表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たかが誰がための世界  作者: 二階幸樹
『世界は鏡だ。誰でもに、自らの顔を映し出す。』
1/13

『世界は鏡だ。誰でもに、自らの顔を映し出す。』と、ある偉人は言った

 安心して暮らせる確かな半生だった。何一つ不自由ない人生だった。

だから、ゆっくりと流していた日常は素早く逃げてしまった。この半生に何が残っただろう。今まで自分の事だけ考えて、自分のために生きて来た。


 あの何も残っていない、たかが己がための世界にはもう戻れないのか――。




 半生、いや俺の人生はわずか17年だった。普通に高校に行き、ある日突然死んだ。


 いや、死んだというより殺された?


 まあ、今となってはどうでも良い話。それより、これは…………


 まだ傷跡が痛む中、17歳の守家宗定(もりやむねさだ)は死の際に立たされていた。辺りは土壁の背の低い民家が立ち並ぶ人気の少ない町の通り。足元は舗装されておらず、岩石が所々顔を出し砂が覆っている。この砂漠混じりの町で5つの銃口を一つの命に向けられている状況は誰が見てもまずい状況に他ならない。


 「一歩でも動いてみろ、撃つぞ」


 五人の内の一人が守家に向かい脅しをかける。五人ともまだ若い男の容姿ではあるが、気迫のこもった立ち居振る舞いだった。


 しばらく緊張状態が続き、その後指示が飛んだ。


 「ゆっくり手を頭の後ろで組め、組んだら膝をついて動くな」


 未だ状況を把握できず、ただただ指示通りに動く。手を頭の後ろで組み、膝をつく。膝をついて守家は一つのことを確信した。


 夢では、ないな。


 少しばかり抱いていた希望とは真逆の絶望。受け入れがたい現実という認識。確かに残った膝の砂を触る感触は到底夢とは思えないものだった。

 先ほど指示をしてきた男が守家に近づく。


 「いいか、そのままじっとしてろ。もうすぐ迎えが来る。それまでじっと、何もするな」



 「おい、連絡のあった不審者はどこだ」


 その瞬間五人の背筋が伸びた。少しばかり熱いこの町も一瞬で凍る、凍てつく声が守家の耳に届いた。守家はその女と目を合わせる。中世騎士のような古式の防具に身を固め、その血にも似た、濃く上品な赤に光を跳ね返す白銀のラインが入った防具は守家だけではないこの場全員を圧倒した。


 「はっ!先ほどより警戒しておりますが抵抗の意志無く指示に従っております!」


 「ご苦労、警戒を解け」


 「失礼いたします!」


 女は躊躇なく守家に近づき、警戒していた五人と入れ替わる。


 「君か、君なのか。大陸全書にあった通りだ。不審者などと無礼な扱いをした、許してほしい」


 突然の対応の違いさに混乱する守家。女は守家を立たせ、希望にも似た表情で話を始めた。


 「戸惑うだろうから多くは語らない。それは私も良く理解できる。ただ、どうしても理解して欲しいことがある。主に3つだ。これだけは覚えていてほしい」


 膝は現実を忘れ、眼前の顔立ちの良い女に守家はもう一度夢であるという希望を抱いてしまった。


 「1つ、ここは君のいた世界とは異なる世界だ。何から何まで違っている。だから、君の常識は通用しないかもしれない。でも安心してほしい。君が困るようなことがあれば私が全力で責任を持って対応する」


 世界、常識、責任?この女は今確かにそう言ったよな……


 「2つ、私を信用してほしい。安心でも構わない。私の言うとおりにすれば、少なくともすぐに死ぬことはない。何が何でも君には生きてもらわなければならない」


 死ぬんですか、俺。


 「3つ、これが最後だ。戦ってほしい。全力で死に物狂いで。決して死なせたりしない。私が誓う。だから、私の。いや、我々の世界のために戦ってくれ」


 え、戦うんですか?死ぬんですか?これ覚えろって言ったって、理解できないんじゃ覚えるも何も無くないですか。いや、この状況は心当たりがある。



 「異世界転生ってことですよね!?」



 少しの興奮と大逸れた希望の結論は半分正解だった。


 「ま、まあそんなところだ。この状況をそう呼ぶのならそれでいい。大切なのは君がこの状況を理解してくれることだ」


 「いや、理解はできないですけど何となくイメージは出来るかもです」


 「そうか、それならそれで構わないが……」


 二人の会話に長身の男が近寄る。スーツのような細身の服に眼鏡をかけた白髪の男だった。白髪ではあるものの比較的守家に近い年齢であるように守家は感じた。


 「アインス様、そろそろ」


 それだけを言い去っていく。

 それよりも守家は眼前の女の名前がアインスということの方に関心があった。異世界転生で最初に出会った異性。今後慣れない異世界の地でお世話になるであろう人の名はやはり大切だった。


 「名前、アインスさんって言うんですね」


 「ああそうだ」


 「俺は守家宗定って言います。よく分からないことだらけで頼れる人もいないのでよろしくお願いします」


 「守家だな、分かった。しっかり覚えておく。この世界を変えるその瞬間に君と居合わせるかもしれないからな。さ、時間だ通りを出たところに車を止めてある。一緒に本部まで来てもらう」


 数分前の緊張が嘘のように守家は安心した。隣に歩くアインスを信用したわけではなかったが、何も知らない地で頼れる人がいるというのは心強いものだと実感していたからだ。


 「車ってこれですか」


 アインスと二人、通りを出て例の車を見た守家。初めの銃口といいアインスの防具といいこの車といい。異世界転生にしてはどの時代であるかがさっぱり理解できていない。それもそのはず、守家の見た車というのが完全に自動車だった。もちろん普通車などではなく、車高の高い軍用車両。アインスの防具はただの趣味要素なのかそれとも何か意味があるのか。守家の頭の中は引き続き混乱している。


 「乗りたまえ、本部まですぐだ」


 言われるがまま車に乗り込む。運転手は長身のスーツ姿の男。二列目に守家、アインスが座った。


 「守家だったか、本部に行けば現状よりも状況を把握してもらえると思うが如何せん今は皆対応に追われていてね、君のことを敵視する輩が多い。本当に本部に行ってからしっかりと理解してもらう、覚悟したまえ」


 「やばい、です。吐きそう、」


 慣れないオフロード故か守家はものの数秒で突然吐き気に襲われた。車内に都合よくバケツや袋がある訳がない。吐きそうと言った数秒後宣言通りに守家は嘔吐した。


 「ゴホッ、オッ。すいません、ほんとに」


 本部に着く、アインスの帰りを待ってか本部と呼ばれる二階建てのこれまた土壁づくりの施設の入り口に数人のスーツを着た男が立っている。


 「アインス様、ご無事の帰還何よりです、えっと。そちらがその」


 「ああそうだ、車酔いしてだな。すまないが一度休ませてから書庫に連れて行ってくれ。無理もない、まったく知らない地で私の話を聞いたのだ」


 「承知いたしました。それでは客間へ案内しますので、その方を」


 「守家、彼の名だ。呼んであげてくれ、その方が親しみやすい」


 「では、守家様こちらへ」


 立ち眩みのする中守家はアインスと話した男と本部の中へ入っていく。入口すぐの客間と書かれた部屋に入る。両開きのドアを開け中に入る。広々とした中は学校の教室3つ分ほどの広さで天井は低いながらも窮屈に感じない空間となっていた。


 「少しここで休息を取ってください。私は少ししたらまた来ますので多少なりとも疲れを回復して書庫へ行きましょう」


 そう言って名前も知らないスーツの男は早々に客間を去った。広い空間に一人となった守家は疲れを回復させる余裕もなく、頭を働かせる。


 「落ち着いて考えるんだ、ひとまずあのアインスさんの言うとおりにすれば安心できる。俺は異世界転生した。これはたぶん事実だ。次にアインスさんの話は、3つあった。異世界だが困ったらアインスさんが助けてくれる。言う通りにすれば死なない、俺が生きてなきゃいけない。世界のために戦う。この3つだ、大丈夫しっかり覚えてる。どうして転生したのか、俺の死に際は今はまだ考えなくていい、大事なのは今だ。置かれた状況を早く把握して異世界で生き残らなきゃいけない。そうだ、とりあえず生きてるってことが大事だ。転生して今更だけど、死ぬのは嫌だ。大丈夫、大丈夫。前の世界でもピンチの時、なんだかんだ生きていけたんだ。今回も絶対大丈夫。落ち着いて行こう」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

長編を連載する予定ですので今後も読んでいただけると嬉しいです。

異世界とタイムマシンというあまり受け入れやすいジャンルではないですが受け入れていただける作品にしたいと考えています!

投稿頻度などは決めていませんが長期の間が空かないように投稿するつもりです。


※サブタイトルはウィリアム・メイクピース・サッカレーの言葉です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ