第63話 ただ一人しか愛せない
一回、家に戻った俺たち。
「…………」
「…………」
「…………えーと? ちょっといいかな」
ソルトとアロマがビクッと震える。
二人がこんな反応をするのには、理由がある。
それは、つい先ほど、この二人の発言を、俺が聞いてしまったことがだ。
『『私、魔王さまのことが好きなん(ですから!)だもの!』』
なんとまぁ、驚きだ。
特に驚いたのは、ソルトに感情があったということだ。
いつも感情が無いと言っていたり、無表情だったりしたのは、嘘だったのか。
どうしてなのか問い詰めたくなるが、まぁ彼女なりの考えがあったのだろう
前世でも、女から好きだなんて言われたのは母親くらいだ。それも家族への愛情の。
そんな俺が、美少女2人から実質告白をされた! すごい! オタクたちの願望がかなった!
……とは素直にいかない。
とりあえずは、確認をしておこう。
「さっき二人が言ったことなんだけど」
「――――――ッ!」
「……はい」
ソルトは顔を抑えて悶絶してしまった。
アロマは耳が赤くなっているようだが、同時に脂汗が出ている。
……これは直接聞いて、確認するまでもないな。
マジだ。これ。信じられないけど。
「二人の気持ちは凄くありがたい。素直に嬉しい。俺、今までに女の子から好きって言われたこと、あるにはあるけど、そこまでたくさん経験してるわけじゃないしさ」
「――――じゃあ?」
アロマが、若干期待するような目でこっちを見てくる。
ソルトも、顔を手で覆いながらも、隙間からチラリとこちらを覗いているようだ。
……やっぱり、ソルトもそうだけど、アロマも正面から見ると可愛いんだな。
こんな二人から、好意を持たれてるのかよ、俺。
…………でも、それでも、俺の思いは変わらない。
俺は、少し罪悪感を感じながらも、なるべく落ち着いて話した。
「でも、ごめんな。アトラスとしずくにも聞いたとは思うけど、俺には愛してる人がいる。たとえ、その人が、もうどこにもいない人だったとしても、俺はその人のことが好きだ」
「…………だよね。そうだよねぇ……」
「そう、ですよね…………」
二人が、俺の言葉に、悲しそうにうなずく。
俺はその仕草に、心を少し痛めながらも話を続ける。
「だから、二人のその思いには、答えられない。……すまん」
俺は二人に頭を下げた。
途端に、二人がギョッとしたような反応を返してくる。
「そっ、そんな! 魔王さまは悪くないですよ!」
「そ、そうよ! 私たちが無理言ってるだけなんだから!」
「それでも、お前らの大切な思いを踏みにじることと変わりはない。……でも、こんなことしか言えないけどさ」
俺は顔を上げ、二人を見つめ、言った。
「俺はお前らのこと、大切な仲間だと思ってる。こんなダメな俺を支えてくれて、いつも隣にいてくれて、本当に感謝してるんだ。だから、これからも“仲間”として、よろしく頼む」
俺は二人に、言った。
言ってしまった。
何て残酷なことを言っているのか、自分でもわかる。
まさか、こんなことになるなんて、考えたこともなかった。
この世界は、一夫多妻が許されている。
それも、特別な身分の者は。
例えば、国の政治に関わっているものや、王族、貴族、あとは国王直属の騎士なんかも一夫多妻が許される。
もちろん、勇者もその例外ではない。
そのため、俺が彼女たちの思いを受け取り、結ばれることを、誰も非難はしない。
しかし、俺が元生まれた世界、日本では、一夫多妻は許されない。
そんな世界で育った俺は、この世界の人とは価値観が違う。
結婚できるのは、たったの一人だけ。
もちろん、離婚や、再婚する人もいる。
でも、基本的には生涯でたった一人だ。
俺は、彼女、リスタと結婚するつもりだった。
彼女もそれを了承してくれていたんだ。
なのに……、彼女はいなくなってしまった。
でも、俺の心の中には、彼女の面影がずっと残って、離れようとしない。
忘れることなんてできない。
だから、こんな残酷なことでも、俺は言うしかない。
彼女たちに、俺のことをあきらめてもらうために。
「……分かったわ、そうよね。私たちは仲間よ! 大切な仲間!」
「……そうですね。そうですよね」
二人は、何とか納得してくれたようだった。
しかし、俺が席を外すと、後ろから、すすり泣くような声が聞こえてきた。
俺はそれを聞かなかったことにした。
※※※※※※※※
「……ごめん母さん。もう一回言ってもらってもいい?」
「だから、あなたも魔法学校の教師、やってみない?」
なんと、母さんから魔法学校の教師になることを勧められた。
魔法学校とは、その名前の通り、魔法を学ぶ学校だ。
さらに、魔法だけでなく、剣術や、その他様々な学問を学ぶことができる。
ただし、この学校が普通の学校と違うところは、かなりのエリート校であることだ。
入るためには、もちろん試験を受けなければならないのだが、魔法や剣術の才能や技能などの戦闘面での試験と、筆記テストの学問の試験がある。
それら二つの試験での総合得点で、合否が決まる。
しかも、合格基準点はかなり高い。
ただし例外で、どちらかの試験で満点か、それに近い点数を取った場合は、もう片方の点数が悪くても合格することがあるらしい。
そんなエリート校で、俺に教師をやれだって?
いや、それは無理だ。
「っていうか、なんでそんな話が俺のところに」
「いやー、母さん実は20年前から近くの魔法学校で剣術教えてるのよー」
「えっ、そうなんだ。初めて聞いたわ」
まぁ確かに、母さん元超凄腕冒険者だしな。
剣術教えるくらいはできるか。
「で、息子が元勇者って言ったら、ぜひ教師になってくださいって言われちゃってね」
「なるほど、そういうことだったのか。いや、それでも教師ってのはちょっと……」
すると、引き下がろうとしている俺に、母さんが一言。
「ここだけの話、お給料良いのよ。なんと、ひと月100万」
「ひゃッ!?」
俺は母さんの申し入れを受け入れることにした。
※※※※※※※※
「うひゃあ、でっけぇなぁ……」
俺は今、魔法学校の前に立っている。
今日から晴れて魔法学校の教師だ。
まぁ、まだ入りたてになるから、そこまで仕事はないんだけど。
とりあえず、この学校の方々に自己紹介と、あとは教頭先生と校長先生のところにご挨拶に行かなきゃだな。
俺は気を引き締めて、学校に入っていった。
作者が受験生になってしまいました。
そのため、これからは作者が時間があったときに投稿していきます。
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