16. 一方、その頃レオンは…③ 【追放パーティ視点】
<<Another view:レオン>>
王都のクエストに失敗した俺様は宿屋に戻ってきた。
俺様は部屋をひとしきり荒らし終わると、冷静になった。
皆はひどく落ち込んでいる。
世界で一番不幸、みたいな顔しやがって、落ち込みたいのは俺様も同じだ!
なぜなら俺様も夢から遠ざかってしまったのだから……。
しかし王城近辺の森の魔物があれほど強いハズがない。
俺様はある一つの結論にいきついた。
そうだ。
「誰かが……あの魔物を強化したんだ…俺様達を妬んで…」
納得できる理由がそれしかなかった。
他のメンバーもその可能性はある、という空気だった。
「そうだ、そうとしか考えられねぇ、この頃躍進してる俺様たちに近衛騎士の前で恥をかかせようとしたんだ」
「確かにその線はありますねぇ…ん?レオンさん少し元気になりましたか?」
ロレンスの言葉で俺様は元気になっていくのを自覚した。
「ああ、俺様達【獅子の眼光】もデカくなったなと思ってよ」
「どういうことなのぉ?レオン」
レプティルは俺様に問いかける。
「なぁ、お前らは英雄の定義ってわかるか?
世界を救う奴?魔王を討伐する奴?そんなんじゃない
英雄の定義ってのは、その時代の多くの奴らに脳内にどれだけ強く、そして長く居続ける奴かってことだ!!
世界を救うことや、魔王討伐はその手段でしかない、羨望、憧憬、信望、愛、それだけじゃない、妬み、憎悪、やっかみ、それらの感情をその時代で一番強く持たれた奴が…英雄だ!」
「レオンの英雄論…嫌いではない」
モルゲンは俺様の意見に賛同してくれた。
「きっとリュックの野郎も俺様を恨んでいることだろう、しかし、英雄になるためにそういう犠牲も必要だ」
「むしろリュックが俺様を憎悪すればするほど、復讐を企てれば企てるほど俺様に箔がつくってもんだ」
「ハッハッハッハッハ!」
俺様は普段ならしない高笑いをしてしまった。
「俺様を知った群衆は、羨望か憎悪かの二択を迫られる」
こういうことを言うとよく変な奴だと言われる。
俺様はその言葉を軽々しく言う人間を見下している。
なぜなら、そいつは誰にも影響を与えたことのない雑魚なのだから。
知らないのだ。
自分の影響で、周りの同世代の奴らが、夢敗れていく快感を。
王都のクエストを失敗して、夢が遠ざかったなんてとんでもない。
むしろ着実に夢に近づいている。
なぜなら俺様に嫉妬する冒険者が現れたのだから。
しかし、こうも実害がでてしまっては対処する他無い。
俺様達は犯人探しをすることになった。
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俺様達は王城周辺の緑生い茂る森を訪れた。
1年前に素材集めでお世話になった俺様の狩場だ。
特に目立った特徴もなく、注意すべきは、変わりやすい天候とクマ系の魔物くらいだろう。
冒険者ギルドのクエスト一覧には俺様達が探す冒険者に関係しそうな依頼はなかった。
だから仕方なく俺様は【王都近辺の森】に関連するクエストを受けた。
ランクCのクエストで物足りないが、魔物を強化する真犯人と会うことができるかもしれないと考えると、モチベーションは決して低くなかった。
「レオンさん、大丈夫なんでしょうか、もし強化魔法を使う相手がいるとすれば、私達は苦戦を強いられますよ」
ロレンスは俺様を心配した。
「大丈夫だ、ちゃんと考えがある。お前らは前衛の俺様とモルゲンが守る」
「……ああ」
モルゲンはコクンと頷いた。
ガサガサガサ
その矢先、一角獣のウサギが現れた。
この森ではほぼ最弱を謳われる魔物だ。
「…そう、俺様はこいつらの好きなキャロットの入った袋を持ち歩いている。」
「こいつらと戦うことによって、今魔物が強化されてるかどうかを最小リスクで確かめることができる」
「なるほど、さすがレオンさんですね」
「お前ら雑魚は俺様の判断基準なんだよぉ!!」
俺様は剣を振る。
しかし!
そのウサギの角と俺様の剣が鍔競り合いになってしまった。
「何ぃ!?」
ギギギッギギギ
「こんなことがあり得るのぉ!?」
レプティルだけではない。一同は大きく驚いていた。
「強化されてやがる!!それも大幅に!!」
俺様とモルゲンは協力してなんとか一匹を倒すことができた。
しかし、
ぴょこ。
ぴょこぴょこ。
一角獣のウサギは次々と現れてくる。
「これだけはやりたくなかったが…くそぉ!!」
俺様は剣を逆手に持つと、右手の剣を弓の弦を引くように、後ろにぐぐっと引く。
バチバチバチ
俺様のスキル――【雷刃】
俺様の身体がバチバチを音を鳴らす。
身体に帯びた電力を身体の表面に出力する。
さぁ、放て!
ビュン!
高速でウサギの群れの間を駆け抜けると、俺様はウサギを切り刻んだ。
ウサギ達はバチバチと電気を帯びだした。
いつもならここで魔物の身体がバラバラになるところだ。
しかし……
バラバラになるどころか、一体も絶命していなかった。
むしろ恨めしそうにこちらを睨んでいる。
「な……何ぃ!?おかしい!これは何かがおかしいぞ!」
【雷刃】は一日に何度も使えるスキルじゃない。
しかし……その分火力は強く、こんなウサギを倒せないなんてこと…今までなかったのに!!
「チィ!」
俺様は、腰に付けていた袋を遠くに投げ捨てた。
しかし投げた方向が悪かった。
後衛のレプティルとロレンスの方向だったのだ。
「しまった!」
ウサギ共は2人の元に向かう。
「ちょっと……二人共…助けてください!!」
「アタシ達が敵うはずないわよぉ!!守ってよ!!レオン!」
「こんな数……相手できるわけねぇだろうがぁ!!」
二人は全力で逃げていく。
正直生きるためには賢明な判断だった。
俺様とモルゲンもこの大量のウサギに対処できるわけもなく、逆方向へ逃げることにした。
しかし俺様は木の根っこに躓いて転んでしまった。
「ぐぁ……!!」
俺様は地面に這いつくばってしまった。
屈辱だ…。
屈辱だ!!!
こんな雑魚モンスターから……強化されてるとはいえ……逃げている自分が存在している事実が!!!
「レオン」
モルゲンは俺様を心配しているが、知ったことか!
俺様は心配してくれたモルゲンに追いかけてくる一角兎のヘイトを押し付けて、術士を探すフリをして……走って逃げた。
「術士はどこだ!!誰が強化してるんだ!!」
出てこい!出てこい!出てこい!!
俺様は森を探る。しかしすぐに見つかるハズもない。
探している間…俺様の頭ではある疑惑がどんどん強くなっていた。
もしかして敵が強くなっているのではなく。
俺様が弱くなっているのではないかという疑問に。
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