけで、術者にその様な負担を掛ける技など……。その欠陥能力で、どの様にして私に勝つつもりなのですか?」


 ローゼンディアスの言う通り。


 ミュンとローゼンディアスの能力は似通っているものの、〝一度見た〟だけで満身創痍のミュンと、どれだけ〝先を見ようが〟息一つ切らすことのないローゼンディアスでは、勝負にならない。


 と言うよりも、能力が似通っているからこそ、二人の差が顕著に出てしまっていた。


 「さあ、立って。まだ貴方は何も成せていないのですよ? 自分の目的が達せられないのなら、せめて私の望み──心踊る戦いを私のために提供して下さい」


 ローゼンディアスは薄く笑う。


 ──すでに、ミュンには状況を覆せる手などなかった……。

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