第80話 用済み
最近、よく見るようになった夢がある。
いや、正しくは数年前までか。
最近は比較的この夢は見なくなったと思う。
俺がまだ魔王討伐に頑張っていたころ。
遂に魔王に挑むとき、その数日前の最後の、街で過ごす夜。
俺たちは、五人でこの旅最後の宴を楽しんでいた。
「どうしたアル? なんか元気ないじゃないか」
「あ、あぁ。もしかしたら、これが皆で楽しむ、最後の酒になるかもしれないと思うと、ちょっとな……」
ドングラス・ルートリア。
自由自在に風を操るギフトを持っていて、攻守ともに頼れる男。
「ちょっと、そんなこと言わないでよ。今日はせっかく、みんなで全部忘れて楽しもうって、アナタが言い出したんじゃないの」
フィラメント・レディ・ラーニャ。
彼女のギフトは「瞬間移動」。文字通り、一瞬で別の場所に移動できる能力だ。
相手との距離を一気に詰めたり、逃げにも使えたり、相手の虚を突いたりと、応用性に長ける能力だ。
「そうですよ我が主。一体どうしたというのですか?」
アトラス。
このパーティの中で最も剣技に長けており、今回の魔王討伐の主戦力だ。
「いや、最近また頭痛が酷くなって……。回数も増えてきてるんだ」
「例の発作か。大丈夫かよ?」
そう、当時俺にはたまに起こる、発作というか、フラッシュバックの症状があった。
突然7年前の、“あの日”の映像が頭に流れ込んでくる。
あの、レイドを失った日の。
脳を抉られたかのような、耐え難い頭痛とともに襲ってくるのだ。
「もし、戦ってる中で誰かが傷つけば、それが原因でまた発作が襲ってくるかもしれない。そうなれば、俺は使い物にならなくなる。それが、少し怖くてな……」
もちろん、それだけじゃない。
戦うこと自体が怖い。
今回の敵は魔王、つまりラスボス。
その力は未知数だ。
また誰かを失ってしまうかもしれない、そんな考えが頭から離れない。
「だ、大丈夫です。みなさんがケガしても、絶対に私が助けますから。だから、安心してください、アレイスさんっ!」
そして、リスタ。
魔力と時間さえあればどんな傷でも治せるギフトを持っており、自身も他人も等しく治癒することが出来る。
どんな危険な戦いでも、彼女さえいれば立ち向かえると思わせてくれる。
「……そうだな。君がいれば大丈夫だよな」
「はいっ!」
そうして、その日は皆で美味い酒と美味い食事を楽しんだ。
その夜。
宿屋に戻って、他の皆が寝たころを見計らって。
俺はリスタの部屋の前に立っていた。
このときのことは、絶対に忘れられない。
俺の一世一代の、人生初の瞬間だからだ。
(落ち着け、頭の中で何度も繰り返したはずだろ。日本にいたころの恋愛ゲーを思い出せ!)
そんなことを考えながら、ポケットから箱を取り出す。
俺は箱を開け、“中身”を確認してから、箱を閉じた。
ポケットに箱をしまい、俺は息をのんだ。
そして、覚悟を決めてドアを叩いた。
「リスタ、俺だ。ちょっといいか」
「あ、アレイスさん。大丈夫ですよ」
部屋の中からリスタの声が聞こえてきた。
大丈夫、というがちょっと俺のほうが大丈夫じゃない。
視界が少しくらんだが、意を決してドアノブを回した。
「……よ、よぉ。調子ぃ、どうだ」
「どうだって……、アレイスさん、私がお酒苦手なこと知ってますよね? なんですか急に」
部屋に入った瞬間、少し気まずくなって変なことを口走ってしまった。
それがリスタには、体調はどうか?と捉えられてしまったらしい。
リスタは酒が飲めないから、いつもジュースとかを頼んでいるから、酔って体調を崩すなんて基本無い。
「い、いやぁさぁ? リスタ結構食べてたじゃんか、ラッキーバードの丸揚げ、1皿ペロリとさ! だから調子は大丈夫かなぁと思ってな?」
「それはラーニャさんですよ。……アレイスさんこそ酔っぱらってるんじゃ」
「い、いや俺3杯しか飲んでないし!」
「その時点で十分飲みすぎですよ……。酔っぱらって絡んでくるつもりならお断りですよ」
「そ、そういうのじゃないから!」
「……じゃあどうしたんですか。明日には山を越えたいから、早めにここを出る予定なんですよ? 今日が最後に皆で楽しく飲食できるだろうからって、アレイスさんが言ったんじゃないですか。できれば余韻が残った状態で寝たほうがいいんじゃないんですか?」
そう、リスタの言う通りだ。
本当なら、このまま寝てしまえば良かったのかもしれない。
そっちのほうが、幸せだったのかもしれない。
けど、俺にはそれは考えられなかった。
今日が、最後だと思ったから。
「……君の言う通り、今日が最後。今日が最後の機会だと思ったから、今俺はここにいるんだ」
「え?」
「……聞いてくれ、大事な話なんだ」
真剣にリスタを見つめる。
その眼差しから、俺の本気度を理解してくれたのか、聞く姿勢になってくれた。
「なぁリスタ、ここまで長かったような、短かったような。でも、楽しかった、それだけは確かだ」
「……そうですね、色々ありましたね」
「長かった魔王軍との戦いも、あと数日で終わりだ。……じゃあ、そのあとはどうする?」
「えっ」
「なぁ、リスタ。君はどうするんだ、魔王を倒したら」
「そ、そうですね、私は……孤児院を建てたいです。昔の自分みたいな境遇の子供たちのために」
なるほど、リスタらしい、いい夢だ。
だが一方、俺は……。
「俺には、前までこれといった夢が無かった。ただ漠然と、勇者として『魔王を倒す』ってことだけが目標になってて、その後のことは考えてもみなかった」
レイドが死んで、俺は心に傷を負ったが、レイドの分も生きて、魔王を倒すと決めたことで、俺は立ち上がる勇気を得た。
しかし、その先のことは考えていなかったのだ。
「ふと、この旅が終わったらって考えたとき、どうしたらいいのか、少し前の俺にはそれが分からなくて。でも今は、こうあって欲しいと思う、そんな答えが見えた気がしたんだ」
俺はポケットから、ずっと大事に持っていた箱を取り出した。
そして、その中身を、リスタに差し出した。
「俺と、結婚してほしい――――」
「――――――――えっ、えっ」
…………。
少しの沈黙のあと、驚いたような、そんな声がリスタの口から漏れるが、そのまままた黙ってしまう。
「…………どう、かな?」
恐る恐る尋ねてみると。
「――――――どうして、私なんですか」
「……君が一番好きだから」
「それは、答えに、なってませんっ」
「……そうだなぁ、しいて言えば、君に救われたからかもなぁ」
「……え、私が、救った?」
前に、彼女が自身の境遇に怯え、悲しんでいたときがあった。
そのとき、俺は俺自身とレイドの話をした。
俺は友人を失った、それはリスタとは状況が違う。
きっと、俺以上に苦しんだに違いない。
けれど、今は彼女は立派な勇者で、『女神』とまで呼ばれている。
そんな彼女は、今でも過去に苦しめられている。
だから、俺は諭した。
もう、苦しまなくていいのではないかと。
十分、苦しんだじゃないかと。
「あのときに、君は俺に救われたと言っていたが、実際は俺のほうが救われていた。君に言った言葉は、そのまま俺を救っていた。君に出会わなければ、俺は一生過去と向き合わなければいけなかったのかもしれない」
そう、俺は一度過去のことを過去のものとして、未来へ進むことを決めた。
だが、それは過去を乗り越えたことにはならない。
俺は過去と一生付き合い続けるつもりでいた。
「……自分で自分を救ったなんて、そんなのは君には理由にならないかもしれないが、少なくとも、あのときから君が気になり始めた」
最初は、ただの同情だったかもしれない。
しかし、それは時間が経っていくにつれ、友情となり、愛情となっていった。
俺には、この愛情を抱え込んだままでいるだけの器は持っていなかった。
「改めて言う。……君が好きだ。俺と、結婚してくれないか」
再度、指輪をリスタに差し出す。
「――――――本当に、私なんかでいいんですか」
「ああ、君じゃないとダメなんだ」
「本当にいいんですか、だって私孤児――――」
「君の境遇は関係ない。俺はありのままの君を好きになったんだから」
「――――ズルいです」
リスタが、そんなことをつぶやく。
「ズルいです。私が先に、好きだって、言いたかったのに……」
「そ、それじゃあ」
「……はい、ふつつかものですが――――っ」
彼女の目尻には、涙が浮かんでいた。
今でも俺は。この時の彼女の顔ほど、美しい顔を知らない。
「その、指輪。付けてもらってもいいですか?」
「ああ、もちろん!」
俺は箱から指輪を取り、彼女の左手に指輪を近づける。
そして、彼女の左手の薬指にはめ込んだ。
「――――きれい」
彼女は指輪を見ながらうっとりとしている。
「魔王を倒した後は、結婚式を挙げよう。もちろん、他の皆を招待してさ!」
「――――はいっ!」
「――――――――――いす。――――――レイスっ。――――アレイスッ!!」
瞬間、視界が切り替わる。
この悪夢の本領、その本当の姿が訪れてしまった。
「アレイス動けッッ! 彼女はもうダメだ、ダメなんだッ! はやくお前も戦ええェェ――――ッッ!!」
俺の手には、彼女の、リスタの左手がある。
そこには、俺が付けた指輪があったはずだった。
しかし、どうしたことか、指輪の姿はそこになく。
そして、視界を動かすと――――
「あ、あぁ、あああぁあ」
魔王の攻撃によって体を貫かれた状態で、動かなくなってしまったリスタがいた
リスタのギフト、「治癒の加護」。
リスタ自身の傷も治せるが、唯一、治せない場合がある。
それは、リスタが即死した場合。
治す暇もなく、死んだ場合だけ。
「そん、な。ありえない。そんなことあっちゃいけない…………」
彼女の周りの赤黒い水溜まりが、現実を突き付けてくる。
「なぁ、リスタ。うそだよな。なぁ。嘘だと言ってくれよ」
「アレイス! 聞いているのかァッ! 彼女はもう助からない!」
そんなルートリアの声が、現実と向き合わせようとしてくる。
「戦えッ! アレイス! お願いだ、目を覚ませ! 戦ええェェ――――――ッッ!!」
今でも思う。
あのとき、リスタを守れるだけの力が、俺にあったなら。
魔王を倒せるだけの力が、俺にあったなら。
リスタは、死なずに済んだのに、と。
◇◇◇◇◇◇◇◇
一体、何が起きてるっていうんだ。
さっきからなにも分からねぇ。
何度やっても、奴の攻撃の正体がつかめねぇ。
俺は、俺にはまだ数百の命が残っていたはずなんだ。
だから、俺はまたいつものをやったんだ。
攻撃のタイミングを読んで自殺して、奴の攻撃のタイミングを見切ろうとしたんだ。
また見た光景に戻る。
そして、すぐに奴はやってくる。
『ガシャーーンッ!』
奴が頭上の階から窓を突き破って落ちてくる。
このとき、何か見えない攻撃を喰らっているのだと俺は考えていた。
見えないというより、目にもとまらぬ速さでといった具合だろうか。
だから、一度でも避けさえすればその正体の足掛かりをつかめるかもしれないと思っていた。
(まだ……)
ギリギリまで奴を引き付ける。
おそらく、僅かコンマ数秒の違いだ。
間違えれば、死。
(まだ、まだだ……)
奴が近づく、その限界を見極めようとする。
まだ、あと数十センチ。
あと数センチ。
あと数ミリ。
(今だッ!)
ここだと思うタイミングで避けようとした。
しかし――――
「――――畜生またか!」
やはりまた元の場所・時間に戻ってきてしまう。
そして、やはり残りカウントは減っている。
どうして死んだのか、どうやって死んだのか、まるで手掛かりがつかめない。
その後も、僅かなタイミングの違いを何度も、何度も試すが、どうやっても結果は変わらなかった。
「クソッ!」
そもそも攻撃を避けようとするのが間違っていると思い、奴が来る前に、戻ってきた瞬間に逃げ出す。
しかし、窓が破られた音が聞こえてきたかと思ったら――――
「――――――ッ!?」
やはり元の場所に戻ってきてしまう。
避けようとしても、逃げようとしてもダメ。
カウントは減り続けるばかり。
すでに800、いや900は死んでいる。
馬鹿な、どうして。
俺は奴を殺したんだ。
それで、それで終わりだったはずなんだ。
奴を追い詰めて、殺したはずなんだ。
それなのにどうして。
「どうして俺が追い詰められている」
もう20をきった。
いやだ、どうして俺が負けなければいけない。
ふざけるな。
また、俺は。
俺たちは奪われるのか。
「クッソがぁああああ! こんなんで終われるか!」
殺す、ぶっ殺す。
俺は奴を殺さないといけないんだ。
尊厳を凌辱され、死んでいった仲間のために。
もう逃げ道などないと悟った俺は、意を決して奴に突撃することを選んだ。
頭上から奴が迫ってくる。
俺は奴に向けて刃を振ろうと――――
「なに!?」
振ろうとした瞬間、目の前に人が現れた。
真っ黒なローブを着た、その人物は。
「エンドさん!?」
「どうやら間に合ったようだな」
そう、俺に能力を与えてくれたエンドさんだった。
「話はあとだ」
いきなり、エンドさんに突き飛ばされた。
瞬間、頭上から奴が、フォート・アレイスが降ってきた。
降ってきたところに、まるで隕石が落ちたかのように地面がえぐれる。
「この状況はどうこうできない。今はここから離れる」
「え――、うぉ!?」
いきなり、何かに引きずられたかのような感覚が走った。
何が起こったかもわからないまま、次の瞬間。
景色が一変した。さっきまで学校にいたはずだったのに、俺はいきなり森の中にいた。
「これは、一体……」
「ハァ……、瞬間移動というやつだ……。かなり体力は消耗するが、致し方ないからな……」
エンドさんが、かなり息切れしながらそんなことを言う。
そこまで、俺のために……?
「エンドさん、すみません! 途中まで上手くいってたのに、あと一歩のところで負けてしまうところでした……。エンドさんが来なかったら、俺は死んでました。本当にありがとうございます!」
「ん? あぁ、別に構わん。フゥ――――……、お前に死なれては困るからなぁ」
「本当にすみません! でも、時間がくれば奴は死にます! 奴が死ねばそれで目的は達成です! ここまで逃げれば、あの鎧を着た男も来ないはず。このまま俺が逃げれば、時が戻ることもありません! 目的はすでに達成して――――」
顔を上げ、エンドさんのほうを向く。
なぜかエンドさんは、俺のすぐ目の前まで来ていた。
そして、俺の顔に手を当てて――――
「――――え?」
俺の中から、何かが消えるような感覚がした。
「え、あの、エンド、さん。いま一体……」
「あぁ。回収させてもらったんだよ、その能力を」
「…………は、え? な、なんで、なんでですか!? 今俺がチカラを失ったら、全部解除! これまで俺がやってきたこと全部なかったことになっちゃいますよ!?」
「そうだろうなぁ」
「そうだろう……ッ!? フォート・アレイスを殺すのが目的だったんじゃないんですか!? だって、俺にこのチカラを与えてくれたときに、俺にフォート・アレイスを殺せって――――!」
「あぁ、確かにそんなこと言ったなぁ。たけど、もうその必要は無くなった。すでに目的は達成したのさ」
そう言いながら、エンドさんは俺の方を向いた。
その顔は、少なくとも言葉で言い表せ切れるような表情をしていなかった。
「ッ!?」
笑っているような、口角は間違いなく上がっている。
だが、笑っていない。目が全く笑っていない。
なんだ、なんだこのオトコは。
「……なんだよ、アンタ、ッ。一体、ナンの目的でこんなこと――――ッ」
「いやぁ、お前にフォート・アレイスを殺してほしかったのは本当なんだ。本当だぞ、嘘じゃない。ただ重要なのは、別にそれが本来の目的じゃあなかったってことなのさ。いやぁ悪かったなぁ、お前を利用するような形になっちまった。まぁ元々そのつもりだったんだがなぁ」
エンドさん、いや、エンドはそんなことを言い始めた。
いつの間にか口調が変わっている。いつもは丁寧な、威厳のある口調ぶりだった。
だが、今のこの男の話し方は、まるで青年のような、まだ青い話し方だ。
これが、この男の本性か。
「お前、残りのカウントはいくつだった。もう100は切ってたはずだ。困るんだよそのまま死なれちゃ」
「そのまま死なれるって言ったって、逃げ続ければ――――」
俺のそんな言葉を、エンドはさえぎって話し続ける。
「俺はお前に新しく能力を与えた。だが、俺自身のそれは、他者に力を与えるようにはできていない。けどな、核があれば、それに肉付けして、いじくって、自由に変えられる。だが、お前にはその核となるものがなかった。だったら、俺がその核を与えてやるしかないだろう?」
「か、核?」
「あぁ、核となる能力を与えなければいけない。だから、俺の持っている力の一端を与えた。…………わかるか? お前に死なれると、俺が能力を失ったままになるだろうが、ってことだ」
「で、でも、さっき逃げることはできたはずだ。アンタがここに連れてきたおかげで、初めて逃げるって選択肢が生まれたんだ。だから、まだ負けかどうか分からなかったはず――――――」
「負けるかどうかじゃなくて、お前が無事に勝ちきれないかもしれないってことなんだよ! それで逃げたとしてどうする? どこかで死んだらまたリセット。俺はお前の能力の影響についていけないから、次また同じように助けるかわからん。そうなってお前が死んだら、負けたらどうなる。全て、お前のせいで、終わっちまうだろうが!」
「グァッ!」
エンドが俺の顔を、いきなり蹴ってきた。
体が後ろに倒れる。
フォート・アレイスとの戦いのダメージがかなり蓄積しているのか、全く抵抗できなかった。
身体的なダメージじゃなく、精神的なものだ。
「ふぅ、俺としたことが、こんな奴に気を散らすなんて。まぁそういうわけだ。すでに目的を達成した以上、もうお前に能力を渡しっぱなしにしておく必要がなくなったからな、回収させてもらった」
「そんな、そんなのってあるかよ! 返せよ、返してくれよ、俺の、俺の能力だぞ!?」
「五月蠅ぇなぁ! さっき言っただろうが、元は俺の能力だって。…………さて、そろそろ事後処理をしなくちゃな」
そう言うと、また奴が俺に近づいてきた。
何かを感じた俺は、後ろに後ずさりする。
「ま、待て、何をするつもりだ。事後処理って、俺を殺すつもりか」
「殺しはしないさ、跡が残っちまう。少しでも跡は残さないようにしなくちゃいけないからな。お前の死体からもだ」
「何!? うあ――――ッ」
奴の話にひるんだすきに、いつの間にか奴に距離を詰められてしまう。
そして、顔にまた手をかざされてしまう。
「しま――――――」
「ここで起きた記憶を全て消す。そして、このままお前には元いた場所に戻ってもらう。そのままフォート・アレイスに殺される。これが今回の結末だ」
「―――――はッ!? こ、ここは」
辺りを見渡す。
一瞬意識が飛んだような気がしたが、景色は変わっていないな。
『ガシャァーンッ!!』
「ッ!?」
突然、ガラスが割れた音が響き渡った。
音の聞こえた方向を向くと。
「フォート・アレイス!」
そこには、やはりフォート・アレイスがいた。
やっぱりだ、何度やっても解決できない。
前もって死んで攻撃を覚えてもダメ。
無理に特攻してもダメ。
なら、もうあと試せるのは一つ。
奴の攻撃と同時に、俺も自殺する。
今までそんなことを試したことはないが、今まで寸分たがわずタイミングを合わせて自殺してきた。何回かは消費するかもしれないが、絶対にどこかで成功できるはずだ。
俺は、首元にナイフを構えた。
(まだ……)
ギリギリまで奴を引き付ける。
狙うは僅かコンマ数秒、いやそれよりも細かいかもしれない。
間違えれば、無駄死にだ。
カウントは残り僅か、もう後戻りできない。
(まだ、まだだ……)
奴が近づく、その限界を見極めようとする。
まだ、あと数十センチ。
あと数センチ。
あと数ミリ。
(今だッ!)
ここだと思うタイミングで。
俺は自分の喉を掻っ切った。
「――――グブ」
なん、だ。
痛、い?
なんで。
「ガ、ゴゴッ。ガガプ、ガラッ」
おかしい。
なんで。
長すぎる。
「ガガ、ガララガッ。ゴプ」
なんで。
まだカウントは残ってたはずじゃ。
いやだ、死にたくな――――――
「ガ……………――――――
更新が遅れてしまい本当にすみませんでした。





