第61話 アレイスの過去
更新ちょっと遅くなりました。
「あ! ちょっとアトラス!」
アトラスの姿を見つけたアロマ。
見つけた瞬間、全速力で走って近づいていく。
「おお、アロマではないか。一体どうしtあごばぁぁああああああ!?」
それに気づき、アトラスは返事をしようとしたが、そこにアロマのドロップキックを喰らった。
アロマは力はそこまで強くはないが、全速力で走ってきて、そのまま慣性力を利用してドロップキックをしたとなると違ってくる。
アトラスの体は宙を舞い、数メートル先の地面に落ちた。
そんなアトラスに、アロマが言う。
「魔王さまに恋人がいたなんて話、聞いたことが無いわよ! どういうことか説明しなさいよ!」
「そ、そうですよアトラス様! 一体どういうことなんですか!」
そう言って、アトラスに詰め寄るアロマとソルト。
ソルトの場合、もし本当にアレイスに恋仲がいたのだとしたら、それこそ自分に全くチャンスが無くなってしまう。
それだけは嫌だと、こうしてことの真実をアトラスに尋ねているのだ。
「ちょっ、す、少し落ち着くのだ二人とも。一体どうしたというのだ。どこでそんな話を?」
「魔王さまのお母さまに聞いたのよ」
「あぁ……、あのお方か……。まったく、御母上様はどうしてこうも……」
口が軽いアレイスの母親に、頭が痛くなるアトラス。
「そ、それで、どうなんですか!」
「そうよ! 本当のことを話しなさいよ!」
「む、むぅ……」
一歩も引こうとしない二人に、アトラスは困ってしまう。
言えばアレイスへの忠義に反する。しかし、言わなければこの二人は納得しないだろう。
一体どうしたものかと悩んでいると――――
「もういいんじゃない? 言っちゃっても」
「し、しずく……!」
そこに、しずくが現れた。
「今までは、魔王さまがずっと部屋から出てこなかったから、言う必要もないと思ってたけど、もうそういうわけじゃないでしょ? みんな仲間なんだし、あたしたちの魔王さまでしょ。知っておくべきことじゃないかな。」
「いや、それでは魔王さまのために――――」
「ならないって? 魔王さまが傷つくから?」
「……ああ、そうだ」
「ううん、それは間違いだよアトラス。魔王さまはもう、立ち直れてるんだよ」
「えっ……」
「魔王さまの心の深い傷は、あたしたち、仲間がいるおかげで、十分に回復できてるんだよ。それに、魔王さまも、じきに自分から言ってたと思うし」
「し、しかし……」
「アトラス、まだ分からないの? 最近の魔王さまを見ていないの? 普通に笑ったり、怒ったりしてるじゃない」
「あ……」
確かに、最近のアレイスは、ちゃんと感情を込めて、笑ったり、怒ったりしていると気づく。
上っ面だけの感情表現じゃない。
「もう一度言うよ。もう、いいんじゃない? もう、苦しまなくていいんだよ、アトラス」
「あ……、吾輩は、吾輩はぁぁ……」
もう、アレイスのことを思いながらも、自分も過去を思い、悔やみ続ける必要はないんだと悟り、その場に泣き崩れるアトラス。
それを見て、涙をこらえながら微笑むしずく。
この状況に全くついて行けていないアロマとソルト。
またしても何も知らないリーンさん。
「ごめん、何がどうなってるのか全然わかんないんだけど、結局どういうことなの?」
「いいだろう、話そう。その代わりに、覚悟して聞くんだぞ」
「わ、分かったわ」
「わ、分かりました」
アトラスは一呼吸置くと、魔王さまの過去について話し始めた。
※※※※※※※※
フォート・アレイスは、元は日本に生まれた普通――――の道を踏み外した、というより、蹴落とされた人間だった。
小学校で2年間いじめに遭い、最終的に解決はしたが、心に傷を残したまま、中学へ進学。
小学校のときと同じクラスメートと一緒の学校に通いたくなかった【アレイスの記憶欠如により、名前不明】は、住んでいた家が、偶然にも別の学区域との境目にあったため、中学は学区域の違うところに進学することができた。
しかし、その中学に進学していた他のクラスメートたちは、小学校の頃に学級崩壊を起こしたという、言ってみれば結局のところ、元の小学校にいた奴らと大差なかった。
そのため、入学して1年目はいじめは受けないにしても、【名前不明】は若干仲間外れになってしまう。
ところが、その中学校の校長が、とても理解のある人物で、なんといじめが起きた場合、【名前不明】をいじめた奴らを退学にさせるとまで言ってのけた。
それを信じた【名前不明】は、その後自分のことについて見直し、周りとの上手い付き合い方を少しづつ学んでいった。
そして2年目には、のけ者にされることも少しづつ少なくなり、3年目には全員が高校受験で忙しくなりそもそものけものにする必要すら無くなった。
もちろん、【名前不明】も受験勉強はしないといけなかったのだが、そもそも小学校の頃のいじめが原因で、勉強が嫌いになってしまっていた。と言うよりも、物事に対してやる気が起こらなくなっていた。
そんな中で、中学3年生の夏休みに、とある塾の塾長に出会う。
その塾長は、【名前不明】の数学的な才能を見込み、「数学だけで受けるなら、開成高校に受からせることもできる」とまで褒めた。
その塾長の元、熱心に、中毒的に数学にのめり込んでいった。
そして、見事に第一志望の高校に入学することができた。
このとき、推薦で受かった【名前不明】は、入学までの開いた時間で、自分が好きなライトノベルのような作品を作ってみたいと、小説を書き始める。
高校に入学してからは、勉強がそこまで苦ではなくなった【名前不明】は、普通の生活を送っていた。
高校生になってから、ネットの小説投稿サイトに自分の作品を投稿するようになった。
高校に入ってから、部活を選ぶとき、自分の好きな執筆ができる「文芸部」ではなく「科学研究部」に所属することを選んだ。理由は、大学進学のときに、様々な大会での実績や研究が活かせるからと考えたからである。
しかし、この選択が大きな間違いだった。
「科学研究部」は毎日夕方遅くまで部活があった。また、学校には電車で往復2時間ほどかけて通っていたため、必然的に最初の1年は塾に行くことは考えていなかった。
しかし、この「科学研究部」での活動が思っていたよりも面白みを感じなく、放課後に2時間以上もつまらない研究をし続けるのが苦しかった。
さらに、活動は休日もあり、そのたびに往復2時間かけて学校に行かなければならなかった。
部活を続けることに限界を感じた【名前不明】は、高校2年生の夏休み前に部活を辞めた。
しかし、そのときにはすでに取り返しのつかないところまで来てしまっていた。
勉強に身が全く入らなくなってしまっていたのだ。
中学であれだけやる気を出すことができたのにも関わらず、高校で再びだ。
ここから、段々と【名前不明】の人生が狂い始めていった。
いや、小学校でいじめに遭った時点で、もう人生の歯車は欠けていたのかもしれないが。
歯車が一つでも無ければ、時計は動かない。正しい時を刻むことは永遠にない。
高校2年の終わり、課題を全く提出していなかったせいで、単位がギリギリになってしまう。
勉強も全く身が入らないまま、高校3年になり、案の定何もしないまま1年が過ぎていった。
見事、志望大学に全て落ち、浪人することになる。
あれほどまでに、自分と同じほど勉強ができなかった友人は、1年必死に頑張って志望校に合格していた。
浪人して、いざ頑張ろうと思っても、やはり身が入らず、堕落していく。
もともと心に傷を負ったまま成長してきた【名前不明】は、そんな自分にさらに失望し、どんどん道を踏み外していった。
そんな調子で、ついに3浪目に突入、となったとき。
ついに親に、見放される。
住むところと、最低限の金を与えられて、自立することを余儀なくされた。
全く準備もできなかった。
いきなり、社会に飛び込まざるを得なくなった。
大学も出ていないのにできる仕事なんていったら、コンビニのアルバイトくらいしかなかった。
そこのコンビニの店長がこれまた優しく、大学を出れていないことがコンプレックスになっていた【名前不明】に優しく接してくれた。
そのことが、また【名前不明】には辛かった。ダメな自分に優しく接してくれることが、申し訳なかった。
しかし、狂った運命の歯車は、欠けた歯車の代わりとなる出来事が起こったことで、正しい時を再び刻もみ始めることになる。
高校のころから投稿していた小説を、書籍化しないかと、会社からオファーがあったのだ。
毎年、運が良ければと思って、企画に応募していたのが、まさかの受賞してしまったのだ。
もちろん、【名前不明】はそれを受諾し、このことを実家の両親に知らせた。
両親は若干泣きながら、素直に喜んでくれた。
バイト先のコンビニの店長にも、褒めてもらえた。
そして、ついに会社に書籍化の話し合いをしに行く当日。
全てが終わった。
【名前不明】は、交通事故に遭って、死んだ。
齢、わずか27であった――――
――――しかし、目を覚ますと、見知らぬ世界にいた。
なんと、【名前不明】は、全く知らない赤ん坊になっていたのだ。
周りの人間、この赤ん坊の両親と思わしき人物の話から、「アレイス」という名前であることは分かった。
どうやら、赤ん坊として、生まれ変わったようだった。
つまり、【名前不明】としての前世の記憶を持った状態で生まれ変わったということだ。
今が西暦何年なのかが唯一の心配事だった。
が、その心配は、思っていた以上に面倒な形で当たってしまう。
なんと、周りの人間の口から出てくるのは「魔法」、「魔物」、「モンスター」、「魔王」、など、普通に暮らしていれば、そんな言葉頻発しないだろうというような言葉ばかり出てくるではないか。
そして、数年間経ったころに、疑惑は確信へと変わった。
アレイスが生まれた世界は、元居た世界ではない、全く別の世界。
ただの生まれ変わりなどではない。
そう、【名前不明】だったころに熱心に読んでいたライトノベル、その中の主人公たちが遭う現象。
『異世界転生』だ。
自分が異世界転生したということに気付いたアレイスは、2度目の人生を精一杯楽しみ、悔いのない、失敗なんてない人生にすることを決意する。
前世のような人生はもう歩まないことを決めた。
しかも、幸いなことに、アレイスは世界に10人ほどしかいない「タレント持ち」で「勇者」。
ここまで高待遇で、強くてニューゲームなことがあるだろうか。
アレイスは、これからの自分の人生に希望を持ちながら、成長していった。
アレイスには、1つ上の幼馴染がいた。
名前は、「レイド」。同じ村の出生で、同じ「ギフト持ち」の「勇者」だった。
精神年齢20代後半のアレイスから見ても、とても大人びた精神の持ち主だった。
そのため、アレイスとはとても気が合った。
さらに、そのギフトは「命令」。持ち主のレベルより100までなら高い魔物を操ることができる。もちろん、レベルがそれよりも低かったり、持ち主より低くても適用できる。
魔物を生み出すことのできるアレイスの「魔物創成」とは相性が良く、そういうところでも仲が良かった。
レイドと一緒に過ごして数年が経ち、アレイスは10歳になっていた。
数年間、「魔物創成」で魔物を生み出す練習をしていたが、未だにスライムしか生み出せずにいた。それも普通のスライムだ。
アレイスは、若干焦りを感じていた。
そんな中、ある日、それは起こった。
いつものように、二人で村の近くの森に遊びに行った。
レイドに誘われ、森の奥にある、いつもあまり行かない所にある美味しいキノコを採りに行くことになった。
それが間違いだった。
キノコを探していると、とてつもなく巨大な魔物が現れた。
見たことのない魔物だった。でも、明らかにヤバいことは分かった。
とっさに、レイドはアレイスに逃げるように言い、魔物の前に立ちふさがった。
レイドのギフトを知っていたアレイスは、レイドの言うことを聞き、村へ助けを呼びに行った。
しかし、走り出してから数分後。そのモンスターが追いかけてきた。
血まみれの体で。
そのモンスターに襲われそうになったところを、アレイスの両親が助けてくれた。
後で聞くと、その魔物は村の周りには本来生息するはずのない魔物で、一部の地域では神獣扱いもされるほど珍しい魔物らしい。
だから、レイドのギフトが効かなかった。
そして、レイドの死体を見てしまった。
もともと、心の弱かったアレイスは、その出来事があった日から、部屋に閉じこもるようになってしまった。
かけがえのない友人を失ったことと、ただ逃げることしかできなかった自分に、絶望して。
15歳のある日。
目を覚ますと、そこに見知らぬ人が立っていた。
その人は、アレイスに向けて、こう言った。
「はじめまして、我が主。私は、あなた様によって生み出された存在です。何なりとお申し付けください」
それが、後のアトラスだった。
次話もアレイスの過去について深堀していきます。





