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もう一度、名前をよんで。  作者: 七瀬かいり
16/25

少しの楽

おとーさーん

数時間前に戻るーーー




逃げるように、私から走り去っていく娘を目で追う。

目では追うが、追おうとは思わなかった。



気付くと、一粒だけ額に涙があった。




『自分勝手』とは正に自分のことだ。

そう改めて思い、とてつもない後ろめたさを感じた。






ーーーー






あのアパートから出てから、何回かカウンセリングセンターに行った。

あの頃は自分でもこれからどうしたらいいのか分からなかったから。


五十近くになって、情けない話だ。



でも…

毎日チラつく息子の顔。

そして、娘の顔。


逃げても逃げても、逃がしてくれない。

何をやっても悪夢から逃げ出せない。



そんな時、ある患者に言われた。

「先生、大丈夫ですか?」と。


患者を助ける側の私が?

「大丈夫」?そう言われたのか……。


その日も、仕事の帰りにカウンセリングに行った。

いつもカウンセリングしてくれている、ある女の人に、抱擁され、「大丈夫ですよ」と言われた。

私は彼女の胸の中で無様に泣いてしまった。


あの抱擁はきっと「大丈夫ですよ」というただ、そのままの意。


でも、私にとっては大事な拠り所になった。

彼女に話を聞いてもらうと楽になれた。


今も、彼女の家に泊めさせて貰っている。





ーーーー






今、娘の顔を見て思った。

絶対に超えてはいけない一線を超えてしまった。

なんたる失態。

でも…。と私は考える。


今家に戻ったとして、楽になれるのか?

苦しくなって、限界が来て、出てきたのではないのか?


いっそそのまま、帰らないで、別れてしまった方が楽になるのではないか。


フッと頭をよぎった『それ』は私の頭を虜にした。


お金は渡せばいい、学費も今までどうり振り込めばいい。ただ、別れてしまうだけ。


彼女といると少しだけ、楽になれる。

少しだけ、しがらみから解放される。

その『少しだけ』が私にとってどれだけ大切か。






ーーーー






私は、歩き出した。


彼女の待つマンションへ。

暗い?重い?

知ってます、はい。

終わりよければ全てよし。

まぁ、最後明るくなればいいのです!

明るくなるかは私の気分次第ですけど。。。

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