第53話 一時の休息
「えー、コホン。それじゃあ、英雄フォート・アレイスの武勇を讃えて……、カンパーイ!」
「「「カンパーイ!」」」
酒場にジョッキ同士がぶつかり合う音が鳴り響いた。
「な、なにがどうなってるんだ……?」
「すごいなアンタ! ルートリアのおっさんと仲良かったなんて初めて知ったよ」
「相手はなかなかの強敵だったそうじゃないか。それをスズネちゃんを逃がして一人で立ち向かうなんて恐れ入ったよ」
「あ、ああ。ありがとう……ございます?」
αを倒した後、冒険者たちは俺のことを気に入ったようで、俺のために宴会まで開いてくれた。
どうやら、スズネちゃんを逃がして庇ったことと、ルートリアと知り合いだったことが理由らしいが……。
「こいつらお前のことをおっさん呼ばわりしてるぞ。いいのか?」
「別に構わない。確かに俺はこの国の大臣だ。だが、元は勇者で、冒険者の一人。こいつらも仲間みたいなものだ。何を言おうと構わないさ」
「そういうものなのか」
「あ、あの……!」
突然、スズネちゃんに話しかけられた。
「なに、どうしたの?」
「あの、えと、その……」
よく見ると、かなり赤い顔をしている。
皆に諭されて酒を飲んじゃったんだろうか。
だとしたらとてもいけない。
「大丈夫? 顔赤いけど、そんな歳でお酒なんか飲んじゃだめだよ」
「えっ、ああそうですそうなんですよ! ちょっと酔っちゃって……!」
スズネちゃんが手で顔をパタパタと扇ぐ。
少し落ち着いたのか、また話し始めた。
「あの、今日は本当にありがとうございました」
そう言って、おじぎをしてくるスズネちゃん。
「ああαのことね。別に大丈夫だよ、体の一部失ったとかじゃないんだし」
「いえ、そうじゃなくて……!」
「ん? じゃあ一体どうして」
「あ、あの私、今日のはじめに言ってたじゃないですか。今まで仲間ができたことが無かったって」
あー、そういえばそんなこと言ってたな。
他の皆よりも強いから、すすんで仲間になってくれる人がいなかったって。
「だから、私最初すこしとまどったんです。どうして私のことをかばってくれたのかって」
スズネちゃんは不安そうに指をもじもじと動かしている。
「だ、だって、私たち仲間になってまだ半日しかたってないじゃないですか。それなのにどうして……って思ってしまったんです」
「……………………」
「ご、ごめんなさい。ひどいですよね、せっかく助けてもらったのに……」
「……仲間って言うのに、日にちって関係あるのかな」
「え……?」
俺は少し涙目のスズネちゃんを正面からまっすぐ見た。
スズネちゃんの瞳をじっと見つめながらもう一度話し始める。
「俺は今日スズネちゃんと一緒にクエストやってて楽しかったよ。慣れ親しんだ仲っていうのもいいのかもしんないけどさぁ、まだ日の浅い慣れてない関係だとしても仲間なのは変わりないだろ。少なくとも、俺とスズネちゃんが仲間だっていうのは事実だし、俺は危険な目に遭ったらまずは仲間を逃がそうとするよ。だって大切な―――――」
「……仲間だから?」
「そう」
俺の言葉を聞くと、スズネちゃんは安心したかのように顔の表情から緊張が消えた。
それと同時に頬も緩んだ。
「そっか……私は大切な仲間なんだ……。えへへ……」
「そうそう、仲間は大切なんだ」
「な、なんか恥ずかしいな……」
「大切に思われて恥ずかしがることなんてないぞ」
そんな話をしていると、誰かに肩を叩かれた。
振り返ると、そこにはルートがいた。
「道理を語るのもいいが、俺たちにはやらないといけないことがあるだろ」
「ああ、そうだったな。ごめんね、スズネちゃん。ちょっと席外すね」
「あっ、はい。えへへ……私は大切……」
俺とルートは酒場の外に出て、問題について話し始める。
「……アルの言っていることが本当なら、そのDr.って奴がこの王都を襲う可能性があるってことだよな」
「その可能性は捨てきれない。だから、そのときは勇者だけじゃなく冒険者の力も必要だ」
「でもどうするんだ? もしそのDr.の配下が軒並みあのαってやつだったら、冒険者たちじゃどうにもならないぞ」
「もちろん、冒険者の皆には基本は住民の避難を手伝ってもらう。腕っぷしの強いやつだけ、戦ってもらうことになるかな」
「分かった、万が一のときはそうなるようにしておこう。とりあえず、今日は本当にご苦労だった。アルがいなかったらあいつが何してたかわかったもんじゃないからな」
「ああ、そうだな」
話し終えると、俺たちは再び酒場の中に戻っていった。
※※※※※※※※
Dr.の奴がついに行動を移した。
現在、成長したモンスターたちが猛スピードで王都に向かっている。
恐らく、数日後にはこの王都に着くだろう。
計画通りだ。
「さて、吾輩もそろそろ準備を始めよう」
吾輩はテレポートを使い、王都へと飛んだ。
「さてさて、確かこの辺りであったか」
早速、行動を起こすとしようではないか。
まず手始めに……。
あのパン屋にしよう。
「ふむ……、ほう……、なるほど……」
吾輩は、いくつかのパンを取り、レジへと持って行った。
レジでは店の店主と思われる男と、その妻とが対応してくれた。
「店は店主だけなのか?」
「ん? ああ、そうだよ。店は俺と女房の二人だけだ。たまに息子も来るけどな」
「ふむ……」
吾輩はパンを受け取ると、店の外に置いてある椅子に座って食べ始めた。
「これは……っ!」
吾輩はそれがさも美味いかのようにパンを勢いよく貪る。
そして、全て食べ終わったところで、店主たちに話を持ち掛けた。
「失礼、吾輩貴殿らの作ったパンに感動してしまった。貴殿らのパンはこんなちっぽけな店でとどまる程度では惜しい」
「は?」
「どうだろうか、店をもっと大きくするつもりはないか? なに、金なら吾輩がいくらでも出そう」
「ちょ、ちょっと待ってくれよお客さん! 急にそんなこと言われても……、それにそんなに店を大きくしたところで人手が足りないよ」
「なに、息子がいるのだろう? その息子にも手伝ってもらうといい」
「それに、店大きくするっていったって、土地はどうするんだよ。一体どこに店を構えるんだ」
「それなら安心するがいい。この店の路地を挟んだ隣の店は経営難に陥っていてな、ちょっと金を出せば建物ごと売ってくれるそうだ」
「も、もうそこまで話が進んでるのか……」
「どうだ? 金は吾輩が出す。土地も建物も用意してある。なんなら改装のための工事にも人を貸そう。あとは貴殿らの決定次第だ」
「……あんた何もんだよ。 どうしてそこまで俺たちのために……?」
店主とその妻が不審そうな目で吾輩を見てくる。
まあ仕方がないだろう。急にこんな話をされて、しかも話が旨すぎるからな。
「言ったであろう。吾輩は貴殿らの作るパンに感動した。ただそれだけのことである」
「…………分かった、そこまで言うのなら、アンタの話に乗ってみよう」
こんな調子で、吾輩は十数店舗ほどに店舗巨大化の話を持ち掛けた。
最初はほとんどの店が疑心暗鬼であったが、最終的に吾輩の話に乗ってきた。
幸いなことに、吾輩は地獄での蓄えがあるので、国4つを数十年間養えるほどの金は持っている。
人手も、魔界の低級悪魔どもでも連れてくれば何とかなるであろう。
「さて、明日もこの調子で頑張るとしよう」
全ては、この世界の未来のために。
現在、万事順調だ。
フォート・アレイスはαを打ち倒し、冒険者たちの心を掴んだ。
まずは一つ完了ということだ。
「……もう二度と貴様には好き勝手はさせんぞDr.よ。ここで貴様には確実に消えてもらう」
そのためにも、まずは魔界に戻って、人手、もとい悪魔手を集めなくては。





