10. 新しいスキル【亀の祝福】
ここはハーゼルゾネット城下町の商業区域。
この商店街では商人の接客の声でごった返している。
昼前は商売人にとって最もギアが入る瞬間だ。旅前の冒険者から主婦までが掘り出し物を血眼で探している。その熱気は宿の中まで伝わってきた。
「さて、俺たちも行こうか」
今日は冒険するにあたっての準備だ。
新しいパーティを作成するにあたって2つの書類が求められる。
ひとつは新規パーティ申請書、もうひとつは最新のスキル鑑定書類だ。
スキル鑑定書類は【鑑定士の館】で鑑定してもらい、最新のステータスを書き記した書類だ。
それ基に【冒険者ギルド】は新規パーティに対し、AからEランクのいずれかを決めるのだ。
「普通ならEランクからだろうけど、ミオと俺のコンビネーションならCランクも狙えるかもしれない……ん?」
ミオは椅子の上でまだくるまっている。ううう…と怨念のような声が聞こえる。
やっぱりEランクからかもしれないな。
とりあえず鑑定士の館に向かおう。
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石造りの商店街の中に異色なテントがぽつんと建っている。
その外観は真っ黒で悪趣味にもヤギの頭蓋骨などの装飾が施されている。
俺とミオはおそるおそる中へ入ることにした。
内装も相変わらず不気味で真ん中に大きな水晶、そして10歳ほどの少女が分厚い魔導書を読みながら座っていた。
少女の髪の色は栗色で黒くて大きなローブと帽子が幼さを強調している。
「いらっしゃーい」
挨拶は素っ気なかった。
「キミ…お母さんの手伝い?お母さんいつ帰ってくる…?」
ミオは目線を合わせて優しく語りかける。
「お母さんは来ないわよ」
「…?じゃあ今日はもうこのお店やってないのかな?」
「……いや…アタシが鑑定士なんですけど」
「はは。大きくなったら俺たちも鑑定してもらおうかな」
「いやいや…アタシ…25なんだけど」
……
「エルフ族?」
「ちゃうわい」
少女はまんまるの耳を指差して見せつけてくる。
「「25!?」」
ミオと俺は圧倒的な年上に仰け反った。見た目の印象よりも明らかに上だった。
「リアクションがでかい!さぁお姉さんが鑑定してやろうじゃないの」
彼女はあぐらをかき、前のめりになり右手を右膝についた。
確かに口調や立ち振舞いは大人そのものだった。
「アタシはロッテ、アンタ達を隅々まで見てやるわ」
ロッテは獲物を前にした蛇のように舌なめずりをしている。
「はい、まずはそこの和服痴女!」
「ち…!?」
標的はミオだった。痴女を否定したそうにしているが、ミオの袴はすごく短いし、胸も横部分が露出している。
正直言われても仕方ない。
「ほら…背中見せなさい」
「ちょっと……リュックくんがいる前で……?」
ミオは少し顔を赤らめた。
「ん?そこの子に惚れてるのかい?なら配慮するけど…」
「……そういう意味じゃ……もう!」
半ばヤケクソになったミオは脱ぐ決心をしたようだ。
ミオは襟元を緩め、白の装束を脱ぐ。もちろん胸などは見えていないが、白い背中を大きく露出してしまっている。
前かがみになって、恥じらっている後ろ姿は、見てるほうが罪悪感があるほど、犯罪臭がした。
「じゃ…見てやるから…ね!」
ロッテはミオの背中に手を当てる
―――【大鑑定】発動
<<鑑定終了……ステータス、スキル、過去ログ表示>>
ミオの背中が青白く光ったと思えば、文字が浮かび上がる。
ロッテは慣れた口調で語り始めた。
「なるほど、スキルは【御守り作り】ね…おや、新しいスキルが見えるね」
――【大量生産】
――【御守り作りLv.2】
「【大量生産】は御守りを多く作るスキルだわ、【御守り作りLv.2】は新しい種類の御守りを作ることができるみたい」
「え…新しい御守りを!?」
ミオは驚いていた。
「どうして?今まであんなに一生懸命作っても今まで何もスキルアップしなかったのに……」
「さぁね。努力の方法間違えてたんじゃないの?」
ひどいことを言うなこのロリは。
「きっと御守りは作ることじゃなくて、誰かに持ってもらうことで成長するスキルだったんじゃない?」
ミオは背中をこちらに向けたまま、後ろにいる俺を見た。
「【大量生産】とかも、窮地に立たされた状態で大量に生産しないといけないときに発現することが多いみたいだからね~
スキルの発現には二種類ある。鍛えて伸ばすパターンと緊急時に無理やり目覚めるパターン、あ、あと幻獣種とかの契約もあるか」
やった…とミオは小さくガッツポーズをした。
いいな。新しいスキルか。緊張してきた。
俺のスキルは【荷物持ち】ただ一つだ。
【獅子の眼光】時代ではコストカットで2年半以上鑑定してもらってないけど、何も成長してなかったら嫌だな。
「じゃあ、そこの亀っ子も、ほら脱いで!」
「亀…!?」
このバッグのことか!?痴女よりかはマシだけど。
俺は脱いで背中を差し出した。
するとロッテは恍惚な声を出した。
「おお…♡ いいじゃないの♡」
まさか!!
俺も劇的に強くなっているってこと!?
「荷物持ちをやってたせいかね…いい背筋してる」
おい。
「鑑定士やってて良かったことは男の背中が見放題ってところかねぇ…ほらアンタも見なって!」
ミオは背中を押されつつも、名画を見るように俺の背中をまじまじと見る。
「たしかに…ちょっとたくましいかも……」
声をうわずらせるんじゃない。ミオ。こら。
「冗談はさておき、いくよ!」
【大鑑定】
<<鑑定終了……ステータス、スキル、過去ログ表示>>
ドキドキ
「…………どうですか?」
期待に膨らませた俺をロッテは一刀両断した。
「はぁ~…アンタ苦労してんのねステータスは凡人そのもの、スキルもまぁ使えなくはないけどハズレ枠だし…」
くそ……。ニ年半前と同じか……。
俺は落胆した様子を隠しきれずにいた。
「次は新しいスキルを獲得してないか見るけど期待は……」
ロッテの手は止まった。何だ…?
「………わ…わぁ…」
ロッテは狼狽えている。汗もかき始めている。どうせ今度も背筋がどうたらと冗談を言うつもりだろう。
「……あったわ、新しいスキル2つ」
「え、本当ですか?」
「一つは【拡張】…アンタ最大載積料1000なんですってね。それが3000に増えるわ」
3000!? つまり3倍か!?
心臓の鼓動が早くなるが、すぐ冷静になってしまった。
そんなに最大載積量って必要か…? 今の時点で充分なんだけど…。
「もう一つは…?」
「もう一つは【亀の祝福】」
亀の祝福…? なんだか弱そうだ。
「強いんですか?それは」
「それはアンタがよく知ってるんじゃない?」
「?」
「ログを確認すると、これ結構前に発現してたみたいよ」
全く身に覚えがない。
しかし効果を実感してないってことは弱いスキルじゃないのか?
「まぁ別にレアなスキルじゃない、これ持ってる人20人くらい見たことあるし、発現した人は皆微妙な顔をするわ」
「じゃあ弱いってことじゃないですか」
「よく荷物持ち係させられてるいじめられっ子に発現してる印象ね」
しかも惨めだ!!
このロリは何を勿体ぶっていたんだ。不信感を募らせる。
ロッテは深呼吸をして一拍置いた。
「【亀の祝福】はね、荷物を持てば持つほど、仲間が強化されるスキルなのよ」
……確かに使えない……一般的には。
でもそれが俺にとって全く違う意味あいを持っていることを全員が理解していた。
目の前のお姉さんは興奮する様子を止められない。鼻息が背中に当たって生暖かい。
「普通の人は最大載積量の100をフルで持ってて、まずまずの効果を実感する程度、でもこれが2倍3倍となると話は変わってくる、その規模になると周りのステータスは格段に上昇するわ、制約なし詠唱不要の常時発動スキルの中では破格ね、実践でもそれなりに使えるスキルになる…」
「でも今のアンタの最大載積量は常人の30倍。つまりアンタはこの【亀の祝福】を常人の30倍の強さで発揮することができる」
【荷物持ち】【御守り作り】【亀の祝福】…何一つ強いスキルは発現していない…
なのに……。
胸の高鳴りが止まらない。
「ねぇ……アタシに見届けさせてよ
アンタ達どこまで強くなっちゃうの?」
ロッテはまるで童話の続きを聴きたいと母親にせがむ子どものように、俺の腕をぎゅうと握っていた。
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ステータス
名前:リュック=ストレイジ
称号:なし
技能:【荷物持ち】【拡張】【亀の祝福】
耐性:なし
所持品:【布鞄】【薬草】×2【攻撃祈願】×25
【守備祈願】×15【俊敏祈願】×3【必中祈願】×2【開運祈願】×2
合計積載量:991/3000
第一行動方針:冒険者ギルドにパーティ申請をして【御守作り】の強さを証明する。
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