02. 巫女少女との出会い
ここは薄暗い洞窟ダンジョン。
俺の目の前にはかわいらしい黒髪ロングの東洋人の少女がいた。
尻もちをついているその少女の目は大きく、少しだけツリ目。目尻には赤いメイクが施されている。
大人っぽいメイクにうってかわって、非常にかわいい顔立ちだった。
東洋人だと感じた最大の決めてはその服装だろう。
東洋の宗教家。巫女の服を着ていた。
動きやすくするためだろうか、赤い袴の丈は限りなく短い。
「あッ…白」
しかしそのせいで寝そべる俺の視界からは純白のふんどしに包まれた少女の股間が見えていた。
まずいと思いつつ、おそるおそる視線を上げると。
少女は震えながらも軽蔑した目線で俺を見ていた。
「変…ッ態…」
「ご、ごめん!!」
見てはいけないものを見た俺は身体の痛みも忘れて立ち上がった。
やましい気持ちがないことを証明するための精一杯の行動だ。
「あなた……新手の変態?女の子を背中に乗せた後に驚かせて下着を覗くタイプの」
「いや……これは完全な不可抗力で!全然見るつもりはなかったんだ」
乗ってきたのは君じゃないかと思いつつも全力で弁明した。
しかし少女の興味はもう別のものに移っていた。
「ああ!! は……六兄弟がぁ……」
先程まで侮蔑の顔を浮かべていた少女は、今度は涙目を浮かべていた。クールな印象を与えていたツリ目が見る影もなくなっていた。
彼女の視線の先には、三色団子ならぬ、六色団子が無残に転がっていた。
それも2本。
それにしても1つがでかい。
「団子1つ1つがげんこつサイズはあるように見えるんだけど……」
おだんごは東洋人の商う露店で見たことがあったが、ここまでは大きくなかったし、連なってはいなかった。
きっと特別製なんだろう。
「ごめん、特上のスイーツを無駄にして」
「謝らないで。私のせいだから
私があなたを座り心地の良い座布団と見間違えたのが悪いから……」
真面目な口調から、間抜けな発言が繰り広げられたので少し和んでしまった。
天然なんだろうか。
「俺が座布団に見えたの?」
「ごめんなさい、疑いようもなく大きな座布団だと思っていた、見つけたとき心が躍った。ここまで来るのにすごく疲れたから」
「その座布団の上でおだんごを食べようとしたの?」
「ええ。軽食を」
軽食。
あの2本並べたら、枕くらいの大きさになりそうな。あの団子を。軽食。
「もしかしてあの場で全部食べるつもりだったの?」
「そうね。おだんごは長男を食べ始めたら必ずその場で末っ子まで食べなければならない。それが私なりの串の通し方。流儀だから」
急に早口になったせいか、言ってることがよくわからなかった。
とにかく食べ方に拘りがあるのに悪いことをした。何か償う方法はないだろうか。
「ところで君はなんでここに?一人で来たみたいだけど」
「知らない?強欲者の大包み。噂ではここにあるって」
「それは別の人に先取りされたよ。俺の目の前で…」
追放された話は長くなりそうだったので割愛した。
「やっぱり…、あれがないと…私…」
少女は肩をがくっと落としきると、
その先は言わず、彼女は洞窟の上の階層に向かって歩き始めた。
しかし、短い丈の袴から伸びるすらっとした脚は子鹿のように震えていた。
「待って。君どうやって帰るの?見たところ戦闘向けに見えない。すごく危険だと思う。魔物避けのボトルなら一個残ってる。これあげる」
「いらない」
少女は拒絶した。
「人から貸し借りするの嫌いなの、私はさっきあなたに乗っかって変態扱いした
そしてあなたは私の下着を覗いて、おだんごを無駄にした
貴方との関係はこれで釣り合いがとれている、このバランスを崩したくない
借りは借りない。貸しは貸さない。それが私の串の通し方なの」
また串通してる…。
「でも、この洞窟の主【土竜蜘蛛】は君一人でどうにかできる相手じゃない、もし遭遇してしまったら元も子もない。ここまで来るために魔除けを多用したと思うんだけど、並のバッグじゃそんなに詰められない、もう残り少ないんじゃないかな」
彼女はうるさいと言わんばかりの冷たい視線を向けた。
怯みそうになったが、目の前に無謀を冒そうとする少女がいるのだ。
引き下がるわけにはいかない。
「ゆ、ユニークスキルを教えてよ、協力しあえば、ここから出られるかもしれない」
「……嫌なんだけど、教えるのも。協力するのも」
「そこをなんとか!」
実のところ、この状況は俺にとっても絶望的だった。
俺は荷物持ち役で戦闘に参加しなかったため、いかんせんレベルが低い。
膝丈ほどの大きさの蜘蛛一匹ならいざしれず、三匹以上で現れたら絶対に勝てない。
しかもその蜘蛛はかなりの頻度で遭遇する上に十匹以上の集団もよく現れる。
「正直、君のスキル頼りなんだ!」
少女は諦めたかのように息を吐いた。
「……わかった、私のスキル教えてあげる」
「! あ……ありがとう」
「でも先に言っておく、あなたは私のユニークスキルを聞いて必ずがっかりすると思う」
「そんなの聞かないとわからないよ」
「………私のユニークスキルは…
お…
【御守り作り】……」
【御守り作り】...
特定の素材で作った御守りに力を付与することができるスキル。
ミオは冷めた目でこちらを向いている。
「その唖然とした顔、効果は知ってるみたいだね
そう、御守りは使用せずとも鞄に入れとくだけで常時効力を発揮するアイテム
効力は筋力や魔力や体力が僅かに上るといったところね」
しかし2枚以上持つと反発しあい、お互いの効力を打ち消し合う。
だから一人一つしか所持することができない。
さらに効力のわりに重量が重く、
最大載積量を圧迫するため、中級者以上の冒険者ならまず身に付けない。
その枠で回復薬や魔除けなど、あらゆる汎用アイテムを詰めるからだ。
逆に状況を選ばず効力は発揮するため、情報に疎い初心者に人気がある。
しかし、そのような冒険者は危険に対する知識すら身についていないことが多いためか「御守りを身につけてダンジョンに潜る冒険者は死ぬ」という皮肉のきいたジンクスがあるほどだ。
要するに
最弱の生産スキル。
「見なくたって、貴方が今、どんな顔してるかわかってる」
彼女は目を合わせようとせず、表情を隠すように俯いていた。
俺と同じでハズレスキルと言われ続けたのだろう。
「…あなたも笑うのね」
「……うん、笑ってた」
「いいよ。慣れてる。同情されるくらいならそっちの方がマシだから」
「違うよ」
「何が?最弱のスキルだと思ったんでしょ」
「違う、君のスキルは最強だ」
「え」
「君のスキルが最強だから俺は笑ったんだ」
・
・
・
上階で魔物の目を盗みながら落ちていた素材を集めた。
彼女はすり鉢で粉々にした蜘蛛の足を手持ちの小袋に忍ばせ、手をかざした。
<<スキル【御守り作り】発動>>
.
.
<<生成完了...
【攻撃祈願】×3:弱小モンスターから生成された御守り。
ランクE。重量20。攻撃力を少し上げる。>>
「この素材だとこれが限界、3枚もできちゃったけど、要らないね、一人一つしか着けられないから」
ミオはできあがった御守りを何も期待しないように俺に手渡した。
「ありがとう、じゃあ早速全部バッグに入れてと……」
「あのー…聞いてました?一人一つしか持てないって」
「じゃあ…小手調べだ……この団子の串を借りるね」
俺はミオの団子の串を刺突剣に見立てて右手に持った。
「あ…ちょっと!」
目の前には偶然にも迷い込んだ大蜘蛛が一匹。
「そんなもので勝てるわけない! 御守りの能力は重複しない。それどころかお互いの効力を打ち消し合う!!」
「もしかしたら……すごいことになるかもしれない、試さずにはいられないだろ!」
シュッ
俺は刺剣の要領で串を蜘蛛に突き刺そうとする。
「折られて、反撃されちゃう!」
少女は長い黒髪を乱れさせながら、顔を手で覆う。
「そうはさせない!」
すると。
ブシャアアアアア
大蜘蛛の緑色の液体が勢いよく飛び散る。
「え……」
少女は顔に当てていた手を離して状況を確認した。
俺はもう一度突き刺そうとしたが、その串は見当たらなかった。
「あ……こんなところに」
なんと腕の長さほどある串は大蜘蛛の身体を貫き、その先の地面にすっぽり埋まっていた。
もちろん大蜘蛛は絶命していた。
「うそ……」
「やった……仮説通りだ、この効果は御守り1枚分じゃない、ましてや効果を打ち消し合ってもない」
そう
荷物持ちが持った御守りは……効果が重複する!
「きっと、俺の【荷物持ち】のスキルなら2枚以上の御守りを持てるんだと思う」
「ど……どういうこと?」
「御守りは近くにあると効果が反発しあって効果を発動しなくなるだろ?
でも、俺のユニークスキル【荷物持ち】はバッグの中がアイテム限定の異空間になってるから、御守り同士が近くにある状態じゃないんだ」
「え…?どういうこと?」
ミオは俺のバッグを覗き込む。
「びっくりした……真っ黒……!」
「そう、俺はこれのおかげで、皆と同じバッグを持っていても、たくさんの荷物を詰め込むことができるし、早く取り出すことができる、これはSランクアイテムの強欲者の大包みを背負った人でも真似できないと思う」
むしろ、強欲者の大包みを最大載積量の2000を詰め込んだ状態で、【荷物持ち】の取り出し能力なしで扱える人間など存在するのだろうか。
それだけたくさんのアイテムを積んで、望むアイテムをすぐに手にするなんて、想像を絶する技量が必要なはずだ。
「俺のバッグの中は異空間だから、御守りを2枚以上バッグに入れても、御守り同士が距離が近いという理由で効果が反発することはない
でも2枚以上の御守りを所持しているという事実は存在するんだ」
少女はなにか言いたげにこちらを見ている。
「つまり
つまりあなたは…御守りを持てば持つほど…
限りなく強くなるというの?」
黒髪の少女はクールな口調を崩していない。
しかし彼女の目は輝いていた。
「…うん。これなら俺たちは街に戻れる!ここから帰ろう!」
「待って!」
振り向くと彼女は長い髪を人差し指でカールして、もじもじしていた。
「私。ミオ。ミオ=ココノエ……」
「あなたは…私の運命の人なんだと思う…!」
「ええ…ええええええええええ」
俺の動揺の声が洞窟内にこだました。
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ステータス
名前:リュック=ストレイジ
称号:なし
技能:【荷物持ち】
耐性:なし
所持品:【布鞄】【魔除け】【薬草】【薬草】【薬草】【攻撃祈願】
【攻撃祈願】【攻撃祈願】
合計積載量:91/1000
第一行動方針:少女と協力してダンジョンを抜ける。
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