15. 逃げろ!恋する乙女から!
<<Another view:メイド騎士キューン>>
ファルマンの館の謁見の間。私は領主様とアリシア様の話を聞いていました。
「お父様………だめ?」
「ならんならん!結婚などワシは認めん!!」
領主様は大変焦っております。娘の初恋の相手がどこの馬の骨かもわからないからでしょう。
「もちろんな、アリシアの意志を尊重したいのはやまやまじゃ……しかしな、彼のスキルは弱いし、家柄もない、認めるわけにはいかん……!」
ああ、領主様は葛藤してらっしゃる。父として全力で頭をフル回転しているのですね。娘の恋は応援したい…けど相手はどこの馬の骨かもわからない冒険者ということでしょうか。
「旦那様は……強い……!!強い……!!」
アリシア様は自分の意志を伝えようと領主様の手を握っている。
「ギャアアアアアア」
「アリシア様!?!?ややや!やめてください!!握り潰してしまいます!!」
私は焦って、アリシア様の手を領主様から離したが遅かった!!なんてこと!?
領主様の手はしわくちゃの手ぬぐいのようになってしまった。顔もしかめっ面でしわくちゃになっていた。
「アリシア!!お前の気持ちはよぉくわかった…!!だがウチの結婚相手として弱い者はやはり受け入れられない…一つ条件を飲んでくれんかの……」
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<<Main View:リュック・ストレイジ>>
オレとミオは綺麗な客室に招かれていた。
アリシアのご厚意で、しばらくの間の宿泊を認められたということになった。
キューンとアリシアは結婚のための条件について説明してくれた。
「次女のクロエと決闘して勝ったら結婚を認めてくれるって?」
この家、大事なことを決闘で決め過ぎじゃないか?
アリシアが俺に惚れてしまった。
そのおかげで殺し合いは中止になったが、事態はややこしくなっていた。
キューンの後ろに隠れるように(全く隠れられていないが)アリシアはこちらの様子を恥ずかしそうにチラチラと伺っている。
「ええ。これはファルマン家領主の最大譲歩です」
「でも俺…アリシアさんと結婚するつもりは」
ピキッ
アリシアは不安で手に掴んでいたキューンの肩の甲冑をミシミシと強く握ってしまっている。
「ああああ!!!リュック様ぁああ!!ここはおとなしく話を聞いてくれないでしょうかぁあああああ!!!!」
キューンは青ざめきっている。ごめん。
そのとき、ミオは俺の右腕にとっさに抱きついてきた。
相変わらず柔らかくてドキってする。
「あ…あのー……私達既に付き合っているのですがぁ……?」
ミオの顔は真っ赤だ。相変わらず演技が下手だ……。
アリシアは首をかしげた……。
「旦那様……好き?」
「す…好きだよ!!もちろん!」
「どこが好き…?」
「え…えーっと……普段少し頼りないけど……私が危ないときは……絶対私を守ってくれるとこ……とか……?」
恥ずかしい。
もはやミオにとっては羞恥プレイだ。耳まで真っ赤だ。本当は叫びたいくらいなのだろう。
キューンは手を口に当てて興味津々に聞いている。彼女は恋愛話に目がないようだ。
「私も……旦那様……好き!!いっしょ!!」
「ええ!?」
ミオはアリシア一人によって胴上げされていた。
「ちょっと…ちょっとー!!」
ミオが死ぬ!!俺はすぐにやめさせるようにキューンに言った。
キューンはミオを助けるにあたって2.3箇所強打した。
「とほほ…アリシア様に仕えてから傷だらけです……
それで、この決闘受けていただけませんでしょうか?」
正直、俺は本題に入るつもりはなかった。
俺の目的はミオの御守りの効果を皆に伝えること。
この前は少し熱くなって、領主とクロエに喧嘩を売ってしまったが、二人はもう御守りの力に気付いている印象を受けた。
俺らの目的にクロエとの決闘、アリシアとの結婚は不要だ。
俺らは当初の予定通り、この館から逃げることにした。
「決闘に備えて武器庫をよく見ておきたいんだ」
「そういうことなら、このキューンが連れていきましょう」
俺達はアリシアと別行動することに成功した。
倉庫の中をミオと手頃な武器を探すフリをする。
俺らはキューンから少し距離を離すことに成功した。
「リュックくん…今…かな?」
「ああ…いくぞ、ミオ」
俺はミオをお姫様だっこする。
「ええ…!?リュックくん!?」
「いいか、絶対に離すな!」
ミオの顔は真っ赤になっている。
「事前に言って欲しかった…ばか!」
ミオが俺の首に手をかけることを確認すると、俺は正門まで全力で走った。
ダッ
「え…あ…リュック様!?どこへ行くんですかぁあ!?」
【俊敏祈願】【攻撃祈願】
ビュン
ダダダダダダ
それさえあればお姫様だっこをしながら、キューンに追いつかれずに走ることなど容易い!!
俺は馬車を超える速度でミオを抱えて、敷地の外に出ようとする。
正門の位置はわかりやすく、内側に閂があるタイプの扉だったため外へ出るのは簡単だった。
走れ。走れ!
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領地から200mほど離れた木陰に隠れた。追手は見えない。
「よし出れた!!」
「やった…リュックくん!!」
ヒュウウウウウン
「ん」
そのとき空に大きい何かが飛んでいるのを確認した。
なんと、砲弾がこちらの方向へ飛んできていた。
違う!アレは砲弾ではない…。
メイド騎士の……キューンだ!!
キューンがこちらに向かって飛んでくる!!
「ああああああああああああ!! とほほォー!!とほほォォー!!!!」
その砲弾は咆哮を上げている。
あんなに悲痛な「とほほ」を俺は初めて聞いた。
その軌道の根本を辿ると、遠くからでもよく見える。アリシアが何かを投げ終わったポーズをしていた。
「そんな馬鹿な!!ここまで人を投げたって言うのか!!」
宙に浮かぶキューンは唐突に青白く光りだした!
「な…なんなのこの光り!?」
「何か詠唱している…魔法か…?いや違う!ユニークスキルだ!!」
魔法の詠唱というよりかは…これは"童謡"だった。
ミミズさん、ミミズさん
うちに かえるな、
うちが もえてる
かぞくたちは みないない
ひとりだけ のこってる
いたずらこぞうだけ のこってる
<<発動成功...世の理を一時的に変更します...
【En:Portals】>>
「――空間接続」
宙には謎の空間が生成されていた。エメラルド色の菱形の形のそれは、形を少しづつ大きくしている。
「なんだ…これは!?」
今度はその菱形の空間から、アリシアがにゅっと出現した。
「あ……旦那様…」
「何ぃぃぃ!?」
ガシッ
アリシアは宙に浮かぶキューンを抱えると、俺らの進行方向に着地した。
ズシン。
地震が起きたと錯覚するほどの大きな揺れが生じた。キューンはあまりの衝撃に気を失ってしまったようだった。
「かえっちゃうの……?」
アリシアの目からは大粒の涙がこぼれている。
事態を把握できない。さきほど、キューンが空から飛んできたかと思うと、突然アリシアまで出てきて、二人揃って目の前にいる。
俺らは何がなんだかわからなかった。
「か…帰らないよ…俺はただアリシアの愛を確かめただけだ。アリシアがどれくらい本気かって」
「リュ…リュックくん!?」
許してくれ、今はこう言わないと殺される気がしたんだ。
「私……本気……」
アリシアは両手を股下付近で組むと猫背でしゅんとしていた。
「アリシアの本気度はわかった……クロエとの決闘を受けるよ!」
「ほんと……!?」
アリシアは寂しそうな顔から嬉しそうな顔に変わった。
可愛い……。
俺はドキドキしていた。
どちらかというと命の危機を感じて。
とりあえず今はこの怪物に従ったほうがいいのかもしれない。
俺に話術があれば都合の良い方に条件を提示できるのだろうか。
「私…好き…旦那様……大好き……」
「うん…ありがとうアリシア」
アリシアがその言葉を紡ぐたびに、ミオはむすっとした顔で俺に胸を押し付ける。
「本気度……伝えたい……だから
一緒にお風呂……はいろ……?」
「……は!?」
アリシアはもじもじしている。
この子は爆弾発言しかしないのか?
俺はアリシアとお風呂に入ることになってしまった。
裸の付き合いだ。
ということは、俺は御守りの所持ができないということだ。
御守りなしでこの怪物とお風呂に入るって無事で済むのか!?
俺は人生で一番のピンチを迎えていた。
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