表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一度、名前をよんで。  作者: 七瀬かいり
12/25

温もり

本日2度目の今日子さん!

夜9:00手前。

突然来た私を、今日子さんは笑顔を受け入れてくれた。

(昼間お別れしたばっかなのに、また来てしまった。)



またあのソファーに座り、出してもらったお茶を飲む。

(熱くない!)

飲みやすい温度になっているお茶を一口すすると、私は口を開いた。


「突然すみませんでした。」


「全然!いいのよ!また来てねって言ったんだし」


「これ飲み終わったらすぐ帰りますね」


(きっと、今日子さんの迷惑になっている)

それはそうだ、でも、それでも、会いたかった。

この普通の会話がしたかった。



「私ね、五年前に娘を亡くしてるの」

今日子さんが突然話し始めた。


(え……)


「この前、娘にお線香あげてくれたでしょう?私以外あげる人もいなかったから、ほんとに嬉しかったの」


「・・・」

(あの写真は今日子さんの娘さんだったのか)

私は、とりあえず今日子さんの話を聞くことにした。


「ほら、五年前、東日本大震災ってあったでしょ?私の娘はあの時まだ二十七だった。津波に巻き込まれたの。」


(!!!)

何か言葉が出そうになるのを飲み込む。


(辛い人はやっぱりいて、同じなんだ。私と。)

そう思ってしまった。

家族が若くして亡くなり、苦しみ悩む人達。


でも、今日子さんは何か違う気がする。

今日子さんは、『普通』だ。

私たち家族の出来ていないことをやっている。


死を受け止めている。

そして日常を取り戻している。


「なぜ、その話を私に?」


「うーん、なんで美華ちゃんに話したのかなぁ」

その時の今日子さんは少し悲しそうな表情をしていた。



「今日子さん…!」


「ん?」


「相談してもいいですか?」


「相談?私に?」


「はい、今日子さんに」

家族の死を乗り越えた今日子さんに話せば、いい方法が見つかるかもしれない。


母に兄の死を受け止めさせること。

父に兄の死と向き合わせること。


それが出来るかもしれない、と。





ーーーー





「だから今日の昼、マンションの前にいたのね」

今日子さんは私の話を淡々と聞いてくれた。


一通り話すと今日子さんは口を開いた。

「今の話からすると、お母さんが『うつ病』になってしまった。お父さんが『家出』してしまった。それで美華ちゃんが家族を立て直したいってことだよね?」


「はい、だいたいそんな感じです。」

そう応えると、今日子さんはムスッとして、「何か忘れてない?」と言った。


「え??」


「思い出してみて。美華ちゃんはお兄さんの死をしっかり受け止めてる。それで?」


「それで…??」


「美華ちゃんは今、辛くて悩んでるんでしょ?家族のことを考える前に自分のそれと話さなきゃ」

そう言って私の心臓辺りを指さしてくる。


「でも…それって?」


「苦しかったことはね、吐き出すの。悩んでることは、相談する。お兄さんが亡くなってから、苦しいこと家族のこと以外にもあったでしょ?だって美華ちゃんも人間だもの。家族が一人死んで、悲しくないなんて思うはずがない。お兄さんに関係しなくても、学校であったことでもいい。辛いこと、今、吐き出しちゃうの!」


今日子さんは、ね!?っと言って私の肩に手を回してくる。視界は真っ暗で、そこは今日子さんの胸の中だなぁと思った。


(あったかいこの感じ)

自然に涙が溢れてくる。でも拭こうとは思えなかった。

今日子さんは、嗚咽する私をただ抱きしめてくれた。

(やっと、誰かに頼れる。)

そう思うと涙は増すばかりだ。


おさまってくると、私は口を開いた。

ぽつりぽつりと、今まで溜め込んで、誰にも話さなかったことを話す気になったのだ。

これからどんな問題が待ち受けているのかも知らず、エンエンと泣く美華でした

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ