第62話 アレイスの過去 2
アレイスは、そこに立っている人物が何を言っているのか、理解できなかった。
「あなたに生み出された存在」と言っても、アレイス自身今までに人型のモンスターを生み出せたことはない。
しかし、確かに体にはモンスターを生み出した後に起こる、魔力切れの強い倦怠感が感じられた。
そのため、アレイスはその人物、いや、モンスターの言うことを信じた。
自分に勇者が務まることは無いと考えてしまっていた。
しかし、そのモンスター、後に名前をアトラスと名付けるが、ステータスの低さは関係ないと言った。
その日から、アトラスによるアレイスの強化特訓が始まった。
まずは、肉体の強化。
これは単純に、筋肉をつけることだ。
3年間引きこもっていたアレイスの体にはこたえたが、アトラスは自分の主人のことを考え、あえて厳しくした。
重い物を持ち運んだり、木刀の素振りを一日1000回したり、単純に筋トレをしたり。
とにかく、筋肉を1年かけて作り上げた。
次の一年は、戦闘術を学んだ。
剣の振り方から、体の移動のさせ方、攻撃のかわし方。
父親と母親が元冒険者であったことが幸いした。
1年間では習得しきることはできなかったが、2年前のアレイスとは比べ物にならないぐらいの強さを手に入れることができた。
そして、1番に変わったところは、スキルを習得したことだ。
それも、支援や逃げ特化のスキルだ。
これはアトラスが決めたことで、やはり筋肉を付けたり、戦い方を身に着けただけでは限界が来るため、基本的にはアレイスが主体で戦わないようにし、アレイス一人のときにはいつでも逃げられるようなスキルを覚えることにしたからだ。
そして、15歳になったアレイスは、本格的に魔王討伐を目指すことにした。
かつての友人と目指していた夢を、友人の分まで背負って。
最初に出会った仲間はドングラス・ルートリア。
後のルートである。
と言っても、最初から仲が良かったわけではなかった。
ルートリアのギフトは「疾風の魔術師」。風を自由自在に操る力だ。
攻撃はもちろん、空中に浮いたり、自由に移動することもできる。
だが、その能力の強力さ故に、他人を見下す性格をしていた。
たとえギフトを持っていようと、自分に敵う者はいない。ましてや、ギフトを持っていない平凡な輩はなおさらだ、と。
そのため、最初はルートリアはアレイスのことを見下していた。
実際、アレイスがルートリアに勝負を挑んだが、完敗してしまう。
しかし、魔王軍幹部と戦ったルートリアは瀕死の状態まで追い込まれてしまう。
あと一撃であわよくば死んでしまうところで、アレイスとアトラスが助けに来る。
そして、見事2人の連携で魔王軍幹部を討ち取ることができた。
それを見たルートリアは、アレイスのことを見直す。
と同時に、人にはできることもあればできないこともある。自分は完璧な人間などではなかったと学んだ。
その日から、ルートリアは人を見下すことは無くな……りはしなかったが、少しづつ少なくなっていった。
次に仲間になったのは、リスタ。
彼女に苗字は無い。
なぜなら、彼女には両親がいないからだ。
彼女は生まれて間もなく、捨てられた、いわば孤児だったからだ。
彼女はある教会の前に捨てられていたらしく、その教会の系列の孤児院で育てられた。
国から使者が来て、ギフトの有無やステータスの鑑定を行うのは、孤児院も例外ではない。
そして、リスタはそこで初めて、「ギフト持ち」であることを知らされ、歴史上稀にみる孤児院出身の勇者となった。
彼女のギフトは、「治癒の加護」。
彼女自身の自然治癒力を大幅に向上させ、魔力を使うことで自身や他の人を癒すことのできる力だ。
しかし、魔王軍を直接倒せるような攻撃的なギフトではなく、そのことに失望する者は少なくなかった。
また、彼女の出身が孤児院であることを良く思わない者も多くいた。
その者たちが、彼女を裏で悪口を言うなどして、印象を堕とされることもあったようだ。
だが、そんな彼女の能力のおかげで、救われた者も多くいた。
当時、回復系の魔法やスキルを覚えている者は少なく、怪我をしても治せないことなんかざらにあった。
さらに、大きなけがや病気にかかった場合なんか、救いようがなかった。それこそ、自然治癒を待つしかないという、残酷なものだった。
骨折などならまだしも、この世界は剣と魔法の世界。剣で斬られた傷は簡単には癒えないし、魔法で焼かれ、削られ、溶かされ、酷使された身体も同じくだ。
しかし、彼女のギフトは普通の回復魔法等とは比べ物にならなかった。
一たび彼女がその力を使えば、どんなに大きな傷でも、病気でも、まるで時間を巻き戻したかのように治すことができたのだ。
そのため、人々の中には、彼女のことを『女神』とまで称える者もいた。
そんな彼女とアレイスが出合ったのは、とある町でのことだった。
ルートリアが前の魔王軍幹部との戦いで負った傷を癒せる者を探しに、リスタの元を訪ねたのだ。
リスタの力によって、みるみる癒えていくルートリアの身体を見て、アレイス、アトラス、ルートリアの3人は、彼女の力がとてつもないものであることを確信した。
そして、アレイスたち一行は彼女を魔王討伐のための仲間に誘ったが、彼女はそれを断る。
彼女自身が、自分の能力では役に立たないと思っていたからだ。
しかし、アレイスは戦場での回復役がどれほど重要なのかを、リスタに説明した。
さらに、行く先々で魔王軍たちと戦って傷ついた人たちを癒すためにも、リスタが必要であることも説明した。
それを聞いたリスタは、アレイスたちについていくことを決めた。
次に仲間になったのはフィラメント・レディ・ラーニャ。
彼女は貴族であるフィラメント家の三女だ。
貴族の場合、娘は他の家へ嫁がせて、より良い関係を結ぶのに使えるので、多くの貴族は自分の娘たちがギフトの有無を調べられるのを断る。
しかし、彼女の場合は、性格に難ありで、男勝りなところがあり、誰も彼女を嫁に貰おうとする者はいなかった。
そのため、彼女の親は遠慮なくギフトの有無を調べさせたが、これがまさかの「ギフト持ち」。
というわけで、ラーニャは半ば勘当のような扱い方で、厄介払いされてしまったのだ。
とは言ったものの、彼女自身はそのことを全く気にしていなく、むしろ家族との縁が切れて清々したようだった。
彼女のギフトは「瞬間移動」。文字通り、一瞬で別の場所に移動できる能力だ。
その応用力は自由自在。
普通に移動にも使えるし、攻撃の際は、奇襲にも、撹乱にも、逃げにも使える。
その圧倒的な力のおかげで、たいていの魔物は簡単に倒せてしまうほどだ。
彼女が仲間になったのは、何の偶然かルートリアと知り合いだったことからだ。
なんと、彼らは同じ魔法学校の同級生だったらしい。
アレイスが彼女を仲間に誘うとアッサリと同意。
そんな感じで、4人+アトラスのパーティが出来上がった。
彼らは、次々に魔王軍幹部たちを倒していった。
戦いの中で、仲間同士で恋に落ちることはよくあることだ。
それはもちろん、アレイスとリスタも例外ではなかった。
お互いにツラい過去を背負って生きてきた二人。
お互いにシンパシ―を感じ、旅を続けていく中で、だんだんと気になり始める。
そして、ついにアレイスの方から告白し、リスタはこれを喜んで受け入れた。
そして、初めての夜。
二人は繋が――――――ることができなかった。
アレイスの股間に謎のA○フィールドみたいなのが出てきたのだ。
どうにかしてA○フィールドを破壊しようと試行錯誤するアレイスだったが、ようやく破壊できるかと思われたとき、アレイスのアレに亀裂が走った。
文字通りである。
アレイスは出血が止まらなくなり、リスタのギフトでも治しきれず、しばらく出血し続ける羽目になった。
後で調べると、勇者たちには与えられたギフト、その強大な力と引き換えに、固有の呪いがかけられているようだった。
アレイスの場合は、たまたまそれが「人と性行為ができない」というものだった。
そのため、お互いに初めてを迎えることはできなかったが、魔王との戦いが終わった後で、結婚することを誓い合った。
そして、ついに魔王との戦いのとき。
その戦力差は、圧倒的だった。
アトラスは地面にめり込んで行動不能に、ルートリアは左腕と右足を失う。
それを回復しようとしたリスタが魔王に捕まる。
リスタを救い出そうと瞬間移動したラーニャは、瞬間移動先を予想され、モロに攻撃を喰らってしまい、そのまま死亡。
そして、リスタはアレイスを庇おうとして死亡した。
それを見たアレイスは、再び何もできなかった自分への自暴自棄と、将来を誓い合った者の死に耐え切れず気絶してしまう。
しかし、そこで魔王は交渉を持ち掛けてくる。
交渉の内容は、「魔王が自ら死ぬ代わりに、他の魔族たちの安全を保障してほしい」というものだった。
もともと、もう勝てる見込みが見えなくなっていたルートリアはこれを了承。
起き上がったアトラスと一緒に、倒れたアレイスと、仲間二人の遺体、そして魔王の首を持って帰った。
アレイスたちは世界中から称賛され、地元の国では超高待遇を受けるほどであった。
しかし、アレイスは、最愛の人を無くした悲しみを拭い去ることができなかった。
そのため、魔王を倒した後の出世の道は選ばず、実家に帰って細々と余生を過ごすことを選択した。
リスタの遺骨は、育てられた孤児院に持って行ったが、孤児院の院長に「最愛の人の近くに入れるほうが、彼女も幸せだろうから」と、受け取りを断られ、アレイスが持つように勧められる。
アレイスもそのほうが良いような気がして、実家の近くの墓に埋葬した。
そして、両親に彼女のことを説明した。
もう、この世にはいない彼女を。
※※※※※※※※
「それから2年間の間に、アロマやソルト、お前たちを生み出されたのだ」
「えぇーと……、魔王さまに今まで何があったのかは、大体わかりました」
「っていうか、魔王さまってもとはニホン?ってことで生まれたって、どういうこと?」
「魔王さまは、この世界とは別の、「日本」という国で生きていた。それが、何の偶然かこの世界に全く別の人間として生まれ変わったらしい」
「へぇぇ……、そんなの初めて聞いたわね。魔王さまもそれくらい言ってくれてもいいのにぃ……」
「というわけだ。魔王さまの過去については、吾輩の話した通りだ。もうこれ以上余計な詮索はするな」
しかし、ここで納得のいかない人物が一人。
ソルトである。
(どうしよう、本当に、魔王さまには恋人がいたんだ)
しかし、今はどうなのか。
今は、その恋人のことをどう思っているのか。
「えーと? そのリスタっていう人が、魔王さまの恋人だった人なのよね?」
アロマが良いタイミングで、アトラスに質問した。
「うむ、そうだ。リスタ殿が魔王さまの伴侶となる方であった」
(やっぱり、そうなんだ……)
「で? 今は魔王さまはその人のことはどう思っているの?」
アロマがさらに核心に迫る。
「どう、と言われてもなぁ……?」
「う~ん、それはアタシたちには分からないなぁ。魔王さま本人だけだよ、それが分かるのは」
「そこをなんとか! 何かわからないの? こう、普段の魔王さまの態度とか」
「そうですよ! 何かお二人なら分かる、魔王さまの素振りとかないんですか?」
ソルトとアロマが、アトラスとしずくに詰め寄る。
「ど、どうしたのだ、二人して落ち着きがないぞ」
「そうだよ? そんなこと知って何になるの? 何か困ることでも?」
と、アトラスとしずくが首をかしげる。
「なんでって……!」
「困るんですよ! だって……」
そして、アロマとソルトは、同時に言い放った。
「「私、魔王さまのことが好きなん(ですから!)だもの!」」
「「…………え?」」
固まるアトラスとしずく。
「「…………え?」」
お互いを見つめあう、アロマとソルト。
そして……。
「………………え?」
その場に、偶然にも出くわしてしまった、アレイス。
時が、止まった。





