04. 荷物持ちの脳筋無双
俺は左手に持っていたナイフを投げ捨てた。
洞窟にカランと金属の音が鳴り響く。
「ちょっと…リュックくん!!素手はいくらなんでも」
俺はファイティングポーズを取る。
闘技場で見た拳闘士の猿真似だ。
身体は半身で構え、足はステップを踏む。
俺の見た拳闘士はナックルダスターを付けていたが、
それに対して俺は素手。
専門職や特定のスキル持ちでなければ……最弱の武器だ。
それでも俺にとっては慣れていないナイフよりマシだった。
俺はミオの肩を抱き寄せる
「ほ……ほぇえ!」
ミオは間抜けな声を出した。
「俺の近くに寄って
素手ならミオを間違えて傷つけてしまうこともない」
ミオは俺の服の裾を、そっと掴んだ
「どうして私を守ってくれるの……?」
ミオは俺をヒーローかなにかと勘違いしている。
「違う、君が俺を守るんだ」
「え」
「俺がここで戦ってる間。ミオは御守りを作るんだ。できれば防御力があがるのが嬉しいんだけど」
「え…こんな戦闘の最中で」
「うん」
「……
えええええええええええええええ!!」
ミオの咆哮が鳴り響く。
「それまでの時間は稼ぐから頼んだよ。ミオ」
「ちょっと待
魔物の大群が押し寄せる。
飛びかかった蜘蛛が砕け散る。
原因は俺の右ストレートだった。
後ろの奴にはストレートを二発。左手の方向のはジャブ四発。
撃退することは可能だが、一撃で倒しきれないもどかしさ。
大体は無傷で倒しきれるが、中には俺にダメージを与えてくる魔物もいた。
いくらミオの御守りがすごいと言っても、ジリ貧だ。
長期戦を強いられれば、きっと俺たちは殺される。
そのとき。
俺の足元が青く輝いた。
<<<<生成完了...
【防御祈願】×3:弱小モンスターから生成された御守り。
ランクE。重量20。防御力を少し上げる。>>
「できた!!できたよ!!リュックくん!!」
ミオの目はグルグル目で、クールな雰囲気はぶっ壊れてハイになっていた。
ミオが俺のカバンに御守りを放り込むと、身体にエネルギーが湧いてきた。
素人目でもわかる。
御守りの出来が良い。
この状況下で品質が安定しているのはスキル磨きを怠らなかったからだろう。
彼女はもがき続けたのだろう。
【御守り作り】がハズレスキルと言われ続けても、いつか誰かの役に立てるようにと。
そのいつかは今日だ。
突如飛んできたコウモリの魔物に左腕を噛まれる。
しまった…体力を吸われる!!
牙が服をやすやすと貫通し、腕に突き刺さる。
「させるか!!」
俺は左腕にありったけの力を込める。
グッ
なんと。コウモリの牙は俺の腕から抜けなくなったらしい。
どうやら体力を吸うこともできないらしく、ジタバタと暴れている。
「覚悟しろっ!」
そいつの脳天に右ストレートをブちこんだ。
頭部を砕いたと同時に腕から離れる。
コウモリは嵐のときの葉のように遥か彼方に飛んでいく。
その進路先で待機していた別のコウモリの魔物に勢いよく衝突する。
二匹とも撃沈した。
「できた!」
<<生成完了...
【攻撃祈願】×5:弱小モンスターから生成された御守り。
ランクE。重量20。攻撃力を少し上げる。>>
ミオもこの状況に慣れてきたらしい。落ち着いた様子で俺のバッグに放る。
「待てよ…今確か」
「すごい……!!5個も作ってる!!」
「…で…でしょ!」
ミオはクールな顔つきに似合わぬ軽めのドヤ顔をしていたが、ミオの頑張りポイントに気づいたからだろうか。ミオの顔は少し火照っていた。
魔物達がミオの恐ろしさに気づいたらしい。攻撃の標的をミオに定めた。
「きゃぁ!!」
的確だ。ミオを狙われることが、今の俺にとっての一番の痛手。
でも時間を与えすぎた。
もう遅い。
俺は右手を左肩に触れるほど折り曲げてから、剣を振るうように、右手を伸ばした。要するに横チョップだ。
それだけで。
襲いかかった魔物5匹が横に一刀両断され…絶命した。
俺とミオは顔を見合わせた。
どちらも今の事実を受けれきれなかったのだ。
頬をつねろうと思ったが、痛いのが嫌なので、代わりに力自慢する人がリンゴを握り潰すが如く、その辺のコウモリの魔物を掴んで潰した。
やっぱり絶命した……。
「げ…現実だ……」
ミオの鼓動の音が聞こえる。
ドキドキ。ドキドキと。
「私……やっと…」
「やっと……人の役に立てた……」
大粒の涙がこぼれたが、彼女にとっては人前で泣くことは不服だったらしく。ボロボロの袖で、一生
懸命涙を拭いている。
「これも全部…リュックくんのおかげ!!」
ハイなテンションのミオは俺に抱きついてきた。胸の柔らかい感触がお腹付近に伝わっている。
年頃の子に抱きつかれてドキドキしてしまっていた。
しかしこれがミオにとっての新しい黒歴史にならないかの方が心配だった。
カサ
ん?
「静かに!!」
感傷に浸ってる暇はないようだ。
聞こえる。
明らかな「異音」が。
ドドドド
ドドドドドド
カサカサカサカサ
全方位から音が聞こえてくるように感じた。
しかし、右を見ても、左を見ても、その異音の正体がわからない。
どこだ!どこにいる!
その異音の方向が頭上とわかったときにはもう遅かった。
キシャアアアアアア
馬車ほどの大きさの蜘蛛が俺に向かって口を開けていた。
とっさに屈んだ俺は落ちている石が視界に入ると、
俺は一か八かで落ちている石を拾い。
その方向に思いっきり投げつけた。
化け物は石を避けるべく、その大きな身体からはとても考えられないスピードで壁に飛びうつる。大きな地鳴りがした。
こいつは……この洞窟の主…【土竜蜘蛛】だ!!
頭上から穴を掘って、俺を奇襲しようとしたんだ!!
「リュックくん…敵が…大きいね……」
ミオのその言葉は先程のまでの弱々しいものじゃない。
俺に明らかに何かを期待している言葉だった。
俺はまかせろとばかりのウインクをしてみせたが、
ミオはキザな俺の行動に少し後ずさりしていた。
そんな。
【土竜蜘蛛】と俺は、およそ20mほどの距離を保ち、じりじりと相手の様子を伺っている。
この距離はさっきの飛び移りの範囲内。
のしかかられたら、ものすごいスピードと重量でひとたまりもないだろう。
土竜蜘蛛は複数ある目を全てこちらに向けながら口をウネウネと動かす
さぁ…
どう来る!?
【土竜蜘蛛】は一瞬飛び…身体が浮いた。
「のしかかりだ!!」
俺は拳を構えた。
しかし俺の想像は外れた。
奴は洞窟の上側に飛びついただけだった。
その大きな身体でどうして落ちてこないのだろう。
さらに口からロープほどの太さの糸が噴射された。
「しまった」
構えたことによって避けるタイミングを逃した。
俺の右腕にしっかりと糸が絡みついた。
「リュックくん!!」
ミオの顔は曇っている。
彼女は調子に乗りすぎたと早速後悔している。
のしかかるとみせかけての糸攻撃…見事な作戦だった。
俺は蜘蛛の糸の粘着力が強力であることを悟り、糸から抜け出すことを諦めた。
残った左腕だけで倒すしかないのか!?
右腕から伸びる白い糸を視線で辿ると、6つの赤い目がこちらを品定めしている。
運命の糸が繋がれてしまった。
どちらかが死ぬまで、外すことはできない!
俺は一度だけ深呼吸をした。
そして。
俺は左手でも伸びる糸を掴んだ!
これで俺の両手はどちらも糸から離れなくなった。
土竜蜘蛛は勝利を確信したのか、蠢く口元を大きく開け出した。
そのとき。
俺は糸を思いっきり引っぱってやった。
蜘蛛もつられて引っ張られる。
土竜蜘蛛はさせるかと言わんばかりの踏ん張りを見せる。
しかし身体は前進する。
足元には引きずった痕跡が深く刻まれている。
もう一度俺は糸を引っぱる。
土竜蜘蛛は踏ん張る。しかし先程より身体は前進してしまった。
もう一度俺は糸を引っぱる。
そう。
これは綱引きだ。
化け物は踏ん張る。踏ん張る。踏ん張る!!
しかし土竜蜘蛛の自慢の8本の脚は地面の摩擦で全て擦り切れ、踏ん張りきれずに横転した。
チャンスだ!!
「うおおおおおおおおお!!」
俺は土竜蜘蛛をハンマー投げの要領でぶん回す。
遠心力でぶん回すスピードがみるみる加速していく。
ブンブンブンブンブンブンブンブン
最高加速に達したであろうときに俺は土竜蜘蛛と目が合った。
「ありがとう。証明できたよ
ミオの御守りは強いってことを」
ガシャァアアアアアアアアン
……パラパラパラ
俺は土竜蜘蛛を勢い良く壁に叩きつけた。
まるで隕石が衝突したかのように大地が揺れた。
衝撃が収まり、パラパラと石が転げ落ちた先で、土竜蜘蛛がお腹を上に向けた状態で動けなくなっていた。
脚だけをピクピクと動かしている姿が、戦闘不能であることをより強調させていた。
■
「リュックくん、新しい御守りだよ」
土竜蜘蛛の内部から緑色の体液を取り出したミオはそれを基に新しい御守りを作成していた。
<<生成完了...
【開運祈願】×2:ユニークモンスターから生成された御守り。
ランクC。重量30。運のよさが上がる。>>
「あれ…【攻撃祈願】でも【防御祈願】でもない」
「強い敵からは珍しい素材が取れるから珍しい御守りも作れるの、リュックくんが強敵と戦えば戦うほど、役に立てる御守りを作ることができる」
「そして俺はもっと強くなれるのか」
この死地の中で少し不謹慎ではあるが、このバッグに御守りを詰め込める分だけ俺は強くなれる。
そのビジョンは俺の心を大きく躍らせた。
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ステータス
名前:リュック=ストレイジ
称号:なし
技能:【荷物持ち】
耐性:なし
所持品:【布鞄】【魔除け】【薬草】【薬草】【薬草】【攻撃祈願】×14【防御祈願】×3【開運祈願】×2
合計積載量:461/1000
第一行動方針:少女と協力してダンジョンを抜ける。
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