01. 追放
洞窟ダンジョンの最深部。
俺たちは、ぽつんと置かれた宝箱を見つけた。
俺たち5人は思わず頬が緩む。この瞬間こそが冒険者の醍醐味だ。
さらに俺は皆が喜んでいる顔を見るのも好きだった。
やった。
宿に戻ったら、俺のお小遣いで高いお肉を買おう。
突然シチューを皆に振る舞って、今日の思い出に華を添えるんだ。
開けた宝箱の中身を確認し、皆と喜びを分かち合っているときだった。
「リュック、お前はもう用済み…
追放だ」
リーダーのレオン・ハーゼンベルクの発言は場にいた皆を凍らせた。
いや、皆ではない。この場にいたリュック=ストレイジ、
つまり俺だけが凍りついた。
「【獅子なる眼光】にてめぇみたいな奴は要らねぇ」
「そうね。レオンに賛成だわ」
「というか皆で話し合って決めてたことですからね」
「……消えろ」
「待って!どうして俺を追放だなんて」
――追放。
俺たちは2年半近く苦楽を共にし、クエストを乗り越えた仲間。
急にそんな言葉が出てくるのはおかしい。冗談に違いない。
俺が何か悪さをしただろうか。
俺はただ仲間たちと楽しく旅をしたい。レオンの英雄になりたいという夢を全力で応援したいと願っているだけだ。
最近では【獅子なる眼光】の名声が上がって、俺たちはSランクの強力パーティだ。
王都からのクエストも受けられるようになったし、冒険者ギルドの評価も上々。
順風満帆だったはずだろ。
……なのになんで!
普段から俺はからかわれてきた。きっとそうだ。今日はたまたま一線を越えただけだ。
しかしそんな幻想はすぐに打ち砕かれた。
「てめぇ、荷物持ってるだけの雑魚じゃねぇか
そんな雑魚は俺らのパーティにはいらねぇんだよ!!
それに」
逆立った青髪のレオンは親指を上にして指を突きつける。
指した先には先ほど宝箱から取り出した黄金に光る袋があった。
「【鑑定】しろ。レプティル」
「はぁい、ま、わざわざスキルを使わなくても噂通りだと思うけどね」
紅一点のレプティルは大きな水晶を前に掲げてスキルを使う。
【鑑定】
・
・
・
<<鑑定終了……
強欲者の大包み:伝説の大盗賊【トリアーデ】が使ったと思われる伝説の鞄。ランクS。重量40。最大積載量を2000にする>>
4人はざわめく。
それもそうだ。俺たちはSランクの装備品には初めてお目にかかる。
いや、王都の博物館で一度だけ見たことがある。それほどの代物だ。
それに効果もSランク級だ。
アイテム全てには【重量】が存在する。
薬草なら2。魔除けなら3。という具合だ。
そしてどんな冒険者でも持つことのできる量。最大積載量は100程度だ。
この100という数値の中でどのようにアイテムを組むかどうかが冒険者の腕の見せ所と言える。
それなのに最大積載量が2000となると、ほぼ全てのアイテムを気にせずに持つことができる。
並の冒険者ならば一度も手にすることもないレアリティ。
更にいうと俺たちはAランクの装備ですら手に入ったことはなく、
俺らのパーティ、【獅子なる眼光】の俺以外のメンバーはBランクの武器を所持しているが、それすら手に入れるのに骨が折れた。
コツコツ
足音が近づく。
「リュック。お前の【荷物持ち】スキルは自身の最大積載量を増やすサポート系のスキルなわけだが、肝心の最大載積量はいくつに増えるんだったかな」
「...000」
「ハッキリ言え!!」
レオンは俺の脛を思いっきり蹴り上げた。
俺は激痛でもだえ、洞窟の固い地面にうずくまり、顔を打ちつけた。
「1000……!! 俺の最大積載量は1000です!」
洞窟に痛々しく俺の声が反響する。
一拍おいて、
皆の笑い声がこだました。
「お前!!このアイテムの下位互換じゃん!!」
「しかも!!たった半分かよ!!」
「アイテムの方がよっぽどいいわよ、宿代もいらないし、食料分けなくていいし!!アハハハ」
「ダサいですねぇ!!ユニークスキルが雑用向けのハズレってだけでもご愁傷さまなのに下位互換にまで成り下がるなんて!!」
「そうだ。リュック
お前はお荷物なんだよ」
信じられない光景が眼前に広がる。
俺はこのパーティに貢献しているつもりだった。
荷物持ちだけじゃない。素材集めや、戦闘中のアイテム係、ヘイト管理、皆が休んでる間のお使い、あらゆる雑用全てが俺の仕事だった。
俺はそれでも良かった。
皆に気持ちよく冒険してもらえると思っていたからだ。
それなのに!
仲間だと思っていたのは俺だけだったのか……。
怒りに身を任せかけたが、ここで怒るのは得策ではない。
目の前には4人。
俺には戦闘向けのスキルは備わっておらず、いざとなったときどうしようもない。
それでも俺には言わなければいけないことがあった。
「俺も旅に連れて行ってくれ!!
確かに俺は一人でゴブリンすら倒せない!!
皆にとってのお荷物かもしれない!!
でもアイテムなら誰よりも早く取り出せる!!
皆の最大積載量は100くらいで、気にならないかもしれないけど
大量の荷物を扱うのは管理が難しいんだ。俺きっと役に立つから!!」
「はぁ? おもんな」
「僕らを馬鹿にしてるんですかァ?」
「そんなこと誰でもできるのよぉ!!」
「笑止…!」
「モルゲン、やれ」
レオンの指示で巨躯で力自慢のモルゲンが俺の腹を蹴り上げた。
「ぐはっ!!」
俺の口から出た血がモルゲンの靴に付着した。きたねーと周りは笑い続けている。
「痛い…そうだロレンス、俺を回復して!!」
攻撃魔法スキルが豊富なレプティルとは別に、回復魔法スキルに長けたロレンスは俺に情けをかけることもなく、俺の背負うバッグの中身をあろうことか黄金の袋に移し始めたのだ。
「すみませんねェ。あなたの存在意義はこのバッグの中身だけなのです」
そんな…。
薄れゆく意識の中で俺はレオンと仲間になった日を思い出した。
冒険者ギルドで握手をしている……
誰と?…レオンとだ。
そうだ……このときに
レオンのある言葉が俺に希望を与えてくれたんだ。
――リュック。
――誰も知らないが、お前のスキルは強い、俺が保証する。
俺はあの言葉の真意が気になった。
「…レオン」
「なんだ?まだ意識があったのか」
「レオンは昔…俺のスキルは強いって言ってくれたよな……」
レオンはすぐ調子のいいことを言う。
俺にとっては大事な言葉でも彼にとっては些細な言葉で、既に忘れてしまっているのかもしれない。
「ああ、憶えてるぜ」
……!!憶えていてくれたのか……!!
「それなのになぜ…」
レオンは口が裂けそうなほど口角を上げた。
「お前の舞い上がった顔忘れるわけねぇだろ?
嬉しかったぜ。ちょっと優しくしただけで、俺たちの奴隷になってくれてよォ」
一同は一斉に笑った。
信じられない。最初から
俺たちは仲間じゃなかったのか………。
はははははははは!!
きゃはははははは!!
黙れ!!
俺の仲間の顔で笑うな!!
俺たちの思い出を穢すな!!
「笑うなああああ!!!」
痛みに耐えろ!!
這い上がれ!!立て!!
目の前のコイツに一発拳をぶち込んでやる!!!
いける!!!届く!!!
「うおおおおおおおおお!!!」
バチン
――脳が理解を拒む。なんだこれは。
――視界にノイズが走る。
――鉄の匂いがする。
数秒遅れの顔に走る激痛で、やっと状況を理解した。
俺の拳は届いていないどころが、立ち上がることすらままならなかったようで、
俺は顔をレオンに思いっきり蹴られていたのだ。
――俺の身体は地面に再び叩きつけられる。
――身体はもう動かない。
全ての感覚は鈍っていたが、聴覚だけはしっかりと機能していた。
「いいかリュック、お前はまだ知らないようだから教えてやる」
「お前は雑魚だ、俺が保証する」
俺は消えゆく意識の中で、レオン達の嘲笑だけはしっかりと聞き取っていた。
そして俺はすぐに気絶してしまった。
・
・
・
・
・
<<土竜蜘蛛の住む洞窟・最深部 -安全区域->>
むしゃ
むしゃむしゃ
むしゃむしゃむしゃ
冷たい地面の上でうつ伏せになった俺の上に何か重たいものがのしかかる。
そうか。魔物に食べられているのか。
きっと大蜘蛛が俺を捕食するつもりなのだ。
だが昆虫が肌に触れたとき特有の不快感はなかった。
むしろ温かみさえ感じた。
なんだ。
俺の上に何が乗っかっているんだ。
姿を確認しようと、首のみを傾け確認しようとしたとき
「きゃああ!!」
姿を確認しようとしたときには既に俺の上にはおらず、代わりに傍で少女が尻もちをついていた。
長い黒髪のとても可愛い東洋人だった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から作品への応援お願いいたします。
面白ければ星5つ、う~んと思ったら星1つ、正直に感じた気持ちを気軽にお伝えください!
ブックマークもいただけると更新の励みになります!