25. 惑わせの森
【惑わせの森】には近づくな。生きて帰れる者はいない。
遠く離れた地域でも噂が絶えない、死の森。
しかし冒険者は足を踏み入れる。
ユニコーンの角という万病の薬に釣られて。
人を騙すことに長けた魔物は、欲深い冒険者が訪れるダンジョンに住処を作ることを好む。
まさに虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。
キューンの作り出した空間をくぐると、そこは【惑わせの森】の入り口だった。
緑色に生い茂った木々に白い霧。
陽の光が入ることのない、薄暗くて嫌な印象だった。
「つ……着きました。私は一度行ったことのある場所にしか行くことはできませんのでここまでです」
「キューンは迷いの森に足を踏み入れたことがあるのか?」
「ええ……かつては私もユニコーンの角を手に入れようと奮闘しましたが、命の危険を感じて引き返しました」
「キューンちゃんならいつでも引き返すことができるから、中に入っても大丈夫じゃないの?」
「中には麻痺攻撃を使う魔物もいるそうですので」
「麻痺……気持ちいいのに……」
「アリシア様は規格外すぎます!」
4人で森に挑むことになった。
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「は…はやい!はやいですー!!」
アシリアは決闘したときよりも遥かにスピードが上がっていた。
きっと俺の隠されたスキル【亀の祝福】の恩恵だろう。
「俺のスキルの【亀の祝福】が発動してるんだ、同じパーティのメンバーは俺の荷物の重さと比例してパワーアップするんだ」
「すごいですー!!こんなに強力な強化スキル…初めて見ました!これなら誰でも勝てそうです!」
「キューン……じゃぁ……決闘しよ……」
アリシアは自慢の斧槍を構えて追いかける
「アリシア様!?嘘です!思い上がったことを言ってすみませんでしたぁ!!」
キューンの強さは【亀の祝福】込みでも、アリシアの強さには及ばない。
キューンや俺のスキルが弱いわけではないと思うのだが、アリシアが強すぎるというのだろう。
アリシアは【鈍感】で俺のサポートを受けることはできない。
サポートなしでこの強さ。本当に計り知れない。
「いてっ」
ミオは木の根に躓いて、転んでしまった。
「ミオ、大丈夫?」
「うーん…ちゃんと足元も見てたんだけど…あ、ありがとう」
ミオは差し伸べた俺の手を握って立ち上がったが、すこし恥ずかしそうだった。
そのとき。
「待って…!」
俺は異変に気付いた。木の根がミオの足元に巻き付いていたのだ。
「きゃあああああ!」
その根っこはミオを引っ張って転倒させ、そしてそのまま引きずるように森の奥へ連れていこうとする。
「させるか!」
【俊敏祈願】
俺は走って根っこを斬った。
ミオは無事を確認すると、俺に抱きついた。
「りゅ…リュックくん!こ…怖かった!」
ミオの吐息は俺の顔に当たる。少し涙目のミオは少し色っぽかった。
「安心して、ミオ、必ず助けるから傍にいるんだ」
「う…うん」
ミオはちょこんと俺の隣に立った。可愛い。
少しするとミオは自分がヒロインムーブをかましてしまったことを恥じた。
「く……悔しい……姫プレイみたいで……!」
ミオは損な性格だ。助けられたことにも後悔してしまう性格だとは。今は恋人のフリをしているということをはっきり忘れてるくらい、後悔している。
キューンは左右をしっかりと確認する。
「しかし……人を食う木に標的にされてしまいました……!相手にすると非常に厄介です!奴らは木に紛れ込んで、隙を狙って攻撃してきます!それに移動も可能なため、目印が変わってしまうことも……そこで迷って死ぬ冒険者も絶えません!」
なるほど。まずは地形を変えて混乱させるのか。
惑わせの森の名にふさわしい。
「なるほど……じゃあこうしよう」
俺は今思いついたアイデアを皆と共有した。
アリシアは目を輝かせていた。
ミオとキューンの顔は引きつっていた。
「協力してくれるか、アリシア」
「はい……旦那さま……こういうの好み……」
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俺はアリシアを両腕で持ち上げる。
「………おお」
アリシアは静かに恍惚な表情になった。
そしてそのまま担いでまっすぐ投げつけた。
スパパパパ
アリシアは斧槍を前方に構えていたため、目の前の木々がなぎ倒されていく。
木が10本ほど斬れたと思うと、アリシアはドスドスとこちらへ戻ってきた。
「ユニコーンの住処まで、これをアリシアと俺とで繰り返す。」
「これが………一番効率的……」
「そうかなぁ!?」
「め、め、めちゃくちゃですぅぅ!!!」
ミオとキューンはドン引きして、お互いに手を握りあっていた。
この方法ならこの道自体が目印になる。迷うことはなくなる。
それに木の魔物が移動しようとしても、切り落とされた直線上に木があれば魔物だと判別がつく。
すごく合理的だ。
そう説明してもなかなか理解してもらえなかった。
「あ…あれ…?リュック様って……まともな人だと思ってたのですが……」
「常識よりも新しいアイデアに惚れちゃう人だと思う……そういう節ある」
「とほほ……アリシア様がもう一人いるみたい」
キューンとミオは少し仲良くなっていた。
アリシアはドスドスとキューンの方に近寄って、耳打ちをした
「持ち上げられた………旦那様に女の子扱い……された……」
「化け物扱いされてたんです!!」
アリシアはきょとんとしていた。
アリシアの恋愛観は独特なのかもしれない。今は少し怖いけど、どこか良い着地点があればいいなって、全てを未来に丸投げした。
そして俺もアリシアに丸投げされた。
スパパパパパパ
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「新作だよ!リュックくん!」
【長寿祈願】×5: 持ち続けると寿命がわずかに伸びる御守り。ランクC。重量20。
【技巧祈願】×5:手先が器用になる御守り。ランクC。重量20。
【耐性祈願:麻痺】×5:麻痺の耐性が少しだけ上がる御守り。ランクC。重量20
この辺りは珍しいキノコやドロップアイテムがあった。そのためミオの新作もまた一風変わったものだった。
「え……長寿祈願って、すごいじゃないか!」
俺はミオの頭をなでた。
「も…もうむやみに撫でない、他の子にやったら嫌われるから…!」
ミオはそう言いつつも嬉しそうな顔をしてた。
ミオも成長している。さきほど姫プレイを気にしていたが、ミオに限ってはそんなことない。
どちらかというと生産職なのにダンジョンに連れてきている俺が悪いんだ。
ミオは話を切り替えて、御守りの説明をしだした。
「実際の話、【長寿祈願】は【御守り作り】の唯一の生存活路って言われてたみたい。寿命を伸ばすってすごく珍しいから。」
「でも寿命が伸びても、どこまでが元々の寿命か、どこまでがその御守りのおかげかわからないから評価はされなかったの、推定では1枚で3ヶ月ほど伸びると言われてる」
「すごいじゃん、皆に持たせればいいのに」
「病気で死にかけの人に持たせても意味はないからね」
「いや…なかなか尖った性能ですよ。効果があるかわからない御守りを貴重なバックの容量を大幅に費やして持つかどうか、なかなか持てるものではありません」
そんなものなのか、確かに俺はスキルのせいで感覚が麻痺していたのかもしれない。そう思いつつも俺はミオの作ってくれた御守りを全てバッグに詰め込んだ。
「本来一人一個しか持てないの完全に忘れてますよねぇ!?」
キューンがどんどん不安がっていく。ファルマン領ではあんなにカッコよかったのに。それ意外となるとなんだか親しみやすさしかない。
なでなで。
説明をしている最中にも俺はミオの頭を撫でていた。
「…んっ……ん」
…………
「あ!」
ずっとミオを撫でたら、ミオは色っぽい声を出したことを自覚したようで。急にしゃきっとした。
ミオは人の目をすごく気にするが、本質的なところで甘えん坊だ。
最近そういうところがある気がしてきた。
「キャー!純愛です!ここに純愛がありますー!」
恋愛に目のない、キューンは俺らを見てはしゃいでいる。
と思ってたらアリシアも無表情で頭をこちらに向けていた。
「あれ……アリシアも欲しいの……?」
アリシアは頭をずいっとだけ近づけてきた。
俺は威圧感に負けてなでなですると、アリシアはその場でくるまりだした。実家で飼っていた大型犬のペスを思い出した。
ミオはどう思ったのか、より頭をこちらに近づけてなでなでを強要する。
さっきあんなにもういいよって空気だったのに。
俺は今、左手でアリシアを撫で。右手でミオを撫でている。
「旦那様………」
「もう……私はいいってば……いいって……」
そういいつつミオは抵抗しなかった。
「こ……これは……女タラシってやつではー!!」
キューンに人聞きの悪いことを言われた。
一時的に4人構成のパーティになったが、もし周りに人がいたら、俺らは色ボケパーティだと思わているのだろうか。
俺もミオと同様、周りの目が怖くなってきた。
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ステータス
名前:リュック=ストレイジ
称号:なし
技能:【荷物持ち】【拡張】【亀の祝福】
耐性:【恐怖耐性Lv.1】
所持品:【布鞄】【薬草】×2【攻撃祈願】×25
【守備祈願】×15【俊敏祈願】×3【必中祈願】×2【開運祈願】×2【長寿祈願】 ×5【技巧祈願】×5【耐性祈願:麻痺】×5
合計積載量:1291/3000
第一行動方針:クロエを助けるためにユニコーンの角を探す。
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