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プロローグ ~ある勇者の人生 序章その3~

 アトラスに連れられて、村の外に向かう。

 途中、色々と話をした。


「まず、あなた様は『ステータス』というのがどういうものか、説明できますか?」


 アトラスが、そんなことを聞いてきた。

 改めて考えてみると、案外説明が難しいことに気が付く。

 しかし何とか答えを絞り出した。


「えーと、個人の身体能力を数値化したもの、かな」


「その通り、その人の基本的な能力を数値化したものです」


 ステータスは、主に【攻撃力】【防御力】【魔力】【魔法防御力】【瞬発力】の5種で表される。

 まあ、分かりやすく【こうげき】【ぼうぎょ】【とくこう】【とくぼう】【すばやさ】と言い換えることもできる。


「では、あなた様が先日受けた試験で調べることができる『ステータス適性』というのは、どういったものか分かりますか」


「えぇっと……、さっきのステータスがどれだけ伸びるかっていう指標みたいなもんかなぁ……?」


「まぁ、そうですね」


「まぁそうですねって、お前一体何が言いたいんだ」


 さっきから少し違和感を感じていた。

 あからさまにステータスについて強調してくるのはなんでだ。


「すみません、今しばらくは私の質問にお付き合いいただきたい」


 しかし、アトラスの答えはこうだった。

 仕方が無いのでもうしばらく付き合うことにする。



「主様は、筋トレなどはされていますか」


「あ、ああ最近は滅多にだけど、昔は結構やってたな」


「では、筋トレをした場合、ステータスに変化は起こりますか?」


「【攻撃力】と【防御力】と【瞬発力】が上昇するに決まってるだろ」


「それでは、しばらく筋トレをやめ、1か月後筋力は低下しました。このとき、ステータスに変化は起こりますか?」


「そりゃあ、さっきと逆の変化が……、あれ?」


 それはおかしくないか。

 実際のゲームの世界で考えてみれば分かりやすい。

 キャラクターがトレーニングしてステータスが上昇するゲームは数多く存在するが、トレーニングを怠ったからステータスが下がるゲームなんていうのは聞いたことがない。


「そう、実は筋トレはステータスには一切関係ないんです」


「えっ、じゃああの【攻撃力】とか【防御力】っていうのは、なんなんだよ」


「あれは、常にあの数値分の能力上昇効果、つまりバフがかかっていると考えることができると思っています」


 な、なるほど……。

 確かに、そう考えると辻褄が合うような気もする。

 つまり、ステータスが高ければ高いほど、その項目ごとにその数値分のバフがかかるから、実際に強くなっているように感じられるというわけか。



「つまり、筋トレは実際のステータスには全く関係が無く、ステータス適性にも影響を受けないというわけです」


 アトラスの自論はこうだ。

 ステータスは、どれくらい強いかということには確かに関係あるが、実際の身体能力や戦闘能力を数値化したものではないということ。

 つまり、筋トレはステータス適性の影響を受けずに強くなれる方法の一つだということらしい。


「じゃあ、これからやろうとしてることっていうのは……」


「そうです」


 ちょうど、目的地に着いたようだ。

 視界に入ってきたのは、木材や縄で作られた様々なギミックだった。

 まるでアスレチックみたいだ、という言葉がふと口から出た。


「アスレチックなんて生温いものじゃありませんよ。ちゃんと『戦闘向け』に体を鍛えるために作ったんですから」


 アトラスは少し歩いて、俺の正面に立った。

 そして、振り返って……。


「これから一年、まずは身体を鍛えられるだけ鍛え抜きます。毎日休まず、どんな怪我を負ったとしても続けさせます。お覚悟を」


 そんな、あまり聞きたくなかった宣言をしてきた。

 そりゃあ、ある程度は覚悟はしていた。

 生半可な特訓では強くはなれないと思っていたし、それはすでに数年前に思い知った。

 だから俺も、覚悟を決めて心機一転、特訓に励んだ。




 大体の特訓は、直接体を鍛えるものだった。

 ランニング10キロ、腕立て、腹筋、スクワットなど基本的なものはもちろん。

 瞬発力を鍛えるためにダッシュや、腕を鍛えるために大木や崖をあらかじめ用意されている棒などを使ってスポーツクライミングのように登ったり。

 極めつけは、大量に迫ってくる丸太を避け続ける、というもの。

 これがとにかくしんどい。


 一、二本目はまぁ避けられる。しかし、それ以降はどうしても避けられない。

 前だけではなく、背後からも丸太が来るからだ。

 もちろん、避けられなかったら数十キロの物体が振り子の遠心力でぶつかってくるので、ただでは済まない。

 毎回パターンは同じだが、どこから来るのか覚えたら避けられるというものではない。

 何故か、避けた先に丸太が来るように巧妙にできているので、避けても大抵当たってしまうし、覚えても体が頭についてこない。


 だが、この特訓を開始してから数か月、ついに丸太を全て避けることに成功した。

 喜んでいたのもつかの間、今度は丸太が襲ってくるパターンを変えることに。

 すると、また避けられなくなってしまった。

 パターンを覚えていたから避けられるようになっただけで、まだ身体と瞬発力、動体視力はできてないということだ。

 俺はまた、丸太を全て避けれるようなるまで特訓を続けることになった。




 こんな感じで一年間、ひたすら体を鍛え続けた。

 特訓開始から一年。


「……素晴らしいですよ、我が主。完璧な肉体です」


「そうか……、あれからもう一年経つのか」


 俺の体は、見違えるほど美しいものに変わっていた。

 ボディビルに出られる、とまでは言わないが、腹筋はちゃんと6枚に割れているし、相当大きな力こぶもできる。

 しっかり胸も厚くなって、まさに鋼の肉体と言わんばかりだ。


「それでは、これからご自身でこれまでの成果を確認していただきましょう」


 そう言うと、アトラスは俺に一本の剣を渡してきた。

 意図がよく分からないでいると、アトラスが竹を何本かまとめたものを持ってきた。


「この竹を、その剣をもって、“一振り”で斬ってください」


 目の前の竹はかなり太く、しかも束ねられているので恐らく相当頑丈だろう。

 なるほど、これは一年前の俺には絶対に斬れなかった。

 確かに、今の俺の力を試すにはもってこいだろう。


 腰を落として、剣を構える。

 横から斬っても力は入らない。だから理想は、重力も活かしたナナメに斬るような感じのはずだ。

 今の俺の力なら、絶対に斬れる。


 俺は剣を振りかざし……。


「フッ!」


 勢いよく振り下ろした!


「……あれ、ちょ、ちょっと待てよ」


 しかし剣は途中で止まってしまった。

 おかしい、確かに斬れるはずだ。

 だが剣はこれ以上進みそうに無い。

 何とかして剣を引き抜こうとする俺を、アトラスが静止した。


「確かに、以前より“力”は付いたでしょう。しかしそれはあくまで身体の能力が向上しただけ。あなた様はまだ技能を身に付けておりません」


「オイオイオイ、じゃあまさか今度はテクニックを学べっていうのか」


 アトラスが頷く。

 そうか、確かに馬鹿正直に筋トレしただけじゃ、俺が求めていた()()は手に入らない。

 ただ剣を扱うだけでも、様々な技巧があるはずだ。


「しかし、そんなもんどうやって学ぶんだ。またお前が教えてくれるのか?」


「私が教えられることにも限界があります。正直言って私もまだまだ未熟です。ここはその道の専門の方に教えを請うのが一番良いでしょう」


 その道の専門?


「いらっしゃるではありませんか、主様のすぐ側に」


 …………あ。

 そうか、あの二人か。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇




「というわけで、お二人に教えを請いにきました。父さん、母さん」


「「いやいくらなんでも急すぎる」」


 俺は今、両親に膝をついて頼んでいる。

 もちろん、二人とも困惑していた。


「いや、別にお前にあれこれ教えるのは構わないが……。なぁ母さん」


「ええ。どうして急にそんなことを思いついたの?」


「そんなこと……」


 決まってる。

 この二人が、元冒険者、しかも上位だったからだ。



 フォート・クレイブ。

 辺境貴族の五男で、剣使い。

 全盛期は多くの魔物を倒し、幾多もの集落や町を魔物の脅威から救った。

 その伝説の一つとして、百体を超えるオークの群れにたった一人で立ち向かい、無傷で帰ってきた、というものがある。

 その数々の功績から、金級(ゴールドクラス)の称号が与えられた。

 金級は冒険者に与えられる称号の中でも二番目に高く、殆どの冒険者は金級を目指して魔物と戦い続けるくらいだ。


 フォート・セルフィ。

 生まれ不明。

 突如として現れ、冒険者としてのクラスを上り続け、僅か数ヶ月で最上位クラスの白金級(プラチナクラス)の称号を獲得した異端。

 異常なまでの魔力適正により、ほぼ全ての属性の魔法を操ることができ、治癒魔法のみ最上位魔法まで使うことができた。

 また、身体能力もズバ抜けており、魔法を使わず拳一つで龍すらも倒せるほどであった。

 その力によって、当時の魔王軍を彼女だけで半壊させるに至るほどだった。

 人々は彼女を【魔女】とも、【怪力の女神】とも呼んだ。


 これは俺が色んな人に聞いたり、調べたりして得た情報だ。

 にわかには信じ難いし、小学生のガキが言いふらしたようなデタラメと思った方が合点がいく設定ではあるが、事実だ。

 実際、レイドを襲ったあの魔物。アレを倒したのは父さんと母さんだった。それにいち早く俺の所に来てくれたのも母さんだった。


 この二人は、今俺が吸収しなければいけない技術を多く持っているはずだ。

 今更だけどこの二人の子供に生まれて、本当に運がよかったと思う。



「覚悟を決めたんです。レイドの分も背負って、勇者としての義務を全うすると」


 俺のせいで死んでしまったレイド。

 俺がもっと強ければ、死ぬことは無かったかもしれない。

 これは彼への贖罪の気持ち、同時にこの人生こそは輝かしいものにしたいという思いだ。


「だからお願いします。俺にあなた達の全てを教えてください!」


 頭を下げて強く懇願する。

 ただ体を鍛えても技が無ければ意味がない。

 技を得るために、この二人は必要不可欠だ。

 なんとしてでも、許可を得ないと……!



「……いいぞ。俺は賛成だ」


「ほ、本当!?」


「ああ、大事な一人息子の頼みを断るわけにはいかないだろ」


 父さんは笑顔で応えてくれた。


「母さんは……?」


 期待の眼差しで母さんの方を見る。

 母さんは不安そうな表情をしていた。


「……あなたが、あの山に行った日。お母さん達はレイドくんを助けられず、あなたも助けられなかった。結果、あなたはひどく傷ついて外に出られなくなってしまった」


「でも、それももう一年も前の話で――――」


「私ね、()()()()()()


「…………え」


 聞き間違いかと思った。

 そんな、おかしいことを母さんが言うわけがないと。

 でも、母さんは続けた。


「私たちが現役のころ、沢山の魔物や悪い魔人を倒したわ。けど、簡単なことばかりじゃ無かった。命を落としそうになったこともあったわ。母さんと父さんはランクの高い冒険者だったから、危険の多い仕事を任されることが多かったのよ。だから、子供にだけは危険な目に合わせたくないって、昔から思っていたの」


 母さんが少し悲しそうな顔をした。

 母さんが続ける。


「それなのに、あなたは勇者として生まれてきてしまった。本当は光栄なことのはずなのに、私はとても悲しかった。……本当は、あなたにはこの村で静かに暮らして欲しかったけど、もう覚悟を決めたのよね?」


「……うん、もう泣いてばかりの俺じゃないよ」


「そう……」


 母さんは、大きめに息を吸った。

 その目尻には、少しだけ涙が溢れているように見えた。


『パンッ』


 突然、乾いた音が部屋に響いた。

 少し驚いたので、それが母さんが自分の頬を両手で叩いた音だと気がつくのに時間がかかった。


「わかった! あなたがそう決めたんだったら、お母さんは全力であなたを応援します! ただし、手加減はしないわよ……?」


「……お手柔らかにお願いします」


 苦笑いしながら、母の言葉に返した。

 しかし、これで目的は達成だ。

 この二人に教われば、魔王なんか余裕なんじゃないか?

 そんなことを考えていると。


「ところで、いったい誰に私たちに教わるように言われたの?」


「……え」


「だって、あなた一年くらい前までひどい状態だったのに。まぁ、最近は外にも出られるようになったけど、急に私たちに教わりたいだなんて、普通考えられないわよ。誰に入れ知恵してもらったの」


 ……すごいな。

 まさか、そこまでお見通しだとは。

 この人たち、かなり期待できそうだな……。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇




「初めまして、クレイブ様、セルフィ様。私は、我が主アレイス様によって生み出されたデュラハンの『アトラス』と申します。どうぞ、宜しくお願い致します」


 アトラスは自分の頭を抱えながら丁寧にお辞儀した。

 デュラハン流の挨拶だろうか。

 案の定、両親はとても驚いていた。

 二人の想像では、俺は誰か優秀な人間にでも教えられていたのだろう。

 それが、実は魔物、しかもスライムしか生み出すことができなかった俺が生み出した魔物だというのだ。驚くのも当たり前だろう。


 俺はこの一年のことを事細かく説明した。

 アトラスとの出会い、一年に及ぶ肉体改造、そして次の段階『技術獲得』への移行が必要になったこと。

 両親は理解し、快くアトラスを受け入れてくれた。



「じゃあ、アトラス君。私たちは息子にいったい何を教えればいいんだい。何か計画はあるのかな?」


「そうですね、まずクレイブ様には、アレイス様に剣術や体術など、知っている戦闘技術をお教えしていただき、セルフィ様には、アレイス様がセルフィ様に一度でも勝てるようになるまで実戦形式での訓練を行っていただきたいです」


 前半は概ね予想通りだったが、後半に不穏なことが聞こえたな。

 いや、母さんは元白金級だぞ、今の俺に勝てるわけがないじゃないか!

 俺がそんな視線をアトラスに向けると、アトラスが少し笑ったような気がした。


「もちろん、セルフィ様はとてもお強いので、まともに戦えばあなた様が勝つことはほぼ不可能でしょう。()()()()()()()()()()


 アトラスがそんな含みのある言い方をした。

 その言葉に、俺はもちろん、父さんも母さんも首を傾げる。

 しかし、アトラスはお構いなく話を続ける。

 しかも俺の眼前まで近づいてきて、こんなことを言い放った。



「あなた様には、()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それこそが、私の思い描いている『勇者フォート・アレイス』の姿なのです!」



 それを言うアトラスの姿は、まるで狂乱的な信仰をもつ信者のように見えた。

 俺は、生まれて初めての類の恐怖を感じたような気がした。

お久しぶりです。

作者は受験生なので、気が向いたときに休憩がてらこの作品をちびちびと書き進めていました。

本当は序章は3つで終わらせるつもりでしたが、思ったより文章量が増えてしまったので、次回でプロローグ序章を終わらせます。

次回は早くても3月以降の更新になると思います。

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