11. VSナンパな金持ち騎士
俺たちは冒険者ギルドにたどり着いた。
ここでは冒険者の出入りが絶えない。クエストを受けたり、冒険者申請をしたり、全ての冒険者がここにお世話になるのだ。
それは俺らとて例外ではなかった。
「あなた達の冒険者ランクはなんと……落第ランクのFです!!!
残念ながらパーティ申請できません!!!」
眼鏡をかけたお姉さんは高らかに謳い上げる。
ある程度予想はしていたが、Fとはまさかだった。
ミオと俺は目を丸くしている
冒険経験者が2人もいると言うのに。
「ど…どうして」
「理由は色々ありますが、近接職も魔法使い職もいませんね、かといってそれに値するスキルも持ち合わせていない……いやぁ残念ながらぁ」
「えっと…このスキルとこのスキルを兼ね合わせると……」
「あなた達はFランクでーす!!!」
お姉さんはカウンターから用意した大きな看板を持ち上げて見せつけてきた
そこにはデカデカと「F」が書かれていた。
俺らは冒険者ギルドに新パーティ申請をしに来ていたが、アピールに失敗してしまった。
Fランクとなると、初心者向けのクエストすら受けることができない。
そうなるとミオのスキルをアピールする機会がぐっと減る。
俺はミオの御守りを持って戦うことで、冒険者ランクを上げて、御守りを周りに認めてもらおうと思っていたからだ。
打開策は2つ。俺が師匠を見つけて、見習い戦士などの称号などを習得するか、強い仲間を見つけて共に冒険するか。
前者は堅実ではあるが一ヶ月は稽古に励むことになるだろう、後者は俺たちの実力を正しく測ってくれる人を見つける必要がある。
どちらも決して難しいことではないと思うが、俺達は出鼻をくじかれて少しいじけていた。
「ミオの【御守り作り】があればAランクくらい行っても良いと思ったんだけどなぁ……まだ強いスキルだってことは知れ渡ってないみたいだ」
「いや……リュックくんが上手く使いすぎ、皆【御守り作り】にそこまで見いだせないと思う」
ミオと俺は果実のジュースを飲みながら、雑に置かれたEランク専用依頼の紙束を漁っていた。もちろんパーティ申請を断られた俺たちはこれを受けることはできない。
採取クエスト。採取クエスト。スライム狩り。採取クエスト。
このクエストすら受けることができないのかと、俺たちの夢への長い道のりを感じてしまった。
そのとき、ミオの背中に何者かの手が触れる。
「ひっ…」
「そこのお嬢様、そんな冴えない男よりこっちのパーティに来たまえ」
その大きな手の正体はハンサムながらもいやらしい顔の男だった。
赤い派手な服が自信があることを主張しているようだった。刺剣を腰にかけ、上流階級な雰囲気を漂わせている。
「やめてください!」
ミオは抵抗する様子を見せるが男は手を離さない。
「おや……このゴールド家に逆らうのかい?ボク様はあのレンコイン・ゴールドだよ?」
ゴールド家……武器加工技術で巨額の富を築いた家だ。この男の家はとんでもなく金持ちなのだろう。
「いいのかな?ボク様はAランクの冒険者だよ?それにこんなチャンス二度とないかもしれないぜ」
ククク…といやらしい視線をミオに飛ばす…。こいつ色目使いやがって……。
俺はわざとらしく咳払いをした。
「あの…提案ありがとうございます、ですがミオは俺の身内で……」
俺はなるべく穏便に解決しようとする。
「ア?」
「男はひっこみたまえ!!」
男の右ストレートは俺の顔に直撃する。すると俺の方を振り向かずにミオの方を向いた。
この辺りで周りの人は異変に気づき、ちょっとした人だかりができた。
「…な?ボク様の方がかっこいいでしょ?あんな弱そうな男といたら君どこかで死んじゃうよ…ボク様はかわいいレディを放っておけないタチなのさ」
ミオは何も言わない。
「ボク様はキミを守ってあげるよ。なんならキミは戦わなくていい。戦闘の後にボク様を慰めてくれたらいい。その身体をボク様に捧げるんだ。ボクは強い。それにお金も持っている。」
「不満ならば、ボク様のお父さんに家を工面してもらおう!な…あんな冴えない男より、ずっと魅力的だろう?」
ミオはため息をつく。
「あなたはきっと私を幸せにできないと思う」
「何ィ?」
男はピキピキと血管を浮かび上がらせる。
「【御守り作り】…それが私のスキル…私はこれの強さを証明したい、あなたにそれができる?」
周りから少し笑い声が漏れる。
ミオを馬鹿にする声じゃない。男がフラれたとあざ笑う声だ。
きっと「あなたは亀を休まないウサギに競走で勝たせることができる?」ほどのニュアンスに聞こえたのだろう。つまり無理難題をふっかけて男をフろうとしていると周りは捉えたのだ。
この反応はある意味、ミオにとって一番残酷な反応だ。
なぜなら【御守り作り】の強さを証明することは無理難題だと、周り全員が思っているのだから。
「なら……キミはすごくラッキーさ!」
「どういうこと?」
「そんなゴミみたいなスキル持ってたら、すぐに冒険者を諦められるじゃないか!そんなことよりボク様の身体のお世話をした方がよっぽど幸せに暮らせると思うよ」
男は余裕を失いながらも髪をかきあげる。
「あなたは何もわかってない……」
「黙れ!」
男は目を見開く
<<ユニークスキル発動【蛇ノ目】>>
男の目はヘビのように瞳が縦に伸びた。
「!!」
周りの冒険者は驚いている。
「すげぇ、ありゃ強スキルだぜ…!!」
「出やがった、相手の動きを止められるんだよなぁ…すっげぇよな」
ミオは身体をじたばたと動かそうとしているが動かない。
「ッ……!」
「そう……君は動かない方が綺麗だよ」
男はミオの顎に手をかける。
そして目をつむり唇を重ねようとする。
――そのとき
男の身体は音速で後ろに吹っ飛んで、ギルド内の大タルに身体を大きくぶつけた。
「何ィィィィィ!?」
さきほど男がいた場所には代わりに俺がいた。
もう我慢できなかった。
タチの悪いナンパならまだしも、こんなの強姦のようなものだ。
ミオはやはり異性の目には魅力的に映るようで、これからは守っていかなければいけないと心に誓った。
俺の右手には男の髪の毛が藁の束の量くらい握られている。
つまり俺はあの男を髪を引っ張っただけなのだが、どうやら力の調節が上手くいかなかったらしい。
「ミオ、大丈夫か?」
「うん……何もされてない」
俺はレンコインの方を向く。彼は宣教師のように頭頂部から髪の毛が消失していた。
「ミオに近づいたら……許さない」
俺は精一杯の威嚇をしたつもりだったが、あまり決まらなかった。
相手は今の吹っ飛びは何かの偶然だと思い込んでいる。
そこまで弱く見えるのだろうか。
なかなか悲しい。
「お前はボク様のパンチで沈んだハズだろ!!」
「いや…全く痛くなかったけど」
「な…何ィ!?」
愚問だった。
【防御祈願】
彼の渾身のパンチは確かに俺に当たったが、全く衝撃がなかったのだ。きっとミオの御守りの効果が効いているのだろう。
この辺りからレンコインは汗をかきだした。自分が今、何かしらの不可解な現象に巻き込まれていると確信したようだ。
ここで俺はウォーミングアップとして手を鳴らす。
ポキッ
「ひっ……」
彼の目は反抗的であったが、確実に怯えている声が漏れていた。
「面白かった!」
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