表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/49

6話 探せ、解除の方法を

ブクマ41件、ありがとうございます!

 レオナードが光輝の英雄となって六年後、ディリウスは騎士団に入った。騎士団長は当然別の者になっている。

 ディリウスの、レオナードと共に魔物と戦うという夢。それはもう叶わなくなっていた。


 ディリウスは叔父を誰より尊敬している。

 強くて、明るくて、優しくて、見た目にも格好良くて、太陽のような人だった。

 人を惹きつけ楽しませる才能の持ち主で、誰も彼もがレオナードに魅了されていたのだ。

 己の好きな人でさえも。


 自慢の叔父であると同時に、ディリウスは嫉妬してしまっていたのも確かだった。

 レオナードの凄さは、本人の努力の賜物であることはわかっている。

 せめて剣の腕だけは負けないようにと、毎日のトレーニングを欠かしたことはない。

 けれど、光輝の英雄となったレオナードは、ある意味神格化されていた。たとえ彼より強くなっても、認められはしないだろう。それがなにより悔しい。勝ち逃げされた気分だ。

 優秀だった叔父を、いつかは全て超えてやろうと思っていたのに。


「……けど見た目はどうしようもないか」


 ローズマリーを家に送り届けた後、ディリウスは自室の鏡を覗いていた。

 燻んだ灰色の髪に、冷たい氷のような瞳。

 両親も兄も叔父も、みんな華やかな金髪で鮮やかな瞳を持っているのに、自分だけが異質だ。おそらく隔世遺伝だろう。

 第一王子があのような風貌でなくて良かったと、誰もが口を揃えて言っているのを知っている。

 ローズマリーだけは霧雨のように綺麗な髪だと、透明感のある空色の瞳が素敵だと言ってくれたが。


 そのローズマリーは、物心ついた頃から今もずっと、レオナード一筋である。

 レオナードが光輝の英雄となった時は、ローズマリーだけが泣いていた。

 もちろんディリウスも、叔父がいきなりエメラルド化した時には面食らったが、それだけだ。

 この国では、光輝の英雄は素晴らしい誉だと教育されている。だから誰もが喜び、泣いたりなんかしない。それが普通だ。

 レオナードがエメラルド化し始めた時は、叔父ならば当然という気持ちもあったし、心のどこかでホッとしてもいた。

 これでもう、ローズマリーがレオナードと結婚する可能性はなくなるのだと。


(まぁ、あいつはまったく諦めなかったわけだけどな)


 当時の浅はかな考えに、ディリウスは一人苦笑する。

 正直、ローズマリーが泣いていた意味が、ディリウスにはわからなかった。

 けれど、あれだけ泣いているのを見ていると違和感に気付けた。これは理不尽なことなのだと。


(優秀な人材がエメラルド化することで、国は不利益を(こうむ)っている)


 実際、レオナードが光輝の英雄となった後、騎士団は混乱した。これが魔物討伐の最中だったなら、負けていたかもしれない。

 他にも優秀な者ばかりが光輝の英雄となっていて、経済的・社会的・政治的影響は計り知れない。本来活躍するはずだった者が、ある日突然動けなくなってしまうのだから。


 レオナードがエメラルド化してからも、騎士団から光輝の英雄が誕生している。

 その度に魔物と交戦する力が低下するのだ。

 もしこのまま英雄が増え続けば、ジリ貧になるだろう。女神のせいで、この国は滅びてしまう未来があるということだ。


(なんで女神はこんなことをする? 気に入った者を次々に奪っていいと思ってるのか?)


 こんな疑問は、泣き叫ぶローズマリーを見なければ浮かばなかったことだ。

 (ほまれ)だと信じて、理不尽さなど感じなかったに違いない。

 今は次々と英雄が砕けていき、ディリウスは女神に不信感すら抱いていた。

 レオナードがエメラルド化したのは百歩譲って許すとしても、砕け散るのはさすがに許せない。なにより、ローズマリーの落ち込む姿など見たくはない。


 対策を考えていると、父王であるアルカディールから北の祈りの間へと呼び出しがかかった。北の祈りの間は、奥まっていて誰も利用しない場所だ。

 訝りながら向かっていると、途中で兄のイシリオンと一緒になった。

 北の祈りの間に進むにつれ、長い廊下は徐々に暗くなっていく。

 いつもと違う空気を感じながら、二人は祈りの間に足を踏み入れた。


「来たか、イシリオン。ディリウス」

「お父様。こんな城の端の祈りの間で、一体どんなご用が?」


 イシリオンに続いてディリウスも中へと入る。

 普通祈りの間には女神のレプリカが置かれているのだが、ここにはない。

 説教壇がぽつんとあるくらいで、椅子すらもないのだ。だからここは誰も使用することがない。

 掃除はされているので部屋は綺麗だが、どこか空気が澱んでいる気さえした。


「ディリウスも二十歳を過ぎた。これから二人に伝えねばならぬことがある」

「なんでしょうか、父上」


 親子でいる時はいつもにこにこと明るい父が、今日は大真面目な顔をしている。


「ついて来い」


 そう言って、説教壇の奥の壁へと向かって進む国王。何をするつもりかとついていくと、アルカディールは壁に手を置いた。


「手を動かさず十秒待つだけだ。さすれば中に入ることができる」

「「……は?」」


 もうボケてしまったのだろうかと、ディリウスは兄と顔を見合わせる。

 そうこうするうちに、アルカディールが壁の中へと消えてしまった。


「お、お父様!?」

「父上!!」


 壁の中へ消えるなんて尋常じゃない。

 もう一度顔を見合わせて頷くと、二人は壁に手を当てて十秒待った。

 すると壁は見えているのに、壁の感触が消えて手首から先が見えなくなる。


「行こう、兄上」

「ああ」


 二人は意を決し、壁の奥へと進んだ。

 中では両開きの扉の前で、アルカディールが兄弟に向かって口を開く。


「ここは、開かずの扉だ」


 見たことのないデザインの、重厚さと古めかしさがある扉。

 奥からは、コオォオオッという不気味な音が響いていて。

 あるはずのない冷たい風が、体にまとわりつく。

 そんな中でディリウスは、一人笑っていたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作の長岡更紗作品はこちらをどうぞ!

ドアマット悪役令嬢に転生したようです。婚約破棄されたけど、騎士団長に溺愛されるルートは可能ですか?

行方知れずを望んだ王子と、その結末 〜王子、なぜ溺愛をするのですか!?〜

悪役令嬢です。婚約破棄された婚約者から「お前は幸せになれ」と言われたんだけどどうすればいい?

男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

もっと読みたい方はこちらから✨
ポチっとな

サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

男装王子の秘密の結婚
せめて親しい人にくらい、わがまま言ってください。俺に言ってくれたなら、俺は嬉しいですよ!
フローリアンは女であるにもかかわらず、ハウアドル王国の第二王子として育てられた。
兄の第一王子はすでに王位を継承しているが、独身で世継ぎはおらず、このままではフローリアンが次の王となってしまう。
どうにか王位継承を回避したいのに、同性の親友、ツェツィーリアが婚約者となってしまい?!

赤髪の護衛騎士に心を寄せるフローリアンは、ツェツィーリアとの婚約破棄を目論みながら、女性の地位向上を目指す。

最後に掴み取るのは、幸せか、それとも……?

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 騎士 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
[良い点] ディリウスの拗らせながらも真っ当な王子の雰囲気が好みです。 神秘的な謎や秘密が多い世界観、とても興味深く、面白く拝読しています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ