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【25】レベル6『雷ソウ』

 暴走したユランが『レベル6』を発動させると──


 ゴロロロ──……


 地鳴りの様な重低音が天空に木霊する。


 空を支配する黒雲は厚みを増し、太陽の光を完全に遮ってしまったため、辺りは真夜中世の様に暗い。


 カッ!


 ゴロロ──……


 ユランが生み出した黒雷が放つ閃光が、漆黒の闇の中で対峙する二人──ユランとラティアスを照らす。


 『主人殿、そろそろ気が済んだだろう。敵は最早おらんのだし、いい加減に戻ってこい』


 ラティアスはユランにそう諭しながらも、戦闘体勢を解く事はなかった。


 それどころか──


 カロロ……


 自らと対峙するユランを威嚇する様に、喉を鳴らす。


 『まあ、すでに口で言っても理解できない状態であろう。叩きのめして元に戻してやる』


 ラティアスはそう言うと、大きく息を吸い──


 ブバッ!!!


 口から勢いよく、高熱の息──ブレスを吐き出した。


 ラティアスから放たれたブレスは、やがて灼熱の黒炎となり、ユランに迫る。


 しかし、それに呼応する様に、ユランが左手を前に差し出し──


 『──雷槍(らいそう)──」


 と、短く唱えた。


 カッ!


 ゴゥゥゥゥゥゥン!!!


 ユランの求めに応じ、天空に浮かぶ黒雲から黒雷が落ちる。


 ユランが差し出した左手の前方──


 丁度、ユランに向かって迫り来るブレスを遮る様に、間に割って入った。


 ガガガガガッ!!


 ドゴォォォォ!!!


 ラティアスの放った黒炎のブレスと、ユランの黒雷が接触し、大爆発を起こす。


 『……やはり、『火炎の(ブレス)』では出力不足か。たが、かと言って『破壊の息』を使えば主人殿の身が保たん……。なんとも面倒だな』


 黒雷によって相殺された自身の攻撃を前に、ラティアスは嘆息する。


 いや、黒炎は黒雷と相殺された訳ではなく──


 バチチッ──……


 ラティアスの黒炎を消滅させた黒雷は消える事なく、形を保ったままで激しく放電を繰り返していた。


 大きな鉄杭の様に地面に突き刺さった黒雷は、やがて実体を成していき……


 黒雷の消失と共に、そこから飾り気のない『漆黒の長槍』が現れる。


 ──ガッ


 ユランは長槍の柄を徐に掴むと、地面から引き抜き──


 フォンッ!


 そのままラティアスに向かって投擲した。


 バル──……


 バルルルルッゴゴゴ!!


 ユランが放った長槍──『雷槍』は、投擲された瞬間から周囲に『漆黒の電撃(でんげき)』を放出し始め、加速度的に勢いを増していく。


 恐ろしい速度──


 強大な威力を持った一撃だが……


 『投擲とはな……あまり『竜族』を舐めるなよ』


 ラティアスは、呆れた様に言うと、身体を僅かに左にずらして『雷槍』を躱し──


 ガシッ!


 そのまま、右手で『雷槍』の柄部分を引っ掴んだ。


 しかし、


 ズズズッ──……


 『雷槍』の勢いは弱まらず、ラティアスの身体をそのまま引きずって行こうとする。


 『む、小癪な──』


 ズゥンッ!!


 ラティアスはそれに対抗するため、右足で地面を強く踏み締めた。


 その影響で大地が揺れ、小規模な地震が起こる。


 ラティアスの踏ん張りで、『雷槍』の勢いは消失するが、それだけでは終わらず──


 バババババッ!!


 次いで、『雷槍』が纏っていた電撃がラティアスを襲う。


 通常ならば、どんな生物であろうと一瞬で焼き殺すほどの威力を持つ電撃だが……


 『……ふむ、追加効果もあるのか。しかし、この程度ではマッサージとしても質が悪いな』


 『竜気』を全身に纏い、強靭すぎる肉体を持ったラティアスには電撃など一切の効果がない。


 グラグラと揺れる不安定な足場で、それでもラティアスとユランは何事もなかったかの様に立ち、対峙している。

 

 そして、『雷槍』を握ったままのラティアスは、自らの手の内で形を保ったままの『雷槍』を興味深そうに見詰めると、


 『持ち主の手を離れても消滅しないのか。面白い槍だ……。しかし主人殿よ、こんな槍を生成するのが〝6星〟の御業なのか? それにしては、些か拙過ぎるな。これならば、〝4星〟の一撃の方が威力は上……まるで児戯の様ではないか』


 ユランを挑発する様に、不敵な笑みを浮かべた。


 普通なら、暴走状態のユランにラティアスの挑発行為が通じるとは思えないが……


 『──雷楔──」


 ラティアスの挑発に応える様に、ユランは『雷楔』と唱え、再び左手を前方に差し出す。


 『やはり、少しだけだが理性が残っているのか。挑発に苛立つ程度の僅かな理性の様だが……。まあ、それならまだ手はある』


 ラティアスはそう呟くと、「キッ!」と黒雲に包まれた天空を見上げ──


 『おい! へドゥン! 聞いているだろう!! ()()()()の愚行の尻拭いをさせてやる! タイミングを見て、私たちをそちらに招くのだ!!』


 そう叫んだ。


 怒号に近いその叫びで、収まりかけていた地響きが加速し、空気がビリビリと震える。


 ラティアスが天空を見上げ、叫び声を上げた一瞬の間──


 刹那のその瞬間に──


 カッ!


 ゴゥゥゥゥゥゥン!!!


 ユランの詠唱に応じ、黒雲が同時に四つの黒雷を落とす。


 今度は、ユランの前方ではなく、ラティアスに向かって……。


 『今更ただの雷撃か? そんなモノでは私に傷一つ付けられ──』


 ラティアスは、『竜気』を高めて黒雷を防ごうとするが──


 四つの黒雷は、ラティアスの身体の中心を避け、それぞれ手足に纏わり付くように広がった。


 そして、輪のような形を作り、ラティアスの四体を完全に拘束すると、四匹の蛇のように畝り……


 やがて──


 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!


 手足を拘束した輪とは反対側の端が、それぞれ地面を穿つ。


 ギッギギギギ──……


 ラティアスの四体を拘束した輪は手枷となり、


 蛇のように畝っていた黒雷は鎖となり、


 地面を穿った部分は楔となった。


 漆黒の拘束具の完成だ。


 『これは……中々に厄介な代物だ。『竜気』を封じる力もあるのか……。今のままでは抜け出せそうにない。これはマズイか……?』


 ラティアスは焦った様子も見せず、焦りの言葉を口にする。


 漆黒の拘束具──『雷楔』に囚われ、身動きの取れなくなったラティアスを前にユランは、


 『──雷剣──』


 再び詠唱し、今度は自身の前方に黒雷を呼び寄せた。


 そして、その黒雷が実体化すると、そこには──


 地面に深々と突き刺さる『漆黒の長剣』が現れたのだ。


 『なるほど……。6星、『雷ソウ』とは『雷槍』ではなく、『雷装』という意味だったか。雷の武具──いや、武具だけでなく、あらゆる効果を持つ『道具』を生み出す御業か……。確かに6星に相応しい力だと言える。……おっと、歳を食うと発言がが説明臭くなっていかんな』


 ラティアスはそう呟くと、漆黒の両の眼をギラリと光らせた。


 ユランがこれからやろうとしている事に気が付き、迎撃体制を取る。


 まあ、手足を拘束されているため、今のラティアスに出来るのはユランを睨み付ける事くらいなのだが……。


 『やはり、『竜眼』は効果が無いか……』


 今の……マックスの一割程度の力しか持たないラティアスの『竜眼』では、暴走状態のユランに対して効果がない。


 当然、行動は止まらない。


 バチッ! バチチッ!!


 そんな事をしている間に、ユランは地面に刺さった『漆黒の長剣』──『雷剣』を引き抜くと──


 『迅雷一閃』を放つ準備を始める。


 準備と言っても、通常時のように電撃のチャージは必要なく……すぐに準備は整い──


 カッ!!!


 『迅雷一閃』の強烈な一撃──


 『雷音』による黒雷の雨──


 そして、『雷装』によって生み出された『黒剣』の威力──


 その全てが上乗せされた──


 今のユランが放つことの出来る、最強の一撃が放たれた。


 これが決まれば、いくらラティアスとて『ドラゴンハート』ごと消滅させられてしまうだろう。


 竜族は、如何なるダメージを負おうとも即座に回復出来る力を持つが、それはドラゴンハートに依存した力だ。


 力の源たるドラゴンハートを破壊されれば、竜族とて消滅を免れない。


 ドラゴンハートを破壊する事……


 それが、無敵の竜族を倒す唯一の方法であった。


 絶体絶命の状態であるが、今だにラティアスに焦った様子はなく──


 『仕方がない。〝聖女の封印〟は緩むが……出力を三割まで上げるか』


 そう呟き、両目を閉じる。


 瞬間、ラティアスの身体から真っ黒なオーラが立ち上り──


 バギンッ!!!!


 力尽くで『漆黒の拘束具』を破壊した。


 そして──


 ラティアスは、ユランから奪った『雷槍』を両手で構えると、『迅雷一閃』を迎撃する体制を取る。


 『さあ、唯一◼️◼️に近付いた存在よ……竜族の力の一端を知るが良い……』


         *


 ユランは暗闇の中を揺蕩っている。


 リリアを抱え、魔物の群れを突破しようと試みた瞬間から、意識がプッツリと途絶えていた。


 パンッ! パンッ! パンッ!


 奇妙な音が、ユランの頭の中に無理矢理入り込んでくる。


 【ひぎっ! うぐっ! おっ! おっ!】


 それと同時に、苦しそうに呻く女性の声も……。


 この暗闇はなんとも心地良い。


 それこそ、ずっと身を委ねていたくなる様な感覚だ……。


 パンッ! パンッ! パンッ!


 尚も、何かを打ち付ける様な……


 肉と肉がぶつかり合う様な音が頭に響く。


 まるで、ユランに向かって「早く眼を覚ませ!」と叱咤する様に……。


 【おっ! おっ! おっ! おんっ!】


 不思議な音と呼応する様に聴こえてくる女性の声は、次第に大きくなり──


 (何だか不気味な声だ……)


 ユランにそんな印象を与えた。


 パンッ! パンッ! パンッ!


 【ぴぎぃ! や、やめて! おごっ! おん!】


 女性の声が不気味すぎて、ユランはこれ以上聞いていられなくなり──


 心地良い微睡の時間を手放し、渋々と言った様子で意識を覚醒させる。


 ゆっくりと両目を開け……


 そこでユランが見たものとは──


 パンッ! パンッ! パンッ!


 【ちょ! 痛い! 痛いわよ! 何で私がお尻を叩かれるの!? 私はソレミア! へドゥンはあっちよ!!】


 『うるさい。どうせ、失敗の尻拭いをへドゥンにさせただけだろう。お前は出会ったばかりの頃と何も変わってないな』


 ラティアスに抱え上げられ、臀部を激しく殴打される──純白のドレスを纏った妙齢の女性であった……。


 尻を叩かれているドレスの女性の側には、その女性と全く同じ顔、そして、全く同じ格好の女性が立っている。


 いや、格好は全く同じドレスだが……


 尻を叩かれている女性のドレスが純白なのに対し、傍に立つ女性のドレスは、夜空の闇の様に漆黒だった。


 だが、見た目の面では全く同じ……。


 (双子なのだろうか?)


 ユランは、今だにハッキリしない意識の中で、そんなどうでも良い事を考えた。


 【へドゥン! 助けて!! お姉ちゃんが攻撃されてますよ!】


 『うるさいと言っとおろうに。大体だな、お前が主人殿の願いを何でもかんでも聞き入れるからこんな事になったのだ。少しは反省しろ』


 【だから! やったのはへドゥン! 顔は同じだけど私はソレミア!】


 純白ドレスの女性は、尻を叩かれながらラティアスに対して講義の声を上げる。


 しかし──


 『黙れ。やったのはへドゥンだとしても、それを指示したのは、ソレミア──お前だろう? へドゥンは後先を考える頭があるが、お前にはない。答えは明白だ』


 パンッ! パンッ! パンッ!


 【おん! おん! おおん!】


 『……気味の悪い声を出すな』


 【だったら止めてよ! 痛いんだって! へドゥン! 黙って見てないで助けてよ!】


 【……】


 プイッ


 純白ドレスの女性の助けを求める声に、漆黒ドレスの女性は怒っているのか、無言でそっぽを向いた。


 【ちょ!? 何無視してるのよ! わたし、お姉ちゃんなんですけどぉ!!】


 パンッ! パンッ! パンッ!


 あまりのカオスな状態に、脳が考える事を拒否し……ユランは再び静かに両目を閉じた。

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