【11】青い剣
『ふむ……中々に興味深い。よもや、こんな所で〝神位〟の残滓と出会うとはな。これも龍神の導きか……。◼️◼️◼️の出現が近いこの時期に、遂に◼️◼️が現れたか──む? コレもNGワードだと?』
突然現れた人間体のラティアスは、顎に手を置き、一人でブツブツと呟き始めた。
「な、何者だ?」
自分専用の応接室に現れ、部屋の主人であるスコーピオンを完全に無視するラティアスに、スコーピオンは焦った様子で問う。
「曲者!!」
気配もなく現れたラティアスに面食らい、咄嗟に動く事が出来なかった初老の男が──
ハッと正気に戻ったかと思えば、目にも止まらぬ速さでサブウェポンを抜き放ち、ラティアスに向けて振り抜いた。
老いた身体には似合わぬ早業で、曲者の首を狙う。
──キンッ!!
その高速の剣を、ラティアスは右手の人差し指一本で事も無げに防ぐと、
『まあ待て。少し考え事をさせなさい』
その人差し指をクンッと折り曲げる事で、初老の男のサブウェポンを「バキッ!」と真っ二つにへし折ってしまう。
『主人殿が言っていた聖人はともかくとして……この子らだけで、◼️◼️◼️に対抗出来るのか? ならば、この残滓の元を辿るよりも、〝我が娘〟を◼️◼️◼️に近付けた方が良いのでは? えーい! またNGワードなのか! 伝えたい事が伝えられぬとは……何ともどかしい』
ラティアスが〝我が娘〟と言った時、リリアの方をチラリと見たことから、ラティアスの呟きの内容はリリアに関係する事なのだろうが……その呟きの意味が理解できる者はいなかった。
「な、何なんだ!? 部外者が勝手に我が宮殿に立ち入るとは! 不敬罪で即刻、処刑してやる!」
自分を無視して不遜な態度を取るラティアスに、スコーピオンはそう言って掴み掛かろうとするが──
『黙れ。少し、考えさせろと言っておろう』
ラティアスはぶっきらぼうに言うと、容赦なく(手加減はしている)『竜眼』を発動させる。
そして、
『お前たちは二人は、何も話さず、動かずに、大人しく見ておれ。私はこの子と話があるのだ』
スコーピオンと初老の男を『催眠』にかけて傍観者とし……黙って見ているだけだったリリアへと向き直った。
ラティアスは、身体から厳かな空気を醸し出し、『これから大事な話をする』と言った雰囲気を作ってから、口を開いた……。
『我が娘、リリリよ……』
「娘ではないですし、私はリリアです。もしかして、ふざけてます?」
初っ端から噛んで、肝心な部分を言い間違えた……。
*
ラティアスは、「おほんっ」と咳払いを一つしてから、改めて重要な話を始める。
『お前たちは、◼️◼️◼️◼️で◼️◼️◼️と◼️◼️◼️ねばやらん。私も◼️◼️◼️する◼️◼️◼️だが、◼️◼️◼️◼️──こら! ◼️◼️◼️よ、私で遊ぶでない! 今、大事なとこ!!』
ラティアスはノイズがかった様な不思議な声を発したかと思えば、突然、天井に向かって何かを叫び、ぷりぷりと怒っていた。
「一体、何なんですか? 突然現れて、意味の分からない事を……」
リリアが呆れた様子でため息を吐くが、ラティアスはいたって真剣な様子で、
『お前は、主人殿と同様、〝大事な使命〟を持って生まれた子だ。お前に与えられた『聖なる剣』は、◼️神◼️を打ち倒すための神剣。お、ワードが少し解禁されたな……。まあ、とにかく、お前にも力を付けてもらわねばならん』
「……」
リリアは思う。
『そんな事は、貴方に言われなくても分かっている』
リリアは、周りの人間だけでなく、ラティアスまでもが、成長できないリリアに対して『出来損ない』のレッテルを貼ろうとしていると邪推した。
「そんな事は言われずとも……。才能のない私は、もっと努力すべきだと言いたいのでしょう? 成長できなければ役立たずだと……」
リリアは、自分の不甲斐なさに歯噛みし、拳を強く握り、俯いてしまう。
そんなリリアに対して、ラティアスは──
『ああ、私が言いたいのはそう言う事ではない』
「はっは」と、リリアの落ち込んだ気持ちを笑い飛ばす様に軽快に言った。
それを聞いたリリアは、益々、馬鹿にされている様に感じてしまい、
「では、何ですか? 成長の見込みがないのだから、さっさと諦めろとでもおっしゃるおつもり? 私の気も知らないで……」
ラティアスに噛み付いた。
『自分の力で頑張って行こう』と心に決めたのに、身内であるはずのラティアスに、自分を否定された様に感じてしまったからだ。
ラティアスは、そんなリリアの言葉を受けて、更に軽快に笑い飛ばすと──
『私が言いたいのは……力を得たいのなら、〝利用できるモノは何でも利用しろ〟と言う事だ』
と言って、「むんず」とリリアが握っていたブラッドソードを奪い取った。
『ほほう。お前の『強さを求める心』に反応しているな。私の言葉で心が動いた証拠だ』
ピシ──
『仕様もない◼️◼️だ。自らの〝使命〟も忘れ、暴れ回って得た結果がこれか?』
ピシピシ──
ラティアスは、〝ここには居ない誰か〟に話しかける様に、少しだけ声を低くして怒りを露わにする。
ピシピシピシ──
そして、ラティアスがブラッドソードを握ると、そのの表面に段々とヒビ割れが発生していく。
そのヒビ割れは、やがてブラッドソードの全体へと巡り……
──バギンッ!!
一際大きな音を立て、粉々に砕け散った。
いや、そうではない。
ブラッドソードの表面が砕け──
中から、美しい、青色に輝く『一本の剣』が現れた。
*
『ふふ、◼️◼️の呪い如きで、私の〝浄化〟に抗える訳はないだろう』
ラティアスはそう言うと、『青い剣』をリリアの方へと差し出し、そして、
『言ったであろう? 利用できるモノは何でも利用すべきだ』
と、笑う。
ラティアスの真意が分からず、戸惑うリリアであったが、そんなリリアを見てラティアスは優しげに笑うと──『青い剣』について説明する。
『この剣の名前は分からんが、コレには『持ち主を導く力』がある。『誰かを導く事』……それがコレの元々の持ち主の意思の様だな』
「つまり、どう言う事なんですか?」
リリアは、ラティアスが言っている言葉の意味が分からずに、戸惑うばかりだったが……
『お前が望む、〝力〟を与えてくれる剣と言う事だ』
ラティアスの言った言葉……
そして、『利用できるモノは利用すべき』という言葉を信じ、リリアは──
何かに導かれる様に、『青い剣』を、握った……。
「あ…………! あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
リリアは思わず、叫び声を上げる。
痛い。
痛い。
痛い!!
「ちょ! ラティさん! 何か、だいぶ痛いんですけど!!」
『ああ、ごめんリリリ。言い忘れていたよ……。それ、ちょっと痛いぞ?』
「遅い!! そして、私はリリアです!!」
「ぐおぉぉぉ」と乙女らしからぬ声を上げ、リリアは地団駄を踏んだ。
「何か、常に鋭利な刃物でツンツン──いえ、ガンガンされてる感じなんですけど! どうやったら収まるのですか!?」
『……え? 知らないよ?』
「ぶっ〇しますわよ!!」
リリアの悲痛な叫び? が、応接室に響き渡った……。
*
【おー、何か久しぶりに表に出た感じね。清々しくはないけど……】
突然、リリアが握っていた『青い剣』から、そんな女性の声が聞こえた。
どことなく、リリアに似ている声──リリアの声を、少しだけ大人にした様な声だ。
「うがぁぁぁぁぁ」
『リリリ、ファイト! 女の子が出しちゃいけない声が出ているぞ! 為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけりだ!!』
「リリア!! そして、何の言葉ですかそれは!!」
『……古代語だ』
「心底、どうでも良いですわ!!」
剣がもたらす『微妙に耐え難い痛み』に、リリアは悶絶しながら大声を上げる。
そして、ラティアスは、応援なのか煽りなのか分からない言葉を掛け、リリアを激励している。
【あの……? 剣が喋ってますよー? 驚かないんですかー?】
などと、『青い剣』がリリアたちに声を掛けた。
しかし、それどころではないリリアは、
「のおぉぉぉぉぉ」
完全に乙女を捨て去った声で叫び続けているし、ラティアスに至っては、
『『紅い剣』の状態なら、もっと痛かったのだぞ! 序の口序の口。リリリはお母さんの子なんだから、もっと頑張って! もー、この子も私が付いてないとダメなの? 本当にもう』
「急なお母さんムーブやめろ!!」
などと、完全に煽りにしかならない──いや、挑発めいた言葉をリリアに送っていた。
【……】
完全に無視された形の『青い剣』は、ムッとした顔(多分そう)をして──
【……えい】
静かにそう言うと、リリアの痛みを消した。
「うぎ──え? き、急に痛みが……消えた??」
『……ちっ』
「え? 今、舌打ちしましたわよね? どう言う事ですの?」
『お母さんは寂しい……。リリリの痛みに歪む顔が好きだったのに……』
「ぶっ〇しますわよ!」
痛みから解放されても、結局無視される『青い剣』だった……。




