06. 一方、その頃レオンは…① 【追放パーティ視点】
<<Another View:レオン=ハーゼンベルク>>
――リュック洞窟帰還より数日前。
薄暗い洞窟。4人は上層に向かって歩く。
俺様達は土竜蜘蛛の洞窟からの帰還を目指していた。
俺様、レオン・ハーゼンベルクは久しぶりに気分が良かった。
鼻歌まじりで足を運ぶ。
なにせ、あの役立たずリュックを追放してやったのだから。
アイツは何かとウザかった。
俺様の方針に口出してきやがったからだ。
ギルド評価が上がるクエストよりも、将来的により多くの人を救えるクエストを受けようだとか、
武器屋では、残り一つの武器を他の欲しがってる人に譲ってやろうだとか、なにかとぬるかった。
戦闘では何もできない役立たずのくせに。
俺様達は冒険者ランクを上げて、ゆくゆくは魔王討伐を目指している。そして英雄になることが俺様の夢だ。
だからあんな弱い男は【獅子の眼光】には不要なのだ。
もしあのクソゴミを優しいと評する者がいたとしたら、そいつらも同様に【弱者】で【雑魚】だ。
「自分が弱いから俺たちを巻き込みやがって……クソザコがよぉ
ああいう一人みすぼらしい奴がいると、俺らが英雄になったときに見栄えが悪くなる」
【獅子の眼光】にぬるい弱者はいらない、戦闘にも参加しない荷物持ちは、上位互換のバッグを手にいれてしまえばお役御免なのだ。
「でもまぁ、今までたくさんのアイテムを持っていただいてましたからねェ、便利な人だから、そうやすやすと追放できなかったわけですが」
白髪の回復術師のロレンスが俺様にのっかる。
「私はあの、俺たちは仲間だ!って空気きつかったわぁ、こっちは微塵にも思ってなかったのに」
胸元を開けた魔術師の衣装を着たレプティルはホホホと笑っている。
「研鑽を怠って馴れ合おうとした。だから追放されたのだ」
おとなしい大男のモルゲンは自前の大槌を素振りしながら言った。
そう。
俺様たちはこの二年半で飛躍的に強くなった。
もともと俺様達はDランクの冒険者パーティだっただったが、あれよあれよという間にSランクのパーティになれたのだ。
それは皆の努力のおかげ。
俺様は剣術。ロレンスとレプティルは魔法。モルゲンは筋力を鍛えた。
Sランクになれたのは、俺様たちの努力の賜物だ。
しかしリュックはそれを怠ったのだ。追放されて当然だ。
「ん」
ガサガサ
目の前には大きな蜘蛛が忍び寄って来ていた。
「周りを確認しろ……なんだ一匹か」
よし、景気づけに切り刻んでやろう。こいつには俺様達の冒険の新たな門出を祝う獲物になってもらおう。
剣を抜いたが、俺様が剣先が欠けていることに気付いた。
「これでは新しい旅の門出にふさわしくないな…ロレンス!予備の剣をくれ」
これからのアイテム係はロレンスになっていた。もちろん。強欲者の大包みもロレンスが背負っている。
「はいはい、わかりましたよ」
今まで荷物持ちという誰でもできる役割のために、一人冒険者を用意してたのが異常だったんだ。
あんなのは兼任で充分だ。
ま、おかげさまで俺様達は身軽で動けたんだけどな。
……
………
クモがじりじりとこちらに近づいてくる。
「おい!!まだか!!ロレンス!」
「見つかりません!」
「は!?」
「アイテムが多すぎて見つかりません!!剣どこですか!?」
「チッ!マジかよ!!クソォ!!」
俺様は飛びかかるクモを欠けた剣で対応する。
こいつらは雑魚だ。いつも俺様が一方的に退治している。
なのに
なのになぜ
俺様が力負けしてるんだ!?
剣で抑え込んでいたハズの膝丈ほどのクモが、剣を跳ね除け、俺様に馬乗りになった。
「何ィィィィ!?」
クモは俺様に噛み付いた。激痛が走る。
「ぎゃああああ!!」
「レオンさん!」
「レオン!」
魔法使いのレプティルは何かしらの詠唱を始める。
ロレンスは未だにバッグから剣を探していた。
その間にモルゲンはハンマーを思いっきり振りかぶる!
モルゲンはこういうときに役に立つ。パーティきっての高火力だ。
きっと一撃でこいつを仕留めてくれる。
しかしそんな期待は一瞬で打ち破られた。
「な……」
モルゲンのハンマーは直撃したのにもかかわらず、クモは絶命することはないどころか、あまりダメージをくらっているようには見えなかった。
「何やってるんだ!!モルゲン!!」
ガンガンガン!
「わからない…死なない!!死なない!!」
モルゲンは何度も何度も叩く。しかし、死ぬ様子はない。
――「【炎の渦】」
レプティルの杖から出た火炎がクモに巻き付くと、そのままクモは燃えていった。
そしてその隙をついて、俺様はようやくクモに一撃を加えることに成功した。
そのあと、俺様とモルゲンがタコ殴りをしてようやくクモは絶命した。
「ハァハァハァ」
俺様とモルゲンは尻もちをついていた。
「なんだ!モルゲン!らしくないぞ…!いつものお前なら一撃で…!」
「し…しかし!」
「もしかしてリュックを追放した俺に不信感を覚えたか!?それで少し痛い目を見ろって!」
「違う!!」
「落ち着いてください、レオンさん」
「ロレンス!!お前もだ!なんだ、ずっとアイテムなんて探して!」
「レオン!本当に落ち着いて!」
俺様はレプティルの発言でようやく我に帰った。
「……スマン、とっさのことで……予想以上にこのクモが強くてな」
「きっと希少種ですよ、異常に強い力を持った魔物、しばしばあることです」
そうだ…それなら説明がつく。
俺様たちがこんな雑魚に遅れを取るわけがない。
そのハズ…だよな?
ズキッ
「あ…ああ!」
俺様の噛まれた右腕が緑色に変色していた。
――毒だ。
「ロレンス…!薬だ!!解毒薬を出せ!!」
ガサガサガサ
「す…すみません……全然見つかりません!!」
「て…てめぇやっぱりとぼけたフリして俺様を殺す気なんだな!?」
「違います!本当に見つからないんです!!」
「リュックはいつも速攻で取り出してたじゃねえか!どうして同じことができない!」
「荷物の量が多すぎるんです!!」
「じゃあ!!状態異常回復魔法をよこせよ!!」
「そ…それは……レオンが覚えなくていいって……詠唱よりもアイテムの方が速いからって……」
「俺様のせいにするつもりかよ!!!」
俺様は声を荒げてしまった。
・
・
・
5分後、ロレンスはようやく薬を見つけることに成功した。
その間俺様は苦痛に悶え、耐えることしかできなかった。
俺様の命に別状はなかったが、俺様達は帰り道では気まずくなってしまった。
最高の旅の門出になるハズが、最悪な門出になってしまったのである。
ふざけんな。
俺様はどこか歯車が噛み合わなくなる感覚を覚えたのだ。
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