私の記憶
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五年前、マンションの10階にあった自宅のベランダから当時高一の兄は飛び降りた。
兄はクラスでいじめを受けていたのだ。
私はそれを兄が死ぬまで知らなかった。
私はその時小六で、中学の受験勉強で忙しかった。だけど気付くことは出来たはず。
それでも私は一切気付くことが出来なかったのだ。
兄の異変に。
今から考えると違和感を感じるところは多々ある。
額に痣を作って帰ってきた時、それを母に咎められても大丈夫だからと言って笑った兄の顔。少しこわばっていた。
朝食をいつからか兄は食べなくなった。夕食も残していたような気がする。
私が鏡の前で髪を結っていた時、兄に話しかけられた。「少しでいいから、愚痴を聞いてほしい」と。私はそれになんて答えたっけな、きっと「うざい」とか言ったんだろうな。
今考えれば、考えるほど、それが兄なりのSOSだったと気付く。
そう考えれば、考えるほど、どうしようもない申し訳なさと後悔が私を支配する。
ーーーー
兄が死んだ後発見されたその手紙は、兄の勉強机の引き出しの中にあった。
「母さん、父さん、美華へ
ごめんなさい。こんな俺で。
ずっと優しく接してくれた母さん父さんありがとう。でもどんどん言いずらくなっちゃったかな笑
美華にはごめんなさいしか言えない。。
受験がんばってな、こんなお兄ちゃんでごめん
本当にごめん。
昨日の夜、かっこいい最後の言葉考えてみたけど浮かばなかったや。
ありがとうございました。」
そう、速く書いたのか荒っぽい字で書いてあった。
封の中に入っていたもう一枚の紙には、兄のいじめの内容。主犯格三人の名前。あと何か。
当時小六の私に見せられたのは1枚目の兄の最期の手紙だけだった。
その手紙が今どこにあるか分からないし。お母さんが持っているんだろうなとは予想がつくが、それ以外は何もわからない。
ーーーー
誰かにトントンと肩を叩かれ、ハッと目を覚ました。
「大丈夫?ずっと上見てるけど」
後ろを振り返ると、不思議そうに私を見つめているおばさんがいた。
いや、おばさんというよりはおばあちゃんだろうか。歳は60代後半くらいで丸っこい顔に、厚く丸い眼鏡をかけている。ダボっとしたTシャツにダボっとしたパンツ、そしてスーパーで売ってそうな安っぽいサンダル。格好からしてゴミ捨ての帰りに見える。
(しまった)
マンションの前でボーッとしていた。
「大丈夫です、声かけてくれてありがとうございました。」
「では、、」
では、さようならと私が言おうとするのを振り切って、彼女が歩き出した。
そして私の前に来て向かい合う。
(え、、、?)
「ねぇ、ちょっと寄ってかない?」
そう言って、彼女は私を覗き込む。
(は、、?)
私は楽しそうに笑っている目の前の老女を見て唖然とした。
出会い、。。