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誰もが聖剣を与えられる世界ですが、与えられた聖剣は特別でした  作者: ナオコウ
第五章 〜ミュン・リーリアス15歳〜
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【2】『潜入任務』開始前の一コマ

 ミュン・リーリアスは天才である。


 剣術、抜剣術の才能は他を寄せ付けぬほど抜きん出ている。


 回帰前、様々な経験をし、様々な才能を持つ人物に出会う機会のあったユラン……


 その回帰前のユランをして、


 『私の幼馴染ほど才能に溢れた者を、私は他に知らない』


 と言わしめるほどであった。


 ──回帰前、『魔貴族』による『ジーノ村襲撃事件』が原因で10歳で亡くなったミュン。


 その時のミュンはまだ幼く、実戦経験など皆無と言って良いほどであったのに……回帰前のユランは迷わずにそう答えたのだ。


 いや、回帰し、『神級聖剣』を与えられた今ですら、ユランは、


 『一番の天才は?』


 と問われれば、即座に「ミュン」の名前を上げるだろう。


 同じ神人であり、類稀なる『剣術』の才能、『抜剣術』の才能を持ち、『人類最強』と呼ばれたグレン・リアーネでもなく……


 人類で初めて『レベル10』、『完全抜剣』を達成し、グレンすら超えるほどの『抜剣術』の才能を持った自分でもない……


 『一番の天才はミュン・リーリアスだ』


         *


 「は? 絶対に嫌です」


 聖剣教会の神官ノリスから、ある『聖務』を与えられたミュンは鯥も無くそう答えた。


 ここは、アーネスト王国の中心に程近い場所にある『聖剣教会』の施設内だ。


 ちなみに、『聖務』とは聖剣教会に所属する『聖剣士』に与えられる〝特別な任務〟の事で、『光の創造神ソレミア』の名の下に与えられる〝神聖なモノ〟であると言われ……滅多な事では拒否出来ない。


 ミュンに与えられた『聖務』を本人に伝える役目を担ったノリスは、拒否されるなどとは夢にも思っていなかったのだろう……


 驚愕の表情で、あんぐりと口を開けたままで固まった。


 まさに、『空いた口が塞がらない』と言った状態だ。


 「あの、リーリアス様? わたくし、すでに初老に差し掛かった年齢なものですから……少し耳が遠くなっているようです。ほほ、歳を食うといかんですな。『聖務』は神聖なものなのです。神人になってからワガママ放題のラジーノ様ですら、滅多な事では拒否されないのです。『聖務』とはそう言うもの……分かりましたね? それでは、改めてお聞きしますぞ? 『聖務』を受けていただけますね?」


 「は? 絶対に嫌です」


 「……」


 ノリスは引き攣った笑顔のまま固まった。


 しかし、それでもめげずに再び口を開くと──


 「あの、リーリアス様? わたくし、すでに初老に差し掛かった年齢なものですから……少し耳が遠くなっているようです。ほほ、歳を食うといかんですな。『聖務』は神聖なものなの──」


 「は? 絶対に嫌です」


 全く同じ言葉で説得しようとしたが、全く同じ言葉で拒否された。


 それも食い気味で……。


 『おい、会話がゲームのN●Cみたいになってるぞ』


 いつの間に側まで来ていたのか、何度も同じやり取りを繰り返しているミュンとノリスを見兼ね、ラティアスがそう口を挟んだ。


 場所が聖剣教会の施設内であるため、ラティアスは本来の姿──人間形態を取っている。


 『長い漆黒の髪』と『暗黒の様に暗い瞳』が特徴的な絶世の美女だ。


 「おお、ラティアス・ナーグ様! 神竜様! 貴方様からも、言ってやってくだされ! 『聖務』が如何に大切で、尊いものであるかを! ……ところでN●Cとは?」


 『……古代語だ。まあ、あの愚神(ソレミア)の名の下と言うのが気に入らないが……。その『聖務』とやらの内容を聞いたら……捨て置けんな』


 『ふむっ』と、あごに手を当てながら考え込むラティアス。


 ミュンに与えられた『聖務』とは──


 『聖王国』へと秘密裏に赴き、最近になって突然現れた『聖女シリス』と言う人物について調べる


 と言うものだった。


 ちなみに、聖王国は──アーネスト王国に近接している『メメントール国』と言う小国を挟んだ向こう側にある国で……


 アーネスト王国にとっては、敵対国という訳ではないものの、友好国でもない……中立に近い国となっている……。


 最近になって、


 『隣国のメメントール国以外との交流や貿易等を完全遮断する』


 と言う暴挙に出たため、周辺の国家間で何かと話題になっている国だ。


 「聖王国って、ここからだいぶ離れてますよね? 何があっても直ぐに助けは呼べないし……私は『貴級聖剣』なんですよ? 遠く離れた国で『単独任務』なんて絶対に無理です。むしろ、神官様がそんな『聖務』を普通に与えてきた事にビックリです。そもそも、『聖務』って本来なら『皇級』や『神級』レベルの人に与えられる任務ですよね? 私『貴級』なんですけど? だから、断っても許されますよね? 違いますか??」


 ミュンは早口で、捲し立てる様に言う。


 『……長々と喋ったが、実際のところは?』


 「ユランくんと離れたくありません」


 ミュンは即答した。


 『相変わらずだな……』


 「私は、一年前に『魔物討伐遠征』で起きた事を忘れていません。危うく、ユランくんが『魔族化』しかけたんです。あの時はアカデミーの指示で王都に残りましたけど、それをどれだけ後悔した事か……。ユランくんは私が側にいないとダメなんです。昔からそうだった。そう、あれはまだ私たちが幼く、お互いの気持ちが『愛してる』ではなく、『大大大好き』くらいだった頃……あの時、私たちは──」


 『分かった分かった……。話が長くなりそうだし、その辺で止めてくれ』


 ミュンの話を聞いていたラティアスとノリスは、げんなりした顔で同時にため息を吐く。


 「おほん。──そもそもですね、私はリネアとバディを組まないと『最下位の魔王』や『上位の魔貴族』だって相手に出来ないほど『か弱い』んですよ? どんな猛者がいるかも分からない他国で『潜入捜査』なんて無理です。補助を付けてください補助を。ユランくんが望ましいけど、て言うかユランくんでお願いしたいです。それがダメなら、ほんっとーに不本意ですけど……お邪魔虫のどちらか──リリアさんかリネアを補助に付けてください」


 またまた早口で捲し立てるミュンに対して、ラティアスは──


 『あー、主人殿とリリリは無理だぞ? しばらくは『神の庭』に籠って修練に勤しむらしいからな。声を掛けることはできるが──ソレミアとへドゥンが直ぐには離さないだろうし、当分の間は戻って来れんだろう。つまり、『主人殿の側にいたい』と言うお前の望みは物理的に叶わない訳だな。良かったね、これで心置きなく『聖務』に邁進できるよ?』


 と無慈悲な現実を突き付けた。


 「はあ!? ユランくんがどこに行ったですって!? 嘘だ!! 私に一言もなしにユランくんがいなくなる訳がない! 貴方は嘘をついている!!」


 『いや、今伝えただろう? 主人殿からの伝言だ──『しばらく留守にするけど、残った皆んなをよろしくね』だそうだ。良かったね、これで心置きなく『聖務』に邁進できるよ?』


 「──!? 裏切り者! もう何も信じない! 私もその『神の庭』に行く!」


 『『神の庭』に入れるのは『神位』──神にゆかりのある者だけだ。お前では入場すら出来ない。諦めなさい』


 「嫌です! だって、それってリリアさんとユランくんが二人っきりになるって事ですよね!? そんな事は許されない! ユランくーーーん!!」


 『五月蝿い奴だ……。ソレミアとへドゥンがいるから正確には二人きりではない。まあ、『神の庭』に入るためにはお前たち人間なら『神位』である事が必要だが……特例として、『神位』の補助として一人だけ連れて行く事も出来なくはない』

 

 ラティアスは、ミュンの余りの取り乱し様に哀れに思ったのか、そんな事を口にした。


 ラティアスが言うには、その『特例』を利用すれば、ミュンが『神の庭』に入る事が可能だと言うのだ。


 その話を聞いたミュンは、先程までの取り乱した様子が嘘の様に『すん』と落ち着きを取り戻し──


 「はは、そう言うのが有るなら早く言ってくださいよ。無駄に汗を掻いちゃったじゃないですか。では、早速お願います」


 途端に笑顔を作って、ラティアスに懇願した。


 しかし、ラティアスは言う。


 『ああ、そう言えば……主人殿とリリリの補助にリネネ(リネア)を送ったのだった。と言う事で、ミミュの入場は無理だな。すまんすまん。良かったね、これで心置きなく『聖務』に邁進できるよ?』


 「ミュンは激怒した」


 『口で言うのか、それを……』


         *


 「あの……そろそろお話、良いですかな?」


 ラティアスとミュンのやり取りを近くで見ていた──完全に蚊帳の外に追いやられていたノリスが、おずおずと声を掛ける。


 「おほん。ミュン・リーリアス様……重責である事は分かっていますが、これをこなせる者は貴方しかいない。『皇級聖剣』──王族の方々は聖剣教会に属していませんし、彼らに『聖務』を課す事は出来ない……貴方以上の適任がいないのです」


 「……むう。しかしですね、流石に単独と言うのは無理がありますよ。だって、潜入が上手く行けばいいですけど、仮に敵対した場合、相手は『聖人』ですよね? アリーと同等の力を持っているとしたら、私じゃ手も足も出ないです」


 ミュンの言う事は最もだ。


 今はまだ眠り続けている『王国の聖女アリシア』──まだ聖女として完全に覚醒していない状態で、ラティアスの三割と同程度の力を持っている──聖王国の聖女の力の程は不明だが、いずれにせよ『貴級聖剣』のミュンでは相手にもならないだろう。


 まあ、その聖女が本物であれば……だが。


 「聖王国の聖女様が本物であれば、間違いなくそうなるでしょうな。しかし、我々はその聖女様が本物だとは思っておりません。聖女──聖人は、10000年に一人の確率でしか現れないと言われていますから……聖女アリシア様が王国にいる以上は有り得ない話かと……」


 「……アリー以外にも、聖人セリオスがいますよね? すでに二人いるのでは?」


 「……」


 「『二度ある事は三度ある』と言いますし、有り得ない話ではないのでは??」

 

 「と、とにかくですな、何も我々は『聖王国の聖女様』と戦えと言っている訳ではないのです。リーリアス様にはその正体──真偽を見極めていただきたい。聖王国が本当に聖女様を擁すると言うなら、我々も対策を考えなくてはなりませんから……」


 ミュンの突っ込みに、ノリスは誤魔化す様にそう答えるが……ノリスの話す『聖女は偽物』と言う言葉には何の根拠もない。


 ノリスの言葉を信じてノコノコと聖王国を訪れ、万が一にも聖女が本物であった場合、敵対すれば逃げ帰る事も容易ではないだろう。


 「やっぱり、無理ですって……。せめてリネアがいれば話は違うと思いますけど……」


 『はあ……。仕方がないなぁ……』


 なかなか首を縦に振らないミュンに対して痺れを切らしたのか、ラティアスがため息を吐きながら、やれやれと言った様子で言う。


 『一人で不安だと言うなら、私が付き合ってやろう。私は『神竜』だ……一緒でこれほど心強い者もないだろう?』


 ラティアスの言う通り、『神竜』であるラティアスが十全に力を振るえば、いくら相手が『聖女』とて遅れをとる事はないだろう。


 三割でアリシアの全力と同程度……確かにこれほど頼もしいものはない。


 「……まあ、ラティアス様が付き合ってくださるなら……。嫌ですけど我慢しま──」


 ただし……


 『私は王都から離れられないので、分身体を付けよう。王都から離れるほど力が弱くなるけどな。その『聖王国』までの距離で計算すると──割合での計算では分かりにくい。パーセンテージで言うと……うん、0.0000001%くらいだ』


 「役立たず!!!!!!!」


 そう言う事だった……。


         *


 「はあ……。これ以上問答していても埒が開きませんな。仕方ない、奥の手を使うとしましょうか……」


 「何を言われようと、絶対にやりません。私に声も掛けず、リネアをユラン君の下に送ったラティアス様の言葉は信じませんし……。基本的に自分の事しか考えていない生臭神官の言う事も聞きません。私は怒ったんです」


 ミュンは完全にそっぽを向き、拗ね始めてしまう。


 『ふふ、それは仕方のない事だミミュ……。お前はいつまで経っても私をラティアスと呼ぶ。私は、子供たちにはもう少しフレンドリーに接してほしいのだ。……現にリネネはね、私の事をママと呼んだんですよ? これはもう、優劣を付けても仕方のない事だと思わないかい?』


 「思わない! もう、貴方の事は今後『ラティアス・ナーグ神竜様』って呼びます! 超他人行儀に!!」


 拗ねてしまったミュンに対してラティアスが言った言葉は、火に油を注ぐ結果にしかならなかった。


 ミュンはそっぽを向くどころか、もうすでに後ろを向いてしまいそうな勢いだ。


 しかし、ノリスはそんなミュンに向かって静かに近付いて行き──


 「『聖務』を受けると言うなら、コレを差し上げましょう。本来、聖剣教会の神官であるわたくしがこの様な──賄賂を渡す様な真似はしたくないのですが……致し方ありますまい」


 そっと耳打ちした。


 そして、いつの間に取り出したのか、鞘に収められた『一本の長剣』をミュンに向かって差し出したのだ。


 「はぁ? こんな剣一本で私が絆されるわけ──っは!! こ、これは……まさかぁ!?」


 ミュンはその長剣をまじまじと見つめたかと思えば、突然、慄く様に体を逸らして驚愕の表情を浮かべる。

 

 「ふふふ、リーリアス様の考えている通りの物ですよ……。これはラジーノ様が『レベル6』の修練をした折、丹精込めて製作──教会に寄付して下さった長剣です。それも、剣としては最初の一本。頼みに頼んで、シリアルナンバーまで入れてもらった一点物。ふふ、シリアルナンバー1番なんです……」


 「い、一番……。ユランくんの一番……。これがあれば……私が一番……。お邪魔虫どもを差し置き、私がぁ……」


 ワナワナと震える手を、長剣(シリアルナンバー1番)に伸ばし──


 その柄を掴もうと──


 ──ヒョイッ


 「へぁ!?」


 突然、ミュンの目の前から長剣が消えた。


 ノリスが、ミュンに向かって伸ばしていた手を引っ込めたのだ……。


 当然、長剣もミュンの前から遠のいて行き──


 「で? どうしますかな? まあ、リーリアス殿がいらぬと申すなら……ほほ、リネア殿にでも差し上げましょうかな。きっと喜ぶでしょう。何と言っても──『一番』ですから」

 

 『一番』と言う言葉を強調して言い、ニヤリと下卑た笑みを浮かべるノリス。


 当然、そんな甘言に惑わされるミュンではなく、毅然とした態度で──


 「……『聖務』、受けさせていただきます」


 ……長剣を手に取った……。


 「ふひひ、これがユランくんが私のために用意した剣……。『自分は一緒に行けないから、僕の代わりだと思って持っていて』って、愛を込めて作ってくれた『一番』……ふひ」


 「……誰もそこまでは言っていませんが……。まあ良いでしょう。『聖務』、しっかりとこなして下さい」


 長剣を手に、気味の悪い笑みを浮かべるミュン……


 それを見て、『思い通りに行った』と満足げに笑うノリス……


 『ふむ……。ここにいても退屈だし──いや、(ミミュ)のために私も付き合ってやろう』


 そして、『戦力的に何の役にも立たない分身体』をお供に行かせようと決定したラティアス……


 それぞれの思惑と欲望が渦巻く中、ミュンの初めての『聖務』が開始された……。

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