第75話 巻き戻し、蘇る
「うおッ!?」
次の瞬間、気が付けば俺は元居た学校の校舎の中にいた。
学校の校舎の中にいるのは分かるが、学校のどこにいるのかがさっぱり分からない。
少し遠くに校舎の全体が書かれたマップが見えたので、現在の場所を確認しようとマップの前まで向かった。
「えーと、今は1階の西校舎か。時間が分かるとなおさらいいんだけど……」
近くに時計が無いか見回す。
すると、また少し離れたところに時計を見つけた。
側まで行くと、時間は14時50分を示していた。
「えーと、確か授業があるのが14時半だったか。……じゃあもう時間すぎてるじゃないか!」
しかし、次の瞬間、僅かに頭痛がした。
「そ、そうだった。今リアル鬼ごっこの最中なんだった。普通に授業始めてたわ」
頭痛の直後、いきなり記憶が流れてきた。
今の俺は授業はしていないはずなのだが、記憶の中の俺はリアル鬼ごっこと称して生徒たちと戦闘を行っていた。
「場所と時間は分かったはいいが、これからどうすればいいんだ……?」
あの時の管理室とかいう謎の場所から、いきなりここに飛ばされて、一体何をしろというんだ。
いや、進化したオナ〇ワームを倒すって言うのは分かるけど、どうしろと。
……とりあえず、奴の居場所の確認と戦略を練らなけれb――――
「――――ぁがああああああッッ!?」
そう思った瞬間、また別の記憶が流れてきた。
しかし、この記憶はさっきのような優しい記憶ではない。
明確な、死の記憶だ。
腕をもがれ、足をえぐられ、抵抗できなくされる。
腹を切り開かれ、内臓を弄ばれる。
内臓が丁寧に握りつぶされ、ミンチになる感覚。その痛み。
「――――ぅぉぷ。おげぇッ」
痛みと味わったことのない気持ち悪さに、胃の内容物が込み上がってきてしまった。
床に四つん這いになって、込み上がるものを吐き出す。
俺を殺そうとする記憶の中の男。
人の姿はしているが、全身が半透明である時点で人ではないことは分かる。
男はこう言う。
『仲間を殺した報いだ』
『生命を冒涜したお前はいくら殺しても殺したりない』
『永久に死に続けるがいいさ』
確かに、オナ〇ワームへの俺の行いは、オナ〇ワーム自身からすれば非道極まりない行為だったのだろう。
だが、だからとはいっても、殺されるつもりなど毛頭ない。
「おぶっ。ごぷぇ」
吐き気に悶えながらも、記憶の中からヒントを探る。
勝手に流れ込んでくるこの記憶、オナ〇ワームを攻略するためには申し分ない情報源だ。
しかし、流れてくるものは俺の死の記憶ばかり。
「あ、たまがッ、頭が、ッ割れる!」
何度も死の感覚を、それも短時間で味わう。
普通の人間にはとても耐えがたい苦しみだろう。
しかも、全ての記憶がまるで今起こっているかのように新鮮に感じられるのだ。
ただひたすら同じ記憶を見ているだけなのに。
……いや、もしかすると、同じ記憶を見ているようで、別の記憶を見ているのではないか。
俺が見ている記憶は、何度も繰り返した世界の、たった一回の記憶にしか過ぎないのでは。
だとすると、俺が今まで見てきた分、俺は死んだことがあると同時に、世界が繰り返されてるってことかよ。
……そうなのであれば、相手はなんて破格の能力の持ち主なんだ。
そう思うと、恐怖に身震いした。
痛みに耐えながら、流れてくる記憶を見続けていると、ふと気づいた。
死ぬ直前の、廊下の壁に取り付けられている時計の針。
その針は、『15時05分』を示していた。
「――――ガハッ! ゲホッゲホッ」
時計の針に気付いた瞬間、頭に記憶が流れてこなくなった。
なんてピッタリなタイミングなんだ。
まるで、誰かが勝手に俺の頭の中に記憶を流しているみたいじゃないか。
……タキオンさんか。
……ちょっと待て。
さっき見た記憶の時間が『15時05分』。
今の時間は、14時53分だ。
「じゃあ、あと12分で俺も“あのとき”みたいになるってことかよ!?」
タキオンさん曰く、相手の能力は『時間を無かったことにし、やり直す能力』と『破壊された結果を残す能力』の2つに分けられるらしい。
前者は理解できたが、問題は後者の方。
前の世界でこの能力の影響を受けた人間が死んだ場合、何度世界をやり直そうともその人間は同じ時間に同じ死に方で死んでしまう。
何もされていないのに、突然切り傷が現れたりするのだ。
俺はすでに何度も前の世界で一度殺され、以後世界が繰り返すたびに死んだ。
そのときの記憶が、先ほどまで俺の頭に流れてきた記憶だ。
……つまり、一度死んでしまった俺は、以前の世界で死んだ時間と同じ時刻、『15時05分』に死んでしまう。
「それまでに、奴を見つけて殺さないと……」
俺はカバンの中から注射器を取り出した。
注射器の中には、まだ薬がなみなみと入っている。
……俺はこの薬を既に使ったはずなのに。
これが唯一時間が巻き戻っていることの証拠だな。
さて、またキング・寄生スライムを生み出して、俺の体に寄生させなくては。
再び、あの神経が溶ける痛みに耐えなければならないと思うと少し躊躇するが、死ぬよりマシだ。
キング・寄生スライムを生み出すために、キーワードを設定していく。
そして、生み出した。
「……また、あの痛みを」
記憶が蘇り、思考が一時停止する。
……だが、これぐらいの痛みで止まってたら今回の相手は倒せない。
止まるな。止まれば俺の負けだ。
「来ぉい! 俺に寄生しろッ!」
俺がキング・寄生スライムに命令すると、俺に跳びかかってきた。
俺の背中に纏わりつき、その身体が俺の体の中に侵入してくる。
そして……。
「ッ! ――――――っぐぅ!」
また猛烈な痛みが俺の体を襲った。
スライムが俺の神経細胞を分離させ、自らの神経と融合させようとしているからだ。
一度味わった痛みだが、この痛みばかりは慣れることは無いだろう。
しずくから貰った薬に、麻酔薬が混ざっていることに感謝だ。
そうじゃなかったら、一体どれほどの痛みに耐える羽目になっただろうか。
もしかすると、気絶していたかもしれない。
ある程度時間が経ったところで若干だが痛みが和らいだ。
おそらく、神経の融合が終わったのだろう。
全身を脂汗がにじり伝う。
「“レベルドレイン”だ!」
直後、急激な勢いで俺の体からスライムに“何か”が流れ出し始めた。
経験値が流れ出ているのだろうが、実際あまり実感は沸かない。
「……さて、終わったみたいだな」
流れ出ていく感覚が消え、ようやく準備が終わった。
今の時間が15時ちょうどだ。
残り時間は、あと5分。
「スゥ――――……」
息を吸って、心を落ち着かせる。
俺はスライムに意識を写し、スライムを動かし始めた。
何本も触手状のスライムを体から生やし、校内の探索を開始する。
「確か、前回はこの辺りにいたはず……」
前回、奴を見つけた場所まで触手を伸ばした。
辺りを見回すと、確かに奴はいた。
「――――――喰らえッ」
音もなく静かに背後に忍び寄る。
そして、触手で、確かに奴の体を貫いた。
「…………ん? うおっ!」
次の瞬間、また俺は学校の校舎の中にいた。
時間が、巻き戻った。
更新遅れてすみません。
最近は何かと忙しく、チビチビと小説を書いてます。
なので、しばらく不定期更新になります。
申し訳ありませんが、ご了承ください。





