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27. クロエとの対決 

 ユニコーンの角を持ち帰った俺たちは無事ファルマン領に帰還した。

 キューンによると、薬剤師に角を渡して1時間後、クロエの症状は快調に向かっているという。

 アリシアとキューンは帰還後、別行動となり、俺とミオは客室での待機となった。


「どうなったんだろうね、クロエちゃん」


「明日の対決、中止になってくれたら楽なんだけど」


「それには及ばない!」


 大声が聞こえたかと思うと、客室のドアは突風が吹いたように開いた。

 ドアを思いっきり開けたのは病人だったハズのクロエだった。


 もうそこには弱々しい姿はなかった。


「く…クロエ!?身体は大丈夫なのか!?」


「フフ……リュック=ストレイジ、貴様も自分の身体の心配をすべきだな、明日我の太刀筋が貴様を貫くことになるだろうからな」


 クロエはこちらに刺剣を向ける。


「明日の対決、我が必ず勝つ!」


 病み上がりにここまで元気だと不安になってしまう。しかし


「良かった!」


 俺の口から出たのは安堵の言葉だった。


「なんだと?」


「回復して良かった。ほらクロエ苦しんでいたから」


「フン……相手の心配など…不要だ…調子が狂う」


 クロエは恥ずかしそうに……顔をキョロキョロと見渡した。

 そしてこちらを見ず、目を反らしながら言った。


「それは…そうと…感謝する…ありがとう…」


 クロエは一瞬にしてしおらしくなった。


「我のため…ユニコーンの角を取りに行ってくれて…感謝してもしきれない、それに…ミオ殿も……これは貴殿の作った御守りなのだろう…?ありがとう…すごく安眠ができた…【御守り作り】…ものすごいスキルなのだな、考えを改める」


 俺にはフルネームで「貴様」なのに、ミオには「殿」で「貴殿」なのかよ。


「ううん、私単体のお御守りはまだまだ、クロエちゃんの【敏感(びんかん)】がすごく強かったんだと思う」


「我のスキルが……強い……?」


 相変わらず信じられないと言った顔だ。


「我のスキルが強いハズがない…生まれたときからずっと…足を引っ張っていたこのスキルが」


 この自己肯定感をなさ、出会ったときのミオを思い出す。

 どんなにもがいていても、自分のスキルの弱さが浮き彫りになるみじめさが彼女らをそうさせたのだろう。

 自分勝手ながら、俺は彼女のその考えを払拭したいと考えてしまっていた。


「クロエ…明日の決闘なのだけれど、ある条件を提示してもいいかな」


「ある条件…?」



 ■



 次の日。

 クロエとの決闘当日。闘技場には領主のリリカブラ、アリシア、キューン、ミオを含め、【十選騎士】、領主で訓練を受けている騎士、従者など多くの人で賑わっていた。


 闘技場のリングの中で俺はクロエと対峙している。

 俺は例の如く、鑑定防止のヘルムを被って挑むこととなった。

 俺としてはミオの強さを知ってもらいたいから、少し複雑なんだけれど。



 今度は【十選騎士】の戦いのときと違い、バッグにはミオからもらった御守りがフルで入っている最強装備仕様だ。前に見世物にされたときよりも遥かに強い。


 零騎士!零騎士!零騎士!


「悲しいな、領主の次女よりも、貴様の方が人気があるようだな、仕方ない、我はお姉様の影に隠れてしまっているし、騎士としての活動はからっきしだ」


「大丈夫、今日全てがひっくりかえるよ」


「信用ならないな」


 耳を澄ませば、クロエへの評価は微妙だった。


「クロエお嬢様…確かに素早くて強いのだけれど…スキルがねぇ」


「【敏感】…能力値アップの影響を受けやすいとあるが、攻撃系魔法や他スキルを影響も受けやすいらしい」


「さらに病気とかもすぐにかかっちゃうらしいぞ、だから騎士としての活動もできないらしい」


「生まれが高潔なだけでスキルで言ったらほぼ底辺だな」



 零騎士の勝ちで決まりだな。下馬評ではそんな具合だった。


「いくぞ、リュッ…いや零騎士殿…」


「ああ、望むところだ、クロエお嬢様」


 俺らはわざとらしく一礼をする。


 ルール確認。スキル有り、武器自由、一本先取だ。

 クロエがレイピアを胸の前で構えて、俺がブロードソードを構えると。

 クロエは騎士の一節を口にした。




 我は誓う。

 我が剣は、

 我が主と誇りのために。


 クロエの雰囲気が違う。非常に落ち着いていた。

 そして、

 試合開始の合図のドラが叩かれた。




 その瞬間


 クロエは一本の線となった。





 クロエは消えた。

 状況を把握できない。

 こちらへ向かってきたとこまでは覚えている。

 そして俺はブロードソードで身体を守ったことまでは覚えている。


 なのに…なのになぜ


「俺の身体が客室の3階にあるんだ!!」


 ここは闘技場がよく見える絶景の客室。窓は割られているため、キューンのような瞬間移動をするスキルを使われたわけじゃない。


「どこだ!!2人はどこだ!!!」

 闘技場のどよめきがここまで聞こえて来る。全員が俺たちを見失っていたようだ。


「あそこ……いる」


 アリシアはこちらの方向を指した。観客は驚愕する。


「い…いつのまに!!」


「嘘だろ、ありえねえだろ!!」


「場外とか今回のルールに設定されてねぇぞ」



 困ったことに俺もクロエの姿を見失っていた。

 しかし勘が正しければ、クロエもこの部屋にいるハズなんだ。


「とりあえず、視界情報を整理だ…!!」



 俺は地面にブロードソードを円状に切りつけて、床を切り抜いた。

技巧祈願(ぎこうきがん)】と【攻撃祈願(こうげききがん)】をこれだけ積んでいれば可能のハズだ!

 落ちる床に乗った俺は危機を感知したので、その場でしゃがむと、


 シュッ!


 クロエの太刀筋が間一髪、俺の頭上を横切った。



 危ない…!やはりいたか!



 そして俺は2階の客間に着地した。


「ああ~~!!ワシの館がぁああ!!」

 

 リリカブラの声がどこからか聞こえた。ごめんなさい。

 

 それはそうとクロエは頭上から降りてくるか!?それともベランダから!?

 俺はクロエを警戒した。

 しかし襲ってくる進路さえ決まっていれば対処ができる!

 俺はドア側に背中を預けて警戒した。


 上か!?前か!?


 そのとき俺は第三のルートを気付いてしまった。


「まずい!!」


 そのスピードで普通に階段を降りたとしたら!


 俺が床を切り抜いたのはたった3秒前のこと…

 しかし!


「正解だ!!リュック=ストレイジ!」


 レイピアは俺の真後ろのドアを貫いて、さらには俺のバッグを貫こうとした。

 しかし間一髪で危機を察知して、振り向き、ブロードソードで刃と刃をドア越しに重ねた。


 キィィン…ッ!


 なんとかガードはできたが、レイピアはドアから引き抜かれ、ドアはその場で倒れてしまった。


 俺はここで対戦後、初めてクロエの姿を拝むことができた。


 その姿に向かってブロードソードを振る!

 しかしクロエはもうその場にはおらず、俺の後ろに周りこんでいた。

 俺は右足を軸に後ろを振り向いて、もう一度突き刺す!


 今度も攻撃は当たらず、さきほどと同様に後ろに周りこまれてしまった。


「ぐぐ……つ…強すぎるだろ……クロエ」


「…我自身も驚いている……これほど身体が軽いのは初めてだ、しかしリュック=ストレイジ…貴様もなかなかだ、今の動き、攻撃を入れる隙がなかったぞ」



 ワァアア!

 観客は湧く。


「なんだよ…!!クロエお嬢様ってあんなに強かったのかよ!!」

「よく見えねえ!こっちで戦ってくれ!」

「嘘…あれだったらもしかしてアリシアお嬢様よりも…!」



 領主のリリカブラは驚愕すると共に、下を向いて悔やんでいた。


「すまなかった……クロエ、お前の可能性を信じてやれなくて」




 クロエの強さにはもちろん仕掛けがある。それは




 俺はクロエと戦う前にパーティーを組んだのだ。




 そうすれば俺のもうひとつのスキル【(かめ)祝福(しゅくふく)】が発動する。

【亀の祝福】は荷物を持てば持つほど、パーティのステータスが跳ね上がるといったものだ。

 そして俺はバッグの中に最大載積量いっぱいの高重量アイテムを詰め込んで、この戦いに挑んだ。弱くて使い物にならないものばかりだが。


 さらにクロエのユニークスキルの【敏感(びんかん)】により【亀の祝福】の恩恵を限りなく受けることに成功したのだ。


 今のクロエの強さを式にすると

 クロエの元の強さ×【亀の祝福】3000/3000×【敏感】=今のクロエの強さ

 ということになる。【亀の祝福】を【敏感】で倍増、強くないわけがない。

 特に速さが長所のクロエの太刀筋は、更に段違いの速さになっていた。



 要するにクロエは、

 俺と一緒に戦うと最速最強になる。



 俺はクロエの刺突をかろうじてブロードソードで防ぐと、その衝撃を受けきれず、今度は客間から、窓に向かってぶっ飛んでいた。闘技場の観客席にガラス片が飛び散っていく。


 俺の身体は闘技場の真ん中で舞う。

 もちろんクロエは俺を逃すわけがない。

 客室のベランダの手すりを足場にして、こちらへ再び飛びかかる。



 ガラス片に包まれて俺たちは青空に舞う。



 観客はもう誰もクロエを馬鹿にはしなかった。



「流星だ……」



 誰かがボソっと呟いた。

 そう。

 今のクロエは流星だ。

 誰もが注目してしまうが、誰もそれを目で捉えきれない。

 俺は日光の当たったガラス片に混じって、一粒の水滴を確認した。



「我が速くて良かった……」


「大衆に我の情けない顔を晒さずに済む」



 クロエは泣いていたが、すごく気持ちの良い笑顔をしていた。

 きっとこの顔は正面で戦っている俺だけが()()している。



「……ありがとう」


 クロエは感謝の印として、ありったけの刺突を俺にプレゼントしてくれた。

 なんて女だ。

 俺はクロエの太刀筋に何かしらの「返答」をしなければならなかった。

 さすが剣術ではクロエには敵わない。


 俺は邪道な手に頼ることにした。


「これしかない」


 俺は背負っていたバッグの肩にかけた紐をブロードソードで斬ると、


 ……バッグをその場で脱ぎ去った。

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