29. 偽物の零騎士
ファルマン領を離れて1ヶ月。
俺はミオ、そして新たに仲間に加わったキューンと冒険者パーティとしての活動を始めた。
キューンの騎士の称号のおかげでCランクパーティとしての始まりとなった。
ミオはハーゼルゾネット城下街で店を構え、御守りの頒布を再開した。
以前の店よりも立地を良くしたため、いくらか高くついてしまったけれど、俺達は魔物退治でお金を稼いで、当面はそれで工面するつもりだ。
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ハーゼルゾネット城下町は多くの店が立ち並ぶ。
そのなかで俺たちの店だけが東洋文字で書かれた看板を掲げていた。
「九重御守亭」
和風の雰囲気と壁全面に飾られた御守りのせいで周りとは異質な空気を放っている。
店内では俺とキューンは店番をしていた。
「……全然お客様来ませんね…」
「ミオの御守り本当にすごいのにな……」
「リュック様の使い方がえげつないだけな気もしますけど…」
本当にお客様が来ない。ミオの御守りに【商運祈願】とかはないのだろうか。
それでもミオは挫けずに裏で御守りを作り続けている。
鉢に入れた素材を棒ですり潰し、小袋に入れる。毎日それを繰り返している。
「やぁ、シケてるね君たちぃ」
身長の低い栗色の髪の毛の少女がこちらに来る。
「あ…きみ、おつかい? えらっ…ってロッテさん!」
「ははぁ……君ねぇ、年上のお姉さんに向かって礼儀がなってないね」
ロッテは呆れ返っていた。
キューンは混乱していた。当たり前だ。
ロッテは鑑定屋の店長。
エルフ族でもないのに実際の見た目が10歳くらいにしか見えないが実際は25歳だ。
「まさかね、君がアタシの店の隣に店を構えるとはね、でもこの外観、雰囲気を演出しすぎじゃない?怖くて誰も近づけないわよ」
ロッテには言われたくない。彼女の店の外観は動物のガイコツだらけだ。
「で何の用ですか?」
「全然売れてないわね」
最速で失礼って言われる遊びでもしてるのか?
「御守りに売れるとか言ったらミオに怒られますよ、御守りは神様から授かったものだからって」
「いやいや、神様いないでしょ、だって御守り作ってる君らが経営苦しいんだから」
この人神様に対しても失礼だ!
「それにアンタ達冒険者なんでしょ?だったらさ、店にずっといるのって無理じゃない」
「開店時間は不定期になってしまいますね、でもミオの御守りのクオリティなら大丈夫…」
「あまーい!」
ロッテは大声を上げ、指をこちらに突き刺す、そしてない胸をこれでもかと反っている。
「考えが甘い!店はねそんな自分の都合だけで営業しちゃいかんのよ!継続は力なり!ちゃんと同じペースでやってないとお客様が逃げるってもんよ」
「じゃ…じゃあ朝から昼はちゃんと営業して…」
「それも違う!アンタ達は強い冒険者になれる素質がある。商才のほうは点でダメそうだから、そっちに専念しなさい」
どうしろと。
「アタシが店番やってやるわよ、毎月金貨3枚で」
「え……」
金貨3枚というのは一人雇うのと同じようなコストで、給料として考えれば妥当な金額だ。
「ロッテ様、どうしてそんな提案を?」
「だって楽そうじゃない!アンタ達の店番、客全然いないし」
客いないって何回言うんだよ!
しかしロッテは急に周りを見渡したことお前はこちらに顔をずいと近づけた。
「ところで、気をつけなさい」
「どうした?レオンがこの前、ロッテの店に訪れたことは聞いたぞ」
「今度は違うの、この頃ある盗賊団がこのハーゼルゾネット内で盗みを働いてるみたいよ、この前も隣町の輸入品が盗まれたそうよ。」
「盗賊団?……それはどんな名前の?」
「…名前は【零の盗賊団】…率いるリーダーの名前は【零騎士】」
「【零騎士】!?」
「その【零騎士】というリーダーが率いた盗賊団。彼は、ファルマン家に殴り込みをして腕試しをした経歴を持つわ。彼の特徴は巨大なバッグを持ち……御守りをぶらさげていること」
ロッテは店の机に肘をつくと、訝しげに俺の顔をじいっと見つめる。
「アンタに似ている」
いや……似ているも何も【零騎士】は俺のことだ。しかし俺には全く盗みも記憶がない。
「あわわわ……リュック様、経営に苦しみついに盗みに手を染めて!!」
キューンは急に震えだした。
「俺のわけないだろう!キューンはずっと一緒にいただろ!」
ロッテは俺に疑いの眼を向けると、一息ついて目を閉じた。
「……嘘はついてなさそうね」
「え」
「この商売やってるとそういうのわかんの、あんたはシロ」
「当たり前ですよ、ですがなぜそれを俺らに?」
「ハァ、本当に商売ってのが、わかってないのね、アンタ達は御守り屋を経営している、それなのに下賤な盗賊が御守りを一種のトレードマークにしている、それって風評被害来るんじゃないかって」
確かに。俺らの経営にとっては死活問題だ。それだけじゃなく周りから店が犯罪の片棒を担がされてると思われかねない。
一刻も早く、解決しなければミオの努力を無駄にさせてしまうかもしれない。
幸いにもまだ噂は広がっておらず、広がる前に盗賊を捕まえれば、被害は最小限に収まるだろう。
「でも安心しなさい。その盗賊の捕縛依頼は既に冒険者ギルドに提出されたそして【最強騎士団】がその依頼を受けたのよ」
【最強騎士団】……最近名前をよく聞く冒険者パーティだ。
彗星のように現れた善良な冒険者パーティ……。
悪い盗賊団やゴロツキなど倒してくれる、一般的には正義の味方と言われている。
現在Sランクの冒険者パーティだ。特徴はなんといっても
「名前が死ぬほどダサい」
「ええ…ダサすぎますね」
「名前はありえないくらいダサいけど、実力は折り紙付きだそうよ、彼らが【零の盗賊団】を捕縛するまでは、気をつけた方がいいわね」
ロッテは自分の店に戻ると、俺たちは顔を見合わせた。
「【零騎士】を騙る者……一体何者なんでしょうか…」
「俺を語って…何のために」
このとき一人の人物が訪れた。筋肉のしっかりついた優しそうな好青年だ。
彼に対してキューンが反応した。
「貴方は、第九訓練生の!」
「あ!キューンさん!認識していただいてたんですね」
彼の名前はウォーレン、ファルマン家の訓練中の騎士だそうだ。
彼はきょろきょろと店内を見渡した。
「あの…【攻撃祈願】ってありますか?」
俺とキューンは驚いてしまった。
「いやぁ…恥ずかしい話、俺【零騎士】さんのファンになってしまって、彼、御守りつけてたんで、仲間に御守りつけていって言ったら、お前はいつも形からだなって笑われて」
「あんなにかっこいい人…俺は見たことありません!」
そこまで正面から褒められて照れくさかった。キューンも俺の顔を微笑ましく覗いてくる。
彼は【零騎士】に対する愛を嬉しそうに語り続けた。
「御守りって初心者がつけるものとか馬鹿にされてるじゃないですか」
「確かに御守りの強さは俺にはわかりません」
「でも俺はこの御守りをつけて訓練に挑みたいんです」
「【零騎士】さんのように強くなりますようにって祈りながら剣を振ります」
彼は代金を払い、両手に【攻撃祈願】を大事そうに抱え帰っていった。
「やっとひとつ頒布できましたね」
「うん、大事に使ってくれるといいな……そして」
「ミオ、ずっと見てたよね」
「え…きゃぁ!!」
ミオは店の奥で聞き耳を立てていた、慌てたミオは転んだらしく素材の箱をひっくり返してしまった。
「様子見たくて、そわそわしてたよね、素直に出てくれば良かったのに」
「こ…こういうのって恥ずかしい、私が作りましたーって出てくればいいの?私店員は話しかけてくる店嫌いだから……」
「だからって不自然すぎると思うよ、あの人も気付いてたんじゃないかな、ずっとチラ見してたし」
「チラ見なんかしてない」
ミオは素っ気なく溢した素材を箱に戻していたが、実は静かに微笑んでいた。
俺は普段クールのフリをしているミオの、喜んでいる顔がすごく好きだ。
このミオの笑顔が偽の零騎士によって侵害されるかもしれないと思うと、俺は落ち着かなかった。
御守りを買った彼はまだ偽の零騎士の噂は聞きつけていなかったようだが、知るのも時間の問題だろう。
「手を打つなら……今夜か」
俺はクロエからもらったロングソードを取り出すと、その反射に映る自分の顔を見つめた。
「面白かった!」
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