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第60話 食卓を囲む

ついに60話まで来ました!

ここまで読んでくださった皆さんに、深く感謝を。

「はーい、エリーちゃぁ~ん♡ 美味しいでちゅよぉ~♡」


 そう言いながら母さんは、俺の妹、エリーの口に粥を運ぶ。

 それをエリーは文句も言わず、泣き叫ぶこともなく咀嚼する。


「親父口開けろ。栄養価たっぷりの俺の特性のスープだ。肉も豆も野菜もバランスよく入ってて栄養満点だぞ」


「あぁぁ……」


 一方俺はシワシワでヨボヨボになってしまった俺の親父に、少しでも早く回復してもらうための料理を食べさせていた。

 ()()()に汗もたくさんかいてるはずだから、塩分もかなり入れている。

 今はとにかく、栄養が必要だ。



 ※※※※※※※※



「いやぁ……、食べた食べた……」


「どうだ親父、結構元気になってきたんじゃないか」


「あぁ……、お前の料理がもう効いてきたのかもな……。なにより美味かった……。あと、この点滴っていうのもいいな……」


 この世界の医療技術は日本のように進んでいない。

 それもそのはず、この世界には『細菌』や『ウイルス』といった概念が存在していないからだ。

 正確には、その存在を『認知』されていないということだ。

 医学というものは、常に病気や怪我を治すために誰かが解決策を模索し、発見されたものを受け継いだり、それを改良したり、または全く別の新しい画期的な方法などが見つかったりなど、多くの人の努力によって進歩していくものだ。

 しかし、その病気の原因が分からないと、解決策の発見まで至りにくい。

 これは細菌が原因だからこうしたらいい、とか、これはウイルスだからこう、とか、そういった常識がこの世界には存在していない。


 まぁ、そもそもこの世界に溢れている魔力の源『魔素』のせいで、多くのウイルスや細菌は増殖しにくいんだけどな。

 ようは、この世界の医学は日本と比べてかなり遅れているってことだ。

 どれくらい遅れているかと言ったら、現代日本と江戸時代くらいの差があるんじゃないだろうか。

 点滴なんてものはもちろん無い。

 そりゃあ、血管に直接栄養分注入するなんて、普通は思いつくわけがないよな。


「さてそれじゃあ、早く回復させるために安静にしておくか……」


「待った。食べてからすぐに横になると牛になる……、とは言わないが、横になると消化しにくくなって胃に負担がかかる。親父の場合、逆流性食道炎とかになるとシャレにならんから、今すぐに横にはならずに小一時間ほどイスに座って読書でもしたらいい」


「……よく分からんが、ようはすぐに寝るなってことだな。分かった」


 この世界の人間は逆流性食道炎という単語すら知らない。

 文明の違いはなんと辛く、悲しいものだろうか。



 ※※※※※※※※



「さて、親父と俺の妹の食事が終わったことだし、俺たちもそろそろ飯にしようか」


「分かりました。では、すぐに用意を」


「ああ、俺の母さんの分も頼むな。一緒に食べたいらしいから」


「かしこまりました」


 そう言って、ソルトが台所に向かった。

 それから数十分後――――


「うわぁ! すごいわねこれ! これ全部ソルトちゃんが作ったのぉ?」


「はい、お母様のお口に合うかは分かりませんが」


「……こりゃすげえわ」


 俺たちの目の前には、ソルトが作った多くの料理が並んでいた。


「ねぇ魔王さま! もう食べてもいいわよね!」


「がっつくなアロマ。まぁでも、俺ももう腹ペコだしな。食べ始めようか」


「はい、それでは皆様」


 アトラスがみんなに声をかけると、みんな掌を合わせ、


「「「「「いただきます」」」」」


 そう、食材への感謝の言葉を呟いた。



「う~ん♪ とっても美味しい! ソルトちゃん、いいお嫁さんになれるわねぇ~」


「およめ――――ッ!? あ、ありがとうございます……」


 ソルトは驚くと、急に後ろを向いてしまった。


「ん? 大丈夫か、ソルト」


「だ、だいじょぶ、です……」


「そうか」



「本当に美味しいわ! 私、料理は苦手だからなぁ。ソルトには勝てないわね」


 そう言うのは、ソルトの料理を食べたアロマだ。

 確かに、今日の料理はいつものよりおいしい気がする。

 さては、ソルトのやつ、自分の主人(マスター)の母親も食べるからって、本気で作ったな。


「いいんだよ。お前は勝つ必要なんかないよ。お前にもいつも世話になってるからな。お前は食べる担当だ」


「そうよね! 私は食べる担当モガモガ」


「口に入れながらしゃべるんじゃない」



「アトラスも本当に久しぶりねぇ~。何年ぶりかしらぁ。もしかして、鎧新しくした?」


「御母上様も、元気で何よりです。あなた様の仰る通り、3年ほど前に鎧を替えました。まさか、3年前のものでも見分けられるとは……、このアトラス、感服いたしました」


「これでも鈍ったほうよ~」


 嘘だろ、3年前のことを見抜くのかよ……。

 やっぱ、母さん恐ろしいわ。



「あぁ~~~。久しぶりに完全な固形物を食べたかもしれない」


「マジかよ。しずく、お前いつも何食ってるんだよ」


「あたしはゴーストだからね。基本的には何も食べなくても生きていける……、いや死んでるか。何も食べなくても活動はできるんだけど、でもやっぱり何か食べないと精神的にキツくてね。ゼリーみたいな半固形物をいつも食べてるんだよ」


「あまり研究に没頭しすぎるなよ? 過労で死んでも知らんぞ。あ、もう死んでたか」


「よく考えると、この世に生まれたときから死んでるって不思議だね」



「…………ッ。あちっ!? あちち……、うぅ……」


「おい大丈夫か、リーン」


「だ、大丈夫です。ちょっとスープが熱くて、舌をやけどしちゃって……」


「そりゃ大変だ。『ヒール』」


「うぅ……、ごめんなさい」


「別にいいよこれくらい。舌がやけどしちゃったら、せっかくの美味しい食事を楽しめないしな」


「ありがとうございますぅ……」


 落ち込むリーン。

 相変わらずの薄幸っぷりだ。



 そんな感じで、みんなで食事を楽しみ、その後は母さんが他の皆と飽きるまで話続けていた。

 俺としずくは早々と離脱。

 アロマは話し好きなので母さんと永遠に長話。

 アトラスは忠誠心からか、母さんが飽きるまで付き合い続けた。

 リーンは、途中で抜けようにも母さんが話を一向に終わらせる気が無いため、抜けるタイミングを見つけられず、若干涙目になりながら話を聞き続けた。



 ※※※※※※※※



「んぅぅ……? ふぁぁ……」


 次の日の朝。

 目を覚ましたアロマは、目をこすりながら、リビングに降りた。


「あ、アロマ様、おはようございます」


 リビングには、朝食の準備をしているソルトがいた。

 しかし、もう起きていると思われる魔王さま、アトラス、しずくの姿が見当たらない。


「あれソルト? 魔王さまとアトラスは? それにしずくもいないんだけど」


「皆さま、朝方にお出かけになられましたよ」


「えー、嘘でしょ! 出かけるんだったら一緒に行きたかったのにぃ!」


「いえ、それが、あの3人だけで行きたいと、魔王さまが」


「? どういうことかしら」


「いえ、私にもさっぱり……」


 二人で首をかしげていると、上の階から、目を覚ました魔王さまのお母さまが降りてきた。


「あら二人とも、おはよう」


「おはようございます。すみませんお母さま、魔王さまがお出かけになられたんですが、なにか心当たりはありますでしょうか」


「あらなに? 二人をおいて、出かけちゃったの? 一人だけで?」


「ううん、アトラスとしずくも一緒みたい」


「あら、その二人と一緒ってことは、お墓参りに行ったんじゃないかしら。この近くにあるのよ」


 アロマとソルトが首をかしげる。

 お墓って言っても、一体誰のものだろうか、と。


「すみませんが、そのお墓とは一体どなたのものなのでしょうか」


「あら、アレイス言ってなかったの? まったくあの子ったら……」


「う~ん、そんなお墓っていっても……」


「アレイスが行っているお墓にはね――――」



 ※※※※※※※※



「すまん、二人とも。ちょっと一人きりにしてくれないか」


「……かしこまりました」


 俺の気持ちを察してくれたのか、何も言わずにアトラスは、俺から離れてくれた。


「……終わったら、呼びに来てね。あたしたちは村の方にいるから」


「ああ、分かった」


 しずくもそれを見て、俺の意図を理解してくれたのか、アトラスを追いかけていった。



「……さて、どっから話そうか。と言っても、20年ぶりだから、話すことも結構あるよ。とりあえず、ここ20年の話と、最近の多忙な話をしよう」


 そう、俺は、


「なぁ、レイド。リスタ」


 そう俺は、今は亡き二人に話しかけた。


 俺の一番の友人、レイドと。

 俺の、好きだった人、リスタに。

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