夢心地
ちなみに言うと、今日子さんは、娘の死を乗り越えられてません!完全には!
まぁまた後でのお楽しみに
兄が死んでから、ほとんど頼る人がいなかった。
ましてや、相談を聞いてくれる人など、ゼロに等しい。
母は、兄の死直後から、精神状態が不安定だったし、父も、忙しい中母の分まで家事をやってくれている、そんな父にこれ以上負担はかけたくなかった。
兄が死んだのは1月19日。
中学校の入試は2月1日。
棄権という形で、中学受験は失敗した。
それが仇となり、小学校の頃のメンバーがそのまま上がる地元の中学校では、私の兄の存在も『噂』として広まっていった。
(引越しはしたが、地区は変わらなかった)
「死神」と呼ばれた。
「あいつと仲良くすると死ぬ」
(そんなの、デマに決まっている)
でもいじめのターゲットとしては最適だったのだ。
私は元々、地味な方だったし、友達もあまりいなかったから、いじめを受けても何も思わなかった。それより家庭の中で起こっている方がよっぽど、私の心を抉った。
こんなことで死を選んでしまった兄を『弱い』とさえ思ったこともある。
今、兄が死んでから初めて、心から安心できている。受け止めてくれる人がいる。
それがこんなにも心地いいことだなんて。
赤ちゃんがお母さんの胸の中で泣きじゃくるように、
泣きじゃくる子供を包む母の温かい手のように、
今、私は今日子さんから愛情を受けているような気がした。
顔を上げると、今日子さんが見える。
今日子さんの目には私ではない誰かが映っていた。
誰かを重ねるように、遠いけれど、とてもあたたかい目。
私はそのまま目を閉じる。
(家、帰りたくないな)
ーーーー
温かい手に包まれ、私はいつの間にか寝ていた。
ーーーー
「美華」
(!!!)
ーーー お母さんの声だ…!
「美華」
「美華」
「なーに?用事ないなら呼ばないでよ!」
「あ、やっとこっち向いた!」
振り向くとお母さんがニカッと笑っている。
「そんなことのため…」
小六の私は母に向かって呆れ顔をする。
それを見て母はふふっと笑った。
(久しぶりにお母さんから私の名前聞いたなぁ)
ーーーー
目を開けると、いつもとは違う天井。
起きると、隣には今日子さんが寝ていた。
あぁ、夢か。
(なーんだ)
でも、なぜか今、無性にお母さんと話したい。
今なら、お母さんとしっかり話が出来る気がした。
お母さんに対して「もう一度、名前をよんで。」じゃないですよ?