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20. VS十選騎士序列10位

 クロエとの決闘まであと2週間。

 客室にいる俺とミオとキューンは作戦会議をすることになった。



 「ファルマン領で栽培されている茶葉を使った騎士道紅茶です」


 キューンの配膳したそれは真っ赤に染まっていた。

 匂いもなかなか自己主張が強い。

 配膳し終わると、キューンは席に座ることなく俺に告げた。


 「先に言っておきます、手を抜いて婚約破棄しようという手段だけは絶対絶対絶対とってはなりません!!」


 キューンに釘を刺された。彼女の肩はブルブルと震えている。

 

 「アリシア様は手を抜くという行為が大の嫌いです、あなたを失望するだけにとどまれば御の字ですが、きっとものすごくご立腹されます!!」


 戦闘狂のアリシアが怒ると何が起きるんだ。俺はものすごく不安になった。


 「それで肝心のクロエはどれくらい強いんだ?」

 

 「クロエ様はA…もしくはSクラスの冒険者に匹敵する実力を持っています。長所はなんといってもあの太刀筋の速さ、あのキマイラも一人で倒すことができるでしょう」


 「キマイラと言われても、アリシアちゃんに瞬殺されてた記憶しか…」


 「アリシア様には大きく劣りますが、他の騎士には決して負けないでしょう」


 クロエの強さは聞いても、どれくらいなのか想像ができなかった。


 しかし謁見の間で行われたグラスを一部を開けるパフォーマンスは目をみはるものがあった。


 

 「そうだ、クロエのユニークスキルを教えて欲しいんだ!」

 「それは…私の口から言いかねます」


 キューンはクロエのスキルを教えてくれなかった。

 初見殺しのスキルなのだろうか。とにかくクロエはスキルも強い…ということだろう。


 「天才のアリシア様の影に隠れてますが、彼女もファルマン家でも屈指の実力を持っています。リュック様の勝ち目は薄いでしょう」


 「でもミオの御守りさえあれば、ゴリ押せるんじゃないか?」

 

 「そうですね、きっとリュック様とミオ様の凶悪なコンビネーションの前にクロエ様は敵わないと思います!」


 強いか弱いかどっちなんだ。言っていることが理解できなかった。


 「なぜ私がこのような言い回しをするかというと

  リュック様の能力にはひとつ明らかな弱点があるからです……!」


 「え…?」


 「ああ!ごめんなさい!ごめんなさい!私風情が大層なことを!」


 「そんなのどうでもいい!教えてくれ!」


 ヒィ!と言いつつも、落ち着きを取り戻し教えてくれた。


 俺が一切思いつかなかったミオと俺の組み合わせの弱点。知りたい!



 「リュック様の弱点、それはバッグを破壊されることです」


 「バッグを破壊…!?」


 「ええ、いくら超人的な身体能力を持っていても、その大きなバッグさえ破壊できれば、リュック様に勝ち目がなくなってしまいます」


 確かにそうだ。気づきもしなかった。


 「クロエ様はあなた方の強さのカラクリをもう理解しております。そしてクロエ様はなんとしてでもリュック様の背中を狙う方法を編み出してくるでしょう」

 

 さすが、ファルマン家に鍛えられた騎士。メイドとは言っても戦闘に対しての洞察力が鋭い。


 「そこで、本日から、リュック様には修行をしてもらいます覚えてもらうことは唯一つ。絶対に背中を取られないこと」


 それに対しての指導はキューンが行ってくれるということだ。


 「どうして俺をこんなに応援してくれるんだ?キューンは使用人という立場抜きですごく親切だ」


 「いえ、リュック様がアリシア様の婚約者になれば、私の負担も減るので」


 キューンは笑顔で言い放った。なんて私利私欲に塗れた女だ。彼女への評価は一瞬で反転した。

 わりとちゃっかりとした性格だった。

 

 ・

 ・

 ・

 その日から俺はキューンから1週間ほど、基本的な剣術を教えてもらった。

 メイド服姿の子に剣術を教えてもらうのは不思議な気分だった。

 キューンの稽古は一つの教科書を1ページづつ真似をしていくような堅実な稽古だった。


 「型を覚えてください。そして次にとれる選択肢が多い行動をしてください」

 座学と訓練をただ繰り返す。自分の無力感を感じつつもキューンは真摯的でやる気を維持してくれた。


 この訓練は基本的な動きさえ知らなかった俺にはとても勉強になった。キューンの教え方は上手く、付け焼き刃ではあるが、非常に恵まれた環境だったと言える。

 

そして決闘が残り3日目になったときに大きな変化が訪れた。


 ・

 ・

 ・


 ここはファルマン領の闘技場。


 「今日からは実戦をしてもらいます」


 俺は最小限の小手と顔が隠れるようなヘルムを装備している。


 「このヘルムは特別製です、鑑定の影響を受けず、リュック様のスキルが周りにバレることはありまぜん」


 キューンはそう言い残すと、ささっと闘技場から抜け出してしまった。



 目の前にはファルマン家の訓練を受けた騎士がいた。

 そして俺は短いブロードソードを右手にその騎士と対峙している。

 

 「え……この人と戦うの…!?」


 この日はファルマン領で訓練を受けている騎士の見物客がやたら多かった。


 「なんだあの弱そうな奴は」

 「バッグに御守りつけてるよ、馬鹿じゃん」


 さらに俺は歓迎されていない空気を感じていた。


 目の前の騎士も同様だった。


 「あなたファルマン騎士団じゃありませんね?【十選騎士(じゅっせんきし)】の私と戦えるなど、どういうコネクションを使ったのですか?【十選騎士】はここ5年変動していない玄人騎士だ、急に出てきたあなたが私達エリートを倒せるとは思えませんね」


 「まぁいいでしょう。ではこの序列10位のゲルマンがお相手します。いざ!」


 開戦のドラが鳴る。

 早速騎士ゲルマンは剣を構えながらこちらへ突進してくる。


 「く……俺が数年間鍛えられた騎士に勝てるのか!?」



 俺はキューンの言葉を回想する。


 <<リュック様には今日から、ファルマン家が誇る一般騎士兵の上位10名…つまり【十選騎士】と決闘をしてもらいます。1000人の騎士から選ばれた猛者ばかりです、彼ら全員と戦って決してバッグを攻撃されないようにしてください。それと訓練にならないので、バッグへの御守りの数を減らしといてくださいね>>


 その枚数は…15枚。


 <<彼らはファルマン家の流派を熟知した猛者。きっとクロエ様との戦いに役に立ちます>>


 俺のバッグの中の御守りの数はおよそ4分の1になってしまった。内訳は


 【攻撃祈願(こうげききがん)】5枚

 【防御祈願(ぼうぎょきがん)】5枚

 【俊敏祈願(しゅんびんきがん)】3枚

 【必中祈願(ひっちゅうきがん)】2枚だ


 心もとない。目の前から襲ってくる騎士は素人目から見てもスキがなく、1週間ほどしか稽古を受けていない俺との技量の差は歴然だった。

 しかし恐怖はない。俺はより強い恐怖を体験したからだ。


 「もらった!」

 ゲルマンの剣を俺を目掛けて振りかぶる。

 確かに俺の未熟さで隙を見せてしまった。

 しかし。



 【俊敏祈願(しゅんびんきがん)

 「え!?」



 しかし俺はサイドステップで避けていた。

 「なに!?」

 俺が避けたことが予想外だったようで、会場はどよめいた。



 「なるほどアイツのユニークスキルは【俊敏(しゅんびん)】だな」

 「【俊敏(しゅんびん)】は素早くなる代わりに攻撃力は落ちる、アイツは火力不足なハズだ!」


 観客はわかったような口をきく。

 目の前のゲルマンも高笑いをした


 「ハハハ、お前は私と相性最悪だな!!」


 「?」


 「私のユニークスキルは【硬化(こうか)】だぁ!!」


 ゲルマンの鎧と盾はより強固なメタルによって覆われた


 「でた!!ゲルマン先輩の【硬化】!」

 「ありゃダメージ与えられないぞ…長期戦になりそうだなぁ!」


 観客はゲルマンを賛美する。

 なるほど…【俊敏】持ちには辛い相手ってわけだ。



 ――【攻撃祈願】


 俺は持っていたブロードソードを振るう。

 確かに俺の剣は相手の盾を貫くことはできなかった。


 周りからの嘲笑が聞こえる。そして目の前からも。

 「ハハハハ!私の【硬化】は完璧だ!決して貫かれることはな


 「そうか」


 その瞬間俺はゲルマンの盾を素手で引っ剥がした。目の前には素肌を晒した顔が見えた。


 「…ふぇ?」


 俺はゲルマンの盾を片手で放りなげると、観客席に勢いよく刺さってしまった。


 「ギャ!!なんだこのパワーは…お前は本当に【俊敏】持ちなのか!?」


 「顔の部分は守りきれてないようだ、ん? 鎧にもあまりメタル化されてない……いけるか?」



俺は間髪入れずに、ブロードソードで彼の人中線に沿って斬り込んだ。


 そうすると彼の鎧は縦に真っ二つになって、中からパンツ一丁のムサイ男が現れたのだ。


 「きゃーー!!」

 ゲルマンは自分の肩を抱いて恥ずかしがっている。



 硬化はメタルで覆う面積が大きければ大きいほど、効果が少なくなるらしい。

 全身を纏えば、強めの斬撃は受け止めきることはできなかったらしい。


 「ば…馬鹿な……俺の【硬化】が破られるなんて……化け物……」


 勝負アリの審判が下されると俺は納刀した。


 

 さて反省会だ。

 【防御祈願】が多すぎたかもしれない。

 バッグが弱点なら避けられる【俊敏祈願】の方が必要になりそうだ。

 それに硬化の相手のためにも【攻撃祈願】はもう1枚積んだほうがいいかな。

 御守りの15枚縛りは面白い。どの組み合わせが一番強いのか、もっと実験してみよう。



 「あのカバンの小僧……なんであんなに強いんだ!分析できねぇ!」

 「なんだアイツ!攻撃力を上げる【怪力】持ちか【俊敏】持ちどっちなんだ!」

 「鑑定……鑑定スキル持ってる奴はいねえのか!」

 「カバンに御守りつけてる情弱初心者じゃなかったのか!?」


 周りの観客はざわめく。



 俺は【怪力】持ちでも【俊敏】持ちでもない。

 ただの【荷物持ち】だ。



 俺はこの調子で【十選騎士】の序列9位と8位も制した。

 【十選騎士】が決闘で部外者に負けた噂はファルマン騎士団の中で大きな噂になっていた。序列1位の騎士でも敵わないのではないかと口々に言っているようだ。


 そして俺はこう呼ばれるようになる。彼は1位の騎士を倒すことのできるかもしれないという意味を込めて、



 【零騎士(ぜろきし)】と。


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