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誰もが聖剣を与えられる世界ですが、与えられた聖剣は特別でした  作者: ナオコウ
第五章 〜ミュン・リーリアス15歳〜
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【5】『アクセル』

 『アルセル』とは……。


 身体強化の神聖術や、『抜剣術』による恩恵とは違い──自身に強い〝自己暗示〟を掛ける事で身体能力を無理矢理底上げする技である。


 王都でのバル・ナーグ戦の折、アリシアも『アクセル』を用いて戦っていたが、アリシアの『アクセル』は体内に内包された膨大な量の神聖力使った身体強化であり、ユランの技にあやかってアリシアが名付けただけで、ユランが使う『アクセル』とは別物だ。


 ユランが使う──本来の『アクセル』は、自己に暗示を掛け、一種の催眠状態に落とす事で自らの脳に『錯覚』を生じさせるもの……


 つまり、ただの強烈な思い込みだ。


 しかし、例えば〝今より素早い自分〟を想像し、それを自分の脳に錯覚させ、完全に騙す事が出来るとすれば……足りない身体能力──


 ──『思考』と『実際の身体能力』との『矛盾』──


 それを修正するために、身体が無理矢理身体能力を上げようとするだろう……。


 『アクセル』とは、そう言う習性を利用した技だ。


 そして、今回ミュンが使用した『アクセル』も、ユランが使う『アクセル』と同一の技……


 ──自己崩壊を免れない、危険な技だった。


         *


 『アクセル』を唱えた瞬間──


 ミュンの心臓の鼓動は加速し、全身に血液を送るために全力稼働を始める。

 

 全身の筋力が限界まで強化され、ミュンが想像した『理想の自分』へと近付いて行く。


 ミュンが想像したのは──


 ()()()()()()()だ……。


 強く、


 速く、


 そして、何よりも鋭く──


 あの時のユランとは、ジーノ村襲撃の時のユランだ。


 実際には、その時のユランと比べても、今のミュンの方が全てにおいて優っていると言っても過言ではないのだが……


 ミュンが想像しているのは、あくまでも『理想のユラン』であるため、その『理想』に少しでも近付こうと『アクセル』が稼働している。


 「何をするかと思えば……またハッタリですか? 聖剣士たちよ、見ていなさい。私が──」


 ローゼンディアスが、サブウェポンの柄に左手を掛け、逆手で引き抜きながら更に一歩前に出ようとした時だ──


 一陣の風が吹いた。


 強く、激しく、まさに突風──


 ──バギィッ!!!


 その突風に煽られ、


 その余りの勢いに顔を覆う暇もなく──


 「なっ!?」


 聖剣士たちが声を上げた瞬間には──


 「サブウェポンが!? い、一体何が……!」


 周りを囲んでいた、十数人の聖剣士たちのサブウェポンが──全て根元から叩き折られていた。


 「流石。ユランくんお手製のサブウェポンは、凄く丈夫ね……」


 そう言ったミュンは、その場から少しも動いた様には見えない。


 しかし、確実に、聖剣士たちのサブウェポンは叩き折られ、無効化された。


 普段、体術など学ぶ機会もなく……また、そのつもりなどない〝普通の聖剣士〟は、徒手での戦闘を想定していない。


 つまり、サブウェポンさえ〝無効化〟してしまえば、聖剣士はほとんど無力化できると言って良いだろう。


 だが……


 「……速い」

 

 そう呟いたのはローゼンディアス。


 ──速い


 そう評するということは、ローゼンディアスにはミュンの動きが見えていたと言う事だ。


 しかも、それだけではなく──


 ブシュッ──……


 瞬間、ミュンの右肩付近から鮮血が舞う。


 「私を舐めて油断していたくせに……。攻撃を避けるどころか、反撃までしてくるなんて……『皇級聖剣』は伊達じゃないって事ね」


 ──これも、『いつの間にか』だ。


 先ほどまでは抜きかけの状態で、ただ柄を握っていただけのローゼンディアスの左手に──しっかりと、逆手で引き抜かれたサブウェポンが握られていた。


 ──くるり


 ローゼンディアスは、逆手で握っていたサブウェポンの柄部分を手の内で回し、順手に持ち替える。


 そして……


 ローゼンディアスの目付きが変わった。


 「──速い……てすが、まあ、それだけですね。『抜剣術』を使わずにその動きは、称賛に値しますけど」


 ゾクリ──……


 その鋭い視線を向けられた瞬間──


 ミュンの背中に冷たい汗が流れ、ローゼンディアスが放つ威圧感に思わず身震いしてしまう。


 ミュンは、その視線から逃れる様に目を逸らし、出血した右肩に目をやった。


 サブウェポンを握る、右腕の肩口からの出血……ローゼンディアスは、ミュンの右腕を切り落とすつもりだったのだ。


 ミュンがやったのと同じ様に、〝聖剣士〟を無力化するために……。


 不意打ち気味に放たれたミュンの一撃を、避けただけでなく、更に──


 正確に、


 狙った場所に、


 反撃を仕掛けてきたのだ。


 ──強い。


 ────底が知れない。


 『アクセル』を使用していなければ、確実に腕が飛んでいただろう。


 ──そう思わせるほどの技量と気迫……。


 「さて、聖王国の在り方を否定し──あまつさえ、神に与えられた聖剣の等級まで偽ったのです……。特級の『邪教徒』と言わざるを得ない。この場で『粛清』されても文句は言えないでしょう?」


 ローゼンディアスはそう言うと、空いた方の手──右手を右腰に携えていた聖剣の柄に持って行く。


 不用意には近付かない。


 ミュンのハッタリが効いているのだろう。


 ほぼほぼ、嘘であると分かっていながら、〝もしも〟を警戒して……。


 ──ローゼンディアスは『抜剣術』を使うつもりだ。


 他の聖剣士をある程度無力化できたとしても、『皇級聖剣』のローゼンディアスが『抜剣術』を使用したら……まず勝機はない。


 ……今ですら勝機などないに等しいが、それこそ、逃走すらままならない状況下に置かれるだろう。


 ──ならば!


 ──ヒュンッ!!


 ミュンは、再び懐から小型のナイフ(少年の縄を切断したもの)を取り出し、ローゼンディアスに向けて投擲した。


 元々、ナイフの投擲などがローゼンディアスに当たるとは──ダメージを与えられるとは思っていない。


 簡単に避けられてしまうだろうが、僅かにでも体勢が崩れれば……


 その程度の目的で放たれた投擲だ。


 が……


 「……はぁ」


 ──パシッ


 (本当に、信じられない様な事をする奴ね……)


 ローゼンディアスはミュンが投げたナイフを避けるでもなく、弾き返すでもなく──


 飛んでくるナイフの柄部分を、右手で強引に掴み取ったのだ……それも、退屈そうに、ため息混じりにだ。


 『アクセル』で筋力強化されたミュンの投擲は、正に、目にも留まらぬ速さで、とんでもない威力を持っていると言うのに……。


 何でもない事の様に、無造作に掴んだ。


 まあ、結果的には、右手が聖剣から離れ、『抜剣術』を阻止できた訳だが……。


 その僅かな交戦を経て、ミュンは完全に理解した。


 ──強い。


 圧倒的に……。


 相手は『抜剣術』を使用していないのに、限界まで出力を上げた『アクセル』でも対抗できないほど……。


 そもそも、地力が違うのだ。


 ユランも認める、剣術の天才であるミュン……。


 ローゼンディアスは、こと剣術の才能で言えば、天才のミュンを遥かに凌駕している。


 現時点、二人の年齢差を加味しないと言う条件下でだが……圧倒的にローゼンディアスの方が上なのだ。


 (侮られ、明らかに油断していたはずなのに、これか……。いいえ、相手を舐めていたのは私の方ね。『抜剣術』さえ使わせなければ何とかなる……なんて、考えが甘かった)


 ジリ──


 ジリジリ──


 ローゼンディアスの気迫に押され、少しずつ後退していくミュン。


 「さて、こんな詰まらぬ手に頼る様では……万策尽きたのですね」


 そんなミュンの様子を見て、ローゼンディアスは満足気に笑うと──


 「……さあ皆の者、中断していた『粛清』を始めます! 歓声を! 賛美を! 称賛を! 聖女様の名の下に、このローゼンディアスが『邪教徒』を屠る様をその目に焼き付けるのです!!」


 自身の後方、ミュンの後方──舞台の四方八方を、囲む様にして集まっていた民衆に向かって高らかにそう宣言し、扇動した。


 「流石ローゼンディアス様! 相手が『神級』だろうが何だろうが関係ねぇ!」


 「我らが英雄、ローゼンディアス様バンザイ! 『邪教徒』に『粛清』を!!」


 ローゼンディアスの言葉を合図に、それまで静かに、固唾を飲んで状況を見守っていた民衆が声を上げる。


 「粛清を!」「粛清を!」「粛清を!」


 ジリ──


 ジリリ────トンッ……


 ジリジリと、少しずつローゼンディアスから距離を取ろうとしていたミュンの身体が、後方にある〝何か〟に当たった。


 「……はぁ。悪い癖……。熱くなりすぎて目的を忘れそうになってた。最初は『皇級聖剣』と戦うつもりなんて無かったのに」


 ミュンに当たった何かとは、未だにミュンの『竜眼』に当てられ、『──大人しくしろ──』を実行中の少年だ。


 「う……あ……う……うぅ……」


 いや、『アクセル』に集中しすぎたため、『竜眼』の束縛が弱まり、少しだけ呻き声が出せる様になっていた。


 (完全に解けてしまったら厄介だし……。そろそろ〝退き時〟ね──熱くなりすぎて、完全に〝その時〟を逸した気もするけど……)


 ミュンはそんな事を考え──


 ──チンッ


 右手に持っていたサブウェポンを鞘に収め──


 ──ギュッ……


 後方にいる少年を両手で抱き上げた。


 『アクセル』で筋力が強化されているため、重さは感じない。


 「──何のつもりですか? その少年諸共、大人しく『粛清』される気になったとでも?」


 ミュンの戦闘放棄とも取れる行動に、ローゼンディアスは訝しげな視線を送る。


 強者──『皇級聖剣』らしい反応だ。


 ローゼンディアスは、


 『ミュンが乱入してきた時』よりも、


 『ミュンが『神級』とハッタリをかました時』よりも、


 何よりも訝しみ、驚いた顔をしている。


 (面白いわね……。この人、今が一番戸惑った顔してる)


 ローゼンディアスからしてみれば、ミュンほどの実力を持つものが『戦意喪失』し、『戦闘放棄』するなどとは思っても見なかったのだろう。


 ──剣士ならば、『潔く戦って死ぬ』。


 ローゼンディアスの頭には、そう刷り込まれているのだ。


 例え、ミュンが『邪教徒』であると思い込んでいても……これほどの実力者が、と。


 現にミュンは、実力では到底敵わないであろうローゼンディアスに果敢に挑み掛かっていた。


 ──『死を覚悟して飛び込んできたのだろう……』


 ローゼンディアスは、ミュンの行動をその様に思っていたに違いない。


 「何とも詰まらない」


 『強者を前に、剣士としての覚悟すら捨てたのか』……。


 ローゼンディアスは、吐き捨てる様に言うと……警戒を完全に解き、〝いつでも『抜剣術』を発動できる様にと、聖剣に添えていた右手〟を離した。


 そして、無抵抗になったミュンを『粛清』するため、サブウェポンを構えて前に──


 ──が、ミュンは即座に行動した。


 「少しでも近付けば『抜剣術』を使うわ! 温存しておいた、『神級』の『抜剣術』をね!」


 大声で叫ぶと、腰を屈めて、左腕に少年を抱え直し──


 右手を聖剣に──


 ──ビクッ……


 その時、ローゼンディアスの前進が僅かに止まる。


 十中八九、ミュンのハッタリだと分かっていながら……。


 その、僅かに生まれた隙をミュンは見逃さない。


 今度こそ、その隙を──


 ──ダンッ!!!


 逃走のために使うのだ……!


 「──な!?」


 ローゼンディアスは考えていた。


 ──『最後の悪足掻きをするつもりか』


 『面白いじゃないか』……と。


 そのために、()()()()()()()()と言うのに……。


 この者は、この期に及んで──剣士らしく死するのではなく──


 「逃走するだと! この──『邪教徒』め! 正々堂々と戦いなさい!!」


 後方に大きく跳躍したミュンを追いかけるため、ローゼンディアスは素早く前進しようとする。


 しかし、剣術の技量は別にして、『アクセル』を使用したミュンに速度で追い付けるはずがなかった。


 そして、ミュンは、追い縋ろうとするローゼンディアスを嘲笑うかの様に、

 

 (もう、完全にバレているかもだけど……一応)


 そう考え、言った。


 「ふふ、私が〝アーネスト王国の『神級』〟な訳ないのに……。勘繰ってくれてありがとう。お間抜けさんたち」


 ミュンのそんな嘲りの言葉を受け、ローゼンディアスは、敢えて──


 「やはりそうか! 皆の者、この女はアーネストの『神級聖剣士』などではありません! ペテン師──ただの『邪教徒』に他ならない! 神から与えられた奇跡、聖剣の等級を偽るなどと、何より許されざる大罪! その者を捕えて下さい!!」


 そう叫んだ。


 ローゼンディアスは、すでにミュンが『神級』でない事など見抜いていたが……ミュンのハッタリに呑まれてしまった民衆を正気に戻すため、敢えて言葉にしたのだ。


 そうなれば、当然──


 「このペテン師め! 『邪教徒』を助けようとするなどと──捕まえて、晒し首にしろ!」


 「絶対に逃すな! ペテン師を捕まえろ!」


 「『抜剣術』を使わないって事は、アイツは『無剣』よ! あの腰の聖剣も偽物に違いないわ! ペテン師め!!」

 

 ローゼンディアスに扇動された民衆は、彼女のために、我先にとミュンを追いかけて捕え様とする。


 しかし、大きく跳躍したために、ミュンは未だに空中にいる状態だ……。


 そして、ミュンは、次第に小さくなっていくローゼンディアスを冷めた目で見下ろした。


 (あくまでも、〝剣士らしく戦う事〟を相手に求める……。騎士道精神というものかしら? その在り方は立派だけど、『粛清(こんなこと)』を進んでやる奴に──道など語る資格はないわね)


         *


 ──ザザザザッ!!!


 後方に跳躍したミュンは、周りを囲んでいた民衆の上を楽々と飛び越え、地面を削りながら後ろ向きに着地した。


 丁度、舞台に飛び込む際にミュンが跳躍した付近。


 助走なしで、さらに少年を抱えたままで、同じくらいの跳躍力を発揮できたのは、『舞台が一段高い位置にあった』事と、『アクセル』による筋力強化のおかげだ。


 「あっちだ! 後ろに逃げたぞ!」


 「追え! 捕まえてローゼンディアスの前に連行しろ!」


 今までのミュンの脅威的な身体能力を見ていれば、〝民衆などがまともに戦える相手ではない〟と分かりそうなものだが……


 ローゼンディアスの扇動に煽られ、周りが見えなくなっている者が多数……


 まるで、教祖に従う信者──正しく『狂信者』だ。


 民衆は、ミュンを捕らえようと迫って来るが、ミュンはすぐさま踵を返し──全力で走り出す。


 当然、『アクセル』を使用中のミュンに追い付けるはずもなく、グングン距離が離れていく。


 ……それでも、民衆は追い縋ろうとしていたが。


 『ミミュ、二つ聞いていいか?』


 そんな時、今まで黙って成り行きを見守っていたラティアスが口を開き、ミュンに問う。


 「──はい?」


 そんな事をしている場合ではなかったが、ミュンは律儀に返事を返した。


 『なぜ、その技を使った瞬間に逃げなかった? 無理に『皇位』に挑む必要があったのか?』


 ラティアスは若干、不機嫌だ。


 ミュンが、進んで危険を犯した事に気付いているのだろう……。


 ミュンは答える。


 「熱くなってしまったのもありますけど……『皇級聖剣』の実力を少しでも把握しておきたかったので」


 『で、その結果は?』


 「……挑むだけ無駄ですね。『皇級聖剣(あれ)』には絶対に敵いません。……今のままでは。あと数年猶予があれば、少しは変わったかもしれませんけど」


 ミュンは繕う事なく、事実を口にした。


 『では、もう一つ』


 ミュンの答えに、ラティアスはさらに不機嫌になるが……それも、ミュンの身を案じての怒りだろう。


 『ミミュ……なぜ、最後にわざわざ相手を煽る様な事を言った? あのまま、『神位』だと思わせておいた方が良かったのではないか?』

 

 「そんなハッタリ、あの『皇級』だって信じてませんよ。それに──」


 『うん?』


 「隙を作るためとは言え、アーネスト王国の『神級聖剣士』を名乗ってしまいましたからね。それを利用されて、アーネスト王国と国家間の情勢が悪くなっても困ります。例えば、それを大義名分に戦争を起こされたりとか……。まあ、聖王国(ここ)にアーネスト王国と戦争ができるだけの国力があるとは思えませんけど、一応。私と王国との接点は断っておかないと……です。」


 『……小賢しいな』


 「褒めてませんよね、それ?」


 『相変わらず、人間の考えている事は細かすぎる。我々、竜族は──』


 それ以降、ラティアスは一人でブツブツと呟き始めてしまう。


 ミュンは、気を取り直して逃走を継続しようと──


 ──ガクンッ


 急に、ミュンの右足から力が抜ける。


 全く力が入らない。


 だが……痛みはない。


 当然だ。


 『アクセル』を使用した際に、『痛覚』を遮断しているのだから……。


 「──今!?」


 運が良いのか、悪いのか……。


 今になって、『アクセル』反動がミュンの身体を襲ったのた。


 戦闘中でなくて、良かったと言えば良かったのだが……。


 ミュンは、唐突にユランが以前、何となしに話していた言葉を思い出した。


 『『アクセル』を使う時は、催眠状態で『痛み』を完全に遮断できるけど……少しだけ『痛覚』は残しておいた方が良い。痛みを感じないのは、それはそれで厄介だから』


 ユランにしてみれば、何気なく言った言葉だろうが……ミュンは痛感した。


 ──これは、厄介だ。


 「何で今なのよ……」


 ズリ──……


 ズリ──……


 ズリズリ──……


 使い物にならなくなった右足を引きずりながら、ミュンは少しでも前に進もうと足掻く。

 

 『おい! 『回復』や『修復』の神聖術を使え! 追い付かれてしまうぞ!』


 ラティアスが焦った様に言うが……


 「……無理です。使えないんです、回復系の神聖術。プロテクションなんかは使えるんですけど……回復術の才能は皆無みたいで。何度も練習したんですけど、ダメでした」

 

 『……回復のポーションは!?』


 「聖王国(ここ)で買えば良いかなって……あはっ」


 『このお馬鹿!!』


 ズリ──……


 ズリ──……


 ズリズリ──……


 足を引きずりながら進むが、そんな様では満足に速度など出ない。


 ドッ! ドッ! ドッ! ドッ!


 『アクセル』で聴力まで強化されている様で、ミュンの耳に、民衆が迫り来る足音が聞こえる。


 ──どんどん近づいて来る。


 「最悪の場合……この子だけでも──」


 ミュンが、そんな最悪の想像をし始めた時──


 「こっちへ!」


 突然、目の前に現れた人物が、ミュンに向かってそう叫んだ。


 その人物とは──


 深いフードを被った女性……。


 『粛清』の舞台の端で──ひたすら、『謝罪』を口にしていた女性だった……。

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