19. 命懸けの入浴
逃亡を図ってから3時間が経った。
俺とミオは客室でぐったりしている。
しかし一番ぐったりしていたのは監視役のキューンだった。
「す…すみません……ソファをお借りしま……す……監視役の分際で……」
「い……いえいえ」
キューンは17歳ほどの少女でありながら、ファルマン家に仕えるメイドで、騎士としても育てられているように見える。
それに未知のスキルを所持している、すごく優秀な人間だ。
しかし俺はキューンに対し「アリシアに振り回されし者」としての親近感を覚えていたため、キューンとの会話は異常にはずんだ。
そして俺はその信頼できるキューンには俺のスキルについては説明しておくことにした。
「た…確かにそのユニークスキルだと…お風呂に入ると致命傷です!!」
「そう、ミオの作った御守りを【荷物持ち】で大量に所持しているから俺はアリシアと戦えたんだ。」
「な…なるほど御守りは重ねがけするとここまで驚異になるのですね……今まで気づきもしませんでした、今後は私も所持することを検討します」
ミオは嬉しそうな顔をした。
「ところでなんだ、キューンのあの異様なユニークスキルは…」
「す…すみません!!私のスキル…どうやらすごく珍しいらしくて!!私…【アルファベータ】なんです!」
俺とミオは顔を見合わせて驚いた。
「【アルファベータ】って選ばれたユニークスキルを持つ!?お伽噺の中でしか聞いたことない」
「すみません!すみません!どうやら選ばれし者らしくて」
なんだか腹が立つぞ。
【アルファベータ】とは世界に26人いるという世界有数のユニークスキルを持つ者を指す。そのスキルは世の理を反し、人智を超えるという。
キューンの【En:Portals】は空間と空間の接続を可能にする。超常能力であった。
「でも、俺に追いつくときはスキルを使わなかったね」
「このスキルはむやみに使うべきではありませんから、しかし今回の場合はリュック様がいた場所は私が足を踏み入れた場所ではなかったので、どちらにしても不可能でしたね」
「一度足をつけた場所じゃないと移動できないのか?」
「はい、私の能力の数少ない条件といいますか」
アリシアのルーティンに使うキマイラも、遠くのダンジョンからキューンのスキルで呼び寄せたものらしい。
なんでこんなに強い能力を持っている人が一介のメイドをしているのだろうか。
「それはそうと、リュックくん…本当にアリシアさんとお風呂に入っちゃうの……?」
ミオは嫌そうな顔でこちらを見ている。
「もう入るしかない空気なんだけど……」
メイドのキューンはその通りでございますと全力で頷いている。
「ご…ごめんなさいい…お二人は交際しているのに!」
キューンは俺とミオが付き合っていると思い込んでいる。
彼女には本当のことを言っておくべきだろうかと思ったとき……。
「わ……私もお風呂入ろうかな」
え。
ミオは黒髪を指でカールして、表情が見えないように下に向けていた。
ボソっと言うには衝撃発言すぎた。
「女のわたしがいることによってとれる行動が増える思う、リュックくんの命の助かる可能性は上がると思う…」
「いや、かなり危険なミッションだぞ!」
「でもリュックくん、女の人とお風呂入れてラッキーって思ってない?」
「う」
反論できなかった。
「えっち
えっちなリュックくんを監視するために私も入ります」
俺はミオの謎理論に押し切られてしまった。
・
・
・
「こちらが大浴場です」
キューンに連れられて、大浴場の脱衣所に招かれた。
「大きな脱衣所だ、じゃあ浴室はどうなっているんだろう」
服を脱ぐ前にドアを開け浴室を確認しようとすると……。
俺が今度決闘する相手――中に裸のクロエがいた。
彼女は腰までの高さの湯船に浸かっていたため、桃ほどの大きな胸を露出していた。
銀髪は水で滴り色っぽい雰囲気を醸し出している。
「どうすれば…どうすれば…お父様に認めてもらえるのか……」
ちょ……
俺は勢いよくドアを締めると、ワンテンポ遅れて怒号が飛び出した。
「痴れ者がぁああああ!!!」
ズシャーン!!
剣がドアを突き破る!!
「うわぁ!」
お風呂まで剣を持ち歩くのか!
「なんだ!?貴様は!乙女の清純を汚したな!?許さん!」
クロエは勢いよくドアを開けたかと思うと全裸のまま俺に剣を2回刺す。
「ちょっと…!!アクシデントアクシデント!!」
――【防御祈願】
幸い俺はまだバッグを背負っていたため、軽傷で済んだ。
「な、何ぃ!?ダメージをくらわないだと!?貴様……どこまで……つ」
クロエは「強い」と言いかけてやめた。
「フーフー!!」
クロエは右手で胸を隠し左手で持つ剣で股間を隠した。
……。
全裸で武器だけ持ってるのめちゃくちゃ色っぽい……。
「クロエ様!?1時間ほど前に入浴を終えたハズでは!?」
「キューン!貴様の不始末か!物思いにふけていたのだ!わかれ!」
「すみません!!すみません!!」
「腹立たしい……!……メイドならばこれくらいの気遣いを完璧にしてみせろ!!さては貴様……騎士としての訓練に精を出しすぎて使用人としての意識を欠いているのではないか!?メイドの分際で!」
「そ…そんなこと…すみません!すみません!」
「ふん……多少スキルに恵まれたからって」
俺はクロエからキューンへの悪意のようなものを感じとった。
キューンはもちろん何も言い返さない、俯いている。
「フン」
クロエはタオルを巻くと、そのまま脱衣所から出てしまった。
部屋の外からクロエの声が聞こえる。
「悲しかったぞ。我がお前と決闘することを命じられたときは、我が部外者のお前といい勝負をすると思われたかのようで…我はファルマン家の誇りをかけてお前に必ず勝つ」
俺に対しての言葉なんだろう。
俺はカウンターの言葉が思いつかなかった。
なぜなら俺は見てしまった裸体を脳裏で反芻してしまい、全く決闘モードにならなかったからだ。
「鼻の下伸びてるよ、えっち」
ミオに冷ややかな目で見られてしまった。
・
・
・
「~~~~リュックくん、やっぱり恥ずかしいかも…」
ミオと俺は局部にタオルに巻いて無防備の状態になった。
ミオのやわらかそうな身体が目の前で布一枚で包まれており、目に毒だった。
タオルできつく締められた胸は谷間の深さを強調している。
胸の大きさで言えば、クロエよりも大きな印象があった。
「……リュックくん、それ……アリシアさんの前でやっちゃダメだよ」
ミオは顔を赤くしながら俺のタオルに包まれた隆起した下腹部を指さすと、俺は本当に申し訳ない気持ちになった。
「ご…ごめん」
「きゃ…キャー♡ キャー♡」
キューンは手で顔を覆いながらも、指の隙間からバッチリ見ていた。
顔がわくわくしている。
普段なら不純扱いしているだろうけど、恋人のミオに対しての隆起ならば、むしろ純愛と言いたげだ。
俺らは入浴すると、ミオとお風呂の入ることへの異様な空間にやはり興奮を抑えきれずにいた。
「おっぱい見えてるわけじゃないのに立つんだ…えっち」
「生理現象で…どうしても抑えきれなくて」
「男の人って大変だね、女の子の場合はその気になっても身体にあんまり出ないからその辺大丈夫だけど」
「その気になるとどうなるの?」
「リュックくんがもっと固くなっちゃうから言わない、ほらほら来たみたいだよ」
ドア越し巨影が見えた。見間違えるハズがない。
アリシアだ。
「おまたせ……二人とも」
キューンはミオもお風呂に入る話を通してくれていたらしい。
ドアを開けると衝撃的なものが目に入った。
アリシアの身体にはタオルなど巻かれておらず、両房で枕ほどの大きさがありそうな胸がでかでかと露出していた。
「あぶない!」
ミオは俺の顔を手で隠すと、今度はミオの胸が俺の背中にぎゅうと押しつぶされていた。
「うわぁ!やわらか!!」
ミオの胸は熱気を帯びて俺にまとわりついていた。
しかし、もっと一つ衝撃的なものを見た。
それは、アリシアの身体はたくさんの古傷で覆われていたことだ。
一瞬だったが見逃さなかった。
どんな傷でも、今の回復魔法技術ならば完全に治せるはず。
なのになぜ古傷を放置しているのだろう。
「ミオちゃん……」
「どど…どうしたのアリシアちゃん…!」
「旦那様の背中……一緒に流そ……」
「……はぁ」
俺はタオルを顔に巻かれると二人に背中を流してもらった。しかし
ジャジャジャジャ!
アリシアの力が入りすぎている。
「痛い!!痛い!!痛い!!」
「力加減……難しい……」
アリシアは優しく俺の背中を流そうとしても俺は抉れるほど痛かった。
アリシアは悲しきモンスターに成り果てていたのだ。
「アリシアちゃん。汚れを落とそうと意気込んじゃダメ。もっと小鳥を撫でるようにしなきゃ…」
「ミオちゃん……教えるの……上手……」
アリシアは力加減を覚えて、背中はだいぶ楽になった。
アリシアえらい。ミオすごい。
ミオはアリシアを警戒しているが、アリシアは好意的にミオと接している。
俺とミオは恋人ということになっている。
アリシアはミオの存在を疎ましく思わないのだろうか。
少し時間が経つと、すこし雑談をする空気が流れた。好きな武器とか、好きな修行やら。その流れで俺はアリシアに尋ねた。
「どうして身体の傷を治さないの?」
これは素朴な疑問だった。女の傷を指摘するのはデリカシーに欠けると思ったが、ここまでの裕福な家が傷を残すなんてありえない。
傷を残すことで自分への戒めにするとか言い出すのだろうか。
アリシアはケロっと答える。
「ユニークスキル……【鈍感】だから……」
「【鈍感】?」
聞くところによると身体の中に、スキルや魔力を伝達する信号が一切反応しないスキルらしい。
つまり攻撃魔法や攻撃スキルは一切効かないが、回復魔法も補助魔法も通らないスキルだそうだ。
「だからキマイラの毒霧すら効かなかったのか」
ちょっと待て。じゃあアリシアはスキル関係なく、ここまで大きくて強いのか!?
俺は恐ろしさを感じた。
スキルに恵まれなくとも、恵体で天才。
それがアリシアだった。
しかし俺はある疑問が生まれた。
「でも、キューンのスキルで移動してきたよね」
「あれは……特別……【アルファベータ】……だから」
世界のルールに干渉する能力者……。全くこの家にはなんて化け物が揃ってるんだ!
アリシアは背中を拭きながら言う。
「私……強くない……回復魔法……効かない……だから……昔……皆守ってくれた、でもそれじゃ……ダメだった……守られてるだけじゃ……強くなる……誰も私に傷ひとつもつけられないくらい……強く」
きっとアリシアには過去に誰かに守られて悔しい思いをしたのだろう。
俺の身体から急に金属を擦り合わせたような音が鳴る。
「痛い痛い痛い!」
アリシアの手の力が再び入っていた。
人体とタオルの間から奏でていい音じゃない!
とにかく俺らはアリシアの強さを知った。
守られてるだけの自分に嫌気が差したという、今の彼女からは信じられない動機だった。
「アリシアちゃんは努力家なんだね」
「ううん、私……天才だった…努力家はクロエ……」
アリシアは初めてクロエに対して言及した。しかしそれ以上先のことは言わなかった。姉妹の仲は悪いのだろうか。
そう考えていると、アリシアはうずうずして胸をずいっとこちらへ向けた。
「どどど、どうしたのアリシア!?」
「旦那様……胸とか流して欲しい……」
「「え」」
目隠ししたタオルでよく見えてないが、大きな胸を威圧感を感じ取った。
「あ、あ、アリシアちゃん、私が流してあげる」
「旦那様が……いい……」
胸を俺の顔に押し付ける。
うお!?弾力がというか、でかい。というか俺が潰される!!
「おっきいの……嫌い……?」
「好きだけど!好きだけどー!」
「リュックくんは悪い男の人だからダメだよ」
「旦那様は……いい人!」
アリシアは少し怒ったのか、俺を擁護しようとしたのか俺の頭を抱いた。
万力のようにギチギチと頭が締まる。
「うわああああああ」
死ぬと思ったが、アリシアの大きな胸がクッションになっていた。
「な…何で!?お…重!!!」
「だ…ダメ!リュックくんおっぱい好きだから…!虜になっちゃう、えーっと…えーっと」
ミオは迷った末にタオルを脱いで俺の背中に胸を押し付けた。
「み…ミオ!?」
むにゅん。
「えーい!!ぶ…分散!分散!」
両者の胸が俺の触覚をバグらせてくる。
なんだよこれ!
誰か止めてくれ!!
様子を見にきたキューンは俺を助けることなく、キャーと黄色い声を上げていた。
キューンは恋愛のことによるといつものストッパーが外れるらしい。
俺らの命懸けの入浴はなんとか五体満足で終わった。
二人分の感触はなかなか消えてくれなかった。
アリシアは恐ろしい存在だと思っていたが…彼女の人間性を垣間見た気がした。
■
次の日。朗報があった。
領主のリリカブラに再び【スキル鑑定】をしてもらったところによると、俺とミオは【恐怖耐性Lv.1】を取得していた。
お風呂の一件は俺らがスキルを取得するに値する体験だったらしい。
やっぱり恐るべし、アリシア。
___________________
ステータス
名前:リュック=ストレイジ
称号:なし
技能:【荷物持ち】【拡張】【亀の祝福】
耐性:【恐怖耐性Lv.1】
所持品:【布鞄】【薬草】×2【攻撃祈願】×25
【守備祈願】×15【俊敏祈願】×3【必中祈願】×2【開運祈願】×2
合計積載量:991/3000
第一行動方針:命の尊さを噛みしめる(胸の感触も)
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