08. 巫女少女とベッドは1つ
宿に帰ってきた。
息が乱れたミオをベッドに仰向けに乗せると、俺はものすごく背徳的な気分になった。
なぜならミオの巫女衣装は乱れてしまっており、大事な部分は見えていないが、横から見える胸の膨らみは大きく露出されてしまっているからだ。
なんて無防備な子なんだ。
悪い男に捕まってしまうのではないかと不安になった。
服を整えるのは変態の所業だ。俺は着ていた上着をミオに被せる。
上着はキレイに保っている。衛生的には問題ないはずだ。
ミオは俺の上着を目元まで近づけると、思いっきり吸い上げた。
「りゅっくんのにおひ……♡ ひっく」
誰だそいつは。もしかして俺のことか?
俺は劣情に駆られたが。ぐっとこらえた。
「ミオ、そんなんじゃ悪い男に捕まるよ」
「? りゅっくんは悪い男の人なの?」
「……そうかもしれないよ」
「へー……えっちなのかー……♡」
からかうような目でこちらを見ている。
鼓動が鳴り止まない。なんだこいつ。悪魔か?
「いや…えっちというのはちょっと違う……かも」
我ながら歯切れの悪い否定だ。
「うそ、ダンジョンにいたとき、ずっと胸見てた」
見透かされていた。俺の悪い癖を。
スタイルの良い子をついつい視線で追ってしまう。
そう。俺の正体は変態野郎だったのだ。
しかしそれを認めるわけにはいかない。
「ち…違う…それはミオがどこにいるのか把握しとかないと思って」
「嘘つき
嘘つきさんにはおっぱいを触らせてあげませんよ!残念でしたー♡ ひっく♡」
ミオは寝転がりながら腕をクロスし、ばってんマークを作っていた。
は?なんだそのシステム。
童話のように素直に答えたら、右の房と左の房、どちらも触らせてくれたのか?
いや落ち着け俺。
ミオは今限りなく暴走している状態だ。
翌日、後悔でうずくまっているミオの姿がもう目に見えている。
俺も過ちを犯しそうだったので、外に出る支度をする。どこか一晩中営業している飲み屋もあるだろう。
俺が外に出ようとすると
「待って」
ミオは酔いが少し覚めたかのように真剣な声に聞こえた。
「ごめん……わがままなんだけど、ひっく。今晩だけは私を一人にしないで」
とんでもないリクエストが来た。
しかし切実な声色だったので断ることができなかった。
「……わかった、俺は地面で寝ることにする、毛布借りてくるから待ってて」
まいった。俺の理性は保つのだろうか。
「ううん、一緒のベッドで寝てほしいの、ひっく」
……
「はぁ!?」
ミオの発言で俺の心臓が飛び散るかと思った。
・
・
・
ベッドの中は戦争だった。
ぎゅーー……♡♡
ぎゅーー…………♡♡
ミオは俺に両手両足でしがみついている。
「えへへー…♡ りゅっくんがいる、夢じゃないー……♡」
ミオは抱いて俺の存在を確かめている。
気持ちはわかる。
彼女はこの数日間のことを夢じゃないと確かめたかったのだろう。
最弱の【御守り作り】の使い道。それには俺の【荷物持ち】が必要不可欠だ。
ミオは脚を俺の胴に回しながらを抱いている。
まるでくまのぬいぐるみをプレゼントされた幼女のように無邪気だった。
一方、俺はとにかくアレが固くなり収まらなかった。
――邪気の権化。
いかにミオにこの固いものを悟られないようにするのかが課題だ。
「りゅっくん、りゅっくん」
顔が近い。
「……どうしたのミオ」
「呼んだだけーー……♡ えへへ♡」
なんて気楽な奴なんだ。俺はミオのほっぺたを強めにつねった。目を覚ませ。
・
・
・
ウザ絡みがなくなって静寂が訪れた。ミオは寝てしまったようだ。
久しぶりの静かな時間。俺は音を立てずにこっそりベッドから出て窓の外を覗く。
街の明かりはもうなく、代わりに夜空の星が活動していた。
……俺は明日からどうするのだろうか。
俺は何か大志があるわけじゃない。
ただ…田舎の貧乏な実家のために、出稼ぎのように冒険者になった。
……あとは仲間と冒険という行為に対する憧れくらいか。
俺にもユニークスキルにはコンプレックスはあるが、ミオのように世界に認めてもらおうとか、そういった強い意志はない。
俺を追放したレオンに対しての負の感情はあるものの、自発的に復讐したりとかは思わない。すごく疲れそうだ。
偉人や伝説の勇者はきっと大志を持っていたり、劣等感をバネにできる人ばかりなんだろう。
「ただ仲間と旅をしたい。そこに俺の居場所さえあればいい、その程度
夢とかないしな……つまらない男だよな」
「そんなことない。それも立派な夢だよ。」
声に反応し振り向いたら目の前にミオが立っていた。目をこすっている。
「うわぁ!!」
俺は近所迷惑なほどの声をあげてしまった。
「起きた、リュックくんが……いなかったから」
酔いは少しは醒めていた。どうやら話はバッチリ聞かれたようだ。
「リュックくんはつまらなくなんかない……夢を持てだなんて影響力の強い人が発信するまやかしだと思う」
「そうかな、やりたいことがないんだ、つまらないと思わないか?」
「リュックくん、人の価値に夢の有りなしなんて関係ない
現に……私は…リュックくんがどっちであれ……カッコイイと思う人もいると思うけど……」
照れ隠しで文章が破綻してしまっている。照れくさい。
少し気まずい空気が流れた。
「ところでミオには将来の夢はあるの?」
「うん、ある」
あるのか。
「私の夢……それは
【御守り作り】のスキルの強さが証明できたら、ゆっくりと暮らしたい」
それは夢なのかという疑問が生じた。
「そこでは近所の人と仲が良くて、友達もたくさんいて、スキルの強弱なんて誰も気にしてなくて、困ったときは協力とかしてくれて、毎食おだんごが出て……」
……過酷な彼女の生い立ちを考えると確かにそれは夢だった。
ミオは月光に照らされていた。
夜空を見て、手を伸ばす。
そこからは何も言わなかった。
月光に照らされたミオは本当に美しい。
そして俺にはある感情が沸き起こった。
「その夢……俺も追っていいかな?」
これは恥ずかしい。人の夢に便乗。主体性の欠片もない。
ただ。ミオの夢を聞いて俺はときめいてしまった。
その事実は変えられない。
ミオはきょとんとこちらを見つめる。
ミオは微笑む。
「この夢はリュックくんと一緒じゃないと叶えられない
……よろしくね、リュックくん」
俺とミオはその夢がいかに素晴らしいかを語り明かした。
俺たち二人は疲れて椅子で寝てしまった。
・
・
・
空は白んで鳥はさえずる。
穏やかな朝。
…とはならない。
俺は轟音で目を覚ます。
轟音の正体はミオの絶叫だった。
ミオは椅子の上で土下座のポーズで倒れ込んでいた。
「死にたい!!死にたい!!死にたい!!」
知ってた。
無事に新たな黒歴史が生まれたようだ。
ミオは人との距離感を間違えたと感じると途端に死にたくなる、帰り道後悔系女子であった。この子にお酒は向いてない。
「リュックくん……昨日の私…すこしおかしかったみたいだから……
昨日のことは忘れて欲しい……!私も少し記憶がうっすらしてて……!!」
ミオの懇願に少し疑問が生まれてしまった。
「じゃあ、俺と同じ夢を追うって話もナシ?」
いじわるな言い方をしてしまっただろうか。
「……う…
…うそです。昨日のことは全部はっきり憶えています……
ベッドに誘い込んであらぬことをしてスミマセンデシタ……」
ミオは椅子の上で今すぐにでも消えそうなほど小さくなっていた。
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