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【16】魔物討伐戦の始まり。そして……

 「ねえ、おししょーさま。聞いても良い?」


 「なんだい? アニス」


 「おししょーさま。何で『聖剣士』じゃなく、『神聖術士』になる道を選んだの?」


 「うーん……。答え難い質問だ」


 「今の時代に必要なのは、最強の聖剣士なんだよ? シリウス・リアーネ様のようなさ……」


 「そう思うかい? まあ、確かにキミの言う通りだろう。今の時代、戦闘に不向きな神聖術士を目指す者などいないだろうね」


 「じゃあ、何で? 何でそんな無駄な事をするの?」


 「……無駄か。そうだな。わたしが若い頃から、戦闘における神聖術の価値は低かった。いや、今よりももっとだ」


 「うん。無駄無駄」


 「……弟子よ。少しは師に気を遣う事を覚えなさい……。で、なぜそんな中でわたしが神聖術士を目指したのかと言うと──ぶっちゃけ、聖剣士の事がクソみたいに嫌いだったからだ」


 「ぶっぶー! 汚い言葉を使ったね! おししょーさま、ペナルティだよ」


 「わたしは大人だからね。汚い言葉を使っても許される。まあ、大人の特権というやつだね。勿論、キミが使ったらペナルティだ」


 「……ずるい」


 「こんな時代だが、キミは名門ハート家の令嬢だ。それに、クロノス卿の忘形見──王家の血筋でもある。最低限の気品は保たなければね」


 「むう……。まあ良いや。それで? 何でそんなに聖剣士が嫌いだったの?」


 「質問が多いな……。理由など単純。わたしの周りに碌な聖剣士がいなかったからさ。上の姉もクズみたいな性格だったし、双子の兄も姉と同様クズ野郎だった。……二人とも聖剣士だ」


 「うへ。兄姉に対して厳しいね」


 「まあ、二人とも既に死んでいるし、今更思う所もないのだけどね。姉はどこぞの誰とも知れぬ通り魔に殺されたし、双子の兄に至っては〝二番目の厄災〟に巻き込まれて死んだ。ハッキリ言って無駄死にさ」


 「……聖剣士が嫌いな理由は分かったけど、何で神聖術士だったの? 他にもアカデミーの講師なんかの道もあったでしょ?」


 「……二番目の厄災」


 「魔女アリアの事だよね? おししょーさまのお兄さんを殺した。王国民の大半を『支配の瞳術』で殺したって言う」


 「そうだ。アレは強力な〝魔力〟を持った存在……。討伐するためには強い〝神聖術〟でなくてはならないのだよ。『抜剣術』では討伐出来ない。魔女を殺す事がわたしの責務なのだ」


 「それで神聖術士?」


 「そう言う事だね。わたしは神聖術の才能もあったし、若い頃は魔女討伐(それ)が可能だと思っていた。そのために、有と有らゆる研究もしたしね……。まあ、わたしでは無理だと悟ったから、後進(アニス)に託そうと思ってキミを弟子に取ったのだよ」


 「え? ボクの存在って、そんなに重要ポジだったの?」


 「キミはわたしを超える天才。10歳にして、わたしの全盛期を上回る勢いだ。()()()()()()()()()()()キミが育ったら……一緒に魔女討伐も良いかも知れないね」

 

 「……うへぇ、責任重大だ。でも、おししょーさま……何だかんだ言いつつ、双子のお兄さんが好きだったんだね」


 「……言っている意味が分からないが?」


 「だって……魔女討伐するのって、お兄さんの仇を討つためでしょ?」


 「違うけど?」


 「まあ、そう言う事にしとくよ。ボクも『抜剣術』の習得よりも、『神聖術』を学ぶ方が好きだし……ボクが夢を叶えてあげる。ねえ、プラムししょー」


 「ふふ、やはりキミは最高の弟子だよ……」


         *


 プラムの『ステータスアップ』の恩恵もあり、Dクラスの面々は本隊から遅れる事なく進行する事が出来た。


 聖剣士は『抜剣術』の習練や、戦闘力強化の鍛錬など……生涯をかけてそれらを追求していく者たち。


 聖剣によって全てが決まるこの世界において、神聖術の重要性は低く……


 プラムが行った神聖術(こと)の凄さも分からず、Dクラスの生徒たちは、ただ少しでも進行が楽になった事に安堵していた。


 いや、それをやったプラム自身も凄い事だと自覚していない様子だ。


 この世界において、神聖術とはどこまで行っても『後方支援術』でしかなく……極めたところで、聖剣教会の教会員になるくらいしか道がない。


 中々に不遇な才能であった……。


         *


 そんなこんなで、遠征隊は大した問題もなく、目的地──ゴリアン地帯に辿り着いた。


 遠征隊は〝瘴土〟の手前に陣を張り、『魔物討伐』の準備を始める。


 日が沈んでからゴリアン地帯に到着したため、討伐開始は夜が明けてからと言う事になった。


 ユランがラティアスに言っていた通り、瘴土からは強力な魔物が生まれ辛いため、警戒心も薄く、見張りに立つ人間は極小数……


 見張りの仕事のない者たちには、ある程度の自由行動が許されていた。


 そんな状況であるため、討伐隊のメンバーの殆どがハメを外し、娯楽などに興じている。


 引率の講師陣の中には、酒を飲んで酔い潰れる者までいた……。


 勿論、これまでの道のりで疲れの溜まっているDクラスの面々は早々に床に就いている。


 皆、騒ぐ元気もない様子だった。


 「……緩みすぎてるな。奇襲に遭ったらどうするつもりなんだか」


 ユランは、Dクラスのキャンプで火の番をしながらそんな事を呟く。


 強い魔物が出ないと言っても……ここは、言わば敵陣の目の前なのだ。


 気を抜いて良い場所ではない。


 ユランは魔物たちの奇襲を危惧し、寝ずの番をするつもりでいた。


 まあ、ユランたちのキャンプは、陣の中でも最後尾。


 急襲に遭ったとしても、それほど影響は無いのだが……


 野営地において、必要以上に警戒してしまうのはユランの癖の様なものだった。


 『まあ、それも()()()()()だろう。私が見張りを変わるから、少し休むと良い』


 「そうそう。お姉ちゃんがユーちゃんを守るから大丈夫だよ?」


 ユランの肩のラティアスと、隣に座るレピオがそんな提案をするが──


 「……いえ」


 ユランは頭を振ってそれを拒否し、陣の遥か前方を静かに見つめる。


 遠征の途中から感じている〝胸騒ぎ〟が収まらず、気の休まる感じがしなかった……。


         *


 何事もなく夜が明け、そのまま魔物討伐戦が始まるかと思われたが──


 決められた起床時間より随分前……日が登り始めたばかりの早朝に、陣の前方が俄かに騒がしくなった。


 「何か、前の方がうるさいね」


 夜通し火の番をしていたユランと同様、その隣で眠る事のなかったレピオが、小さく欠伸をしながら言った。


 「ああ、奇襲を受けたんだね。瘴土から自然発生した魔物は、日の出と共に動き出す場合が多いから」


 何でもない事の様にユランは答える。


 『……知っていたのに教えなかったのか。まったく、意地の悪い……』


 ユランの言葉に、呆れた様にため息を吐くラティアスだったが、それに対してユランは──


 「うーん。彼らは〝聖剣士見習い〟ですよ? こんな状況も想定して対処できる様にならないと。これもある意味、〝与えられた試練〟です。その証拠に……ほら」


 と言って、Dクラスのキャンプの少し前方を指差す。


 そこには、いつの間に紛れ込んだのか……従者たちのキャンプの中に、アカデミー講師たちの姿が見て取れた。


 ゴリアン地帯は緩い勾配の丘が幾つもある地形のため、ユランたちの位置から最前線の様子は確認できないが、大半の講師陣が後方に下がっているのだろう。


 無論、これはCクラスの生徒たちに『緊急時における戦闘経験』を積ませるため、講師たちが故意に行なっている事で……


 非常事態に備えて、前線の見えない位置に講師が待機して見守っている。


 ……何とも緩い話だった。


 「結局、この遠征の目的だって、Cクラスの奴らに実戦を経験させるためのものでしょうし……」


 ユランの言う通り、この遠征は言ってしまえば、Cクラスの面々のために用意された〝訓練の場〟なのだ。


 瘴土から出現する魔物は、最高でも『中級種』程度……


 それに、出現する魔物の数も多くて数十体ほどだ。


 Cクラスの生徒一人で討伐は無理な話だが、遠征に参加したCクラスの生徒数は100人以上──


 数に物を言わせれば、楽に討伐出来るだろう。


 「そんな事よりも、一番驚いているのは──」

 

 ユランは、前線の騒ぎなど全く気にしていない様子で、少し前方を見て呆れた様にため息を吐く。


 ユランの視線の先には……


 前線から結構な騒ぎ声が聞こえていると言うのに、少しも起きる様子もなく寝こけているDクラスの面々がいた。


 「『レベル0』とは言え……これが、聖剣士見習いであるアカデミー生の姿なのか?」


 ユランは、『思いっきり蹴り上げて起こしてやろうか』とも思ったが……


 まあ、起こしたところでDクラスは戦闘に参加する訳でもないので、そのまま放置する事にする。


 ……その中でも、プラムだけは既に起きていた様で、相変わらずどうして良いのか分からずにオロオロしていた。


 「ここまで魔物は来ないと思うけど……。一応、前線を確認しに行った方がいいかもな……」


 ユランが独り言の様にそう呟くと、それを聞いていたラティアスがニヤニヤと笑い──


 『それは何宣言なのだ? 主人殿(あるじどの)……。何だかんだ言いつつも、Cクラスの生徒たちが心配なのではないか』


 揶揄う様に言った。


 「……違いますよ。こっちに魔物が来ないとも限らないし、前線にはリリアだって居るはずです。Cクラスの奴らが心配な訳じゃなくて、リリアの事が心配なんです。リリアは急に強い力を手に入れましたし、自分の力を過信して足を掬われるかもしれません。それに、Dクラスが何もしなかったら、後で文句を言われるかもしれませんし」


 『……分かった分かった。照れなくても良い。まったく素直じゃないな。愛い愛い』


 「……降りてください」


 ペシッ!


 ユランは、肩に乗ったラティアスを軽く払いのける。


 その後も、ラティアスは揶揄う様に、ニヨニヨとした顔でユランの周りを飛び回った。

 

 だが、一通りユランの反応を楽しんだ後に、ラティアスは──


 『まあ、主人殿の代わりに私が見てきてやろう。『満を持して登場』など恥ずかしかろ?』


 そんな提案をした。


 「まだ言いますか……」


 ユランが口を尖らせてそう返すが、更には隣にいたレピオまでもが──


 「お姉ちゃんも一緒に見てきてあげる! ユーちゃんは皆んなが心配なんだよね? お姉ちゃん、優しい弟は好きだよ」

 

 揶揄い混じりにパチンとウィンクし、ニッコリと笑った。


 「レピ姉ぇまで……」


 完全に揶揄いモードに入った一人と一匹。


 ユランは()()()()()にジト目を向ける。


 その残った一人──妖精族(エルフ)の少女ニーナは、


 「わ、私は揶揄うつもりなんてないわよ! ちょっと、慌ててる姿が可愛いとは思ったけど……って! 何言わせるのよ!!」


 そう言って、なぜか怒り出し、顔を赤くしながらそっぽを向いた。


         *


 レピオとラティアスは、提案通り前線の様子を確認するために、Dクラスのキャンプ地を離れて行った。


 その直後──


 「ユラン、ここに居たのね。随分探しましたわ……」


 遠征開始から一度も顔を見せなかったリリアが、唐突にユランの前に姿を現した。


 他の──生徒会のメンバーなどは伴っていない。


 大方、生徒側の監督者や補助者として参加していたため、戦闘に参加する訳にはいかずに手持ち無沙汰になったのだろう。


 前線の様子を、ユランたち後方隊に伝えにきた様だった。


 ちょうど、レピオとラティアスの入れ違いになった形だが……


 リリアの登場により──


 ユランは突如として、強烈に〝嫌な予感〟に捉われた。


 リリアに返事を返そうとした、ユランの言葉を遮る様に──


 何かが突然動き出したかの様な──


 腹の底から迫り上がってくる様な──


 とんでもない〝悪寒〟……。


 刹那──


 世界が揺れた。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!


 地の底から響く様な、とてつもない轟音を立て、


 地面が──

 

 揺れる、揺れる、揺れる。


 立っていられないほどの地震……。


 地面が──


 割れる、割れる、ひび割れる。


 「リリア! ニーナ! プラム!」


 不安定な地面に足を取られながらも、ユランは叫び、近くに居た少女たちに向かって手を伸ばす。


 「僕の近くに……早く!!」


 ユランの叫びに応じ、皆、地面を這いながらも何とかユランの近くまで寄ってくる。


 余りの激しい揺れに、Dクラスの面々も飛び起き、地面に這いつくばる様にして地震に耐えた。


 それは、近くに居たCクラス生徒の従者たちも同様だ。


 「ユ、ユラン! これは何ですの!?」


 リリアは動揺を隠せず、ユランに問う。


 「これは──」


 ユランは〝この現象〟を知っている……。


 実際に体験した事がある訳ではないが、回帰前の世界で何度も伝え聞いた。


 そう、これは──


 魔族の王──


 『魔王』が誕生する時、その誕生と共に形成される城──


 「魔王城……」


 その誕生の瞬間だった……。

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