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【17】不吉な予感

 基本的に、『魔王』と呼ばれる者たちは人類の脅威となる存在だ。


 強い魔力を持ち、ある程度ダメージを負っても、立ち所に回復する──強靭な肉体の持ち主でもある。


 並の攻撃では、擦り傷一つ負わせる事も出来ず、『貴級聖剣』以下の聖剣ではどれだけ束になろうとも討伐は不可能。


 『魔王に対抗出来る』と言われている『皇級聖剣』でも、相手が上位の魔王ともなれば、なす術もなく敗れ去るだろう……。


 つまり、魔王と呼ばれる存在は──個体によっては、一体で世界を滅ぼせるほどの力を持っていると言える。


 ただ、その魔王にも〝天敵〟と呼べる相手が存在した。


 神の力を持った『神級聖剣』の主、


 光の創造神ソレミアの使者──


 『神人』である。


 神人の力は『魔族の王』の力を大きく上回り……世界を滅ぼすほどの力を持つ『魔王』を、単独で討伐出来るほど強力だ。


 神人とは……対魔族の〝兵器〟と呼んでも差し支えないほどの存在だった。


         *


 突如としてゴリアン地帯を襲った地震は、次第にその揺れの大きさを増していった。


 大地は蜘蛛の巣の様にひび割れ、そこから真っ黒な──影の様なモヤが立ち込めている。


 地割れは、ユランたちのすぐ下辺りを中心に広がり──


 Dクラス生徒たちの下まで規模を拡大──


 従者たちの下まで届き──


 やがて、Cクラスの生徒たちの半数の下まで走った。


 地割れはそこまでで止まったが、揺れは収まる気配を見せず──


 ひび割れた地面から立ち昇るモヤの勢いが増し、段々と実体を成していく……。


 ここまで〝それ〟が進行してしまえば、最早逃れる術はない。


 モヤが天まで届く勢いで広がると、ユランを始めとする地割れの上にいた者たちは皆、色濃くなったモヤに飲み込まれ──


 突然、姿を現した巨城──『魔王城』の内部に取り込まれてしまった……。


         *


 『魔王城』とは──


 魔王が誕生する際、それと同時に現れる魔王の根城。


 内部は迷宮(ダンジョン)の様に入り組んでおり、一度迷い込んでしまえば脱出する事は容易ではなく──


 正面にある入り口から入り込んだとしても、そこは入り口専用……


 〝正しい出口〟を見つけなければ、城から出る事も出来ない。


 魔王城を出るための方法は二つ。


 一つ、正しい出口を見つける事、


 二つ、城の主たる魔王を討伐する事だ。


 魔王を討つ事で、魔王城も消滅するため、自然と外に出る事が可能となる。


 魔王城の規模は、出現した魔力の大きさに比例し──規模が大きければ、魔王の力も強力になる。


 かつて、『死の魔王』と呼ばれる魔王がいたが、その時に出現した魔王城は岩山が立ち並んだ『砦』の様な小規模な城だった。


 しかし、今回の魔王城は──


 その時の数十倍は有ろうかと言う大きさで、さらに城の外見自体も荘厳な作りの、漆黒の巨城。


 確かに立派な〝城〟だった……。


 それだけ見ても、今回出現した魔王が『死の魔王』と比べて数段階上の実力を持っている事が分かる。


 ユランたちは、魔王城出現場所のすぐ上にいたため、そのまま城に取り込まれ、強制的に入城する事になってしまった。


 黒いモヤに包まれ、視界が闇に覆われたかと思えば──次の瞬間には薄暗い魔王場内に居たのだ。


 「ここは何処なんだ? なぜ、いきなりこんな……。俺たちは魔物と戦っていたはずなのに……」


 事態に気付いたCクラスの生徒が、突然変わった景色に驚き困惑の声を上げる。


 「自然発生したダンジョン? それにしては、あまりにも人工的な……」


 「と、とにかく、全員の安否を確認する……。点呼を取るぞ」


 Cクラスの生徒たちは流石と言うか……それなりに統率が取れており、すぐに現状を把握しようと声を掛け合っていた。


 混乱して慌てているのは、Dクラスの生徒や従者たちばかりだ……。


 魔王城の出現に巻き込まれたのは、


 Dクラスの生徒20人全員、


 Cクラス生徒の従者たちがほぼ全員、


 そして、Cクラスの半数、50人ほどだ。


 総数にして200人くらいにはなるが……その中でも、マトモに戦えるのはCクラスの50人だけだろう。


 ユランたちが居る場所は、魔王城の内部──200人ほどが集まってもかなり余裕のある広い場所だった。


 突然の状況にどうして良いのか分からず、右往左往しているだけのDクラス生徒や従者などは当てにならない。


 リリアは、現状を確認するため──


 「ユラン……。貴方、さっきこれが魔王城だと言いましたわよね? (わたくし)は魔王城を見るのは初めてですが……ユラン?」


 ユランに声を掛けたが……ユランは、リリアの言葉など耳に入っていないかの様に天井を見上げ、虚空を睨み付けていた。


 心なしか、顔が青ざめている様にも見える。


 「……出口を探そう。まず、ここから撤退する事を一番に考える」


 ユランは、誰にでもなくそう呟き、忌々しげに歯を噛んだ。


 ……撤退。


 人類の敵──魔王を前にしてのユランらしからぬ発言に、リリアは驚いてユランを凝視した。


 ユランは『レベル4』の神人……。


 相手が『上位の魔王』だとしても、難なく討伐出来るほどの実力を持っている。


 そのユランが、放置すれば人類に甚大な被害を与えかねない──『魔王』との戦いを……


 放棄して逃げようと言い出したのだ。


 「私もユランの意見に賛成。何だかここ、すごく嫌な空気……。威圧感で胸が押しつぶされそう……」


 と、リリアの近くにいたニーナが、ユランの言葉に賛同する。


 そして、それはニーナだけでなく、その側にいたプラムも──


 「か、神しゃまが言うなら……。わ、わたしも……し、従いましゅ……」


 若干噛みながらも同意した。


 「……つっ!? そう言えば、貴方たち──いええ、今はそんな場合ではないですわね」


 リリアは、ユランの近くに()()知らない女子がいる事に気付き、嫉妬心を露わにしようとするが……流石に場にそぐわないと思い直し、その言葉を途中で飲み込んだ。


 そして、ぐるりと広間に集まる生徒たち(勿論Cクラス生徒も含む)を見回し──


 「確かに、一年生や従者たちを守りながら『魔王』と戦うのは無理ですわね……。分かりました。『魔王』は無視して出口を目指しましょう」


 「……」


 ユランが押し黙ったのを『了解』と取ったのか、リリアたちは話し合いを始める。


 しかし、ユランが考えていた事は……リリアが言った言葉とは微妙に違っていた。


 一年生を()()()()()()()()()()()なのではない。


 ここにいるメンバーの誰にも無理なのだ。


 なぜなら……これは……。


 「先を急ごう。リリア、みんなを統率してくれ……。君の言葉なら皆んな従う。〝私〟が言うよりは効果があるはずだ」


 記憶が引っ張られる……。


 ……ユランは、この魔王城に見覚えがあった。


 出現時期もかなり早いし、出現場所も全然違う……。


 (だが、この魔王城の奥に〝ヤツ〟の気配を感じる……)

 

 この場所、そして、この城の主は……


 回帰前の世界で、


 ユラン。


 ニーナ。


 アニス。


 そして、人類最強の聖剣士であった『神級聖剣レベル5』──シリウス・リアーネ。


 これらのメンバーを、最も簡単に殺害せしめた──


 『鎧の魔王』の居城だった……。

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