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第二王子を奪おうとした、あなたが悪いのでは。  作者: 長岡更紗


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38話 意地っ張りディル

 手にしてしまった強大な力に慄いていると、二人の大切な人から視線が注がれていることに気づく。

 ローズマリーはハッとして、慌てて笑みを見せた。


「大丈夫よ。この力があれば、奪われた寿命も戻せるわ!」


 アナエルが奪った寿命は、まだアナエルの中にある。

 このまま放っておくわけにはいかない。


「いいわね、アナエル。寿命は元の人達に戻させてもらうわ」

「わかった。好きにすればいい」


 ローズマリーは、魔法力で紡いだ糸を、アナエルから光輝の英雄たちとレオナードに繋げた。

 アナエルが奪った寿命を逆流させると同時に、砕けていた光輝の英雄たちがあっという間に砕ける前の姿へと戻っていく。

 糸をつたってキラキラと戻る寿命は、レオナードの体にも吸い込まれていて。


「レオ様……!」

「ああ……なんとなく、寿命が戻ってるのを感じる」

「良かった!!」


 これでようやく、ローズマリーの憂うことは全てなくなった。

 ローズマリーが飛びつくと、人として生きられる喜びを噛み締めるように、レオナードは抱き締めてくれる。


「ありがとうな、ローズ」

「良かった……戻って、本当に……!!」


 ローズマリーの背中へと、力強く回される腕。

 レオナードの喜びが感じられると、十年という長い年月をこのために過ごしてきたのは、無駄ではなかったと思える。

 感慨無量のまま、ローズマリーは大好きなレオナードをぎゅっと抱き締めた。

 大きな手。感じる体温。息づかい。


(レオ様の香り……懐かしい……)


 髪も目も声も、全てがあの頃のまま。

 大好きで大好きで、何度も結婚するんだと思い描いていた相手が、今ようやく命を取り戻した。

 その事実に、また涙が溢れそうになる。

 レオナードの手は、いつの間にかローズマリーの頭を撫でていた。昔に戻ったようでくすぐったい。

 ふと見るとディリウスはヴァンを抱き上げていて、目が合うとほんの少し目を細めて笑った気がした。


「私達がエメラルド化した者達は、どうするんですの?」


 パラドナの言葉にローズマリーはレオナードから離れると、ずらりと並べられた光輝の英雄達を見る。


「もちろん、元に戻すわ。もうこの国に光輝の英雄は必要ないもの。私はこの魔法を最後に、二度と魔法は使わない」


 そう言うと、ディリウスの腕の中のヴァンがみーみーと鳴いた。

 使わないと宣言したものの、ヴァンの訴えがわからなくなるのは可哀想だ。


「ま、まぁ、もしかしたら人にバレないくらいには使うかもしれないけど……」

「ヴァンと話すくらいなら、問題はないだろ」

「そ、そう?」


 本当にディリウスはいつでもローズマリーの味方をしてくれる。

 ほっと息を吐いていると、今度はレオナードが難しい顔で呟いた。


「しかし、力を持っていて使わないというのは、実際には難しい話だ」


 その言葉にはローズマリーも頷かざるを得なかった。

 例えば、大切な人が怪我や病気をしたとして。魔法なら救える状況で、使わずにいられるだろうか。


「もしローズがその信念を貫き通したとして、力を持っているくせに何もしないと逆恨みされる恐れがある。それに我が王家もそうだが、各国が黙っていないだろう。ローズを利用しようとする者が、必ず現れる」


 これだけの強大な力だ。自国に取り込むために、強硬手段を取る国だって出てくるに違いない。

 これから光輝の英雄を全員解放するつもりなのだ。人々は聖女がしたことだと判断するだろう。

 アナエルやローズマリーも魔法を披露してしまっているので、今さら魔法などないなんて言い訳は通用しない。どうすべきかと考えを巡らせる。


「他国に奪われる前に、アルカド王国の王家に(ゆかり)のある者と結婚すればいい」


 レオナードとは違う、若い男の澄んだ声。

 一番耳に馴染みのある声の主に、ローズマリーは目を向けた。

 腕の中のフェンリルがぴょんと飛び降り、ディリウスは行き場を失った手を下ろしながらローズマリーと視線を交わす。


「王家の者と結婚すれば、他国は簡単に手出しできないからな」

「まぁ、それが最善だろうな」


 レオナードがディリウスの意見に賛成する。

 王家の者と結婚という言葉に、ローズマリーの心臓はどくんと鳴った。

 そんなローズの気も知らず、ディリウスは続ける。


「レオはこの十年、光輝の英雄となっていたから二十八歳のまま変わってないんだ。二十歳になったローズとの釣り合いも取れるだろ」


 どくん、どくんと胸はそのまま鳴り続けた。

 ほんの少し向けられたディリウスの笑みが、ローズマリーの心に突き刺さる。


「待ってくれ、ディル。俺がローズと結婚する必要は──」

「レオ」


 鋭く低い声で、レオナードの言葉を遮るディリウス。優しいはずの空色の瞳が、冷たくレオナードを睨んでいる。


「ローズがレオに求婚した時、言ってただろ。『ローズが大きくなった時、今と同じ気持ちなら考える』って。ローズは二十歳になったんだ。考えるべきは今だろ」


 いつになくきつい口調のディリウスは、今にも剣を抜きそうなくらいにピリッと殺気立っていた。

 胸が重く、苦しい。ディリウスはレオナードとローズマリーを結婚させるつもりでいる。


(私がそう望んでたんだから、当然だわ……ずっと、ディルは応援してくれてたんだもの……!)


 十年もの間応援してくれていたというのに、今さら結婚したいのはレオナードではない、だなんてことは言えない。

 ディリウスには想い人がいるのだから、急に幼馴染みにそんな目で見られても困らせるだけだ。


「そうだったな。こんなに綺麗になったローズを見て、心が動かない方がおかしい」


 レオナードが隣に来たかと思うと、顎をくいっと上げられる。

 視線が強制的にレオナードへと向かされて、顔が勝手に赤くなった。


(もう、私ったら! 好きなのは、ディルなのに……!)


 そうは思っても、長年の恋の相手を簡単に振り切ることなんてできない。


「ローズの求婚を断るバカは、この世にいない」

「レオ様……」


 ふっと笑ったレオナードの手は顎から離れ、ディリウスへと顔を向けた。


「本当にいいのか? 俺がローズをもらっても」

「……そのためにローズはずっと頑張ってきたんだからな」


 間があったのは、ほんの一瞬だけで。

 無表情のディリウスに、レオナードは笑いかける。


「意地っ張りなところは、成長しても変わらないと見える」

「なっ」


 焦るような顔をしたディリウスに、レオナードは近づいていき……


「優しいところも、な」


 ディリウスの頭にポンッ、と手を置いた。

 わしゃわしゃと撫でられて子ども扱いされるディリウスは、何かを言いたそうにしていて──しかし、何も言葉に出すことはなかった。

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