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たかが誰がための世界  作者: 二階幸樹
『世界は鏡だ。誰でもに、自らの顔を映し出す。』
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タイムジャンプ

 そう、まだ死んだわけじゃない。だから、これから自分が何をするのか、この世界にどう翻弄されるのか覚悟しなければならない。だから、この世界をもっと見て、もっと感じて、しっかりと向き合っていかなければならない。


 この世界を変えるために。


 アインスは守家への説明をひと段落付けると、守家の近くに寄る。


 「守家、君に話したことに嘘偽りはない。ただ、君が本当にこの世界を救ってくれるのか、それが知りたかっただけだ。だから君にはこの世界の印象を悪くさせてしまっていると思う。守家の世界より醜く、荒んだこの世界をそれでも救いたい、変えたいと思ってくれるならどうか、この任務を引き受けてはくれないだろうか」


 アインスは改めて守家に任務を言い渡す。守家の顔に一点の曇りも無かった。


 「はい。大丈夫です。俺に、この世界を変えさせてください」


 静かに力強く、守家はアインスの顔を見て返事をした。


 「栄、もうすぐ耐スーツが届く。届き次第地下研究室に守家と行って元の世界に戻ってもらう。それからはお前の好きなようにすればいい。なんせ私はお前たちの世界についてあまりにも無知だ。お前を信用している。頼んだぞ」


 アインスは栄にそう伝えると、客間の扉を開けた。


 入り口には乗って来たのとは違う一台の車両が待機している。アインスはその中からスーツケースを取り出し、栄に手渡した。


 「約束のものだ、守家の分も一緒に入っている。これを着て行け」


 客間を後にし、栄はスーツケースを抱え、地下に降りた。


 昨日守家が入った書庫の更に下、地下二階に研究室はあった。


 純白さ、清潔さはなく、勝手に血が引いてしまうような青々とした照明が主な部屋だった。


 透明の自動扉が開き研究室に入ると白衣をきた研究員が重々しい表情で三人を案内した。


 大理石かと見間違えるほどのツルツルで光沢のあるテーブルの上に物々しいスーツケースを置く。


 「守家くん、これを着て」


 栄は守家に一着のスーツを渡す。耐スーツと呼ばれているそれは守家の知っているスーツとは違っていた。


 それは服と言っても、出かけるために着るようなスーツではなくSF映画に出てくるような特殊なスーツに近いものだった。上下タイツのような薄さ、両腕には電子機器らしきものが付いており、そのスーツがただものでないことは何の説明も受けていない守家だがよく理解した。


 左腕の肘より手首にかけて取り付けられている電子機器をよく見ると小さく、時計のような数字を表示している。


 『-73/95:36』


 「なんだこれ、」


 そう守家が発した時だった。


 『-73/95:35』


 「減った、」


 数字の減少に守家は驚く。数字が減って良い事というのは増えて良い事に比べれば少ないように思われる。例を出せば切りが無いが高校生の守家にとっては、おこずかいやテストの点数といったところは減るよりも増えるほうが良いだろう。

その日常的な思考の癖が今、焦りに近い反応を起こさせたのかもしれない。


 「タイマーだよ」


 栄が片手間に答える。栄はもう一着の耐スーツをすでに着始めていた。


 守家は思わず反芻する。そして左腕を眺める。


 確かにこの電子機器を見る限り時間に関する表示だと結論を出すほうが早いだろう。


 守家はタイマーであると割り切り、栄に倣って耐スーツを着始めた。栄は着ていた薄い服の上から着ていたため守家もそのまま上から着始める。熱く、自然と汗もかき、昨日と同じ服装の上から上下タイツのような体にしっかりとフィットする耐スーツは着心地が良いものでは無かったがその薄さ故に不思議と来ている感覚も薄れた。


 それにしても、守家はやはり表示されている数字が気になる。


 「気になるの?」


 栄が問う。


 「まあ少し、でも今は良いよ」


 守家は諦めるが栄はせっかくならと軽く説明する。どれほど守家が理解できたか分からないがその表示の意味は時計のようなものだった。


 時間が経つにつれ一番右に表示されている数字が減る。それも一分で。そしてその一つ左隣の数字は十分単位で数字が減る。そして:(コロン)を挟んで95の数字。/(スラッシュ)より右の数字の表示は時間の表示で間違いなかった。だとすると95:35は95時間35分ということになり、日数換算だと4日ほどになる。


 そして、栄はこの時守家に説明しなかったが問題は/(スラッシュ)より左の表示だった。この表示の意味は栄にも分からない。突然この地に降りた守家。どうやって来たのかも分かっていない。知っている文化も異なれば料理も違う。栄はマイナス表示に何か悪い意味があるのではないかと睨んだ。だからこそ、知らないという事をあえて守家には話さなかった。


 「守家くん着れた?」


 着替え終わった栄は守家の方を見る。いちようは、高校生の二人であるからそれぞれ背を向けるようにして着替えていた。


 「これで、良いのかな」


 正しく着ているのか不安になる守家に栄は近づいて直接耐スーツを触り、確認する。


 「ありがとう――」


 守家はお礼を言い、栄は研究室の奥へと歩みだす。


 「ここが、この世界と私たちの世界を繋ぐ場所よ。これに入って戻るの」


 二人の目の前には人一人が丁度入るような水槽が二つ。水槽の中には青みがかった液体が満タンに入っており、水槽の上下から大小さまざまな管が隣のコンピュータらしきものに繋がっている。


 栄はそのコンピュータに近寄り、マイクに向かって話し始める。


 「こちら地下二階研究室、只今よりタイムジャンパルを利用しタイムジャンプを行う。設定を確認中。異常なし。タンクの状態外傷無し。搭乗員二名、国籍日本。栄沙絵17歳、」


 栄は守家の方を見て目配せをする。


 「あ、え、えっと。守家宗定、えー17歳」


 「以上二名。第一研究室へ、しっかりとデータを取り後学とされたし」


 ハキハキと栄はマイクに向かって話した。


 「それじゃあ、行こう守家くん」


 そう言うと栄はコンピュータのボタンを押し、足早に躊躇なくタンクの中に入った。守家も遅れずに後に続く。


 タンクに全身が使っても冷たさも暖かさもその他の変化を感じないのは耐スーツのおかげだろう。二人は目を瞑ったまま静かにしている。


 コンピュータから信号が送られ、二人は、この世界から消えた。

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