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魔王  作者: みっしぇる
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スカルド

GTR、まだ使う必要ができた。サンタモニカまで疾走した。目の前の高層ビル、いつも通りのビルだった。スーツを着たキャリア達の天国、エレヴィターに乗った。ロジャックの仕事場に 向かった。製図室、いなかった。総合開発室、いなかった。企画課、財務課、法務課、探し回った。どこにも姿がなかった。


携帯の振動――耳にあてた。


「ジュ、シュウイチか」


ロジャックは声の調子はおかしい。何かに怯えている。


「ああ、お前、どこにいるんだよ」


「うっ、上だよ。研究煉だ」


感じた違和感――携帯を持つ手に力が入った。


「なんでお前そんなとこにいるんだよ。普段、近寄らねぇじゃねぇか」


「み、ミスなんだ。おっ、俺が、よ、ヨシノの、の、だ、大事な薬品を、落っことしちまったんだ」


筋は通っていた。はるかを憎むロジャック、何か愚にもつかないガキの悪戯をしかけようとしてしくじった。その尻拭い には俺という存在が最適だった。だがどこか筋が通っていなかった。そんなことで五十万ドルを出すわけがなかった。


「テメェ、俺を騙してるんじゃないだろうな」


「そっ、そんなわけない、だろ」


違和感、確信に変わった。ロジャックは嘘をついていた。俺をハメようとしていた。だが、ずっと温室育ちのクソ白人に負ける つもりはなかった。打ち勝てる自信があった。


俺は研究煉に向けて足を動かした。エレヴィターに乗った。最上階、はるかの王国、皮肉だと思った。何が皮肉なのかは わからなかった。ただ感じただけだった。



エレヴィター、降りた。静やかな青銅の世界、蛍光灯の強烈な光、何も変わっていないはずの世界、何かがおかしかった。 何かが俺に訴えていた。悪魔の俺が俺に向かって警告を発していた。

持ってきたドラック、カプセルをためらわず飲み込んだ。禁断症状――ドラック中毒。後で克服してやる。俺は ちっぽけなクスリに負けるはずがなかった。俺は暗黒の世界に居る存在だった。


閉じきった無機質な個室達、だが、一つだけドアが開いたままの個室があった。俺はそこから異質なにおいを感じ取った。 俺と同じにおいがした。俺自身がいると思った。愚にもつかない妄想だった。


「たっ、頼む……助けてくれっ!」


ロジャックの悲鳴が個室から聞こえた。誰かに許しを乞う声だった。トカレフを取り出した。銃身をスライドさせた。金属音が 相手に聞かれるかと思うと舌打ちした。


個室、ネームプレート、全ての意味が理解できた。そこはスカルドの部屋だった。


ゆっくりと銃を中段に構えながら部屋に入った。部屋には電気がついていなかった。ドラックの力、クリアになっている神経が俺の 眼球に力を与えた。闇を切り裂いて部屋の様子を見ることができた。血と臓物の異臭、誰かがバラバラに刻まれて死んで いた。女だった。メノンだった。何度も刃物を突き刺されたようでボコボコと身体に穴があいていた。


ロジャックは両腕を縛られて床に転がされていた。頭をふみつけられていた。ふみつけている男は血の涙を流していた。毛細血管が 破裂して眼球が血に染まっていた。スカルドだった。


「やぁ……来たのかいシュウイチ」


優しい声、震える声、気弱なスカルド――変わってはいなかった。だが、冷気が差し込んできた。


「お前にしちゃ派手なことするじゃねぇかスカルド」


「驚かない……んだね。僕、メノンを……人を殺した時、泣き続けたよ。身体から全ての水分がなくなってしまうかと思った」


スカルドの口元、血がこびりついていた。スカルドの血ではなかった。誰かの血だった。誰かの血を飲んでいた。誰かは メノンだった。


スカルド、トチ狂っていた。


「僕、借金までしてたんだ……食べるもの、けずって、精一杯……働いたんだ」


俺は舌打ちした。スカルドを救ってやろうと思った。メノンの呪縛からは解き放つことができた。だが、スカルドはひ弱 な存在だった。もう引き返せないぐらいのところまで堕落していた――俺と似ていた。


「シュウイチ……君が、メノンのことを気づかせてくれたんだ……それは、礼を言うよ」


「イカれちまったようだなスカルド、遅かれ、早かれ、お前は破滅する運命だったようだ」


「運命か……僕はさ、このブタ野郎のアレをメノンがしゃぶっているところまで見せられた時は死のうと思ったよ」


ロジャックを強くふみつけた。ロジャックは苦痛の声をあげた。気にはならなかった。


「またクスリやってんのか」


「うん……僕はさ、君が羨ましかった!」


パァンッと渇いた音がした。スカルドのオートマチック、鉛弾はロジャックの頭蓋に食い込み、ロジャックを一瞬で絶命させた。


「なんでそんなに恵まれているんだよシュウイチ……羨ましくてしょうがないよシュウイチ、なんで、なんでも持っているんだよ」


スカルド、俺の偽りの持ち物を羨望していた。俺でなくとも何もかもを羨望していていた。何もかもを嫉妬していた。全て 自分の手の入らないものだと思っていた。


スカルドの赤い眼光、獰猛な光を帯びていた。


「だから、僕は君を殺すよシュウイチ、赦せない。僕よりも強すぎる君が赦せない」


銃口の向け合い。恐怖はあった。だが、計算もあった。スカルドの弾丸(だんがん)の数は少ない。もしかしたらもう無いのかもしれない。 それにトリガーを引くのには力がいる。スカルドは銃になれていない。俺はスカルドよりなれている。その違いが明暗をわける。


「なんだよ……シュウイチ、全然怖がらないじゃないか。面白くないよ。僕は死ぬのが怖いのに不公平だよ」


駄々っ子のようにスカルドは唇をかみ締めていた。俺はあざけった。


「よぇえよスカルド、俺達みたいな獣のルールは弱肉強食なんだぜ。お前は弱すぎるから俺に殺されることになる」


スカルド、俺をあざけり笑った。二人で嘲笑しあった。何もかも呪っている者達の言葉の無い会話だった。


「シュウイチ、僕はメノンを失った。天使を失くしたんだ」


「天使に見えてたのかよ。俺にとっちゃそこら辺の石ころより価値のない女だったよ」


「そうかもしれない。だから僕も君の天使を奪うことにするよ」


灼熱のような怒り――血液が沸騰した。


「なんつったスカルド」


「僕は――君から妻と子供を奪うよ。エリィだったっけ、君からいつも聞いていた。スラムの売女だろ」


「スカルド……お前は何もできねぇよ。お前は確実に俺にここで殺される」


「そうだね、僕は死ぬよシュウイチ。君に殺されなくてもクスリを飲みすぎてイキそうなんだ」


あざけり、俺は笑う気にならなかった。焦燥感が頭を焦がしていた。スカルドを殺してこの場からさっさと離れる べきだった。


「僕のクスリさ、マフィアが高い値で買ってくれるって言ったんだ。悪魔に魂を売り渡しちまったよ。僕には薬学しか 力がなかった。最後まで、その力に頼ったよ」


「スカルド――」


「グッバイシュウイチ、僕の親愛なる暗黒の友人」


スカルド――口の中に銃を押し込んで銃弾を飲み込んだ。スカルドは倒れた。スカルドは世の中を呪った まま死んだ。この部屋で三人の人間が死んだ。それなのに、俺は何の感慨もなかった。ただ、スカルドの言葉が引っかかった。


エリィとはるかが奪われる――冗談じゃなかった。


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