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【26】くだらない真実

 闇の創造神へドゥン。


 『破壊』と『殺戮』を象徴する黒の女神は、光の創造神ソレミアが生み出した人類を憎んでおり──その憎き人類を滅ぼすために『魔族』を生み出したと言われている。


 逆に、人類を生み出し、『魔族』を討伐する力を与えたソレミアは、『希望』と『慈愛』を象徴する慈悲深き女神と言われ──人類から愛され、信仰の対象であった。


 それが、人類が知る二柱の女神の姿である。


 しかし、実際にこの二神が人類に齎した『恩恵』は、人類が知るそれとは全く違っている。


 その真実とは──


 パンッ! パンッ! パンッ!


 【おん! おぉん! い、いいかげんに離しなさい!! 『我が愛子(まなこ)』が目覚めたらどうするのよ! 光の創造神たる威厳が無くなるでしょうが!】


 『お前に威厳などというモノはない。嫌な役をへドゥンに押し付け、自分だけ〝良い神〟として人の子に嘘を伝えただけだろう』


 尚も、純白ドレスの女性──光の創造神ソレミアは、ラティアスに痛烈に尻を叩かれ続けていた。


 【う、うるさいわよ! それは、へドゥンだって了承した事よ! 『大事なお姉様のために、私が悪役になります……』と、へドゥンが自ら言ったんだから!! ねえ、そうよね? へドゥン?】


 【……絶対に言ってない。姉さんが勝手にやっただけ。私はいつも悪者……こんなに悲しい事はない】


 『それ見た事か。相変わらず、自分に都合の良い嘘ばかり付きおって。お前は最低の愚神だ』


 パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!


 【痛い! で、でも……し、仕方ないじゃない!! 我が子(にんげん)が〝真実〟を知ったら、私だけ最低の女神になるもん! そんなのって許せない! 姉の失敗の尻拭いをするのが妹の役目なんだもん!】


 【……滅びろ】


 『……あと一万発だ。貴様のそのクソみたいな考えを修正してやる。おっと、汚物の様な愚神の所為で口が悪くなってしまったな……』


 二人の女神……ソレミアとへドゥン、そして、神竜であるラティアスがそんなやり取りを繰り返している。


 「あ、あの……」


 三人? のやり取りを『寝たふり』で聞いていたユランだったが、いつまで経っても先が見えなさそうだったため、堪らず声を掛けた。


 『ああ、主人殿、目が覚めたのか。それは良かった』


 ラティアスは、ソレミアを小脇に抱えたままで、そう言ってユランに笑顔を向けた。


 【うん。大した怪我もないみたい】


 そして、ラティアスに続く様に、傍に立っていた漆黒ドレスの女性──へドゥンもそう言って穏やかな笑みを浮かべる。


 だが、今だにラティアスに抱えられたままのソレミアは──


 【え……? 何が、何で、どういう事?? 何で〝我が愛子〟が目を覚ましてるの??? え? 何で誰も教えてくれなかったの? 私の威厳は??】


 真っ青な顔で、三者の間に視線をキョロキョロと惑わせた。


 『一時はどうなる事かと心配したが、無事で何よりだ。主人殿をここへ召喚したのは、この世界の真実を話すためで──』


 【え? 何で無視するの?? 私、光の創造神だよ?】


 ラティアスの話を遮る様に、ソレミアが困惑した様子で問い掛ける。


 【私の名誉挽回も必要だし。姉さんの愚行の説明もしないと──】

 

 【へドゥン? 貴方まで無視するの? 私、お姉さんだよ?】


 さらにソレミアは、へドゥンの言葉も遮り、一人だけ空気の読めないムーブをかましていた。


 『あまり時間もない事だし、早速説明を──』


 【私を無視して、〝我が愛子〟に嘘を教える気ね! そうは行かないんだから! えいっ!!】


 『◼️◼️◼️◼️、◼️◼️◼️◼️。◼️◼️◼️◼️……◼️◼️!!』


 【ふっ……。全部『NGワード』してやったわ。これで何も話せないわね!】


 『……』


 ────ッッッパァァァァン!!!!

 

 【いぎぃいいぃいぃ!!!】


 ラティアスの強烈な尻への一撃をお見舞いされ、ソレミアは絶叫に近い叫び声を上げるのだった……。


         *


 「ラティ……すみません。迷惑をかけたみたいで……」


 微睡から完全に覚醒したユランは、暴走し、ラティアスに迷惑をかけた事を謝罪した。


 そんなユランにラティアスは──


 『いや、暴走(あれ)に関しては主人殿の所為ではない。『リリリを助けたい』と言う主人殿の心の動きを、へドゥン──いや、正確にはこの馬鹿(ソレミア)が誇大解釈し、無理矢理へドゥンにやらせたのだ。強制的に『魔力』を流し込まれたため、『魔力中毒』となり、暴走してしまったと言う訳だな』


 と、簡単にユランが暴走した原因を説明する。


 「えぇ……」


 ラティアスの言葉に、ユランがドン引きしていると、それを見たソレミアは、


 【嘘よ! 我が愛子、信じないで!!】


 必死に叫んでいた。


 「……あ! そう言えば、リリアはどうなったんですか!?」


 ソレミアの必死の叫びを無視し、ユランはリリアの安否を問う。


 『ああ、それは大丈夫だ。ほら、そこで眠っているだろう?』


 ユランは目を覚ましたばかりで思考が追い付かず、気が付いていなかったが……


 ラティアスの言う通り、リリアはユランのすぐ側に横たわり、安らかに寝息を立てていた。


 『心が死に掛けているが、そのケアは愚神(ソレミア)やらせよう。一応、私よりもそちらが専門だからな』


 「あ、ありがとうございます。この人たちは……?」


 ラティアスの言葉に、ユランは『取り敢えず一安心』と言った様子で安堵のため息を吐くと……


 今の状況を知るため、目の前にいる見知らぬ人物についてラティアスに問うた。


 【!?】


 バッ!


 ユランの言葉に反応したソレミアが、スルリとラティアスの手から逃れ、いそいそとへドゥンの横に立ち、慈愛の笑みを浮かべる。


 そして──


 【さあ、へドゥン。私たちの出番よ! いつもの様に声を合わせて──さん、はい!】


 へドゥンにそう耳打ちし、ドヤ顔で言った。


 【私たちは、この世界を創造した神です。貴方は神に選ばれた、愛すべき我が子──】

 【…………】


 ソレミアの発言からして、声を合わせて同じ事を言いたかったのだろうが……


 へドゥンは、意気揚々と離し始めるソレミアを冷めた目で見て、そのまま押し黙った。


 【へドゥン? 何でそんな顔を……? いつもお姉ちゃんに合わせてくれたじゃないの。私たちは二神で一神……。そうでしょう?】

 

 【……】


 【え? 何で、汚物を見る様な蔑んだ目を向けるの? 私、お姉ちゃんなんですけど?】


 相変わらず、空気の読めない発言を繰り返すソレミア。


 そんな光の創造神の様子を見ていたラティアスは──


 『もうやめろ。お前が出裟張(でしゃば)ると話が進まん。主人殿、私が詳しく説明しよう』


 そう言って前に出た。


         *


 『まず、この場所の事だが……ここは『神の庭』と呼ばれる、〝神々が集う場所〟だ』


 「神の庭……」


 ユランは、ラティアスの言葉にそう呟き、辺りを見渡す。


 (なるほど、全体的に真っ白で何も無い空間だが、言い知れぬ神々しさを感じる場所だ)

 

 『本来、ここに入れるのは神々だけなのだが──私は神の力を持つ『神竜』であるし、主人殿とリリリは『神位』……神の力の一端を持つ者であるから、入場が許された』


 ラティアスが言う『神位』とは、『神級聖剣』を持つ者を指す呼称だ。


 ……かなり古い表現ではあるが。


 【あ!? そうよ! 『神』でもないくせに、私のお尻を叩いたわね! ラティアス・ナーグ! 不敬よ!!】


 『……今更、何を言っているんだお前は。〝神では無い〟からお前を害せるのだ。『神は神を害せない』……。そんな事は常識だし、お前がそれを『オラトリオ』の奴に利用されたから、世界がこんな事になっているのだろう?』


 【だとしても、神を傷付けるなんて不敬よ! 謝りなさい! ラティアス・ナーグ!!】


 『ふん。私を『神竜』に選んだのは『竜神ル・ナーガ』だ。文句は件の神に言え。それよりも、お前は口を挟むなと言っただろう』


 ラティアスがギロリと睨み付けると、喚き立てていたソレミアは慌てて押し黙る。


 『話が中々進まんな。まあ、話の根幹は主人殿に現れた暴走現象にも関係している。主人殿……そもそも、主人殿が──いや、人間たちが大敵としている『魔族』とは、どんな存在だと思う?』


 「……人類の敵。闇の創造神──へドゥン……様が、人類を滅ぼすために生み出した存在、と」


 ユランは、近くにいる白と黒の女性について説明を受けていなかったが……


 話の流れから、彼女らの正体に気付いており、黒の女性──へドゥンに気を遣い、気まずそうにラティアスの問いに答えた。


 【……つっ!】


 ユランの言葉に、へドゥンは悲しげに俯き──


 それとは対照的に、ソレミアは笑顔でうんうんと頷いている。


 (何だか、へドゥン様? が恐ろしい形相でソレミア様? を見ているけど……大丈夫なのか?)


 『それは、この馬鹿(ソレミア)が自分を良く見せようとして広めた……偽りの神話だ』


 【ちょ!? それはちが──◼️◼️◼️◼️◼️!!】


 【姉さん、発言はNG。黙ってて】


 ラティアスの言葉に反論しようとしていたソレミアを、へドゥンが強制的に黙らせる。


 『薄々勘付いているとは思うが……。主人殿たちが言う『魔族』とは──『聖剣』を持つ者が行き着く先……。つまり──』


 ラティアスは一際、真剣な顔になり、真実を告げた……。


 『『魔族』とは、〝人間の成れの果て〟なのだ』


         *


 遥か昔……。


 そのまた遥か昔の昔……。


 この世にまだ、『世界』と言うものが存在せず──


 この世に生きる存在は、『神』と呼ばれる特別な者たちしか居ない時代の話だ。


 世界には、様々な名前、様々なモノを司る神たちがおり……

 

 永遠の命を持つ神々は、退屈ながらも、変化のない日常を当たり前だと思って生きていた。


 そんな神々の日常に変化が訪れたのは、突然の事だ。


 神々の中でも、大きな力を持っている神──


 『光』を司る神、ソレミア


 『闇』を司る神、へドゥン


 『力』を司る神、ル・ナーガ


 は三神と呼ばれ、三神は神々の代表として彼らを統率していたのだが……。


 三神の一人、光を司る神ソレミアが、ある事を言い出した。


 【退屈だし、私たちの『神力』を使って新たな生命を生み出してみましょう。可愛いのとか、強いのとか……きっと楽しいわ】


 他の二神、へドゥンとル・ナーガはソレミアの発言を鼻で笑い──


 特に、ソレミアの双子の妹神であるへドゥンは、【また姉が変な事を言い出した】と呆れ、全く取り合う事もなかった。


 しかし、他の神々は、ソレミアの提案を【面白い】と受け入れてしまい──


 それぞれ、各々が思い描いた【世界】を創造し、創り上げていったのだ。


 ……発言をした当人であるソレミアは、【実際にやってみると面倒臭い】と、とんでもない発言を繰り出し、【世界】を創造する事は無かったのだが……。


 次々と自分の【世界】を創造していく神々を、


 へドゥンとル・ナーガは冷めた目で──


 事の発端であるソレミアは、能天気に笑いながら眺めていた。


 そんな中、神々の中でも最も『邪悪』で、強い『神力』を持つ神──それこそ、三神をも超える力を持つ……


 『破滅』を司る神、オラトリオが、神々にある提案をした。


 【せっかく、各々の自慢の『世界』を創造したのだ。皆で『世界』を競わせ、共に質の高い『世界』を創り出そうではないか】


 オラトリオの提案は、『世界』を創造し終わり、退屈を持て余していた神々にとって魅力的なモノだった。


 だが、各々の『世界』を競わせるという行為の裏には、オラトリオの邪悪な思惑が隠されていた。


 オラトリオは、自分が〝唯一の絶対神〟となる事を夢見ており、そのチャンスを虎視眈々と狙っていたのだ。


 『神は神を害する事が出来ない』


 古くからの制約でそう決まっているため、他の神を直接滅ぼす事が出来ない……


 たが、自身の神力を注いで作った『世界』を壊せば、その源たる神も滅びてしまうだろう。


 オラトリオはそれを狙い、神々に『世界』を競わせる提案をした。


 実際には、競争を名目に他の神の『世界』を、その神ごと滅ぼそうと画策していたのだが……。


 他の神々は、オラトリオと『世界』を競わせ──次々と滅びて行った。


 統率者たる三神に気付かれぬままに……。


 やがて、オラトリオの牙は三神にも及ぼうとしていたが──


 相手が受け入れなければ、『世界』を競わせる事が出来ない……。


 へドゥンは賢しく、そう易々と『世界』を競わせる様な事はしないだろう。


 ル・ナーガも同様、思慮深い神であるため、競争の場に上がらせるには苦労しそうだ……。


 そもそも、この二神は今だに『世界』を創造しておらず、先ずはどうにかして『世界』を想像させなければならない。


 さて、どうしたものか……。


 オラトリオは考えた。


 しかし、すぐに解決策が浮かぶ。


 ──いるじゃないか。


 簡単に騙せそうな、愚かな神が一人……。


 オラトリオは、楽しそうにほくそ笑んだ。


         *


 【まったく! こんなに美しい女神をつかまえて『愚かな神』だなんて! オラトリオの奴どうかしてるわ!!】


 ──スパァン!!


 『どうかしているのはお前だ』


 【痛い! いちいちお尻を叩かないでよラティアス・ナーグ! と言うか、いつの間に私を抱えたの!? 離しなさいよ!!】


 ソレミアが突然叫び出したため、再び話が止まる。


 「あの、ラティ? 神々の話と『魔族』はどう関係しているんですか?」


 『それも、これから話そうとしていた所だ。愚か者が口を挟んだせいで中断したがな……』

 

 【愚か者って言うな! 私は愚かじゃないわよ!!】

 

 『よし。そう言うなら、お前の愚かさを説明してやる』


 そう言って、ラティアスは話を続ける。


         *


 オラトリオがターゲットに選んだのは、三神の中で最も愚かな──いや、唯一絶対的に愚かなアホだった。


 オラトリオはそのアホにある提案をする。


 ──以下は、オラトリオとアホのやり取りの抜粋だ。


 【ああ、各々で作った『世界』を競わせるのは何と楽しく、素晴らしい事か……。楽しすぎる】

 

 【え? 『世界』って何? そんなに楽しい事なの??】


 【………………暇つぶしに『世界』を創造するって、誰が言い出したんだっけ?】


 【うん? 私は知らないわよ? でも、そんなに楽しい事を考え出すなんて……その神は天才ね!】


 【……】


 【でも、そんなに楽しいなら、私もやってみようかしら……】


 【いいね。やってみたらどうだろう?】


 【でも、神力を使って『世界』を想像するなんて……面倒臭そうね】


 【いやいや、簡単だよ。何ならボクが直々にやり方を教えようか?】


 【うーん。そこまで言うなら、やってみようかな】


 【あー……でも、君一人だけじゃつまらないでしょ? 他の二神も誘ってみたら??】


 【そうね! 楽しい事は皆んなで共有しなきゃ!】


 【おー、と言う事は、他の二神も合意したって事で良いのかな?】


 【良いんじゃないかしら? あの二神は私の言う事には従うはずだし、私の決定はあの二神の決定だと思ってくれて良いわ!】


 【……神の掟に誓って?】


 【うん。誓う誓う。全部おっけー】


         *


 『と言う事で、このアホは他の二神──へドゥンとル・ナーガの了承を経ずに、勝手に二人の命をチップにし、オラトリオとのゲームにベットした訳だ……』


 【そうね。思えば、あれは頭の良いオラトリオの巧みな罠だったわ……】


 ──スパァン!!


 【痛い! えっ!? 何でへドゥンが私のお尻を叩くの??】


 【……黙れ】


 【え? なに? 妹が怖い……】


 「あの……ラティ? 『魔族』との関係は……?」

 

 『いや、今から話すから。これからだから……』


 ラティアスは心底疲れた様子でため息を吐き、再び話し始める。


         *


 『世界』と『世界』の競争に負ければ、その世界を創造した神は滅びる。


 その事をソレミアが知った時には、すでに約束は交わされた後であり……時すでに遅しの状態だった。


 〝神の掟に誓い〟を立てしまったため、競争を拒否──約束を違えれば、即消滅と言う危機に陥ったのだ。


 ちなみに、競争を約束してしまったため、『世界』を創造せずに競争を回避しようとしても即消滅……


 それも、へドゥンとル・ナーガを巻き込んで……。


 ソレミアは自分一人で、何とかオラトリオの『世界』に対抗する『世界』を作ろうとしたが……


 強大な神力を持つオラトリオの『世界』に匹敵する『世界』など創造できる訳もなく──さらに、オラトリオの『世界』は、今までに多くの神々の『世界』を破壊し、取り込んで強大になっている。


 ソレミアだけで対抗出来る訳もない。


 ソレミアは、泣きべそを掻きながらへドゥンとル・ナーガに助けを求めた。


 自分たちの命を勝手に賭けられ、それを事後報告によって知った二神は、ソレミアのあまりの愚かさに絶句し、突き放そうとしたが……


 オラトリオとソレミアが交わした約束により、二神も競争の舞台に立たざるを得なくなり……仕方なく、三神で力を合わせてオラトリオの『世界』に対抗する『世界』を作り出す事にしたのだ……。


         *


 『『世界』と『世界』の競争とは、神が生み出した生命を、どちらかが滅びるまで徹底的に戦わせる事だ。これは、『破滅神オラトリオ』が勝手に決めたルールだが……騙されたとは言え、ソレミアが競争を承諾してしまった事で正式な取り決めとなってしまった』


 ラティアスは続ける。


 オラトリオが作り出した『世界』に宿る生命──これは『魔神族』と呼ばれ、有りと有らゆる生命体を超越する力を持っている。ソレミアとへドゥンはこれに対抗するため、自分たちの『世界』を創造し、そこに新たな生命体を生み出した。……それが、『人間族』だ。


 ソレミアとへドゥンは、この『人間族』をオラトリオの『魔神族』と競わせる事としたのだが……ハッキリ言って『人間族』は『魔神族』と競わせるには余りにもか弱すぎた。


 知能は高いが、〝何の力も持たない生命〟……それが人間と言う存在。


 『魔神族』と対等に競わせるためには〝力〟が必要だった……。


 そこで、光の創造神であるソレミアが『人間族』に与えたのが──


 『聖剣』だ。


 『『聖剣』とは、本来、『魔族』と呼ばれる者たちに対抗するために与えられたモノではなく、『魔神族』を倒すために与えられた『神剣』……しかし、『人間族』に『聖剣』を与えたは良いが、ここで一つの問題が発生する……』


 ラティアスが話す『聖剣』の問題とは──


 『人類の多くは『聖剣』を使いこなす事が出来なかったのだ……』


 だが、それも当然の事。


 突然与えられた力を適切に使いこなせるほど『人間族』は強くもなく、器用でもない。


 滅びの危機に陥っていても、どこか危機感の薄いソレミアは、


 『『我が子(にんげん)』に私の力を授ければ、何とでもなるはず』


 と楽観視して『聖剣』を『人間族』に与えるだけ与えて放置しようとした。


 ──しかし、ソレミアは深く考えていなかったが、ソレミアの力を宿した『聖剣』を『人間族』に与えると言う考え自体は、それなりに理に適っていると言って良い。


 何故なら、神力だけで言えば、ソレミアは他の二神と比べ──いや、破滅の神オラトリオにも勝る力を持っていたからだ。


 ただ、その強力な力を上手く運用出来ず、『与えっぱなし』になっているのが問題であったが……。


 結局、ソレミアのその適当な行動の尻拭いをする事になったのが──双子の妹神であるへドゥンだ。


 へドゥンは考えた。


 『人間に『聖剣』の力を十全に扱わせるにはどうすれば良いか……』


 まず、へドゥンが試したのは、自身の神力を『聖剣』に組み込む事……。


 この方法は功を奏し、『聖剣』の力は大幅に強化される事となった。


 しかも、修練も無しに『聖剣』の力を一段階……いや、二段階も上げる事に成功したのだ。


 ただ、そこには大きな問題もあって──


 本来、へドゥンの神力はソレミアに及ばず、闇の力は『聖剣』を補助する程度の役割しか持たないはずだった。


 しかし──


 ソレミアの神力である光──


 へドゥンの神力である闇──


 この二つの相反する力が複雑に混ざり合い、『聖剣』に変化をもたらした。


 適当(テキトー)に『聖剣』を作り出したソレミアと、適当(てきとう)に『聖剣』に力を与えたへドゥン……


 やがて、光と闇の力関係は逆転し……


 『聖剣』の力を最大限に発揮すると、闇の力──『魔力』が光の力を飲み込み──


 魔力に支配された『聖剣』──


 『魔剣』へと至ってしまう。


 さらに、問題はそれだけに留まらず……


 バランスの崩れた『聖剣』──『魔剣』を行使し続けると、『魔剣』が生み出す『魔力』に、その者に使用者が飲み込まれてしまい──


         *


 『そうして、『魔力』に完全に飲み込まれてしまった『人間族』は──主人殿たちの知る『魔族』となるのだ……』


 「それが、〝人間の成れの果て〟……」


 そこまで話を聞いたユランは、考え込むようにして黙り込む。


 ラティアスの話は、ある程度予想できていた事だ。


 ユランに先ほど起きた暴走現象や、四年前、ソリッドが見せた『魔剣』や『魔術』……突拍子もない話だが、納得もできる。


 何より、神竜であるラティアスが、二神の前で話す言葉だ……嘘はないのだろう。


 それに、『魔族』が元同胞──同じ人間だった事にもショックはない。


 回帰前を含めれば、様々な人間を、様々な事情で葬ってきたユランだ。


 今更、同胞殺しを問われても驚きはすれど、その事実に迷い、落ち込むことなどなかった。


 「では、僕の力が暴走したのは……へドゥン様の力──『魔力』の影響なのですか? それならば、いくら力が強くなろうとも、意味がない気が……」


 ユランの言葉に、ラティアスは……ユランが、すんなりとこの話を受け入れた事に少し驚いた様子を見せたが、そのまま話を続ける。


 『いや、そもそも、本来ならばへドゥンの『闇の力』にそんな欠陥はない。『魔族化』したとしても、それを十全に扱えるようにへドゥンが後で修正を加えたからな』


 ──ギロッ


 ラティアスはそこまで言うと、鋭い視線をソレミアへと向け、睨みを利かせる。


 『……っ』


 ソレミアはそれに反論しようとするが、へドゥンもラティアスと同様にソレミアを睨み付けたため、微妙な表情のまま固まった。


 ユランはその様子を見て、もう、流石に気付いていた……。


 『ああ、またソレミア(このひと)が余計な事をしたんだろうな……』と……。


 『まあ、へドゥンの力にも問題がなかった訳ではない。『希望』と『成長』を齎す『聖剣』は、言葉通り、持ち主と共に『成長』するが、『魔剣』──へドゥンの力は『安定』と『大成』……一度『魔力』に変異してしまった『聖剣』は、強力な力を得る代わりに、成長が完全に止まる。つまり、そこがその者の限界となり──それが〝人間の成れの果て〟と言う本当の意味だな』


 【……あ、あの……それ以上は……】


 ソレミアが急にソワソワし始め、ユランとラティアスの間に視線を彷徨わせてオロオロしている。

  

 ラティアスは勿論、そんなソレミアを無視して話を続ける。


 『だが、逆に言えば、十分な力を付けてから『魔族化』すれば、それだけ強力な力を得られるという意味だ。その辺りは調整次第で何とでもなる。現に、へドゥンは『魔神族』に対抗するために、その調整を行うつもりであった──が!』


 【ひぃ!】


 『今まで他人事のように無関心だった、このアホ女神が、へドゥンの調整を無視し──』


 【私って『成長』を司る神なのよね。我が子を成長させんために、ある事を思い付いたの。ねえ、『魔族化』した人間を〝仮想魔神族〟として、『聖剣』と戦わせましょう。成長が止まった者は、最早、役立たずなのだし、丁度良い処理方法ではなくて? うん、それが良いわ。『魔族化』した人間の心に、『聖剣』に対する憎悪の感情を植え付けましょう……ふふ、私って天才かも】

 

 『などと言い出し、勝手に事を進めたのだ。ちなみに、誰かに相談した風な言い方だが、完全にこのアホが独断で決め、勝手に実行したのは言うまでもない』


 ユランは絶句して、青い顔になっているソレミアを凝視した。


 ラティアスの話が本当なら、回帰前の悲劇は全てソレミアの所為という事になる。


 『主人殿。色々と思う所はあるだろうが、()()を神に言っても無駄だ。コイツらは、そもそも我々とは考え方が違う。へドゥンを含めてもな……。(コイツ)らは、自分の創造物の感情の機微など気にしない。分かりもしない。創造物がいくら不幸になろうが、死に至ろうが、最後にオラトリオとのゲームに勝利すれば良いのだ』


 【……】

 【……】


 ラティアスの言葉に対し、ソレミアとへドゥンはバツが悪そうに顔を見合わせるが、()()()()に関しては否定もしない。


 それは、無言の肯定を意味していた。


 『この世界の危機……それは、この愚者(ソレミア)の所為で起こった──神々による遊戯(ゲーム)……唯の〝遊び〟なのだ。神々は勝負に本気になって足掻きはすれど……ゲームに負け、自身が滅びる事になってもすんなりと受け入れるのだろう』

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