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【15】プラム

 「ジュラ様ですか? ジュラ・ハロルド・フォン・ダリア様?」


 『そうだ。あの()は、かつて私の従者だった娘……。ジュラから私の事を聞いていないのか?』


 小休憩が終わり、再び進行し始めた討伐隊一行。


 ユランの肩に乗るラティアスは、エルフの少女ニーナが自分の事を知らなかったのが不満だったらしく、口を尖らせて抗議する様に言った。


 ラティアス曰く、妖精族(エルフ)は『神竜の使い』として神竜(ラテアス)を古くから信仰していたらしい。


 さらに、その影響で、エルフには『竜神』を〝信なる神〟として崇めているものも多く、年々、聖剣の加護も弱まっているとも……


 ラティアスは、


 『聖剣とは人間の神──光の創造神ソレミアが齎した奇跡だ。信仰心がなければ次第にその力も弱まっていく』


 と語った。


 現に、エルフの王族には永年『皇級聖剣』以上の主が現れていない……。


 「ジュラ様って、〝初代妖精王様〟ですよね? 10000年以上前の人ですし……いくら私たちが長命だと言っても、生きてる訳ありませんよ」


 『むう……。あの小娘め……。後進には私の事をよく伝える様に言い含めておいたのに……。だから管理も行き届かず、私の『封印体』が不届者に利用されたのだ……』


 「初代様を小娘って……。ラティアス様は本当に『神竜』なんですね」


 王都での一件──魔竜バル・ナーグの事件の顛末については、すでにニーナには説明済みだ。


 ちなみに、ラティアスは「自分の子?」だと思っている者に対しては、敬称を使わない様に強いるが……ニーナについてはスルーしていた。


 と言うのも、ラティアスの「我が子?」判定は──


 ラティアスが『神竜』であると知った際には、流石にニーナも驚きを隠せない様子であったが……


 『おい、『神竜の巫女』よ……。私が神竜だと知ったのだから、先ほどの無礼な態度に対して何か言う事はないのか?』


 と言ったラティアスに対して、


 「私は〝竜神信仰〟ではないので。特には」


 と素気無く返していた。


 その事に憤慨したラティアスが、ジュラ──初代妖精王の名前を出して説教しようとしたのだが……それすらも適当に返されたのだ。


 『神竜の巫女とは、『神竜』を守護し、さらに身の回りの世話をする──言わば従者の様な存在だ。それがこの体たらくとは……。此奴はレピオの小娘と同様、私の〝娘〟には出来んな……。見たところ、私を全く敬っていない……。嘆かわしい、ああ、嘆かわしい』


 ニーナとレピオはユルユルのラティアスの「我が子判定?」に漏れた様だ。


 その後も、ラティアスはブツブツと小声で愚痴を垂れ流した。


         *


 「な、なあ……まだ休憩場所につかないのかな?」


 「ま、まだ歩き始めたばかりじゃない」


 休憩地から進行を開始して暫くすると、Dクラスの面々がそんな事を言い始める。


 まだ遠征が始まって1日目──


 さらに、まだ正午を過ぎたばかりの時間帯だ。


 音を上げるには、些か早過ぎる段階ではあるが……。


 「Cクラスのヤツらは良いよな……。馬車で移動なんだろう?」


 「……らしいわね。それを愚痴っても仕方ないわよ。アチラは『魔物』との戦闘が仕事だもの」


 「荷物持ちは辛いよ……」


 『荷物持ち』と言っても、殆どの荷物は馬車で運ばれるため実際にはただの荷物番だ。


 Dクラスの面々も、重い荷物を持っての進行と言う訳ではないのだが……


 馬車で移動するCクラスと比べてしまい、不公平感を持ってしまうのは無理からぬ話だった。


 「でもさ、いざとなったらCクラスの奴らや先生たちは……俺たちを守ってくれんのかな?」


 「……なさそうね。私たちは所詮〝無剣〟だもの」

         

 「ちくしょう……。俺たちだって好きで〝無剣〟じゃないのに……」


 Dクラスの面々は、愚痴りながらも先へと進んで行く。


 先ほどから疲れた様子を見せているが、歩きながら愚痴る元気はあるらしい。


 「人間って不思議……。疲れているのに話す元気はあるのね」

 

 遠征隊の長い行列の最後方、そこを行くDクラスや従者などの集団──その集団の中でも、更に最後方を歩くユラン。


 その隣を歩くニーナが、愚痴を吐くDクラスの面々を見てそんな感想を述べる。

 

 決して嫌味で言った訳ではなく、純粋に疑問に思っただけなのだろうが……。

 

 「……耳長が」


 その言葉が聞こえていたのか、Dクラスの一人が顔を顰めて小声で呟いた。


 本当は大声で嫌味の一つでも言いたいのだろうが、ニーナの横でユランが睨みを利かせているため、小声で呟くのが精一杯の様だ。


 ただ、その呟きは耳が良いニーナには聞こえていたらしく……ニーナは何とも言えない複雑な表情をしていた。


 遠征隊の伝来係に任命されたニーナだが、


 『最後尾まで伝令が終わったら、そのまま後方を守る様に』


 などと遠征隊長から指示されたらしく、今はユランたちと行動を共にしている。

 

 まあ、程よく厄介払いされた訳だ……。


 「ニーナ、大丈夫? 疲れた?」


 少しだけ沈んだ表情のニーナを心配し、ユランが声を掛ける。


 「いやいや、私は森の民──妖精族(エルフ)よ? この程度で疲れはしないわ」


 「……そう?」


 ニーナが努めて明るい声を出したため、ユランは『勘違いだったか』と嘆息するが──


 『主人殿、気にしてやるな。これは妖精族が排他的な所為で発生した……所謂(いわゆる)〝歪み〟なのだ』


 ラティアスにはDクラスの生徒の呟きが聞こえていたらしく、ニーナを一瞥した後にそんな事を言った。


 「……?」


 『分からないなら良い。とにかく、無理に気を遣えばこの子の為にならん』


 ユランにはDクラス生徒の呟きが聞こえていなかったため、ラティアスの言葉の意味が理解出来ずに疑問符を浮かべる。


 ──バタンッ!


 そんな時だ。


 ユランたちの少し前、Dクラスの集団──その中の一人が、突然地面に倒れた。


 早朝から歩き続けた疲労で、足がもつれた様だ。

 

 「レイナ! 大丈夫!?」

 

 倒れた生徒を心配し、Dクラスの面々がその生徒の下に集まってくる。


 「……」


 Dクラスの面々に恐れられているユランは、駆け寄るわけにもいかず、遠巻きにその様子を見ていた。


 「……ケガは無いようだ。立てるか、レイナ?」


 Dクラスの生徒の一人が、倒れた生徒に手を貸して立ち上がらせようとするが……


 「……」


 倒れた生徒は、へたり込んだまで立ち上がらず、疲れ果てた顔で手を差し出した生徒を見上げていた。


 いや、倒れた生徒だけでなく、Dクラスの面々は、皆その生徒と同じ様に疲れ果てた顔をしている。


 (……嘘だろ? こんなんで本当に大丈夫なのか?)


 ユランはその様子を見て、信じられないものを見た様な──驚愕の表情になる。


 (いくら『レベル0』だとしても、聖剣士見習いだろう? 半日程度歩いただけで、もう限界なのか? 信じられないほどの体力の無さだ。何より──Cクラスの従者たちの方が、余程元気な様子じゃないか……)


 ユランが考えた通り、既に限界と言った様子のDクラスの面々に比べ、同じ様に歩き続けているCクラスの従者たちは疲れた様子もなく、淡々と歩き続けている。


 従者の多くは『下級聖剣』の主だ。


 その従者よりも低い体力……。


 おそらく、Dクラスの生徒たちは、自分が『抜剣術』を使えない事を拗ねて、アカデミーに入学する以前から碌に訓練もしなかったのだろう。


 (『抜剣術』が使えない事よりも、他に色々と問題が多そうだな……)


 ユランはそんな事を考えたが……


 ユランや、その隣を気配を消して歩いているレピオ以外にも、Dクラスの中でたった一人だけ平気そうな顔をして歩いている生徒がいた。


 ……それは、意外にも、Dクラスの中で一番小柄で華奢な──体力など皆無そうに見えるプラム・アーヴァインだった。


 プラムは、倒れた生徒の側でオロオロとしていたが……やがて意を決した様に小さく頷き──


 「み、皆んな……た、大変そう……。わ、わたし、『ステータスアップ』使えるよ……。み、皆んなに掛けようか……?」


 吃りながらも、そんな提案をした。


 『ステータスアップ』は、全身の筋力を強化する、所謂『身体強化』の神聖術なのだが……


 「……あの、ちょっと良いかな?」


 それを聞いていたユランは、そんなプラムの提案に思わず口を挟んだ。


 周りにいたDクラスの面々は、近付いてきたユランに「ヒッ!」っと短く悲鳴を上げて後ずさるが、プラムだけは少し様子が違い、


 「ひ、ひえ! か、神しゃま!? な、なんで御座いましょう……?」


 『畏れ多い』と言った様子で、半歩引いてユランに問うた。


 (……ん? この子、いま私の事を神様って言ったか? いや、まさかな……。気のせいだろう)


 ユランは、それこそ、〝神を前にした敬虔な信者〟の様に恭しい態度のプラムを前に──


 「『ステータスアップ』は強力だけど、持続時間が短いし、ここで掛けても意味がないんじゃないかな? いつ何があるか分からないし、神聖力は温存した方がいいのでは?」


 声を掛けた理由を説明した。


 まだ遠征は始まったばかり……体力や神聖力などは温存しておいた方が身のためだ。


 「だ、大丈夫なんでしゅ……。神聖力の多さには自信がありましゅし……。わたしの『ステータスアップ』は〝永続効果〟なのでしゅ……」


 「……は?」


 若干、喋りが怪しくなっているプラムだが……そんな事よりも、ユランはプラムの言葉に驚き、思わず間抜けな声を上げてしまった。


 ユランが驚くのも無理からぬ話で──


 神聖術の〝永続効果〟とは、一度相手にその神聖術を掛ければ、半永久的に効果を及ぼすと言うものだ。


 術者が解除しなければ、効果が消える事もない……。


 効果中は、他の神聖術を使えないと言うデメリットもあるが、神聖力も最初の一度分しか消費しないため効率も良い。


 神聖術の〝永続化〟など、余程の才能──いや、『超超超才能』がなければ無理な話。


 それこそ、神聖術の才能に明るいリリアでも出来ない事だ。


 そんな事が出来るのは、ユランが知る限りでは回帰前の仲間──稀代の大天才神聖術士アニス・ハートだけだった。


 ユランは、プラムの顔を、目を皿の様にして見つめる内に……ある事に思い至った。


 (待てよ……。プラム・アーヴァインって、まさか……!)


 回帰前の世界で大天才と呼ばれたアニス・ハートだが、勿論、最初から神聖術の扱いが天才的だった訳ではなく……アニス・ハートにも神聖術を教えた師がいた。


 アニス・ハートの台頭によって、その名を大陸全土に轟かせる事になった──


 大天才、アニス・ハートの師匠……


 (プラム・シーザリオンか!?)


 家名が変わっているし、ユランは実際に会った事がある訳ではないので、その姿で判別は出来なかったが……


 (プラムという名前と、天才的な神聖術の才能……プラム・シーザリオンで間違いない)


 プラム・シーザリオンの存在を認知した事で、ユランの中にある心配事が浮かんだ。


 ユランは、遠征隊の先頭──遥か前方で護衛に当たるリリアの姿を思い浮かべる。


 回帰前の世界……


 人類最強シリウス・リアーネとなったリリア……


 ニーナ・フロイツ・フォン・ダリア……


 そして、後にアニス・ハートの師匠となるプラム・シーザリオン……


 奇しくも、回帰前の最終のメンバーと似た様な構成となった。


 (あまり良い予感がしない……。杞憂なら良いが……)


 Dクラス組に『ステータスアップ』を掛けるプラムを見ながら、ユランはそんな事を思うのだった……。

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