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イチオシ短編

壺井少年は壺マスターになりたい

作者: 七宝

 壺井(つぼい)少年は思った。僕の苗字になっている『壺』ってなんなんだろう、と。彼はもう高校生になる歳なので、もちろん壺という存在は知っている。しかし、壺について知っていることより、知らないことの方が明らかに多いのだ。少年は壺井家の長男に生まれた身として、壺マスターになるべきだと思った。


 壺井少年の知っている壺は3種類。蓋とセットの丸っこい壺、蓋はなく、縦に長くてくびれているものもある壺、そしてこれも蓋がなく、取っ手のついている壺。だいたいこの世にある壺はこの3種類な気がする。言っておくが、壺井少年は面倒くさがりなので壺について調べたりはしない。今回の話は頭の中で全て済ませるつもりだ。


 次に用途だ。今まで意識して見たことは1度もなかったが、記憶を辿ってみるとなんとなく飲食店やおじいちゃんの家、テレビなどで見たことがある。


 蓋がある壺にはだいたい漬物が入っている。その中でも梅干しが入っている確率が非常に高い。また、この壺でカルビやハラミなどの肉をタレで漬けている焼肉屋もある気がする。これらに共通することは『漬け』であること。この蓋付きの壺の役割は何かを漬けることなのだろう。


 次に蓋がなく、縦に長い壺だ。正直これに関しては何に使うべきなのか自分では想像もつかない。しかし、1つだけ知っている。サザエさんの波平の部屋で見た気がするのだ。花やススキが入っていたはずだ。そうか、これは生け花か。生け花用の壺なんだな。でも生け花って剣山のイメージが強い。でもまあ、壺もあるんだろう。


 でもでも、これってくびれていないパターンのやつだよね。くびれているやつは何に使うんだろうか。⋯⋯くびれがあるってことは、そこを持つってことなんじゃないか? そこを持って何かを注ぐのではないだろうか。そうだそうだ、この形をどこかで見たことがあると思ったら、徳利(とっくり)だ。ならこれも液体を注ぐ用のものに違いない。ということは徳利も壺?


 最後に取っ手のついた壺。これも液体を注ぐ用なのでは? それか観賞用だろうか。観賞用ってなんだ。壺を見て楽しいのか。少なくとも僕は楽しくはない。僕のおじいちゃんは少し楽しそうだった気もするけど。


 高い壺を見ると楽しいのだろうか。でも、高い壺というとあまり良いイメージがない。高い壺という言葉にはだいたい買わされたという文章が続く。いやいやそれは、その買わされた人の見る目がないだけだよ、と言う人も出てくるだろう。


 見る目とはなんだ。僕のおじいちゃんとあなたの目が別物だとでも言いたいのか。あ、おじいちゃんって言っちゃった。そうです、高い壺を買わされたのはおじいちゃんです。


 例えばウルトラハイパー壺職人がいたとしよう。彼の作る壺はセンスの塊で、これまでにないアイデアが取り入れられている。こういう人の作品はだいたい贋作が作られる。もしその贋作に少し工夫がなされていたらどうだろうか。

 

 壺自体のクオリティで言えば贋作のほうが上になるはずだ。しかし、本家本元という理由でウルトラハイパー壺職人の壺の方が高く売れることは間違いないだろう。ではなぜ本家本元だと高くなるのか。これはネームバリューと、この人が考えたものなのにハイクオリティ工夫贋作のほうが売れたら本家本元がかわいそう、本家本元の権利を守れ! という理由で高くなっていると思うのだ。


 もちろん僕もそれには賛成だ。ウルトラハイパー壺職人が頑張って考えて作った壺なのだ、ここまでを丸パクリして、ちょこっと工夫をした程度の苦労しかしていないやつの壺のほうが高くなったら割に合わない。しかし、壺に詳しくない我々から見たらどうだろうか。僕のおじいちゃんは高い壺を買わされたけど、本人が素晴らしいと思っていれば本人が納得した値段で買ったんだからいいんじゃないか? 周りの者が「そんなの買わされて、おじいちゃんは見る目ないわね」などと言うから本人は小さくなってしまうのだ。


 絵画も似たようなところがあると思う。極端なことを言ってしまうと、絵画も壺も、その有識者たちによるごっこ遊びにすぎないのではないかと思うのだ。この絵を価値のあるものってことにしましょうね、この壺はすごいっていうことにしましょうね、って仲間内で取り決めを行ってそれを取引したり評価したりしている。僕のような壺素人はこう思ってしまうのだ。


 違う違う、僕はこんな話をしたかったんじゃない、壺マスターになりたかったんだ。でも壺マスターってなんだろう。高い壺を見分けることが出来る? 良い壺を作ることが出来る? いや、違うな。そうだ、思い付いたぞ! 真の壺マスターとは、値段や評価に関係なく自分の好きなように壺を楽しめる人のことを言うんだ!


 なぁんだ、簡単じゃないか。こんとんじょのいこ。ごめんね、えなり出ちゃった。あ、思い出した、骨壺もあった。でもこれはちょっとリアルな話になるからあまり話さない方がいいな。そういえば痰壺っていうのもあった気がするな。味噌なんかも保存出来てたような。平安時代の偉い人が壺に入った味噌を肴に酒を飲んでいたって読んだ気がする。


 なんだ、いっぱいあるじゃん! プーさんもハチミツ入れてるし、昔話の『ぶすのつぼ』では和尚さんが水飴かなにかを隠していたな。まだまだ思い出せないだけで、たくさん見てきた気がするなぁ。


 そういえば思う壺という言葉もあるな。るつぼも壺なのかな。ドツボにハマる、というのも壺なんだろうか。マッサージのつぼは関係あるんだろうか。楽しくなってきた僕は壺が欲しくて仕方がなくなっていた。


 よし、壺を買いに行こう! 僕は壺を求めて走り出した! 僕を満足させてくれる壺は果たして見つかるのだろうか!


 1ヶ月後、僕は毎日壺を使っていた。用途は秘密なので言えないよ。ちなみに僕は怖がりだから夜中に1人でトイレに行けないんだけど、そういう時に便利だったりする。

 

 

 壺井少年もおじいちゃんも架空です。1ミリも調べずに書いたので「気がする」が6億回くらい登場してしまった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  それは「しびん」ですね。壺の一種?  花瓶も、壺の一種にされてそうですから。  てか、万物を壺の一種と捉えることこそ、壺マスターかも!!
[一言] 内容に全然関係ないですけど。 壺マスター⇒『Getting Over It』RTA? とか思ったらのは自分だけではないと思いたい。
[良い点] 最初の「頭の中で済ませる」「壺は3種類」の潔さに笑いました。 「絶対もっとある」と(笑) 途中の贋作話は考えさせられますね。 オリジナルが一番なのはもちろんですが、 それと遜色ない偽物は…
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