その5
いよいよ完結です。
はてさて、悲劇? 喜劇?
短編小説 20XX年 はばぱ行党パッパラパー (5回連続) その5
そして、私は収監された。起訴された。否認のまま。還暦間近の身には堪える。
私はまだマシな方だ。あちこちで遊んでいる、と仲間内どころか、メディアにも流れて、秘書が火消しに回っていると噂されていたかつての与党某議員は、養育費不払いで逮捕されたらしい。養育費不払いで逮捕は、非常に稀有なことだというのに。よほど悪質だったのか。
私はまだマシな方だ。友人の医師に処方箋なしでもらった薬をネットのミニコミ誌対談で別の用途に効くと語った某議員は、薬事法違反で引っ張られたらしい。
私はまだマシな方だ。高級車をとっかえひっかえ乗り回し、交通違反をかたっぱしから秘書のせいにしていたかつての仲間の某議員は、逮捕されたらしい。交通違反ぐらいで逮捕されることは普通はないと思われるのに。よほどの回数があったのか。
私はまだマシな方だ。あちらこちらの国の経営者と仲の良かった、仲間の某議員は、外為法違反で逮捕されたらしい。実際のところは、スパイ容疑だそうだが、定かではない。
私はまだマシな方だ。かなり悪辣なことをしている、とかつての与党内でも噂の出ていた某議員は、殺人教唆で逮捕されたと、弁護士から聞かされた。
私よりまだマシなのは、某有名私立大学で博士号を取得した時に、当時の学長の口座に不自然な金額が入金されていると報じられた某議員ぐらいのものだ。まだ逮捕はされていないらしい。
私よりまだマシなのは、大学生の息子が中学生の時にいじめの加害者として被害者側に数千万円払ったことが噂になっている某議員もかもしれない。未成年の時の行為であり、人権侵害とも言われた反面、その数千万円はどこにあったものなのか、巷という名のSNSでの金の流れの推理合戦が起きているそうだ。
全て、記録が残っているらしい。いつどこで誰と何をどうしたか、私よりしっかり記憶されている自分番号制度で。
便利な制度だと思っていた。与党の議員を選んだ民と同じ善悪基準を政治家も役人も持っていると信じていたから、そして、自分の属する政党は、未来永劫政権与党だと思い込んでいたから。こんな事態が起こるとは夢にも思っていなかった。省庁もきちんと情報を管理できるものだと思っていた。省庁は、情報をきちんと管理しているのだろう。今でも、私が思う以上の情報を。
けれど、与党になった者に官僚がすりよるのは、当たり前だった。与党になる議員を選ぶのが民である以上、はばぱ行党に属する議員を選ぶ民が、こういう形であの便利な制度を利用するとは、あの頃は思ってもいなかった。乱立していた小党が、各種制度と紐付けすることの危険性を述べていた時に、もっとしっかり考えれば良かった。野党のたわ言と思って、はなから聴く耳持っていなかった。はばぱ行の人々の不満を飲み込んで巨大になった怪物政党は、寄らば大樹の陰でさらに多くの支持を得た。盤石。当分揺るがない政権与党。たぶん、次のパンデミックまで。
自分番号制度が法制化される前、あの頃、国会で最高齢の議員が、政治とは信頼が大切なのだと語っていた。USBやスマホで簡単に情報が撮れる、盗れる時代に、個人情報を官公庁が集中把握することの危険性、いつ、信頼が逆転するかと、戦争債券や預貯金封鎖を例に出して述べていた。それ以前の徳政令や、平成の電話債券無効化についても語っていた。政治や官庁や国家は民よりも民を裏切るものと知っていたのだろうに、世迷い事、末端野党系無所属高齢議員の愚痴と聞き流していた。おごりがあった。自分も民の一人だということを忘れていた。顔の無い省庁の未来永劫の存続を命題とする官僚達の上手い詭弁に弄された大臣達の熱意ある説得に絆された私も含む当時の与党議員が通してしまった法律に、今、自分たちが翻弄されている。あの時、下世話な職員も議員達も、民の台所事情、財布の中身、家庭の中を覗き見したくて、他人の情報を知りたくてうずうずしていた。コロナ禍中、多数与党の力で押し通して法制化して、得したのは、民を丸裸にする情報を取得して利用できる雑務省、金蔵省、顔の無い集団。はばぱ行党議員もはばぱ行党を指示する民も、こんなに知りたがりだったとは。街中至る所に防犯カメラが付いていて顔認識システムを使うどこかの国と、どこが違う? この国にも、既にあちらこちらに防犯カメラがあるから、同じ?
水は低きに流れる。
私は流された。
晩節を汚したことにされた。
それでも法律は残る。
一度手にした既得権を、どこの省庁も手放さない。
完結いたしました。
お読みいただきありがとうございました。
この先、どうなるか、読まれた方の感覚次第。
喜劇でしたか、悲劇でしたか。
なお、この短編小説は、楽天ブログ「ペット喜怒哀楽」にも掲せました。




