どこかへドア-d o o r n o w h e r e-
開いていただきありがとうございます。
早速ですが、皆様は「想像と現実ってギャップがある」
ということを感じたことがありますか?
想像>現実と現実>想像。
どちらもよくあることだと思っていますが
私は主に前者を体験しています。
このお話はその感覚を
「体験したくないけど、読む分には丁度良いかな。」
という匙加減で書きました。
本編は短くサクッと読めると思いますので、
最後まで読んでいただけますと幸いです。
もし、自分の目の前に鍵のかかって無いドアがあったらどうするのか。
入る?入らない?
僕、都平 明は入るだろう。
「初めてのドアなら未知があると思うし。」
目の前のドアはスライドドアのようだが、その先はどこで、何のために入るか。
わかる?わからない?
勿論わかってる。
記憶が正しければ目の前のドアの先はトイレ、
寝起きの僕は用を足したいから入るのだ。
って、そんな当たり前のこと考えるまでもない!
…普段ならね。
よせば良いのに、その時の僕は
「入るまでは本当に自分の思った場所に繋がっているのかわからないかも。」
なんて思ったんだ。
--しまった--
声にはならなかった。
その時、僕は海抜約4000メートルの上空から落下した。
頭と手足が大気を切り裂く、耳に風の音が詰まる、股の辺りがヒュンとする。
それぞれの感覚がこれは現実だと無常に告げる。
「ここは!?寒い!!というか痛い!!!落ちてる!?!?」
一通り叫んでから何かに気づいたように目を閉じ
咄嗟に手で口を押え、息を止めた。
手遅れかもしれないがこの空気は吸っても平気だろうか?
恐る恐る手を動かし、唇を少し開け、息をする。
「呼吸は…できる、風がキツイけど…!」
目を開け、少しクビを傾げ、光源を探す。
「太陽は---1つっ!
月は---見えないっっ!!
時間はぁ、たぶん朝ぁぁぁ!!!」
そのままぐるりと回転した。
不幸中の幸いか、上空には飛行機のシルエットがちらちら瞬いており、
すぐ下にはカラフルな団体さんが雲が散らかった地表の上に漂っているので、
一応ここは地球と判断して良いみたいだ。
「でも、どの辺かぁ、特定できないなっ!」
こんなことがあるならもっと地理の勉強しておくんだったな。
「あってたまるか。」
即座に思ったことにツッコむ。少し落ち着いた、と思う。
十中八九さっき見た飛行機から落ちたのだろうが、
こちとらパラシュート無しどころかTシャツ短パン素足のスカイダイビング中だ。
だけど、なぜかメガネは飛んでいかない。
「それは変じゃないか?」
さらに状況にもツッコむ。かなり落ち着いてきた、と考えることにする。
しかしその分だけ、体の警報が強く鳴り響くみたいだ。
このままじゃ墜落して死ぬだろう。
「不味い、どうしたものかよ、この状況は。」
嵐の日の風車のように思考がガタガタグルグルと高速回転している中、
また少し瞑目した。
僕はトイレに向かっていた。
このトイレは先日、両親が「これからはバリアフリーだ!」
と張り切ってリフォームした新品だ。
その新品という言葉に少し浮かれながらスライドドアを開き、
意気揚々と踏み出したところで現在に至る。
思い返しても意味不明だ。
「兎に角、此処に来たみたいにドアか何かを通らないと帰れないだろう。」
緊急事態につき強引に結論づける。
目を開け、改めて地球側を改めて確認する。
すると視界にカラフルな団体さんが映る。もう手を伸ばせば触れそうな距離だ。
様々な編隊を組みかえている。
でも…だれも僕のことは見えてないみたいだ。
「すごく、楽しそうだなぁ。」
素直にそう思えた瞬間、目頭が熱くなったのを感じた。
その刹那希望が閃き、願いと祈りが沸き上がる。
「編隊…?もしかして!」
複数人のダイバーが集まってやっていたあの
空恐ろしくも楽しそうな様子をすっと思い出した。
いつかどこかで見た光景に冷え切った体にも熱がともる。
「円状になるかも!!」
上手くくぐることができれば、ここ以外に行けるかもしれない!
気持ちが昂る。
だけど同時に、不安が滲んでこみ上げる。
「この速度で?下に向かって?入れても激突しないか?そもそも成功するのか?」
息が止まりそう、空の上なのに溺れそうだ。
それでも試し、あがくのか。
試す?試さない?
試す!今を生き伸びるためには、もしなんて未来の不安は投げ捨てるよ!!
意を決し、飛び込む姿勢になる。
想像通り、円を描き始めた団体さんの中心へと近づく。
実際は数秒もないはずなのに非常に長く感じる。
円が形成されるタイミングに間に合った!
指先がもう円に届きそうだが、これ以上調整できないみたいだ。
さながらドリップコーヒーの最後の一滴か、カタツムリの観察映像か。
もどかしい、しかも彼らがいつ手を放すか気が気じゃない。
さらにこの様子を見えてないだろうが、見られているような状態だ。
僕は焦りと羞恥心でぎゅっと目を閉じた。
風の音が出て行った。
--いてっ--
声は出なかった。
その時、僕はトイレに逆さまでハマった。
暖かい室温を感じる、どうやら自宅の便座に繋がることができたらしい。
…ひっくり返っているのに股間が冷たいことに対して今は考えたくないので、
体を起こしながら助かった理由を振り返る。
スカイダイビングは時速約200キロにもなるというのに。
「多分、相対速度かな。」
ドアを抜けた速度はドアと僕の速度差になると仮定すれば
通過する瞬間はカタツムリ程度の遅さだったことを踏まえると、
便器に高速で激突せずに済んだのだ、と今回の件はそう結論づけることにする。
少し震える足でゆっくり立ち上がる。
「今度からはスライドドアにも注意しなきゃなぁ。」
そうつぶやき、僕はカラフルな団体さんに感謝しつつ、風呂場に向かった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
初めて書いたので小説になってるか不明ですが、
楽しんでいただけたのなら幸いです。
まえがきのおまけとして
想像、思い込みというのは恐ろしいもので、
執筆中、すでに描写したシーンの裏付けを調べなおしていたら、
想定してたことと全然違うなんてことが”まあまあ”ありました。
ですので、もし妙な描写を見かけましたら、どんな小さなことでも
そういう世界なのだとご納得下さい。
それではまたどこかでお会いできるのを楽しみにしております。




