表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/26

rabbit.com 第3話

「何かおかしいと思ったんだ、宇佐美先生は。

教師のニオイがしなかったもの。

でもまさか、あのことを調べに来ていたなんてね。

教頭も僕らに内緒でひどいよ。これじゃ何にも信用できやしない。」


まるで息継ぎを忘れたように稲葉は早口で捲し立てた。


「あのさ」


「うるさい、しゃべるな。

そうか、あんたよそ者なんだ。それじゃ追い出せば済む話だ。

警察じゃないんだもんな。よしわかった。

ぼくが何とかする。何とかするからね、前園先生。」


自分に言い聞かせるようにしゃべりまくる。

けれどその目は何かに怯えた小動物のように焦点が合っていなかった。


「先生。」 

「うるさいって。」

「あのね。」

「だまれ。」


「痛っっ!」


「えっ!ごめん!」


はじかれたように飛びのいて稲葉は尻餅をついた。


「ほらやっぱりだ。そんな慣れないことしちゃダメだよ先生。」


宇佐美はゆっくり立ち上がった。


「・・・・あっ、このやろう、だましたな!」

「だましたな、じゃねえよバカ。オレが訴えたらあんた捕まるよ?」

「・・・・・・・」

「いや、そんなことしないけどさ。」


宇佐美が手を差し出してきたが、稲葉は無視して自分で立ち上がった。


「稲葉先生は誰をかばってるの?」

「かばってなんかないよ。」

「前園先生か?」

「何で分かった!?」

「あんたバカだろ。」

「誰がバカだよ!あの人は悪くないんだ。全然悪くない!」

「あたりまえだ。悪くなんかないよ。何もしてないんだから。」

「・・・え?」


稲葉は驚いた様子で宇佐美を見つめた。


「でも、清田先生とあの朝、口論してたの見ちゃったし、

昼間何か分からない薬を前園先生が清田先生に渡すの見ちゃったし、

亡くなってから酷く暗いし。」


宇佐美は右手で髪をクシャッとかき上げてため息をついた。


「だから推測で突っ走るのやめてくれる?

警察だってそんなことはとっくに調べてるさ。交友関係からすべて。

口論してたんじゃない。

清田先生のコンタクトを前園先生が踏んじゃってちょっと騒いでたんだ。

薬は胃腸の薬。ちょうど良い薬があると言って校医の前園先生が清田先生に渡したってだけの話。

それは飲まずに薬箱にそのまま入っていた。

医者の薬を持ってるのを前園先生は知らずに好意で渡したんだ。

そもそも清田先生の体内から見つかったのは

校医が簡単に手に入れられる種類の物じゃない。

薬学部にいた清田先生なら分からないけど。」


「そ、そうなんだ、やっぱり自殺なんじゃないか。ああああ、もうバカだなーーーーおれ。」


「だからバカだって言ったじゃない。」


「じゃあ、やっぱり自殺の理由を調べにきたのかい?」


「ん・・・・まあね。」


曖昧に笑って宇佐美はさっき鍵のかかっていた引き出しを調べ始めた。


「用務員さん帰っちゃったから開かないんじゃないの?」

「うん。」

「中に何か入ってるの?」

「分からない。」

「警察は忙しいから自殺の動機なんてドラマみたいに調べないもんね。

鍵かけてるってことはさあ、何かあるよ。日記なんか出てきたりして。」

「ちょっと黙っててくれる?」

「・・・・・。」


宇佐美はさっきのプリントに書かれてあった構造式をじっと見つめた。

稲葉ものぞき込む。


「なに?何かわかった?」

「いや、・・・たださぁ。」

「何?」

「知るのが辛くなっちゃった。」

「?」


宇佐美は一番上の引き出しから細い針金を取り出すと器用に折り曲げ、

一番下の引き出しの鍵穴にゆっくりと差し込んだ。


「え〜〜っ?」稲葉が叫んだ。

「ちょっと、うるさいよ。」

「あんたピッキングなんてするんだ〜〜。初めて見た。」


宇佐美がその引き出しをゆっくり引くとスルスルとそれは開いた。


「やったね、宇佐美先生。」少し興奮気味の稲葉。


中から出てきたのは数枚の植物の写真と乾燥してしまった葉っぱ。

そしてプラケースに入った小さな種だった。

あとは薬局で処方されるような薬のパッケージと、それを閉じる封入機。

それらを見た宇佐美の顔は明らかに落胆していた。


「何なんですか?それ。」


「マチンの葉と種です。」


稲葉は子供のようにじっと宇佐美の目を見つめて説明を待った。


「・・・マチンの木を手に入れちゃったんですね。清田先生は。

自分で生合成してみたくなったんだな。そして作ってしまった。

ストリキニーネを。」


「なんですか?それ。」


「アルカロイド系の毒物です。

理解できないかもしれないけど彼はただ生合成の過程を楽しんでたんだ。

自殺のためなんかじゃなく・・。

本当に死にたかったら種を飲めばいいんだから。」 


稲葉は宇佐美をじっと見つめた。


「明日、全てがわかるかもしれない。」


宇佐美も稲葉を見て小さく息を吐いた。


「俺の考えが違っていてくれたらと思うよ。今回は。」


稲葉はまだポカンとした表情で宇佐美を見ていた。



「・・・・ねえ、宇佐美先生?」


「え?」


「ここ・・・どうしたんです?」


稲葉は宇佐美の襟元を指さした。


宇佐美が自分の首を手で触るとヌルリとした嫌な感触。


首筋は血で真っ赤になっていた。


「どうしたんですかって、・・・あんたがさっきやったんだよ。ナイフで。」


「ええええええ〜〜〜〜〜っ!!」


真っ青になって倒れそうになった稲葉を逆に支えながら

何だかガッカリな気分になっていた宇佐美だった。



    (つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ