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第77話 非常事態

「うぇぷ、おぶ」


 もう、10回は繰り返しただろうか。

 気持ちが悪い。

 とても奇妙な感覚だ。

 流れすぎていくはずの時間が、何度も繰り返される。

 映画のワンシーンを、10回同じシーンを巻き戻して観てみたときの謎の喪失感に似ているところがある。


 喪失感もそうだが、同じ記憶がいくつも重複しているのも変な気分だ。

 人間、小指を何かの角にぶつけただとか、紙で指を切っただとか、誰しも絶対に経験する“痛みの記憶”があると思う。

 それも、人生で何度も経験する痛みだろう。

 しかし、「悶え苦しむほどの痛み」とか「次は経験したくない痛み」とか、言葉で表せても、それがどれほど痛かったのか、当時の状況を再現できるほど鮮明に覚えていられる人は少ないだろう。

 それは、人間が忘れる生き物だからだ。

 もちろん、忘れることは必ずしも悪いことではない、むしろ痛かったときの記憶なんて覚えていないほうがいい。


 問題なのは、その痛みの記憶を、鮮明に、しかも何度も同じものを覚えていたとしたら、ということだ。

 俺は、短時間の間に10以上の回数、繰り返す世界を体験している。

 いや、時間が繰り返しているから“短時間”という表現は間違っているか?

 それは置いておくとして、俺は繰り返すたびに、スライムを俺の体に寄生&レベルドレインさせなければいけない。

 その痛みは、正直言って耐えられるものではない。

 辛うじて、しずくの用意してくれた薬に入っていた麻酔薬のおかげで和らげられてはいるが、薬がなかった場合なんて、想像できないししたくもない。

 例えるなら、虫歯の最終段階、神経も侵された状態のモノを、麻酔なしで手術してもらうような痛みだ。


 そして、その痛みが今も続いているのではないかと思うほど、鮮明な記憶を、世界が繰り返した回数だけ覚えてしまっているのだ。

 頭が割れそうになる。

 冗談じゃなく、痛すぎて気が狂いそうになる。

 実際は、“痛い”という記憶しかないのに。


 ……というよりも、一体“これ”をいつまで続ければいいんだ?

 相手に能力の制限があるとすれば、世界を繰り返せる回数が限られていると考えることはできる。

 だが、そもそもそんな制限すら存在しない、正にチート級のギフトだとしたら。

 ……いや、そんなことはないと信じたい。




 話は少し変わって、俺はこの十数回時間を繰り返す中で、気が付いたことがある。

 それは、今回の相手、オナ〇ワームの行動パターンだ。


 流石に、毎度同じ行動をしていれば気づく。

 現在俺のいる場所は西校舎1階、そして俺と生徒たちが何度も死んだ教室は東校舎の3階。

 この十数回で、オナ〇ワーム、奴は東校舎の2階によくいた。

 恐らく、そのまま3階に行き、本来なら出会うはずの俺に会いに行こうとしていたのだろう。

 だから、東校舎の2階までスライムを細長く伸ばし、奴の体を貫くことを繰り返し続ければいいわけなのだが……。


「毎回、文字通り神経を削るのはしんどい……」


 しかし、やらなければ時間通りに皆死ぬだけだ。

 とっとと終わらせてしまおう。


 俺は背中の寄生スライムに意識を移した。

 イメージするのは、千手観音とタコの腕だ。

 すると、スライムから無数の棒状のものが形成されていく。

 スライムで作った触手だ。

 しずくが製造してくれた薬のおかげで、意識の重複が可能になり、自分の腕のようにこの触手を動かせるようになったが、それでも一度に動かせるのは3本ほど。

 だが、相手の場所がわかっているのなら、3本でも十分だ。


 俺は触手を東校舎の2階へ向けて伸ばし始めた。

 奴の背中から不意打ちできるように、慎重に伸ばしていく。

 そして、触手が2階に到達した。

 ――――が、しかし。


「あれ? おかしいな」


 そこに、奴の姿はなかった。

 今伸ばしている触手は、同時に目の役割も担っていて、目をつぶっていても周りの様子が確認できる。

 だが、どこを探しても奴の姿が見えない。


「そんなバカな、確かにこのあたりにいるはずなんだ」


 どういうことだ。

 まさか、事前に察知されて逃げられたのか。

 ……いや、そんなはずはない。

 タキオンさんの話が本当なら、この世界が巻き戻っていることを認識できるのは、能力を持っているオナ〇ワームを殺した者だけのはず。

 それなら、今までの世界の記憶を持っているのは俺だけだ。

 誰も、俺が奴を、オナ〇ワームを殺したことは知らない、はずなんだ。


 じゃあ、なんで奴は2階にいないんだ。

 もう3階に行っているとか、いやそれもない、いくら何でも移動が速すぎる。

 考えろ、どうして奴はいないn――――




 そのとき、俺のスキル『回避』が発動した。

 体が勝手に右に傾き、振りかえって後ろに数歩下がった。

 見上げると、そこには。


「…………ここにいたのか、フォート・アレイス」


 半透明の人型の生命体が仁王立ちしていた。

 オナ〇ワームのさらに変質した形態のようだ。

 その手には、ナイフが握られている。


「――――どうs」


「『どうして』だと? まぁそう思うのも無理はないが、それはこっちのセリフだ」


 後ろに数メートル跳んで、さらに奴との距離をとる。

 何故だ、今相手は世界が巻き戻されたことに気づいていないはずだ。

 だから、俺からの攻撃が来るなんて予測できるわけが……。


「一体どうやって俺を“13回”も殺したのかと思ったら、なんだその触手みたいなやつは。そんなの前はなかっただろ」


「……今、なんて」


 どうして俺が殺した回数を知っているんだ。

 いや、まさか。

 くそッ、なんでその可能性を考えておかなかったんだ!


「残りの巻き戻せる回数(カウント)を見ておいてよかった。じゃなかったら、未だに気づかないままだったもんな。しかしまぁ、しぶとい男だな。殺したと思っても、まさか殺し返されるとは思わなかったぜ」


 まさか、『残機』が存在したなんて!

 ゲームの世界じゃあるまいしと思って、相手が残機を確認できる、その可能性を疑わなかった。

 くそ、何をやってるんだ俺は!



「一体どうやって俺の能力に気づいたのか知らないが、まぁいい。もう一度死んでもらう(リセットする)だけだ」


 俺が考える間もなく、奴が俺に向かってきた。

 すぐにスライムを操り、迎え撃とうと準備をする。


 そして、奴が走り出し、一気に距離を詰めてこようとしてきた。

 すかさず、スライムを操り、触手を伸ばす。

 ナイフで簡単に弾かれないように、伸ばした3本の触手で、頭、心臓、ナイフを持っている手の3つを狙う。

 そして、奴に触手が届くかどうかというところで――――




「――――――え?」


 次の瞬間、景色が一変した。

 オナ〇ワームの姿も、俺が操っていたはずのスライムの触手もない。

 ……いや、この景色、見覚えがある。


「時間が巻き戻ったときに、最初にいる場所……ッ」


 少し遠くに、見覚えのある校舎マップが。

 急いでマップの前まで行き、現在地を確認する。

 現在地を示す赤い印は、ここが『西校舎1階』であることを示している。

 さらに遠くに時計が見えたので、同じく急いで時間を確認しにいく。

 時計が示す時間は14時48分。


「時間が、戻ってる」


 どういうことだ、俺はまだ奴に何もしてないぞ。

 それなのに、いきなり時間が巻き戻るなんて。

 ……そうだ、タキオンさんが言っていたじゃないか。


『あの魔物は、自分が死にそうになると何度も自殺を繰り返し、戦う相手の全ての攻撃パターンを覚え、相手の攻撃を全て避けながら攻撃をし――――』


 奴は、自殺してわざと時間を巻き戻したんだ。

 まずい、相当面倒なことになったぞ。

 このままだと、奴はすぐにこの校舎に向かって来るはずだ。

 そうなれば、俺がスライムに身体に寄生させるのが間に合わない。


 急がなければ……ッ。



 このとき俺は、俺が着実に破滅へと一歩を踏み出していたことに気が付かなかった。

 そして、破滅の始まりに気が付くのは、まだ先の話だ。

作品の中で使っていた異能を指す言葉『タレント』を『ギフト』に変更しました。

違和感を感じるかもしれませんが、ご了承ください。

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