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【20】戦闘開始

 ユランたちは、魔王城からの〝脱出〟するため『王の間』を目指した。


 螺旋階段を慎重に上がり、いつ魔物が現れても対序できる様に周囲を警戒する。


 リリアが皆に、『魔王城を脱出するために、魔王のいる部屋を通らなくてはならない』と説明した際、ユランはその事実に誰もがパニックに陥るだろうと予想した。


 しかし、ユランの予想に反して、Cクラスや非戦闘員であるDクラス……そして従者たちまでもが、脱出方法が見つかった事に安堵し、笑顔を見せた。


 ……脱出するためには、『王の間』を通り抜けなければならないと言うのに。


 おそらく、ここに集まった面々は、リリアの先ほどの戦闘を目にし、


 『神人がいれば魔王も怖くない』


 と楽観視しているのだろう……。


 しかし、それも無理からぬ話だ。


 彼ら彼女らは、魔族の王──『魔王』の姿など目にした事すらないのだから……侮っていても仕方がない。


 「ここが『王の間』の様ですわね……。なるほど、確かに凄まじい威圧感ですわ……」


 螺旋階段を登り始めて暫く……それほど時間もかからずに螺旋階段を登り切ったユランたち。


 その目の前に、見上げるほど巨大な扉が現れる。


 いや、その大きさから見て、それは扉と言うよりも巨大な門に近かった……。


 飾り気のない扉は、錆びた金属の様に鈍い色をしており、使われている素材は金属の様でもあり、鉱物の様でもある……何とも不気味な雰囲気を醸し出している。


 「大丈夫です。リアーネ様。我々はリアーネ様を信じています。我々に出来る事があれば、何でもお手伝いしますので」


 「そうです。先ほどの様な魔物が現れたらどうにも出来ませんが、『中級種』程度なら何とかなります。それらが現れたら我々に……」


 魔王城の仕組みなどを知らないCクラスの生徒たちは、先ほどの『超級種』がイレギュラーな存在だとでも思っているのか……そんな言葉を述べる。


 彼ら彼女らは、リリアが感じている威圧感を感じ取れてはいない様子で──


 いや、扉越しに魔王の圧力を感じ取れていたのは、神人であるユランとリリア、そして『サーチ』を使用しているプラムだけだ。


 神人であるユランやリリアは、魔王が放つ圧力にも抵抗出来ているが、プラムは全身をガクガクと振るわせ……今にも崩れ落ちそうなほど青い顔をしていた。


 「プラム、大丈夫?」


 ユランが、そんなプラムの様子を見兼ね、声をかける。


 「だ、大丈夫でしゅ……。そ、それよりも……皆んなに『ステータスアップ』を掛けて良いでしゅか?」


 「そうだね……。一度、『サーチ』を解除して、『ステータスアップ』をお願い出来るかな?」


 「『サーチ』は解除しなくても……併用できましゅ……」


 「え? プラムの『ステータスアップ』は〝永続効果〟だよね? 他の神聖術と併用は出来ないんじゃ?」


 「だ、大丈夫でしゅ。『サーチ』は生活術でしゃから……。併用可能でしゅ……」


 「……すごいね。やっぱり、君はアニスの師匠だ」


 「アニス……?」


 「……何でもないよ。それよりも、『ステータスアップ』……お願いできるかな?」


 「はい……行きましゅ!」


 プラムが『ステータスアップ』を使用すると、そこにいた〝全ての者〟の身体能力が大幅に強化される。


 ユランやリリア、ニーナだけでなく、Cクラスの生徒、Dクラス生徒や従者たちもだ……。


 ユランとプラムのやり取りを聞いていたCクラスの生徒は、最初は小馬鹿にした様な視線を二人に向けていた。


 『Dクラスが何をやっているんだ』と……。


 しかし、プラムの『ステータスアップ』で自身の能力が強化されると──


 「こ、これは……。身体が急に軽くなった!」


 「何か、力も強くなった様な気がする……。これなら、一人でも『中級種』を相手にできそう!」


 「これって、神聖術だよな? こんなに凄いなら俺も習ってみようかな……」


 などと、口々に言い始めた。


 『ステータスアップ』で身体能力が強化されると、それに慣れていない内は、ある種の全能感に支配される。


 実際には、身体能力が多少強化されただけなので、『レベル1』が『中級種』を単独撃破など出来る訳がないのだが……。


 しかし、この全能感がもたらす高揚は、ここに集まった者たちの緊張感を溶かし──士気を上げる事に成功していた。


 「……準備は整いました。それでは……行きましょう!」


 集団の先頭にいたリリアは、そう声を上げると──『王の間』の扉に手を掛けた。


 ギギギギィ──……


 巨大で荘厳な扉は、何の抵抗もなく、最も簡単に開いて行き──


 ユランたちは、『王の間』の中へと歩みを進めた……。


         *


 「ひぃ!!」


 それは、誰が上げた悲鳴か……。


 感じていた全能感も、高揚感も、全て──


 一瞬で凍り付いた。


 「あ……ぐぎぃ……」


 次に出たのは、誰かの呻き声だ……。


 薄暗い部屋の中で、〝ソレ〟の周りだけは、妙に明るく見えた。


 〝ソレ〟が放つ威圧感に耐えかね──


 「あ……あぁ……」


 ある者は地面に膝を突き……


 「だ、だずげ……」


 また、ある者は耐え切れずに嘔吐した……


 巨大な部屋の奥、長い階段が続く先には──質素で、飾り気の全くない玉座がある。


 その玉座に鎮座するのは……


 全身を漆黒の鎧で覆った──


 『鎧の魔王』だ。


 そこにいる者たちは皆、一瞬で分かって──いや、分からされてしまった……。


 勝てる訳がない。


 勝てると思う事が烏滸がましい。


 そう、感じてしまうほど、〝ソレ〟の放つ威圧感は凄まじいものだった。


 「こ、これは……。王都で戦った魔王とはまるで違う。これは、バル・ナーグに感じたものに近い……ほ、本当に魔王なのですか……?」


 リリアは、『鎧の魔王』が放つ圧力に後退りしてしまうが、それでも、なんとか集団を守る様に先頭で踏み止まった。


 【リリ……すぐにワタシを抜きなさい。最初から全力でやるんだ】


 「ルミナスさん……?」


 【良いから! 早くする!】


 「は、はい……。分かりました」


 ルミナスソードの指示を受け、リリアは即座にサブウェポン──ルミナスソードを抜き放つ。


 【今のリリでは『レベル4』が精一杯……それ以上は身体に負担がかかり過ぎる。まずは、『レベル4』で様子見を──ちっ……面倒だ】


 ルミナスソードが指示を出し終わる前に──


 ──ゴォォォォ!!


 轟音が辺りに響き、リリアの少し前辺り──何もない空間に、突如として真っ黒で巨大なモヤが立ち込める。


 まるで、螺旋階段の時の再現だ。


 しかし、その時とはモヤの規模がまるで違い──倍以上の大きさまで膨れ上がっている。


 そして──


 『鎧の魔王』を守る様に、100体以上の『超級種』の魔物が出現した。


 100体以上の魔物とリリアは、睨み合う様な形で対峙する……。


 たが、100体以上の魔物を前にしても、リリアは足を前に進める事が出来ずにいた。


 何故ならば、リリアは『王の間』を訪れる前、『鎧の魔王』の事をユランから聞き及んでいたからだ。


 ──少しでも進めば、『鎧の魔王』の爆発攻撃が来る。


 迂闊に動けない……。


 リリアは、攻撃するタイミングや、相手との位置関係を見計らい──


 「うわぁぁぁ! もう嫌だぁぁ!!」


 『鎧の魔王』の圧力に耐えかね、パニックを起こしたCクラスの男子生徒が一人……突然、玉座のある方向に走り出した。


 玉座へと続く階段の側──そこには、『王の間』の入り口扉よりも一回り小さい、両開きの扉が見える。


 おそらく、そこが出口へと続く扉なのだろう。


 そのCクラスの生徒は、扉の存在に気付き──後先も考えずに走り出してしまったのだ。


 パチンッ


 その瞬間──


 『鎧の魔王』の右手がゆっくりと動き出し、そのまま指を弾いた。


 リリアやユランが、その生徒を引き留める間もなく、『鎧の魔王』の攻撃が放たれ──


 走り出したCクラスの男子生徒に向かう。


 バシュッ!!


 鋭利な刃物で軟肉を切り裂く様な音を立て、〝何か〟が、その生徒の身体を──


 肩口から、斜め袈裟斬りに切り裂いた。


 「あ……あ……ぐぅ……」


 ブシュシュ──


 ──ドサッ……


 鮮血を撒き散らしながら、男子生徒は地面に倒れ伏す。


 (……違う。爆発攻撃じゃない。あれは……風の属性? 複数の属性を持っているのか?)


 回帰前、『鎧の魔王』は魔力を爆発させる──爆発攻撃を使用していた。


 なので、ユランは『鎧の魔王』が持つ属性は炎系……もしくは、それに類する属性だと思い込んでいた。


 魔王が操る魔術や能力──これにも聖剣と同じ様に属性があり、属性は、魔王であっても基本的に一つだけだ。


 複数の属性を持つ魔王と言うのは、ユランも聞いた事がなかった……。


 「ニクスさん!?」


 男子生徒が『鎧の魔王』の攻撃を受けた事を確認し、リリアが叫ぶ。


 (ニクス? ニクス・アーヴァイン? そう言えば、彼はCクラスだったな。一緒に魔王城に閉じ込められていたのか……)


 ニクス・アーヴァイン。


 彼は、プラムの双子の兄であり、アカデミー入学試験の際、ユランにコテンパンにされた受験生の内の一人だ。


 ニクスは、あの一件以来、プライドを傷付けられた事が許せなかった様で、露骨にユランを避けていた。


 魔王城に閉じ込められた時点で、ニクスはユランの存在に気付いていたが……極力視界に入らない様に立ち回っていた様だ。


 「お兄ちゃん!!」


 倒れた男子生徒──ニクスの姿を見て、プラムがそちらに向かって走り出す。


 「プラムさんまで!? だめ! 止まりなさい!!」


 走り出したプラムに気付き、リリアが声を上げるが──


 パチンッ


 『鎧の魔王』の指が弾かれ──


 「ルミナスさん!!」


 【やむを得ないか……。リリ、痛みに備えなさい。少し痛いぞ……】


 ルミナスソードがそう言うと……青い刀身が眩い光を放つ。


 そして──


 『抜剣レベル4── 『絶対防御』を発動──使用可能時間は30分です──カウント開始』


 リリアの『レベル4』が発動する。


 ルミナスソードの効果により、回帰前は5分程度だった使用制限時間も大幅に伸び──


 いや、シリウスの時とは違い、今のリリアは気力、体力共に充実している。


 その効果が『抜剣術』にも如実に現れていた。


 しかし、それと同時に──


 「う……ぐぅ……」


 リリアの全身を激しい痛みが襲い、思わず渦埋まって地面に膝をつきそうになる。


 リリアはそれを気力で無理やり押さえつけ──


 ダンッ!!


 強く地面を蹴り、倒れたニクスを抱え上げようとしているプラムの前に割り込んだ。


 ガガガガ!!!


 金属をヤスリで無理矢理削る様な不快音を立て──『鎧の魔王』が放った風の刃が、リリアの『絶対防御』と激突する。


 やがて、風の刃は『絶対防御』に阻まれて消滅するが……


 「お兄ちゃん! お兄ちゃん! 起きて!」


 双子の兄が瀕死の重傷を負った事でパニックを起こしたプラムは、リリアの咄嗟の行動にも気付いておらず、『鎧の魔王』の攻撃範囲から出ようとしない。


 「プ、プラムさん……。お、お兄さんを……つ、連れて……離れて……」


 リリアは、激しい痛みに苛まれながら、何とかそれだけを口にする。


 しかし、パニックを起こしたプラムは──


 「『修復(リペア)』! 『修復(リペア)』! お願い! 発動して!」


 倒れた兄に向かって、発動しない神聖術を必死に唱えていた。


 『修復(リペア)』が発動しないのは当然……プラムは『修復(リペア)』を習得していない。


 聖剣士が神聖術を習得する事を良く思っていなかったアーヴァイン家の当主が、プラムが神聖術を学ぶ事を禁止していたからだ。


 プラムが習得しているのは、外出した僅かな時間を使って、図書館などで独学で使える様になった神聖術だけだった……。


 「あぁ! ダメ、ダメ、ダメぇ! だ、誰か! お兄ちゃんを助けて下さい!」


 プラムは、アカデミーの入学試験の際、ニクスにあれだけの裏切り行為をされたにも関わらず……ニクスのために涙を流し、助けを求めて、ここに集まった面々に懇願した。


 パチンッ──


 ガガガガ!!!


 その間にも、『鎧の魔王』の攻撃は止む事なく続いていており──


 同時に、ニクスの命の灯火も少しずつ消えていく……。


 「お願い……お願い……お願いします……誰か……」


 プラムは地面に額を擦り付け、集まった面々に懇願し続ける。


 しかし、Dクラスや従者たちは勿論、ある程度の戦闘能力のあるCクラスの面々ですら、誰一人として動こうとしなかった。


 『鎧の魔王』の圧力に屈し、恐怖に身体身震わせ、動く事も出来ない。


 いや、仮に動けたとしても──〝聖剣士〟になるための修行真っ只中の生徒たちの中に、『修復(リペア)』の神聖術を扱える者などいる訳もない……。


 皆、神聖術(よりみち)などしている余裕はないのだ。


 「プ、プラム……さん。わ、(わたくし)が……『上位修復(ハイリペア)』を……」


 息も絶え絶えと言った様子のリリアだったが、ニクスを回復させるために、『上位回復(ハイリペア)』を発動させようと──


 ザッザッザッ──……


 した瞬間だった。


 今まで動きのなかった『超級種』の魔物たちが100体以上──突然動き出し、Cクラスを先頭とする集団に向かって進行し始めたのだ……。


 「ぐ……うぅ……そうは……させ……ない」


 リリアはニクスの回復を中断し、地面を蹴って、集団を守る様に魔物たちの前へと躍り出る。

 

 ガン!


 ガガガガ!!


 ゴゴゴ!!


 魔物たちの攻撃に晒されながらも、『絶対防御』がそれを防ぎ──


 リリアは、魔物を一体一体返り討ちにしていく。


 相手は100体以上の『超級種』……『拘束(バインド)』で全てを捕えるのは無理だ……。


 『拘束(バインド)』は捕える数が多くなるほど、その拘束力も弱まる。


 『上位種』が100体……


 『超級種』が50体……


 今のリリアが拘束出来る数は、その程度が限界だ。


 『拘束(バインド)』を破られれば、その分だけ神聖力を無駄に消費するだけ……。


 なので、魔物を一体一体潰していくしかない。


 だが、リリアが戦闘に突入した事で──


 「な、何で……? リアーネ様……お兄ちゃんを……助けて……くれないの……?」


 ニクスの治療を行う事が出来なくなり、プラムは涙に濡れた顔を、絶望に歪ませた。


 リリアは、他の生徒や従者を救うため、ニクスを見捨てる決断をしたのだ……。


 それは、〝聖剣士〟としては当然の決断。


 ニクスは、プラムにとっては、たった一人の双子の兄でも……リリアにとっては、〝守るべき生徒の内の一人〟でしかないのだから……。


 「プ……プラム……」


 「お、お兄ちゃん!!」


 瀕死の状態のニクスが口を開き、自身を抱き抱えていたプラムに声を掛ける。


 「お、俺に……話しかけるな……って……言っただろう……?」

 

 「お、お兄ちゃん……ご、ごめんなさい……。で、でも……」


 プラムは遠征開始前に、ニクスから「自分に話しかけるな」と厳命されていた。


 「出来損ないのDクラス生徒がCクラスの生徒に話しかけるなんて、恥ずかしくて仕方ない」と……。


 アカデミー入学試験の一件以来、ニクスはプラムに冷たく接する様になり、家でもプラムを無視する様になっていた。


 ユランに傷付けられたプライドが、やがて怒りに変わり……プラムに辛く当たる様になったのだ……。


 しかし、プラムはそんな兄の態度を前にしても、決してニクスを嫌いになる事などなく……


 今、ニクスの命が失われようとしているこの瞬間にも、ニクスの事を想い、涙を流していた。


 「お兄ちゃん……ごめんなさい……。た、助けてられなく……て……」


 「もう……良いよ……プラム……早く……皆んなの所に……」


 「い……嫌……わたしは……」


 プラムの悲痛な叫びは誰にも届かない。


 Dクラスの生徒も、従者たちも、そして、Cクラスの生徒たちも……


 『自分たちには何も出来ない』と、ニクスやプラムから顔を背け、助け起こしに行こうともしない。


 当然だ。


 下手にプラムたちに近付けば、いつまた『鎧の魔王』の攻撃が襲ってくるか分からないのだ……。


 「ごめん……なさい……お兄ちゃん……。ごめんなさい……ごめんなさい……」


 プラムは冷たくなっていくニクスを胸に抱きながら、何度も何度も謝った。


 パチンッ


 そして──


 無慈悲にも、『鎧の魔王』が指を鳴らし、風の刃が放たれる。


 リリアは戦闘中──


 プラムたちを守る者はいない……。


 プラムはそれでも、瀕死の兄を守ろうと、両手を広げて──



 『プロテクション』



 その瞬間、プラムたちの前に、誰かが割り込み、『防壁(プロテクション)』の神聖術を唱えた。


 ブワッ──……


 『鎧の魔王』から放たれた風の刃は、『防壁』に阻まれ、その身に届く事もなく消滅する。


 「か、かみ……さま……?」


 『修復(リペア)


 そして、その誰か──ユランは、ニクスに向かってすぐさま『修復(リペア)』を唱えた。


 「あぁ……神さま……」


 ユランの『修復(リペア)』により、ニクスの傷が見る見る内に〝修復〟していき──


 「〝俺〟ごときの『防壁』で防げるなんて……。やっぱり、随分弱くなってるな」


 それを見届けたユランは、ゆっくりとした動作でサブウェポンを引き抜く。


 そして──


 聖剣に手を掛けた。


 「ユ……ユラン……。だめ……。私が魔王と戦って……様子見を……」


 ユランの行動を見ていたリリアは、ユランを止めようとする。


 それは、リリアから提案した事だ。


 『鎧の魔王』の力を見極めるため、『絶対防御』が使えるリリアが囮となり、ユランはそれを観察し、勝機を見出す……


 勝機を見出せないなら、全員を逃す手立てを考える……


 それが、『王の間』に入る前からの取り決めだったはず……。


 「もう良いんだリリア……。やっぱり俺は、魔族を前に様子見なんて出来ない。死にそうになってる奴を見捨てる事も出来ない。やっぱり俺は、〝聖剣士〟なんだよ」


 ユランはそう言うと、聖剣を握る手に力を込め──


 『抜剣レベル4── 『迅雷(じんらい)』を発動──使用可能時間は40分──使用可能回数は──4回です──カウント開始』


 『抜剣』を発動させた。


 「プラム、お兄さんと一緒に下がっていて。傷は治ったけど、体力は失っているから安静にした方が良い。大丈夫。命は助かるはずだ……」


 ユランが出来るだけ優しい笑顔を作り、そう言うと、プラムは──


 「は、はい!」


 大きな声で返事を返し、ニクスを抱えてその場から離れ、皆のところに戻ろうとする。


 そして、その途中、プラムは背を向けたユランの方を振り返り──


 「やっぱり、貴方はわたしの神様です……。わたしが困った時に助けてくれる……神様の様な人……」


 言った。


 今度は、ユランを前にしても、噛む事なく、ハッキリと……。


 ユランは無言で頷くと──


 ゆっくりと両目を閉じた。

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